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物理学会のシンポジウムで話をする予定

Posted on 11月 30th, 2005 in 倉庫 by apj

 学習院大学の田崎さんが、日本物理学会の「物理と社会」分科シンポジウムとして提案していたものが、正式に採択された。提案趣旨は田崎さんのサイトにある。プログラムは以下の通り。

「ニセ科学」とどう向き合っていくか? (「物理と社会」分科シンポジウム)
日時 2006 年 3 月 30 日(学会最終日)、午前 9 時から
プログラム
はじめに — 科学と「ニセ科学」をめぐる風景  田崎晴明 15分(質疑なし)
「ニセ科学」入門  菊池誠 30分(質疑10分)
「水商売ウォッチング」から見えたもの  天羽優子 30分(質疑10分)
休憩10分
「ニセ科学」の社会的要因  池内了 30分(質疑10分)
討論と全体への質疑応答 30分

 線引き問題でも単なる批判でもない議論をするつもりだが、どういう話の展開にするか、細かいところはまだ決めていない。今回の「ニセ科学」は、「科学を自称するが、(科学の手続きにのっとっていないので)科学ではないもので、かつ営利に使われるもの」と定義することになるだろう。
 提案趣旨の中に、科学とニセ科学は同じ市場を奪い合う関係とあるが、これは、実のところもっと生々しい話である。というのは、競争的研究資金と称してお役所があらかじめテーマを決めて研究費を配分したり、あるいは企業への補助を出したりしているのだが、油断していると、研究テーマに「ニセ科学」が混じることがあって、冗談抜きで市場どころか同じ研究費のパイを奪い合う関係になっていることがある。私は主に水関係のニセ科学批判をやってきたし、そのことで企業側からクレームもつけられた。そのときの相手の主張を聞いた限り、相手は、起きていることがマーケットの争奪戦であるという認識をしていないように見えた。
 科学の教育や啓蒙をすることで騙される人を減らすためには、ニセ科学を批判しておかなければならないことは確かだが、これは倫理的な面の話である。それだけだと単なる独善に陥る可能性がある。やっていることが、製品を売るといった通常の市場とは異なる「市場」の奪い合いだという認識で戦わない限り、状況を整理することはできないだろう。ニセ科学を批判されて怒る人たちというのは、製品販売の邪魔をされたと主張するが、彼らだって我々科学者の市場を奪う活動を自覚無しにやっているのだ。

昨日発売のAERAに「水伝」批判が出た

Posted on 11月 29th, 2005 in 倉庫 by apj

 昨日発売のAERAに、水からの伝言批判記事が出た。見開き2頁。「ベストセラーの「トンデモ科学」度 『水からの伝言』の仰天 水が言葉を記憶する——。「そんなアホな」と言うなかれ。この奇妙な説が学校の授業などを通して急速に拡がっているのだ。」というタイトルがついている。
 見所は、「水からの伝言」の著者である江本氏のインタビュー。「水からの伝言はポエムだと思う」と主張している。自分で書いておいて「思う」ってどういうことよ?。何書いたか自分でもわかってないってことかいな?そのくせ「今後、周りの研究者によって科学的に解明されていくと思う」って、アンタ……。何で江本氏の脳内ポエムを科学者が解明しなきゃいかんのよ。しかも江本氏によると「「体内にある108の元素が108の煩悩に対応している」ことも常識だ。」。とりあえず周期表を見てから言えと。周期表は既に108以上埋まってるし、安定同位体が存在する元素は108より少ないというのが科学的事実だから、常識どころか江本氏の妄想でしかない。
 まあ、こんなめちゃくちゃな主張をそのまま掲載したAERAはよくやった。これを見てまだ江本氏の言うことを信じるという人は少ないんじゃないかな。発行部数も多いし人目にも触れるから、効果を期待したい。
 批判してる人たちとしては、私以外に、北大低温研の古川さん、阪大サイバーメディアの菊池さん、広島市立八木小学校の奥田さん、東京都三鷹市の主婦の方も疑問を呈しているし、国連大学副学長の安井さんも批判コメントを述べている。

