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摩擦係数

Posted on 2月 7th, 2006 in 倉庫 by apj

 高校物理の力学では、静止摩擦係数>動摩擦係数、と教わる。

 私は自転車で高校に通っていた。途中、川を渡るため、橋の手前が上り坂になっている。ちょうど今頃の季節、寒い日は雪が積もり、昼間に少し溶け、夜の間に凍って、朝には道路がうっすらと凍ることになる。そんな日、自転車で橋にさしかかり、何とか転ばずに途中まで上った。ところが、雪で狭くなった道の前方から自動車が徐行しながらやってきた。一旦止まって脇に寄らないとまずいと思って、ブレーキをかけた瞬間滑り始めた。私は、自転車にまたがり、両足を地面についたままの姿勢でそのまま後ろ向きにずるずると滑ってしまった。滑り始めると止まらない。
 自転車の車輪の転がりは静止摩擦係数が効いていて、それは常に滑りの動摩擦係数より大きいということが頭に浮かんだが、実際に体験してもやっぱりその通りだった。しかし、教科書が正しいことを確認したところで、滑ってからではあまり役に立たない。物理学は自然がどう振る舞うかは教えてくれるが、どうやって止まったらいいのかまでは教えてくれない。
 スケートリンクが傾いたような道路はあまりに危険ということで、重機で氷を引っぺがしに来ていた除雪作業のおじさんがたまたますぐ側に居て、手で押さえて止めてくれたので、怪我をせずに済んだ。

 多分、静止摩擦係数ならぎりぎり斜面に対して止まれるが、動摩擦係数では滑り落ちるしかないという微妙なコンディションだったのだろう。