毎日新聞の記事より。
博士研究員:就職支援に5億円 文科、経産省が来年度から
研究現場を支える若手研究者「ポストドクター(ポスドク)」の就職支援に、文部科学省と経済産業省が来年度から乗り出す。大学や研究所の常勤職ポストが少なく、30~40代になっても定職に就けない博士号取得者が目立っているため。
両省は来年度、ポスドクと民間企業など新たな進路とを橋渡しする新規事業に計約5億6000万円を支出し、「博士の就職氷河期」の解消を目指す。
ポスドクは博士号を取得した後に任期付きで働く研究員。政府は、研究開発能力の強化のため、ポスドクに一定の年収を保証する「ポスドク等1万人支援計画」を科学技術基本計画に盛り込み、量産化を進めた。昨年度のポスドクは約1万2500人と推計される。
しかし、定職を探す30~40歳代のポスドクの就職難が深刻になっている。常勤研究職の数は増えず、企業への就職も限られているためだ。
そこで両省は、博士たちと研究機関以外の就職先との出合いの場を作ることにした。
文科省は、大学や企業を対象にモデル事業を募集し、支援する。人材派遣会社などが、ポスドクに研究機関以外の就職情報を提供し、企業に出す研究企画書の作成方法を指導するといった事業が考えられる。
経産省は、ポスドク向けにベンチャー企業などの求人情報をデータベース化したり就職セミナーを開く。
澤昭裕・東京大先端科学技術研究センター教授(経営戦略)は「企業も即戦力の優秀な研究者を求めているが、求人情報が研究現場に届きにくい。世渡り下手の博士に、研究機関以外の活躍の場を気付かせられれば、新たな人材マーケットが生まれる」と話す
文部科学省の都合で大学院定員を増やしてポスドクも増やしまくっておいて、いざ問題が発生したら企業に押しつけるってことですか?こうなるのは大学院重点化に走った時からわかりきっていたことのはず。少子化で受験生が減ることだって、減り方の速度はともかく予測はできていたはずだ。文部省内でも、若手の官僚は「重点化をやったら近い将来社会問題化する、特に文系は大変だ」って指摘してたし、そういう報告を出した人がいたはずだぞ(ってかその本人に'95年頃にきいた話だが)。ポスドクの支援に金使う前に、政策の誤りを認めて大学院の定員減らす方が先なんじゃないのか。ここまでくれば、国家予算で失業者を養成することになったことがはほぼ明らかなのでは。まあ、問題が生じれば予算がつくのが役所の常だから、それを狙ってポスドク問題を発生させたという見方もできなくはないが……。
ついでに言うと、大学院重点化が始まった頃に、日立基礎研に就職した先輩と話をしたら、基礎研でさえ「これ以上博士イラネ」って話だった。理系の学位持ちが集まるところでさえも「増やせ」というニーズは無かったらしい。ところが、もっと博士号持ちを増やすのが社会のニーズに応えることだって方向で重点化の話が出てきていたから、一体どういう調査をしてそういう結論になったのか、当時から激しく疑問だったわけで。これも、1995年前後のことだ。そりゃ、もし、「高度に訓練された博士が増えると役立つと思いますか?yes/no」なんて訊き方をしたら、誰だってyesと答えるだろう。でも、本当に企業に訊かなければならなかったことは「御社で博士をこの先何人雇うつもりがありますか?」という採用計画についてじゃないの。で、この問いに答えた企業が何人の採用実績を示したかで、供給計画を決めれば良かったんじゃないのか。
正直言って、私も就職では散々苦労したから、こういうのを見ると、他人事とは思えない。私の周りも私よりちょっと下の世代も、就職については屍累々なわけだが。しかし、この期に及んで斡旋事業だけやって、ポスドクを雇うつもりは文部科学省にも経済産業省にも全くないというのは記事を見る限りはっきりしている。まさに偽善の見本。こういうことは、役人の半分にでも博士号持ちの奴を雇ってから言えと。
博士課程進学の時にはリスクを背負い込む覚悟をしたことは確かだし、好きで選んだんだろうと言われればそれもその通り。だから、一般の会社の人からどんなきついことを言われようが、それは仕方がないと思うが、原因を作った当の文部科学省が他人任せの対応をすることを堂々と表明するのを見ると本当に腹が立つ。
まあ、人材が偏在していることは確かだと思う。最近、事情があって、企業が出した製品試験の報告を見る機会があったが、それがとんでもなかった。予算が使えるから測定器は投入してるんだが、対照実験してないとか実験条件抜けまくりでレポートの体をなしていないとか、実験結果の表と数値だけしかないとか、夏休みの自由研究ですかこれは?という代物だった。正直、そのレポートじゃウチの学科はまず卒業できない(つか実験の単位が取れない)。そこに1人でもいいから院卒の人がいて、仕切ってればずいぶん違うだろうなぁと思ったわけで(もっとも、ありがちなパターンとしてDQN社長にウソでもインチキでもいいから売ってこいと命令されたりしたら、嫌気がさして辞めるだろうけど)。
【個人でリスクヘッジする方法】
0)大学や独立行政法人の研究職は最初から考えないことが最大のリスクヘッジになる。
1)フレッシュマンで就職する
学位取得(大抵は3月)後の4月から企業に行けるように、最終学年の春から就職活動する。学位取得後、ポスドクでうろうろしていると、後から面接を受けに行こうとしたときには既に中途採用扱いになって、さらにマッチングが厳しくなる。フレッシュマンで動くのが多分一番楽。
2)不幸にしてポスドクするハメになったら
技術が活かせそうなアルバイトでも何でも最低1つは入れて、社会とつながりを持つこと。仕事ぶりが実直であれば、見ている人は見ていて、チャンスがやってくることがある。知り合いでも、バイト先の会社に就職した人がいるし、私も、紹介されたプロジェクトで企業の人と一緒になってやっていたら、数年後、その人が独立して会社を作るので来ないかと声をかけていただいたことがあった(たまたま別のところで仕事をしていたので行かなかったのだけど)。最悪なのは、出身研究室だけに閉じこもり外に出るのは学会だけなんて状況で、アカポスを狙うこと。
あ、この文章についても、大学の話題なんで一応予防線貼っておく。もし、大幅な変更があったら、それは職場から取り下げろという圧力があったということだから、見た人はとりあえずコピペでもしておいてください。どの程度までなら表現を許すかという、大学に対するリトマス試験紙にはなるだろうし。