 こんなものを義務教育の現場に持ち込んで生徒に教えた教師をどうにかしてほしい。脳内妄想ポエムを科学と勘違いして授業でインチキを教えるって、一体どういう種類のアホなのか。科学技術立国を謳っておいて、義務教育でニセ科学を教えるというのは、はっきり言ってテロと変わらないと思う。特に、実践例を広めまくったTOSSの責任は大きい。

環境ホルモン濫訴事件:ついに本ブログが甲号証に登場

Posted on 11月 26th, 2005 in 倉庫 by apj

 環境ホルモン濫訴事件の話。原告松井側の甲第21号証に、このブログの2005/07/13の記事が登場した。読んでもらえればわかるように、記事の大部分は法廷傍聴のしかたと法律関係の参考書リストである。原告はどこを引用したかといいうと、「口頭弁論の話をウェブに書くと、ダイオキシン・環境ホルモン国民会議の代表から抗議がくるらしい。」という部分。これは、中西雑感の「私の友人のところに、ダイオキシン・環境ホルモン国民会議の代表 立川 涼さんの名前で、私の裁判について書かれた彼のホームページの記事に抗議し、さらに、謝罪とホームページの記事の削除を求めた内容証明付き文書が送られてきたとのことである。」という記載がもとになったものである。原告はこれで、中西氏のウェブページの記載が一般に誤解を与えていることを示したかったらしい(準備書面(2))。
 ……あのな、ウチのブログを提出して一体何がしたいわけ?これが本訴の名誉毀損とどう関係するのかさっぱりわからない。中西氏が松井氏について言及した表現が名誉毀損かどうかを争ってるはずだろ。問題の文書は2004/12/24の中西雑感の中身だけだろ。民事訴訟の立証活動は自由だが、関係無いネタまで何でも突っ込めばいいというものではない。国民会議が関係してるかどうかについて訴外の誰かが誤解したなどというネタは、原告代理人には関係するかもしれないが、原告は関係ないんじゃないの。弁護士四人は「原告代理人」なんだから、原告本人に無関係なネタはスルーするのが当たり前で、訴訟のついでに「代理人本人の利害や立場」をこそっと出すのはやめるべきだ。それ以前に、弁護士が、代理の範囲を超えて動くのはまずいんじゃないの。
 さらに正確に説明しておく。発端は、益永氏@横浜国大の書いた備忘録で、本件訴訟とダイオキシン・環境ホルモン国民会議との関連について考察したものであった。これに対して、国民会議は「本件訴訟と国民会議は無関係」という主張の内容証明を益永氏に送った、というものである。
 国民会議の言い分を認めるとしても、益永氏のような議論が出てくるのは当たり前だと思う。
 「環境ホルモンは終わってない」と主張する市民団体の、一般会員ではなく「事務局や役付き」の弁護士ばっかり四人(中下裕子 (事務局長)・神山美智子 (副代表)・長沢美智子 (常任幹事)・中村晶子 (事務局次長))が、「市民団体と主張を同じ」くする松井氏の代理人になって、環境ホルモンは煽りすぎだと主張した中西氏を提訴し、「中西氏の環境ホルモンに対する考えが間違ってるから提訴した」などと書いた「プレスリリース」まで出したら、そりゃ誰だって、「提訴は国民会議の意向に沿うものである」「本件訴訟は訴訟という形態の市民運動である」と思うのが普通だろう。つか、思われても仕方がないわな。
 あ、そうそう、「プレスリリース」と「個人情報入りの訴状」が化学物質問題市民研究会のウェブサイトに掲載されてたってのもあったな。これだけやれば、いかにも、国民会議と市民研究会の両方の活動にそった提訴に見える。
 全部偶然が重なったのだと言い張るのは自由だろうよ。それなら訊くが、「こういう行動を重ねたら普通の人にどう見えるか・どう思われるか」ということを全く考えずに訴訟してたのか?中西氏のページが広く誤解を振りまいているなどと言いがかりを付けるまえに、これまでにやってきたことを少しは振り返ったらどうなのか。自分から誤解を招くようなカードを全部揃えておいて、誤解する奴が出たらけしからんとは、一体どういう了見でいるわけ?
 ついでに書いておくと、謝罪文掲載を認めた環境ホルモン学会は「訴訟に対して中立でありたい」という文書を公開したが、国民会議の方は「訴訟に無関係」を主張する文書を全く出していない。「広く誤解された」ことが、わざわざ内容証明を送りつけなきゃならんほど困るというのなら、さっさと「訴訟と国民会議は無関係」を主張する文書を公開すべきじゃないのか。国民会議は誤解を解く努力を怠っているように見える。
 だからここではっきり言っておく:中西氏の雑感とは無関係に、原告と原告代理人の行動は、何も言わなきゃ国民会議の意向に沿っているように見えまくりですが何か?

