理科教育MLver.2への投稿で知ったのだけど。
論文だけで博士、駄目 大学院重視で一致 [ 04月14日 07時44分 ]より。
中央教育審議会の大学院部会は14日までに、企業や公的な研究所で業績を挙げた社会人が、論文などの審査を基に博士の学位を得る「論文博士」制度を廃止し、大学院のカリキュラム修了者を対象に与える「課程博士」制度に一本化する方向で一致した。
論文博士については「学位のため研究を狭い分野に限定してしまう恐れがある」「日本独自の制度で国際的な通用性に欠ける」などの批判があった。
文部科学省は論文博士を認めている省令を改正、博士号取得を目指す社会人に対しては大学院に短期間在学する「博士課程短期在学コース」の創設なども検討している。
私は、課程博士と論文博士の両方で学位を取ったのだが、理学・工学系に限って言えば、論文博士の方が審査基準が厳しいように思う。論文博士の場合は、すでに出した成果を見て、研究者として独り立ち可能と判断されるともらえると思ってよい。ところが、課程博士の場合は審査が甘くて、投稿論文が無かったり、日本語の論文誌で査読の甘いところに1報とかでも学位がとれることがある。これは、構造的な問題で、大学院を作った以上、定員を満たしてかつ学位を出さなければならないという、事実上の縛りがあるので、大学の都合で甘くなっている。
一方、論文博士の問題点としては、本人が実際にやったことでなくても審査に通ることがある、ということだろう。審査を受けるに際して必要な投稿論文の目安は5報前後なのだけど、企業からの場合、グループのヘッドが部下の研究をまとめて取得ということが可能である。また、修士卒や博士取得見込みで助手になったあと論文審査で取得する場合、研究の指導は教授で助手は現場監督をしただけで、学生や院生のデータで論文を書いて論文博士を申請することもできる。いずれの場合も、論文の共著者の「同意承諾書」(共著者に対し、その論文の内容を学位論文の内容と認めるという書類に署名させる)が必要だが、上司に求められて断る部下は居ないし、助手に求められて断る学生・院生もまず居ないだろう。
大学院後期課程を終わっても学位が取れず、その後論文審査でとる人が36%だそうだが、論文博士を廃止した場合、このルートがつぶれる可能性がある。多くの大学で、課程博士の単位取得退学後何年かは、在籍していた研究科で論文審査を受けられるという制度にしているが、これが内規だけでできるのかは、私もまだ知らない。ただ、このルートを潰した場合、現在後から取得している36%に在学中に学位を取らせるために、課程博士の学内審査基準が今よりもっと甘くなって、さらに学位取得者の研究能力に対する信頼性が大幅低下というオチが待ってそうな気がする。
また、オーバードクターが問題になっている現在、修士あるいは博士中退で助手→仕事をしながら学位取得、というルートを潰すのは、政策的には「矛盾」していない。文部科学省は博士取得者を増やす政策をとっているから、博士の就職先をちょっとでも増やす方向に舵を切るのはむしろ当たり前のことではないか。助手採用の時に、「すでに研究の方向が固まってる人なんかいらない」と公言するセンセイも居るわけで、そういうワガママを言う余地を無くす意味もあるんじゃないか。
実際のところ、教育について言えば、課程博士の方が手厚いといえば手厚い。しかし、手厚い=手取り足取り指導する、となる場合もあり、そういう人は学位を取っても大して使えないことは確かである。また、研究はある程度絞って狭く深くやらないと論文に結びつかないから、論文博士でも課程博士でも、この点については差がないと思う。
研究室への予算配分は、所属している卒研生、博士前期、博士後期の学生の数によって差がついている。当然、上にいくほど一人あたりの単価が高い。だから、博士が欲しけりゃ在学しろという制度にした場合、入学金と授業料で大学はウマー、研究室も予算が増えてウマー、というのが見込まれる。既に、北大は、博士前期2年間は授業料タダを打ち出しているが、財源は学外に求めるということを謳っている。
大学院重点化だって、元々は、文系の留学生が学位を事実上取れないのは困ると言う話から出てきていた筈である。そこに、東大のホンネ
東大だけ大学院重点化→大学の差別化&予算増でウマー
が乗っかったらしいが、これを他の大学が指をくわえて見過ごす訳もなく、
重点化の動きが他の国立大学にバレる→取り残されたら大差がつくと
思った国立大が我も我もと重点化→東大は高学力を背景に院定員大幅増
で対抗、私学も大学院設置に走る→大学院生全国的に激増で学力低下の一途
が現実には進行し、重点化で助手ポスト激減のうえポスドクが増えて、未曾有の就職難の状況を作り出した。当の東大はというと、今頃になって院に優秀な学生が来ないと嘆いている(今年の3月上旬の日経新聞に出ていた)。
お役所としては、一般に「問題が発生してからでないと予算がとれない」ので、ポスドク問題を作ってから対策費用を獲得するという手順が最初から織り込み済みだったようで。それでも、身分不安定な人材を大量に養成するために税金を使う政策をとるのはどうかと思うが。
さて、中教審の狙いが本当はどこにあるのか、すぐには読めない。が、論文博士が海外の制度と違うというなら、課程博士の方は海外と同じにやってるのかということも問題にすべきじゃないかと思うんだけど。院生の待遇面も、審査のレベルも、教育内容も含めてだけど。