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ますます物理が嫌われそうな……

Posted on 10月 18th, 2006 in 未分類 by apj

 教室会議で出た話題。
 一般教育科目で、物理がいくつか開講されているのだが、講義の敷居が高いのか、学生には不人気で受講者数は化学の約半分という状態である。不人気なら、開講コマ数を減らすか、もっと初心者向けの敷居の低い内容にして客寄せするのが普通の対応だろう。ところが、出てきた案は少人数しか希望者の居ない講義の「セミナー化」orz。
 実は教養セミナーはウチの一般教育の目玉で、少人数で丁寧かつ細やかに指導するということになっている。学生アンケートでセミナーを受講しない理由のトップ2が、プレゼンテーションするのが苦手だとか、興味の持てそうなセミナーが開講されていない、というものだったりする。まあ、これは受講しなかった人の理由だから、受講してハッピーだったという人がもっとたくさん居ればそれでいい。
 さて、物理不人気の理由が、「今の指導が丁寧ではないから」「マスプロ教育だから」というのならセミナー化が解決策だろうが、前者であるという根拠はどこにも示されず(つか、前者なら今のままでまずは丁寧に教えろという話になる罠)、マスプロ云々は受講者が少なすぎるという問題とはまさに正反対だから当てはまらない。誰がこんな無理矢理な解決策を考えたんだか。
 ところで、私は高校の時、物理が苦手だった。公式を覚えて当てはめて解くというのができなくて、3年の半ばまでさんざんんな点数しかとれなかった。まあ、「自然科学はもっときっちりした体系があるはずだ」と思ったので、駿台文庫の物理入門(山本義隆)やら、小出昭一郎の物理概論やらを自力で読んで、そっちにはまって物理学科に行ったわけだが、こういうことをするのはごく小数で、大抵の人は高校の物理の点がさんざんだった時点で物理の習得はあきらめて、後に苦手意識だけが残ることになるに違いない。多分、ウチの大学で教養の物理に難色を示しているのは、今後物理を専門にするわけでもない、高校で点数が取れずに悩んだ人達、あるいは中学校理科の力の釣り合いあたりでワケがわからなくなって、その後理科苦手意識を引きずった文系学生等ではないかと思う。物理を敬遠したがる気持ちはとてもよく分かる。だって、自分ができるともわかるとも思えず、何が楽しいのかもわからなかった高校の時の物理の前半は、授業に出るのが本当にうんざりだったもんなぁ……。
 それでだ、只でさえ苦手意識のある物理で、非専門家向けに敷居を低くするという話も無く、「今現在敬遠したくなる内容をセミナー形式でしつこく丁寧に指導する」なんてことをされたら、それに付き合わされる学生にとってはむしろ悪夢じゃないか。大学に合格し「苦手科目の克服」などというプレッシャーからやっと解放されたわけでしょ。第一、もし私が学生で、高校前半の物理苦手意識を持ったままだったら受講したくないぞそんなの。苦手なもののプレゼンをやれと言われるのがほぼ確実だと、そりゃ逃げたくもなる。何だかますます物理嫌いが増えそうな予感がして、物理出身者としては鬱なわけだが。セミナー化するなら、初心者安全で敷居が低い内容を増やさないと、物理=苦行になりかねないよなぁ。