 とりあえず、中下弁護士を初めとする四人と松井氏、および国民会議には以下の諺を贈呈しておくことにする。

 李 下 に 冠 を 正 さ ず

AERAに「水からの伝言」批判が出る

Posted on 11月 25th, 2005 in 倉庫 by apj

 AERAの次号に、「水からの伝言」に対する批判記事が出る予定。阪大のきくちさんにも取材がかかってた。私も電話取材を受けてコメントしたのでちょこっと出るはず。
 きくちさんのブログでは、江本さん本人へのインタビュー記事が出ることや、他に安井至さん、古川さん(北大低温研)のコメントも出るという情報が掲載されている。

 個人的には、江本さんの本音をきいてみたいな。宗教のつもりなのか科学のつもりなのか。江本さん本人は、自身の著書の中で、1つの水についてたくさんの氷をシャーレに作って写真を撮って、うまく撮影できた結晶写真の中から一番その水に合ってそうなものを選んでいると正直に書いている。だから、科学でないことは明白なのだが。ご本人がこの手続きでも科学だと信じているのかいないのか。やはりよくわからない。
 「ネタである」というメッセージがちりばめられているように見えないわけでもない。江本さんのやり方は、この手の話をネタだと気付かない人を選別しているようにも思える。

「すごい科学」のパワー不足?

Posted on 11月 23rd, 2005 in 倉庫 by apj

 サイコドクターぶらり旅より。仮面ライダー The Firstの話題。結局忙しくて、仙台まで見に行ってる時間が無かったので、後日のDVDの発売を待っているところである。で、コメントに曰く……

 まずのっけから「美しいものに触れると水は美しい結晶を作る」とかいう、例の「水からの伝言」そのまんまのトンデモ学説を研究する大学研究室が登場。こんな珍説がいったいどう描かれるのかと思っていたら、研究しているのは本郷猛その人。しかもこのトンデモネタ、何度となく蒸し返されて結局最後までひきずる。水は生きている、とか本郷猛が真顔で言うのである。脚本家は本気らしい。なんせ、本郷猛がショッカーの洗脳を脱するきっかけからして、「美しい雪の結晶を見たから」なのである。

 いやその、仮面ライダーワールドといえば、1号や2号のあたりは、悪の組織の科学はサイボーグを作るは人体改造するは、というのが当たり前の世界だったわけで。ということは、正義側の科学としてもそれを凌ぐような「すごい科学」(by長谷川裕一)が設定されないと様にならないと思うのだが、それが「水からの伝言」のパクリだというのは何ともしょぼい。しょぼ過ぎる。もうちょっとスケールの大きな凄いフカシ話(=SF)は出てこないものなのか。悪の組織が人体改造してる時に、正義側が水の結晶じゃあ、最初から完全に負けてる気がするんだが。さんざん酷評された実写版デビルマンに次ぐ脱力系特撮映画になってそうな悪寒……。

本末転倒の見本(笑)

