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本末転倒の見本(笑)

Posted on 11月 21st, 2005 in 倉庫 by apj

 先週注文した本が届いていた。「危ない健康食品から身を守る本」健康をめざした筈が死亡事故も起きて、あげくに身を守る対象になるあたり、本末転倒の見本のような気がしないでもない。
 ちょっと前に話題になった、中国製のダイエット食品で死亡者が出た話も取り上げられている。他の健康食品による健康被害の話題と、健康食品を食品として規制するのか、医薬品として規制するのか、国によって制度が違っていることがまとめられている。特に、アメリカでは、サプリメント業界の圧力で規制緩和が行われ、被害発生をもたらしたことや、そのアメリカの圧力で日本でまで規制緩和の方向に行ったことが出ている。
 確かに、消費者の選択の自由は大事だが、十分な情報開示があって、判断できるだけの知識を消費者が持っていることが前提となる。どういう試験をしているか、副作用についてどこまで販売前に調査したかという情報を企業側が出せないのであれば、そんな製品の信頼性は無いに等しいし、まともな情報提供をせずに消費者に選ばせるというのは、騙すというのと変わりない。幸いにして、日本では、厚生労働省もそこそこ取り締まる方向だし、公正取引委員会も景品表示法の運用をしっかりやっている。このことはみんなで評価して見守っておくといい。何でも規制緩和すればいいというものではない。情報の存在が非対称な状態での規制緩和は、単なる弱肉強食になるか、知識のある者が無い者を騙す社会の出現に手を貸すだけだろう。
 本の最初の方で紹介されているアマメシバの事例では、被害を受けた人が、メーカー、販売会社、出版社、記事でアマメシバを紹介した医学博士たちを相手取って訴訟を起こしたことが書かれている。私は、講義では「宣伝に登場する肩書きは信用するな」と学生に言っている。今回、礼賛記事を書いた医学博士まで損害賠償請求の対象になっているということだが、ぜひ責任を認める判決が出て欲しい。医学の専門家であれば、既存の医学の範囲を超えて、これまで使われていなかった形(濃縮、抽出、摂取量が異なるなど)で「健康食品」を薦めるのであれば、作用も副作用も十分に調べた上で、過剰摂取の場合の危険性も含めて情報を提示するべきである。それを怠って、無責任に素人に向かって健康食品を薦めるのは専門家のすることではない。専門家の役割は2つあって、1つは現在の科学で押さえられている知識の範囲と活用方法を正しく伝えること、もう1つは新規なことがらの発見である。自ら研究し新しいことを発見し十分な調査研究を行った結果が健康食品を薦めるという結論なら、それは専門家としての存在意義を賭けて薦めればいい。そうでないのなら、既存の知識を活用して判断を安全側に振っておくべきだろう。
 巻末の健康食品を評価するフローチャートは、私も似たようなものを学生に紹介しており、参考になる。この本は、事例紹介が多いので、考える材料になると思う。松永さんの「食卓の安全学」と合わせて読むと良さそうな本である。