Feed

お星様きれい(笑)

Posted on 2月 4th, 2006 in 倉庫 by apj

 年末に「ガイア―地球は生きている」を見かけたので購入した。「ガイア」をテーマにした本には、環境保護の妙な色がついたものも多いが、提唱者のラヴロックの本はきちんと読める内容である。なお、著者自身は、ガイア理論は仮説であると明言している。

 東大先端研に居た頃、軽部教授が新潟の塩沢に別荘を買った。塩沢のスキー宿集落&夏場は農業集落の中の一軒で、もともとは農家であった。研究室の人数が多いので、夏と冬の合宿をそこでやることになっていた。夏は全員集合するので、別荘の廊下にまで雑魚寝しても足りず、道を挟んで向かいの宿に素泊まりするグループも出ていた。私は寝苦しいのが嫌で、テントを持ち込んで庭で寝ていた。他にも教授提供のオートキャンプ用のテント組が居た。
 別荘は塩沢の山の中腹にある。事情により早く帰ったり遅れてきたりする人も居て、車で送迎することになっていた。この運転手を務めていたのが、当時の助手の佐々木氏であった。晴れた夜は、山から下りてきて展望が開けると、塩沢の街の明かりが大変キレイである。
 ある時、私は早めに帰ることになって、佐々木氏に車で送ってもらった。街が見えたとき、佐々木氏は
「街の灯がきれいですねえ。空の星と区別がつきませんねぇ」
と言った。
 私がそのとき考えたのは、ラヴロックのガイアの本の内容だった。正確には思い出せないが、「核融合は宇宙ではありふれたエネルギー源で、普通は星は核融合で光っているが、地球は石油を燃やして作る電気で光っている。もし、宇宙人の天文学者が地球を観測したら、一体どういう原理で光っているのか不思議がるだろう」といった内容だった。これと、どういう立体角で光が入るかで見え方が決まるということが頭に浮かんだ。私は思わず、
「原理的には同じですよ。でも波長が違うから分光したらわかります。核融合は短い波長の光も出すので」
と答えた。
 そのときはこんな会話を交わしたことなどすっかり忘れていたのだが、その後1年以上たって、この話が軽部研内でさんざんネタにされていることを知らされた。
 佐々木氏は、送迎役を仰せつかって、星と街の灯が見える度に、「街の灯がきれいですねえ。空の星と区別がつきませんねぇ」と言って、相手が何と答えるか見ていたということだ。大抵の人は「佐々木さんてロマンチストなんですねえ」といったたぐいのことを答えていて、それが普通の反応ということらしい。原理的に同じだの分光して区別しろだの言ったのは私だけだったため、研究室内でウケまくっていた。でもこれ、そんなにおかしな反応かねぇ?私としては、もし宇宙人の天文学者が望遠鏡で観測したら……とある意味ロマンに浸りながら答えていたつもりなんだけど。

 ともかく、ガイア理論のせいで笑いをとってしまったようだ。
 ラヴロックの本の中にも出てくる「デイジーワールド」は、ラヴロックの論文を入手して、微分方程式の数値計算をして追試したことがある。普通に、ロトカ・ヴォルテラ方程式を解く話で、むしろ数理生物学に近い内容だと思いながらプログラムを組んだことを覚えている。