Posted on 11月 21st, 2005 in 倉庫 by apj

 先週注文した本が届いていた。「危ない健康食品から身を守る本」健康をめざした筈が死亡事故も起きて、あげくに身を守る対象になるあたり、本末転倒の見本のような気がしないでもない。
 ちょっと前に話題になった、中国製のダイエット食品で死亡者が出た話も取り上げられている。他の健康食品による健康被害の話題と、健康食品を食品として規制するのか、医薬品として規制するのか、国によって制度が違っていることがまとめられている。特に、アメリカでは、サプリメント業界の圧力で規制緩和が行われ、被害発生をもたらしたことや、そのアメリカの圧力で日本でまで規制緩和の方向に行ったことが出ている。
 確かに、消費者の選択の自由は大事だが、十分な情報開示があって、判断できるだけの知識を消費者が持っていることが前提となる。どういう試験をしているか、副作用についてどこまで販売前に調査したかという情報を企業側が出せないのであれば、そんな製品の信頼性は無いに等しいし、まともな情報提供をせずに消費者に選ばせるというのは、騙すというのと変わりない。幸いにして、日本では、厚生労働省もそこそこ取り締まる方向だし、公正取引委員会も景品表示法の運用をしっかりやっている。このことはみんなで評価して見守っておくといい。何でも規制緩和すればいいというものではない。情報の存在が非対称な状態での規制緩和は、単なる弱肉強食になるか、知識のある者が無い者を騙す社会の出現に手を貸すだけだろう。
 本の最初の方で紹介されているアマメシバの事例では、被害を受けた人が、メーカー、販売会社、出版社、記事でアマメシバを紹介した医学博士たちを相手取って訴訟を起こしたことが書かれている。私は、講義では「宣伝に登場する肩書きは信用するな」と学生に言っている。今回、礼賛記事を書いた医学博士まで損害賠償請求の対象になっているということだが、ぜひ責任を認める判決が出て欲しい。医学の専門家であれば、既存の医学の範囲を超えて、これまで使われていなかった形(濃縮、抽出、摂取量が異なるなど)で「健康食品」を薦めるのであれば、作用も副作用も十分に調べた上で、過剰摂取の場合の危険性も含めて情報を提示するべきである。それを怠って、無責任に素人に向かって健康食品を薦めるのは専門家のすることではない。専門家の役割は2つあって、1つは現在の科学で押さえられている知識の範囲と活用方法を正しく伝えること、もう1つは新規なことがらの発見である。自ら研究し新しいことを発見し十分な調査研究を行った結果が健康食品を薦めるという結論なら、それは専門家としての存在意義を賭けて薦めればいい。そうでないのなら、既存の知識を活用して判断を安全側に振っておくべきだろう。
 巻末の健康食品を評価するフローチャートは、私も似たようなものを学生に紹介しており、参考になる。この本は、事例紹介が多いので、考える材料になると思う。松永さんの「食卓の安全学」と合わせて読むと良さそうな本である。

新幹線混みまくり

Posted on 11月 20th, 2005 in 倉庫 by apj

 お茶の水大に立ち寄って、論文1つオンラインでsubmitしてから山形に戻る。午後の新幹線は指定席が軒並み埋まっていた。何か東京から山形に向かう人が非常に多い。紅葉はもう終わってるはずだが……。
 早めに用が済んだので、丸の内の丸善で時間をつぶすことにした。久しぶりに大型書店を歩き回っていくつか興味深い本が出ているのを見つけて、メモしてきた(買うと重いから……)。

 そういえば、週末の京都行きも、宿がとれなくて困った。京都は高いところしか空いてない、大津あたりでナントカしようと思ったがそれもだめ。西の方はちょうど紅葉のシーズンで、観光する人が妙に多かったということらしい。

