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【情報】パソコンが使えるようになる気がしない「パソコン教室虎の巻」(2005/08/31)

 TOSSウォッチングを独立した企画として始めるにあたって、最後に私の背中を大きく押してくれたのが、法則化サークル「みおつくし」のページにある「パソコン教室虎の巻」。

 TOSSというのが、教育技術を法則化して教師がお互い共有できるようにすることを目指していのだから、読者対象は、学校でパソコンを教えるのに悩む教師だろう。虎の巻というからには、困ったときにささっと引いて、スマートに問題を解決……となるはずのものだが、この虎の巻の見所は、読者に背景設定も含めた解読作業を要求するという点にある。

 パソコン教室のお約束を見ると、

1.手(て)を洗(あら)って,教室(きょうしつ)からならんで来(き)ます。
2.くつは,そろえてくつばこに入(い)れます。
3.クラスで決(き)められた自分用(じぶんよう)のパソコンを使(つか)います。
4.足(あし)がぴたっと床(ゆか)につくように,いすの高(たか)さを調節(ちょうせつ)します。
5.先生(せんせい)の指示(しじ)どおりに使(つか)います。
 (勝手(かって)にソフトを起動(きどう)したり,壁紙(かべがみ)などの設定(せってい)を変(か)えたり
  しません。後(あと)で使(つか)うお友(とも)だちが困(こま)ります。)
5.キーボードのカバーをはずしたり,線(せん)を引(ひ)っぱったりしません。
6.消(け)しゴムは使(つか)いません。
7.わからないことや,調子(ちょうし)の悪(わる)いときは,だまってまっすぐ手(て)をあげます。

となっている。これ、どう見ても、先生が生徒に説明することだよな?椅子やらキーボードカバーの状態って、学校によって違うと思うのだが、虎の巻としてはそのへんをどう扱うのだろうか。
  先生が生徒に指導する時のコツを伝授、というつもりで書くのなら、自校の設備を簡単に紹介し「生徒にこういうプリントを配って事前指導するといいですよ」とか「情報処理の教室に出す張り紙はこんな内容がいいいですよ」といった説明とともに見本を出せばいいと思うのだが、そういう説明は一切無くて、これだけしか出ていない。「消しゴムは使いません」と言われたって、じゃあ鉛筆は使うのか、そもそもメモは取らないということなのか、間違ったときも消さなくてもいいからボールペンでメモを取ることにするのか、さっぱりわからない。この注意書きって、消しゴムのカスがキーボードの隙間に入るとまずいといった背景でもあるのかな……でも、キーボードにはカバーがついているという設定なんだけど。
 項目の7.は、明らかに日本語の文法がおかしい。書くなら「わからないことがあったり、調子が悪くなった時は、だまってまっすぐ手をあげてください」だろう。というか終止形で命令するのはやめてほしい。

 「パソコンの起動の仕方」はもっと壮絶なことになっている。なお、このページ、○に数字の機種依存文字を使っているから、見る環境によっては文字化けして情けないことになるので、そこだけ修正を加えて引用している。

1.赤色(あかいろ)(1)のコンピュータのスイッチを入(い)れる。
2.黄色(きいろ)(2)のディスプレイのスイッチを入(い)れる。
3.青色(あおいろ)(3)のモニターテレビのスイッチを入(い)れる。

……って、スイッチが色分けされてるの、貴方の学校だけの話でしょうが!環境が変わったらまったく使えない虎の巻って一体……?どうしてもこれをやりたいなら、まず、教師向けの説明として、それぞれのスイッチを色分けするといいとか、そのときはこういう材料のテープなどを使うといい、といったハウツーが無いといかんでしょうが。「ディスプレイ」と「モニターテレビ」だって、環境が変わったら、説明はこのままでは使えない。実際、私がコンピュータを使った授業をしたときは、コンピュータとディスプレイの1セットを使う設備(例:航空高専)のこともあったし、それに加えて教員の操作する画面を表示するためのモニターテレビがパソコンの間に配置されている場合(例:広島大学)もあった。
 なお、コンピュータの電源を入れる時は周辺機器から入れるのが普通なので、この説明をそのまま他のケース(外付けのドライブなどがつながっている場合)に応用するのはやめた方が良い。

