教養の講義で意外な質問が
今年から教養の化学で「科学リテラシー」というのをやっている。化学の基礎的な知識や、水の話を紹介しつつ、科学的情報の扱い方を考えようというものだ。去年までは「水の化学」と言ってたのだが、もう少し「騙されないための考え方、科学知識の使い方」にシフトしようと思ってタイトルを変えた。一般向けなので、文系も含め全学部が対象である。出席確認のため、毎回、出席カードを配って回収しているが、裏がコメント欄になっている。講義では毎回プリントを配り、そこに前回出た質問やコメントをまとめて掲載していて、大教室でのマスプロ講義なのに、毎回結構な数の学生さんが質問や感想を書いてくれている。科学(化学)そのものについての質問や、日常の疑問(例えば電子レンジの原理とか)がほとんどで、何だか子供電話相談室のノリになってきている。その中でこんなのがあった。
少し古いアニメで「ルパン三世」がありますね。その中で石川五右衛門が『斬鉄剣』を操り、鋼鉄の金庫からヘリコプターに至るまで切り捨てていくシーンをよく見かけますが、刀って基本的に「鉄」のはずなのに、なぜ「斬鉄剣」は「鉄」の金庫などを相殺を受けずに斬れるのでしょうか。
フィクションの話を訊かれたのはこれが初めてだ。
アニメの表現手段なんていろいろあるわけで、ディズニーのアニメのキャラクターの動きが厳密に物理法則に従ってない(落ちる寸前しばらく空中に止まって、焦ったり驚いたりしてから落ちる、など)理由を問うのとどれほどの違いがあるかとは思うのだが、そう言って切り捨てるのも何だしなあ。そういえば、「ロジャー・ラビット」(アニメと実写が共存しているという設定)で、実写の俳優がアニメのピストルを拾って発射したら、弾が十字路まで飛んでいって、左右を見てからターゲットの方に曲がっていったので実写俳優が「やってらんねぇよ」とため息をつく、てのがあって、大笑いしたのを覚えている。
ここは一つ、フィクションに向き合うときの科学考証とSF考証の違いについて議論でもしておくとするか。まあ、ルパン三世がSFかどうかというのは異論も多数あることだとは思うが。
「科学的に正しい結論はこうだ」という議論をするのが科学考証、「どうすれば作品世界を説明できるか、そのためにはどこでどう嘘をつけばよいか」を考えるのがSF考証で、どちらも科学の知識を必要とするが、全くの別物である。前者に近いのが柳田理科雄の「空想科学読本」シリーズ、後者が長谷川祐一の「すごい科学で守ります」シリーズだろう。フィクションを科学的に否定することは誰でも簡単にできるし、やって面白いかというと、あんまり面白く無さそうだと思う。作品を味わい尽くすには、SF考証をして、成り立たせるために何が必要かを考える方が、より楽しめるのではないか。ただ、ルパン三世にSF考証が果たして必要かというと……ちょっと微妙かな。もともと、実写じゃできないアクションやコミカルな動きも魅力の一つだし、それを成り立たせるための細かい設定も必要としていないようだし。素直に楽しめや、ってことでFA?
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