溶液化学シンポジウム

Posted on 11月 18th, 2005 in 倉庫 by apj

 溶液化学シンポジウムに参加。本当は昨日から参加するつもりでいたら、環境ホルモン濫素事件の口頭弁論とダブルブッキングしたので今日からの参加。午前中のポスターセッションで発表した。次回開催が山形大学なので、総会で亀田先生のアナウンスの様子を見たり、懇親会でちょこっとだけ壇上に上がってウェルカムメッセージをしゃべったりしていた。

 ここ数日かなりばたばたしていたのだが、買ってまだ1年たってない外付けHDDのポートの1つが認識しなくなった。近々修理に出す予定なのだが、その間のバックアップを何とかしなければいけない。で、安いUSB接続のポータブルHDDを買ってここ数日バックアップしている。USBなので遅い遅い。USB2だともうちょっとマシなのだろうが、古い方のG4 PowerBookはUSB2にはなってないみたい。FireWireなら一晩もあれば全部終わるのに……。やっぱりFireWire接続のものにした方が良かったかなあ。でも、USBの方が種類も多いし軽いものもたくさん出ているので、微妙なところだよな。最初バックアップを大体やってしまえば、日々のファイルコピーはそんなに多くないし。

環境ホルモン濫訴事件:第四回口頭弁論

Posted on 11月 17th, 2005 in 倉庫 by apj

 本日の傍聴人は全部で23人。パイプ椅子などを追加して全員着席できた。原告代理人は、中下・神山・中村弁護士の三人で、原告本人は欠席。裁判官の一人が交替したので弁論の更新をした後、反訴被告の答弁が始まった。
「請求が正当であることは元の訴状を読めば分かる」
「反訴被告の提訴の意図は反訴原告に対する攻撃であるというが、訴状を読めば分かるとおりそんな意図はない」
と述べた後、まさか言うまいと思っていた爆弾発言で(傍聴席に)笑いの燃料投下。

「プレスリリースは新聞記者に対する説明のために出したもので、付随的なものであり、本件訴訟の目的にはあたらない」

 訴訟代理人の弁護士名義で出したプレスリリースの中で訴訟の目的が説明してあれば、読んだ人はそれを本当のことであると受け取るのが普通ではないのか。記者だってそれを前提に新聞に載せる。中下弁護士は、プレスリリースには真実でないことを書いてもいいと主張したとしか見えない。しかも裁判官の前で。
 これって、弁護士の行動として倫理的に大変問題があるのではないか。プレスリリースを掲載したマスコミの皆さんは、見事にかつがれたということだから、大いに怒って良さそうだ。

 中下弁護士の演説はさらに続いた。
「(反訴原告を攻撃する意図の背景に)代理人がダイオキシン・環境ホルモン国民会議の役員であることが指摘されているが、国民会議は158名の女性弁護士が作った団体で、たまたま受任した代理人がこれに参加していたというだけである」
「学問的批判であれば、事実に基づいて行うべき。本件は事実に基づかない批判である。また、学問的批判であるというなら、どうして、反論の機会を保証せずにwebに掲載したのか。なぜ一方的に行ったのか。学問的批判はシンポジウムなどで直接行うべきである。」
「どうして(松井氏から)抗議メールがきたのに、それを公開しなかったのか(公開して反論しなかったのか)」
「批判は他者の名誉を傷つける可能性がある。他者への批判は自己への批判と結びついていなければ建設的ではない」

 松井氏は自身のウェブサイトを持っているので、そこでいくらでも反論できる状態であった。また、メールを無断で公開することの方に慎重になるのは当然である。既に訴訟に至るまでのメールのやりとりは公開済みだが、松井氏は、送ったメールを公開せよなどとどこにも書いていない。

 で、意見表明が名誉毀損にあたらないという最高裁判例の射程距離について述べた後、次の燃料投下。

「乙5(2)のテープですが、原告は、(新聞記事の説明について?)言ったつもりで言ってない」

 これで、この訴訟は、
  原告が「言ったつもり」で「言ってない」ことを「聞いてない」から「ちゃんと言え」と指摘したら訴えられた
というものであることがはっきりした。そりゃ、「言ってない」ことは「聞いてない」のが普通だわな。要するに松井教授のプレゼンがドヘタだったということか。で、逆ギレ訴訟の挙げ句、弁護士が三人がかりで松井教授のプレゼンが下手糞だったことについて弁護している、と。

