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こんな所にまで……

Posted on 7月 12th, 2005 in 倉庫 by apj

 生協で、「科学者は妄想する」を買った。心霊現象だの超感覚だのを真面目に研究している科学者の話が紹介されていた。NASAのマインド・リーディングという項で、言葉を口に出さずに意志を伝えるという研究を紹介した部分で、センサーを付けて声を出そうとする信号を拾ってコミュニケーションやコンピュータの操作に利用しようという真面目な話が出ていたのだが、中にこんな記述が。

また、これもテレパシーとは少し違うのだが「遠当て」の実験が何年か前に日本でも行われている。
(略)
 この実験は、独立行政法人放射線医学総合研究所というところで、国家予算を使って行われたものである。
 気功師を隔離した場所に配置し、離れたビルにいる受け手に対して、気を送る。もちろん気功師と受け手の間では連絡をとれないようにしてある。
 また、受け手の頭には脳波計がつけられており、脳波に変化が起きたかどうかわかるしくみになっている。

 これ、まさに私が放医研にポスドクに行った時の話だ。声をかけてくれた主任研究官は、私と、来たばかりの秘書を置いて、「あなたが来てくれたのでこれで安心して海外へ行ける」と、半年間イギリスに行ってしまい、我々は置き去りとなった。そして隣の部屋で始まったのが「気」の研究……orz
 確か研究棟の5階と2階で「気」の送受信(?)をやってたと記憶している。ところがこの実験の話が秘書さんたちの間で伝言ゲームと化して、いつの間にか「気功師が5階と2階の間をテレポテーションする」ということになっていた。その研究棟は古くてぼろくてエレベータが時々止まる上に、運動不足を解消する目的もあってみんな階段を利用していたものだから、「危ないエレベータを使わず健康のため階段を使っているというのに、気の力で5階から2階にエイヤッと一瞬で移動することに一体何の意味があるのか?」という、妙に現実的なんだか生活密着型なんだかわからないコメントがついた。それはそれで何か違う気がするのだが。
 確か、一億円ほど研究費が出ていたはずだ。で、気の研究チームには外部からいろんな人がやってくるようになった。その中に、量子力学の観測理論に基づいて「意志の力で観測結果を変えることができる」という、念動力でも発揮するつもりかいなというお方もやってきていた。
 ところで、放医研というところは、物理屋もたくさんいるが、素粒子・原子核関係ばっかりで、物性は私だけであった。また、物理学会の分科会は、素粒子宇宙論原子核と、物性関係の会場は別々である。
 さて、この観測を意志の力で変えるお方は、なんと生物物理のセッションに発表申込をしていた。この年の物理学会、私も液体のラマン散乱で発表して、物性の会場に行ったのだが、戻ってきてから放医研を歩いていたら、この方とばったり会ってしまった。で、「物性の方に出していたのは僕と貴方だけでしたよねぇ」などと親しげに微笑みかけられた。いやもう、心の中では「一緒にしないでくれー!!」と叫んでいたわけだが。
 まあ、甘い言葉に誘われてポスドクに行った先がこんなことになっていれば、大概のことには驚かなくなるわなぁ。