【法律】無意味なリンク規定と間違った著作権法の解釈(2005/08/18)
教育の内容にオカルトが混入してないかどうかを考える前に、TOSSのウェブサイトを見ていたら、「リンク等インターネットランドご利用の原則規定」があった( 2005年3月15日 インターネットランド主宰 TOSS代表 向山洋一)。読んでみたが、どう見てもインターネットのリンクという行為を誤解している上に、引用されている著作権法の解釈もおかしいので、まずこれから議論しておく。
まず、リンクにたいする説明を引用する。
(一)ご依頼者が企業等営利団体・教育に関係のない組織団体である場合
【原則】
リンク等すべてのご利用を、お断り致しております。
(説明1)
インターネットランドTOPページ及びインターネットランド全体の、紙媒体、CD・CD-ROM・DVDなどの製品(オフライン製品)への利用、企業・非教育団体のサイトへのリンク等(オンライン)の依頼は、無償有償に拘らず、すべてお断り致します。
(説明2)
インターネットランドのカテゴリー・メニュー分野毎、インターネットランドに登録されている各コンテンツについて、各種製品(同上オフライン製品)への利用、企業のサイトへのリンク等(オンライン製品)の依頼は、無償・有償に拘らず、すべてお断り致します。
(説明3)
但し、TOSS外有益情報セクションの登録コンテンツは、TOSSオリジナルなコンテンツではないので、この原則を適用するものではありません。尚、TOSS外有益情報セクションに登録されているサイト制作者は自ら登録を申請してこられたか、または制作者に予めリンクの了承を得ております。
リンクの禁止に何ら法的根拠はない。お断りするのは勝手だが、リンクするのも勝手である。もっというと、リンクするのに事前の承認は必要ない。このことについては、「リンクは自由!」およびそこからリンクされている関連資料で、既に詳しく議論され検討されている。リンクが公衆送信権の代行にならないのは、リンクは単なる文書のありかを示すだけであり、リンクを見に行った時は、ブラウザとサーバが直接接続されて情報のやりとりが行われるということによる。営利企業でもそうでなくても、ネットワークを使う以上、リンクの扱いについては何ら差がない。
ついでにいうと、この手の「リンク禁止」は、たとえば日弁連のような公共性の強い団体でも一時期掲載されていたが、周囲の大ブーイングを浴びて結局は撤回している。というか、ある程度以上公共性の高いサイトでリンク禁止を掲げて批判されなかった例を知らないのだが……(最近では、「愛知万博が個人サイトからのリンクを「固くお断り」」が議論になっている)。
ただし、この説明の中の「コンテンツそのものの再利用」については、営利企業であろうがなかろうが一律に著作権法上の制約がかかる。TOSSの基準は、利用依頼が営利企業から出されたかそうでないかによって振り分けているが、むしろ、リンクの問題と著作権法の問題に二分して考えた方がすっきりするだろう。
個別の項目に出てくる、
(3) 依頼者のフレーム内、メニュー内のリンクはお断りしております。
については、まあ妥当だろう。たとえばこのページはフレームを使っているし(フレームで見ていない方はページ左下隅の「戻る」をクリックしてみてください)、フレームのデザインも含めて著作物であるから、フレームの一部に他人のコンテンツを取り込んで表示することは、他人の著作物を自身の著作物中に無断で(引用でなく)使う行為になってしまう。これについての判例が既にあるかどうかは私も知らないが、気をつけなければいけないところである。当サイトは、他人のウェブサイトをリンクするときは、target="_blank"指定して、新しいウィンドウで開くようにし、自サイトの内容と誰が見てもはっきり区別できるようにしている。
わからないのが、TOPページのリンク依頼のところに書かれた、
(4) 反TOSSとの混在はお断りしております。
(中略)
(説明4)
非営利教育団体組織のサイトであっても、反TOSSの立場が明確なサイト、団体の単なる紹介・組織拡大宣伝のためのサイトからの依頼は、すべてお断り致します。
(説明5)
リンク後、インターネットランドの紹介文に、揶揄ったり、誹謗中傷の紹介文が付された場合、削除していただきます。
である。一体どういう団体を想定しているのだろう?「誹謗中傷」というのは便利な言葉で、単に批判や議論がなされているだけであっても、その内容が気に入らなければ「誹謗中傷」と主張することは誰にでもできる。それに、反TOSSというのもよく分からない。たとえば、今私がこうやって書いている議論は反TOSSにあたるのだろうか?私は単に、オカルトや明白な間違いが含まれてないかどうか調べて議論したいだけなのだが……。
確かに、中傷したり侮辱したり名誉を毀損したりしてはいけないが、そういうことが起きた場合は法的措置をとればいいだけの話である。逆に言うと、法的な救済の対象にならない、単なる意見表明や事実に基づいた議論であれば、自ら公開した情報に対するものである以上、たとえ気に入らなくても制限することはできないはずである。
なお、
四)無断リンクを発見した場合
1)企業、教育に関係のない団体組織、反TOSS団体のサイトの場合、厳重に削除を申し入れさせていただきます。
2)公的教育機関、教育団体組織の場合、まず一旦削除をお願いし、改めて原則に従ってリンクのご依頼をお願いしております。
とあったりする。既に私のサイトは「無断リンク」しまくっている状態なのだが、法的根拠を伴わない削除要求に応じるつもりは全くないことを、まずここに表明しておく。リンク禁止自体には何ら法的根拠はないし、私がこのページで行っていることは、著作権法上認められた「引用」である。
法律上の問題点は、以下の部分にある。
附則;この原則は、関連著作権条項
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著作権第23条(公衆送信権等)の中の第2項(公衆自動送信権)
