不作為の値段
独立当事者参加の申出書の中に、
損害賠償等請求事件 訴訟物の価格 3,300,000円
貼用印紙 22,000円
と書かれている。一方、元の訴訟の損害賠償請求の金額は1,700,000円である。その差は1,600,000円である。
一般的な予備知識として、民事訴訟の訴えには3種類あることを知っておく必要がある。
まず、「給付」の訴えというのがある。金を返せとか土地を渡せとか絵を描けといった、人に何かをしてもらうことが内容となっている訴えである。賠償金を払えとか掲示板の記事を削除せよ、というのもこれにあたる。次に「確認」の訴えというのがある。これは、法律や権利関係がこうなっている、ということを定めるだけの訴えである。例えば「借金はない」とか「払うのは100万円まで」といったことを決める訴えである。給付の場合は、原告に「金払え」と訴えてもらって初めて「借金はない」「100万円しか払わなくていいはず」といった主張をすることになるが、確認の訴えでは、誰かに訴えてもらわなくても、積極的に権利関係を確定させることができる。三つ目が「形成」の訴えだが、これは何でもできるわけではなくて、法律で決められたものに対してしかできない。
で、民事訴訟では、こういった請求に対して必ず値段をつけることになる。「借金を返せ」なら、借金の金額がそのまま請求の価格になるし、「土地を明け渡せ」ならその土地の値段が訴状に価格として書かれる。訴訟の金額が算定できないときでも、とにかく推定した金額を書くことになっている。
これらを踏まえて申出書の中身と金額を見てほしい。
申出書の中では、原告が請求した損害賠償を負う必要が無いことの確認を求めている。この部分の値段が1,700,000円となる。もう一つは、削除義務が無いということを主張し「削除しない」という行為を求めている。
「削除せよ」の場合でも、現実に発生する労力は限りなく少ないため、作業量に値段をつけると、とんでもなく安い価格にしかならない。これが「削除するな」だと、本当に新たに何もすることが無いから、価格の付けようない。つまり、「削除するな」という行為を要求するということに価格をつけようとしても、価格は算定不能ということになる。そこで、何もしないままにすること、つまり不作為について、1,600,000円という値段を(推定によって)つけた。2つの金額を足すと、申出書に書かれた訴訟物の価格となる。
物に値段が付くとか、ややこしい作業にそれなりの値段が付く、というのは日常の感覚にも合っているが、民事訴訟では、何もしないことについても、それをわざわざ求めると値段をつけなければならなくなる。
※このエントリに対するコメントは、こちらの掲示板でお願いします。