もうそろそろ24時間近く経つのだが、昨晩、帰宅途中にコンビニに寄ろうとして、空き地をショートカットして近道することを試みて、見事に、40cmくらいの土地境界の段差のところを自転車に乗ったまま落下して大コケした。ハンドルを握っていたまま前に回転したものだから、顎を地面にぶつけてざっくり切って、そこら中血だらけということになった。タオルのハンカチで押さえながら家に戻ったが、血がとまらないので、また自転車に乗って、近くの救急外来まで行って「すみませんが診てください」と血を流しながらやるはめになった。
時間外診療を受けるなんて、学部の頃に食中毒だか胃腸炎を起こす風邪だか分からない症状で医者に診てもらって以来のことだった。
行ってみたら、直前に救急車で運ばれてきたらしい意識不明の年配の女性が、ストレッチャーに載せられて処置室から運ばれていくところだった。家族らしい人が数人廊下の椅子に腰掛けて待っていた。医者が、CTだ、MRだなどと言っていて、どうも、どうして意識が無いのかがまだはっきりしないようだった。
私の方は、ベッドに横になれと言われ、傷口を洗って何針か縫うことになった。傷の中に砂やらガラスやら、異物が残っていると、縫っても回復せず、また開けて取り出すことになり、回復がおくれるのだそうな。局所麻酔をするときに、目を閉じてろと言われ、どうしても何をしてるか見たくて目をあけていたら、顔の上にガーゼを置かれてしまった。多分、処置の途中で目に薬品が入ったりするとまずいというのがあるのだろうけど、防護眼鏡をかけてでも見たかった……。で、いざ縫合する段になると、もっと本格的にシートをかぶせられてしまった。上の面は吸湿性素材、下はビニールみたいな防水材料でコーティングしてある少し薄い青色のシートだった。傷口のところだけ穴があいてて、医者から見えるようになっている。シートをかけてから「息ができなきゃ言ってくれ」って言われてもだな……まあ、自分の息の水滴で濡れた感じがするだけで、呼吸に問題はなかったが。ただ、小さな怪我なのになんでこんなものをかぶせるのかと思ったら、胸のあたりに、糸やら針やら器具やらを置かれる感触が……。確かに、服の上に器具を直接置くと衛生上問題がある上、服を汚すこともあるから、ディスポーザブルの滅菌シートを使うというわけか、と勝手に納得した。
傷を押さえたり麻酔を追加したりの作業の最中に、電話がかかってきて、医者が呼び出されていった。「**さん?」とか確認をとっている様子からして、救急外来に何かと電話をかけてくる常連がいて、関係者に名前が知れ渡っているらしい。意識不明な人はともかく、電話をかけて心の安定を得たい人の相手もしなきゃいけないなんて、仕事とはいえ医者は大変だ。弁護士は気に入らなければ事件を受任しなくてもいいが、医者は本人が酒に酔ってる時以外は受診を拒否してはいけなかったはずだ。まあ、今回かけてきたのはそれとは別の人らしかったが、本人の主張する症状と家族が見た状態が大きく食い違っているらしく、来たら精神科を紹介することになるかも、と説明をしていた。体の病気だって急病があるのだから、心の病気にだって急病があっても不思議はないな、とこれも何となく納得した。
縫合を終わって、痛み止めと抗生剤をもらって帰ろうとしたら、入り口のところで「血圧が下がったので呼ばれました」と言ってる人とすれ違った。多分、夜中の1時頃だったと思う。家族が入院していて、容態が悪化したのだろう。
翌朝受診するように言われたので、午前中に出向いていった。徹夜の当直あけなのに変わらぬ様子の昨日の先生に診てもらい、再度消毒して、薬を出してもらった。やっぱり外科の医者は体力勝負なんだなあ……。
外来の処置室に、注意書きが貼ってあった。体液はすべて感染源だと書いてあるのは当たり前としても、伝票を汚染しないように気をつけるように書いてあったのは、なるほどと思った。伝票が汚染されると、会計などの事務方で感染事故が発生するということになるのだろう。器具の滅菌は後からまとめて何とでもなるが、紙を滅菌したあと使うのは難しいだろう。
まあ、とにかく、妙にいろんな人間模様をかいま見たような夜だった。