 詳細な情報は、環境ホルモン濫訴事件:中西応援団から得て欲しい。

 なお、本日原告が提出した甲号証の中に、私のブログも登場したことがわかった。これについては後ほど詳細を説明する予定である。

主戦場はマスコミではなく、裁判自体を正面から扱えるネットだ

Posted on 11月 16th, 2005 in 倉庫 by apj

 中西雑感324-2005.11.15を読んで。環境ホルモン濫訴事件についてだが、本件訴訟が起こされたとき「主戦場は法廷外と想定しただろう」と中西氏は書いている。訴訟を展開する上で明らかに足を引っ張るようなプレスリリースを出していること、もともと事実が無いのに提訴したことから、「そもそも法廷で争うような名誉毀損該当事実が存在しない時に、どうすれば相手に打撃を与えることができるか考えて“提訴”を利用する方法を考えた」と述べている。つまり、裁判で結果が出る前にマスコミが環境ホルモン問題を終わったと決めつける悪い奴、というレッテルを中西氏に貼り付けてくれればそれで良かったということだ。それだけでも中西氏の信用は落とせることになる。

 中西氏の主張には一理あると思う。ただし、これはちょっと前までの話だ。ネットが普及したため状況は既に一変している。

 私は、中西氏を応援することを決めたとき、主戦場はネットだと考えた。訴訟を正面から取り扱いながらネットワーカーに共感してもらえるような方向で動くべきだという見通しを持っていたし、これは今も変わらない。つまり、彼らが主戦場と想定したもの以外の場所が事実上の舞台になると思っていた。
 ネット上の言論の自由をどうやって確保していくか、他の権利とどう折り合いを付けるのかということは、ネットを利用するすべての人に関わる問題だからである。権利のぶつかりあいは最終的に司法で決めるしかないし、判決は社会に影響を及ぼす。

 マスコミは巨大だから、どうしても、一般受けして数が売れる、商業ベースに乗る情報しか提供できない。メディアがマスコミしか無かった時代には、マスコミを動かせばそれで足りたのだろう。しかし、ネットは違う。マスコミとは比べものにならないほど安価に、個人が、ニッチな情報を提供でき、一旦公開した情報はどこかに残り続ける。
 訴状、原告被告双方の答弁書、証拠書類といったものが、従来のメディアに載るのは、例えば、法科大学院のテキストとして出版されるといった場合がある。これ以外では、医療過誤訴訟といった、ある分野を深く知るための法律専門書に、これをやっているものがある。いずれも、専門家向けの本だから、値段も高いし数も出ないし、一般の人がそうそう手に取るものでもない。従来のメディアしかなければ、プレスリリースで、訴訟に対する印象操作をすることが割と簡単にできただろう。
 ネットがあると、プレスリリースも含めて、書証をすべて公開し、誰でも検討できる状態にして、後まで残すことができる。仮に間違った印象操作がなされても、最後に説得力を持つのはソース、つまり1次資料の内容である。ソースに説得力がなかったら、小手先の印象操作をしても、必ず最後には覆る。
 安全圏からの訴訟など、ネットが普及した後はあり得ない。誰が何を主張したか、正確な記録を残せば、後からそれを評価する人は何人でも現れる。

 早々とプレスリリースを出した割には、その後の情報のコントロールがまるでできておらず、戦略性も感じられない原告側の動きを見ていると、どうも、時代の流れに取り残されているのではないかという気がしてきた。多分、原告の考え方や運動のやり方は、1970年代なら通用したのだろう。だけど、今となっては、多分古すぎる。
 こんなずれが生じているのは、マスコミと市民団体がタッグを組んで動くという文化と、個人がフラットにコミュニケーションするという文化の、文化摩擦が背景にあるためではないかと思う。