 次の記述はもっと問題がある。

5.パスワードを聞(き)かれたら,
 (1)自分(じぶん)のユーザー名(めい)を入(い)れる。
 (2)パスワードにも同(おな)じユーザー名(めい)を入(い)れる。

自分のユーザー名と同じパスワードを使っては絶対にいけないというのが、基本中の基本である。セキュリティ上激しく危険である。こんな知識を学校発で広めたり経験させたりするのは直ちに止めてほしい。

 「利用しているソフトの終わり方」も、別の意味で危険である。

右上(みぎうえ)の×印(じるし)をクリックする。
デスクトップの×印(じるし)のクリックをくり返(かえ)す。

途中(とちゅう)で「ウィンドウ」が出(で)てきたら,「いいえ」または「NO」の意味(いみ)をクリック
し続(つづ)ける。

 たとえばこんなシチュエーション。
親が家で作業中に席を外す→子供がうっかり閉じるボタンを押す→記憶しますか?→いいえ→あああぁぁぁ
……新たな被害発生の予感。そりゃ、保存もせずに席を外す親に問題がないとは言わないよ。でも、取るべき行動を教育するのならば「安全側に振っておく」のが基本じゃないの。
 ついでに言うと、未来の「サポート担当者泣かせの人材」を養成している気もする。きっと将来はこんな光景が展開するのかもしれない。
  「何か出てきたので、とりあえずいいえとかNOとかクリックし続けてたら、データが見あたらない上に動かなくなったんですけど」
  「で、エラーメッセージには何て出てたの?」
  「見てません」
  「それじゃ、何が起きたか見当もつかないんだけど……」
  「だって、メッセージとかいちいち見なくてもいいって、学校で教わったしぃ……」
「クリックする前にメッセージを良く読んで、自分が何をしようとしているか把握してね」だろ、やっぱり。
 さらにトホホ感が漂ってくるのは最後のこれ。

どうしてもダメなときは,だまって手(て)をあげて,「先生(せんせい)を呼(よ)ぶ」こと。

 教師向けの虎の巻のはずだよな、これ。ってことは、呼ばれた先生がこのときどうすればいいか書いてくれてないと、虎の巻として使えないわけだが。一番知りたいことが書いてない虎の巻ってどうよ?

 次の、「コンピュータのおわりかた」は、実は、ウェブページのソースが終わっている。ウチの環境で表示させたら画面が壊れまくり。
これ

null

とか、これ

null

とか。画像が重なっていてレイアウトが崩れまくりで、何が何だかわからない。私の環境(Safari)だけかと思ったが、他のブラウザで見ても似たり寄ったりの表示しかされなかった。ちなみにこのページを表示させて、htmlのソースを保存し、エディタで開いて見てみると、ワードか何かが吐きだした凶悪なソースコードであるのは画面表示から予想される通りであるとして、

<o:Author>大阪市教育委員会</o:Author>

というタグが<title>タグの4行下に入っている。元は教育委員会謹製のページですかこれは?

 コンピュータを使って何かしようという世界は、ハードもソフトも、マニュアルの山と格闘することになる。他人にコンピュータの使い方を伝えるのなら、徹底的に状況を文章で書いて、意味が一通りに伝わり、かつ、想定している状態に抜けがないようにしなければならない。そうでないと、必ずどこかで誤解が生じる。この虎の巻のように、変に間を省略して読者に背景や状況を想像させるようではだめである。書かなくてもわかってくれるだろう、行間を読んでくれるだろう、というのは全く通用しない。このことを分からない限り、パソコンが使えるようになる日は来ないんじゃないかと思う。

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