「2.著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて
公に伝達する権利を専有する。」
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に基づいて、「自分のホームページに無断で他人の著作物をのせておくといった準備行為も公衆送信に含まれることになり、著作権侵害行為となりました。このような行為を、特に”送信可能化行為”といいます。」(『入門著作権の教室』尾崎哲夫 平凡社』)により、立てさせていただいております。
他人のものは、その「意・に・反・し・て」勝手に使えないというのが著作権法の原則です。著作権法によらなくても、そういうことは社会の道義的ルールと考えております。ご理解くださいますようお願い致します。
まず、他人の著作物をそっくりそのままサーバに置いて誰でも閲覧できるようにする行為は、確かに公衆送信権を侵害する行為である。しかし、著作権法23条をもって「無断リンクを禁止」を導くことはできない。著作物の定義は、「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものをいう」(2条1項1号)であるから、URLそのものは著作物ではない。他所のサイトのリンクをクリックした場合、ブラウザはそのURLに書かれたサーバと直接接続を確立してコンテンツを受信するが、URLがTOSSのサイトを示していたならば、著作権者のところから直接送信を受けることになるので、まさに23条に従って閲覧していることになる。だから、23条に従ってこの規定を作ったのであれば、リンク禁止の文言は全て削除しないと矛盾することになる。
次に、公表された著作物は引用して利用することができる(32条1項)。引用とは、「照会、参照、論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録することをいうと解するから、引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければならないというべきであり、さらに、引用される側の著作者人格権を侵害するような態様でする引用は許されない(最判昭55.3.28)」と判示されている。従って、引用元を明記し、批評を目的として必要な範囲で引用を行った場合には、正当な範囲内の引用であるといえる。また、著作者人格権の侵害については、著作者人格権が公表権(18条1項)、氏名表示権(19条1項)、同一性保持権(20条1項)と定められているので、まずはこの3つを侵害していなければよい。ウェブ上で公表された著作物の場合、著作権者が公表に同意していることに疑いはない。氏名表示については引用の際に示せばいいし、同一性保持権については改変せずに引用すれば問題ないだろう。あとは、113条6項の著作者の名誉または声望を害する方法による著作物の利用が問題となるが、これの具体的中身は「香り高い文芸作品の一部を商業広告文として利用する行為、芸術的価値の高い美術作品を包装紙に複製する行為、荘厳な宗教音楽を喜劇用の楽曲と合体して演奏する行為、作家の文章を悪文の例として引用する行為など」(「知的財産法講義II」渋谷達紀著、有斐閣)とされている。
なお、向山氏の書いた「他人のものは、その「意・に・反・し・て」勝手に使えない
」というのは、著作権の性質ではなくむしろ所有権の性質であるし、著作権法そのものの立法趣旨を誤解している。著作権法1条は「この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者などの権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする」となっている。従って、著作者等の権利という私権と、社会、他人による著作物の公正な利用という公益との調整を目的としていることは明らかである。実際、著作権法は著作者の権利を一定の条件下で制限している。
著作物が公表されると、公衆による著作物の利用(私的利用や引用)を完全に排除することができない。これは、著作権の社会的拘束からくる制限とされており、同じ理由で著作権には存続期間が存在する。著作権に公共的限界があることは明らかであるから、意に反して使えないのが原則だと主張するのは乱暴すぎる議論であろう。また、社会の道義的ルールを持ち出すのであれば、私権と公益との調整という部分を無視することはできないはずである。
TOSSに登録されているコンテンツを見ると、全教科に及んでいる。社会科も含まれているし、インターネット利用の教育だってやっている先生が居るだろう。そうなると、当然、リンクや著作権についての指導をすると予想されるが、その内容がここに書かれたようなものでは、誤解を広めかねないので困る。この規定を読んで、TOSSに参加している教員が当然のこととして受け入れて何も言わなかったのだとしたら、その方が心配になってくる。
規定を読んだ感想として、学校の中だけで通用するルールがにじみ出ているのかなあ、と感じた。「反TOSS団体」によるリンクを断りたがる姿勢を始め、なんて言うか、自由に議論することから逃げている姿勢をとっていると思うのは私だけだろうか。同じクラスの中であれば「誹謗中傷はやめなさい」と担任が言うことで、表現を制限することが簡単にできるだろう。この場合、当事者が十分に意見を出し尽くせるかというと、必ずしもそうではない。しかし、学校の外では、どこまでなら許されるのか線を引くためにも法的紛争をやって決着を付けるというのはよくある話である。だから、「紛争は個人の自立の証」ということになるのだけれど。
いずれにしても、内容がしっかりしていれば、他所でおかしな中傷文書が出たとしても、評価が揺らぐことはないのではないか。ネットを利用するいろんな人は、大抵は中身を見ているのではないか。TOSSが一体何を気にしているのか、やっぱりよく分からない。
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