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控訴審判決本文が届いた

Posted on 10月 24th, 2006 in 倉庫 by apj

 私が着任する前に学内で「学寮問題」というのがあったらしい。ビラについてコメントを書いておいたら、元学寮性を名乗る人達がさっきやってきて、控訴審判決文のコピーを持ってきた。今時のことだから、判決全文ネットに上げておいたら?とは言ったのだが……。で、事件番号判明。「平成16年(ネ)第300号 損害賠償請求事件(原審・山形地方裁判所平成12年(ワ)第310号」仙台高等裁判所第3民事部。これで見たい人は誰でも仙台高裁に行けば判決文にたどり着ける。
 内容については、今ちょっと忙しいので後でじっくり読むことにする。双方の代理人の主張がまとめられているので、弁護士が何をどうやったか考えながら読むには面白そうである。
 なお、大学側が、「被控訴人 国訴訟承継人 国立大学法人山形大学」となっている。代表者は学長である。これは、法人化前の提訴だったから、まず国が応訴(法務省に回されて訟務検事が応訴)したが、法人化によって法人格を取得(=訴え、訴えられることができる権利を取得)したので、訴訟承継が行われたということだろう。

(義務承継人の訴訟引受け)
第五十条  訴訟の係属中第三者がその訴訟の目的である義務の全部又は一部を承継したときは、裁判所は、当事者の申立てにより、決定で、その第三者に訴訟を引き受けさせることができる。
2  裁判所は、前項の決定をする場合には、当事者及び第三者を審尋しなければならない。
3  第四十一条第一項及び第三項並びに前二条の規定は、第一項の規定により訴訟を引き受けさせる決定があった場合について準用する。

 法人化で一番変わったところは、訴訟の当事者能力を得たということなのだなあということが実感できる書類だった。母校を訴えたとき、国立大学が訴訟の当事者になれないということを知ったのが一番びっくりしたことだったので……。


ここからは旧ブログのコメントです。


by mnr at 2006-10-15 23:22:15
Re:控訴審判決本文が届いた

これで大学が裁判で訴えられないように
大学が教員をコントロールするなんてことも
これからはありえそうなんですか?


by apj at 2006-10-34 00:24:34
Re:控訴審判決本文が届いた

 普通にやっていても、訴えられる可能性はあるわけです。たとえば、実験中の事故で学生が大けがをした、なんて状況ですね。民事の不法行為責任は過失の場合も問えますから、損害賠償請求ということになるでしょう。こういうのは大学がコントロールするのは無理です(設備の整備などで事故の可能性を減らすことはできてもゼロにはできない)。なので、教員は保険に加入することになってますね。任意だけど、みんな入ってるようです(私も入りました)。


by 柘植 at 2006-10-43 02:10:43
Re:控訴審判決本文が届いた

 こんにちは、apjさん。

 これからする話というのは大学の先生には、なかなか「受け入れがたい」面があります(旧国研の研究者でもなかなか難しいのですから)。

 要は「従業員が業務の中で過失により人に損害を与えた場合、賠償責任は誰が負うか」でして、それは原則として「使用者」になります。つまり大学なら大学法人という法人が負うのが原則です。ここまでは、「ああ、良かった」で済むわけですが、その法的均衡により、「安全衛生に関する法人の指揮命令は非常に強く使用者を拘束する」となるわけです。つまりは、「安全が確保出来ないと判断されるので、その実験は止めなさい」に関しては、他の研究内容に関する干渉とは一線を画した「強い命令」となる訳です。

問題としては「業務命令」の扱いでして、普通の企業体と比較して、使用者の業務命令の範囲が明確でない部分がでます。実のところ、判例に当たるものがまだ無いので、現在の私の解釈ですが、大学の先生が国家プロジェクトであれ、共同研究であれ、「こういう研究をします」と大学に申告して、「よろしい、やりなさい」と承認した段階で、「その研究の詳細な実験も包括的に含む形で業務として命じた」という事になるのだろうと考えている訳です。


by apj at 2006-10-26 02:25:26
Re:控訴審判決本文が届いた

 安全衛生関連については法人化後、当然のことながら非常に厳しく(=民間並みという意味)になりました。たとえば、毒劇物の管理といった部分です。

 それでも、思いがけない過失や事故は発生しうるわけです。賠償責任を負うのは「使用者」ですが、事故の内容によっては、使用者が教員に損害賠償を請求するということもあり得ると考えています。
 なお、こういう研究をします、と前もって報告するプロセスが今のところ大学にはありません。生命倫理に関わるものは倫理委員会を通すことになっていますが、普通の実験では安全衛生関係の委員会が事前審査することはありません。この部分が今後どうなるか、まだよくわかりません。


by 柘植 at 2006-10-40 02:36:40
Re:控訴審判決本文が届いた

こんにちは、apjさん。

>事故の内容によっては、使用者が教員に損害賠償を請求するということもあり得ると考えています。

私が心配している部分の一つなんですね。もともと各研究室として独立性が強いのは、大学も旧国研も変わらない訳です。一般に大きな事故というのは、その前段階に類似の小事故(インシデント)やヒヤリハットがあるわけでして、それらの報告を安全衛生委員会などにきちんと報告しておくと、「担当者が予見出来なかった責任」はずいぶん軽くなり、「組織体として予見できなかった責任」が大学側に大きく架せられて、個々の教員を守れる訳です。つまり、軽微事故報告などというのは、将来の大事故の責任を大学側に押し付けるための「ババ抜きのババ」の役割をするわけです。ところが現実は、研究室内で処理したがる訳です。

安全衛生委員会に労働組合側委員として出ていると、そう言うことも考える訳ですよ(笑)。


by 越後屋遼 at 2006-10-25 19:07:25
Re:控訴審判決本文が届いた

>安全衛生委員会に労働組合側委員として出ていると、

あ、奇遇ですね(笑)