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組合の問題なのか?

Posted on 10月 26th, 2006 in 未分類 by apj

半世紀も道徳教育を無視し続けた山梨県教組」あたりへのコメント。他にも教育再生を扱ったエントリがある。
 基本的な論調は日教組を叩くというもので、キーワードは公教育における規範意識だとか「まっとうさ」だという。それはわからないでもないが、日教組に文句を言ってつぶせば教育が再生するかというと、どうもそういう問題ではないのではないか。
 上記のサイトでは道徳教育について、組合が道徳教育を無視したという論調で批判しているのだが、見当外れにの批判に見える。というのは、現実には、道徳教育を熱心にやった結果、広まったのが「水からの伝言」だったりするからだ。水に「ありがとう」というときれいな結晶になるから、人にも「ありがとう」と言おう、というロジックによる道徳の教育は、全国で行われた。これをやっているのは、思想的理由で道徳教育を拒否した教師ではなく、むしろ道徳教育に熱心で、自発的に教材研究を行い、自分の授業に工夫をこらす先生達だろう。実際、水伝道徳の実践は、授業参観や研究授業でも行われており、教員の「自信作」だったりする。この授業を広めたのはTOSSという教育ポータルの団体だが、ネットに実践例を公開することで、より効果的に広まったと思われる。
 他にも、いじめをなくそうという授業で根拠もない「ヘビの脳」が持ち出されたり、「脳からよい物質が出るからいじめをしない」といったものがある。
 思想的な背景によって道徳教育を無視するのはけしからん、と主張している人達はたくさんいるらしい。しかし、その認識は古いか、「思想的背景によって望ましい姿を考えているのだから、それにそぐわない現状なのは別の思想を持った人が何かやってるからだ」という幻想を抱いているか、どちらかのように思える。現実には、「思想的な背景も哲学も皆無、かつ間違った自然科学によって安易に道徳を根拠づける授業」が後を絶たない。そうすることが創意工夫であり、しっかり道徳を教えることだと教える側は思いこんでいるらしい。この状態では、仮に日教組がつぶれたとしても、道徳がまともに教えられるようになるとは思えない。思想的理由で道徳教育を拒否し、そのことを語れるのなら、多分それはまだましな方だろう。現実には道徳とは何かというこを、そもそも認識すらできない状態が出てきているわけで、こっちの方が実は深刻な問題ではないかと思う。
 
 今日の別のエントリでも書いたが、高校の履修単位偽装問題が話題になっている。やってない授業をやったことにし、成績証明書に虚偽記載をした学校が続出している。受験対策だの生徒の要望だのと、教育問題*だけ*しか無いかのような報道のされかたをしているが、実際に行われたことは文書偽造・同行使、刑法に抵触する行為で、場合によっては懲役刑もあり得る、明白な犯罪である。生徒に規範を教えるはずの教師が、「自分がやっていることが刑法にひっかかるかもしれない」ということを考えもせずに学校ぐるみで偽造をやっていたことになる。学校がこんな状態で、「道徳教育」ができるとは思えない。「規範意識」「まっとうさ」というのは、社会とのつながりをきちんと考えることで出てくるものである。文書が信用できなくなると、社会活動に支障をきたすわけで、それ故、文書の公共的信用性が保護すべき法益だということになっている。このことをまったく想像もしないか、軽んじる人達が教師をやっているのだとすると、規範意識やまっとうさを筋道立てて教えるのは無理なんじゃないか。(それでも根拠づけようとすると、また、安易なニセ科学をくっつけかねない)
 一方、日教組は政策提言からわかるように、昔から「競争で学力は伸びない」「学校間格差解消」と主張している。このことの自体の是非はともかく、この考え方からは「受験で有利になるためには指導要領も無視する、そのためには文書偽造もいとわない」は出てこないだろう。そんなのは、彼等は思想的に受け入れられないはずだ。

 私は日教組を支持するものではないが、日教組を叩いても問題は解決しないだろうと予想している。どうにかしなければならない相手は、「日教組の思想」ではなくて、「安易にオカルトに頼る非合理な精神」「社会の成り立ちに立ち戻って物を考えようとしない姿勢」だと思うからである。

高校の必修科目履修漏れ問題

Posted on 10月 26th, 2006 in 未分類 by apj

 Yahooでの特集ページ。受験対策のために確信的にやった、成績証明書にも虚偽の記載をしていたということだが、やった人達は、刑事責任を問われる可能性があることをわかっているのだろうか。現三年生をどう卒業させるかという対応で手一杯なのはわかるが、校長の出しているおわびや説明は、報道されたものを見る限り、したことが犯罪であると自覚しているように見えないのだが……。

(公文書偽造等)
第百五十五条  行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
2  公務所又は公務員が押印し又は署名した文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
3  前二項に規定するもののほか、公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は公務所若しくは公務員が作成した文書若しくは図画を変造した者は、三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。

(虚偽公文書作成等)
第百五十六条  公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造したときは、印章又は署名の有無により区別して、前二条の例による。

(偽造公文書行使等)
第百五十八条  第百五十四条から前条までの文書若しくは図画を行使し、又は前条第一項の電磁的記録を公正証書の原本としての用に供した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は不実の記載若しくは記録をさせた者と同一の刑に処する。
2  前項の罪の未遂は、罰する。

 公文書偽造虚偽公文書作成・同行使、刑法に抵触する行為である。
なお、偽造した卒業証書を生徒の父に満足させる目的で提示する行為が偽造公文書行使罪に該当するという判例もある(最判昭42.3.30)。でもって、公訴時効は刑事訴訟法によると

第二百五十条  時効は、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
一  死刑に当たる罪については二十五年
二  無期の懲役又は禁錮に当たる罪については十五年
三  長期十五年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については十年
四  長期十五年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については七年
五  長期十年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については五年
六  長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については三年
七  拘留又は科料に当たる罪については一年

第二百五十一条  二以上の主刑を併科し、又は二以上の主刑中その一を科すべき罪については、その重い刑に従つて、前条の規定を適用する。

第二百五十三条  時効は、犯罪行為が終つた時から進行する。
○2  共犯の場合には、最終の行為が終つた時から、すべての共犯に対して時効の期間を起算する。

 数年前からやっていたらしいが、組織ぐるみ共犯ということになると、まだ時効にはなっていない。今回の対応が、もし行政的な処分だけで終わるとしたらやはりおかしい。刑事手続きによる処理を進めるべきではないか。