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上野照剛教授の定年退官記念祝賀会

Posted on 3月 9th, 2006 in 倉庫 by apj

 東京大学大学院医学系研究科医用生体工学講座の上野照剛教授が今年で定年退官なさるので、最終講義と祝賀会が開催されることになり、年休をとって出席してきた。私が博士論文の審査を受ける少し前に九州大学から移ってこられた。生体磁気の研究(磁気刺激、磁気計測)が専門で、脳を刺激したり、強磁場でコラーゲンなどの生体分子を並べたりといった話が印象に残っている。生物と磁気というと、ともすれば怪しい方に話が進みがちなのだが、科学を踏み外すことなく研究を進めてきたので、上野研究室からはたくさんの成果が出ている。
 実は、私の課程博士の論文は、最初のテーマが2年半でつぶれたこともあり、最後の1年(実質半年)の仕事をまとめたものになった。タンパク質が低分子の阻害剤などを認識したときの変化を水溶液の状態で誘電緩和測定で観測するというのがその内容である。このテーマによる実験ができた期間も短く、通るかどうかが不安だった。実際、論文提出直前に「こんな状況ですが、期日までに事務書類を回さないと留年確定なので、ダメモトで出します」と主査の神谷先生に挨拶に行ったら、後で「去年論文の体をなさないものを提出して二人落ちてたのだが、さすがにそのことを先に伝えるのははばかられた。出てきた学位論文が一応は論文の体をなしていたので良かった」と言われる始末だった。このときの副査が上野先生だった。生体と磁気の話には必ず水がからんでくるため、上野先生は磁場と水の関わりについて非常に興味を持っておられた。このため、結合水と込みで生体分子が機能を発揮しているという証拠をつかまえたいという私の論文のコンセプトをとても良く理解してくださり、好意的な審査をしていただいた。公聴会が終わった後、コメントや手直しの指示があり、上野先生預かりになった。つまり、言われたとおりに直して上野先生のチェックを受ければ審査に合格ということである。このとき、何回も本郷の医用電子研究施設(当時)の上野研究室に通って、指導をしていただき、おかげで無事に学位を得ることができた。
 上野先生は非常に人なつっこい方で、お会いした最初に「一緒に写真をとろう」と言って、そのときに居た研究室メンバーも含めて撮影が始まったのが印象に残っている。また、学位論文の直しをやっていたとき、生体磁気の国際会議の演題の審査を上野先生が目の前でやっておられ、いくつか質問された。中国とロシアに怪しい研究が多いことがそのときにわかった。何をコントロールしたのかわからない実験で、とりあえず磁場をかけてみて、結果が変わったの変化しなかったのという話のオンパレードだったからである。
 その後も、主査の神谷先生を招いての上野研のゼミに呼んでいただいたりもした。また、本郷キャンパスの近くのお茶を売っている店で、抹茶をおごっていただいたこともあった。
 二つめの学位をとった頃だったか、論文を持って、冨永教授も誘って挨拶に行ったことがある。強磁場を使ったろうそくのデモンストレーションを見せてもらって楽しい一時を過ごした。

 最終講義は、本郷の医学部本館の大講堂で行われたが、立ち見が出るほどの盛況だった。講義の後、花束贈呈があったが、花束を渡したい人がたくさんいた。受け取った花束を講義室の長い机に端から順に並べて置いていったら、机が埋め尽くされた。この花束の量=上野先生の人徳、ということなのだろうなぁと思いながら見ていた。
 祝賀会は上野精養軒にて。出席者は約三百人程か。上野先生は壇上におられたり出席者の間を回ったりで、ほとんど、結婚式の新郎状態になっていた。医学系と工学系両方からの参加者多数で、会場がすごいことになっていた。ただ、今回は、普段活動している分野が違うため、知らない人がほとんどだった。それでも、久しぶりに、ゼミでお世話になった旧神谷研の人たちにも会うことができたし、東大のCOEポスドクの人とも新しく知り合えた。とにかくこの規模のイベントになると、オーガナイザーがさぞ大変だったに違いない。

 上野教授は、東大を退官した後、九州大学で特任教授として、生体磁気や生体と電磁場との関わりについて、研究面からも行政面からも活動なさるということである。上野先生のご健康と今後の仕事のご発展をお祈りしたい。東大には12年だったということで、実はずいぶん長い東京出張だったということかもしれない。