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取材があって驚く

Posted on 4月 18th, 2007 in 未分類 by apj

 飛騨の中の人を訴えている件で、口頭弁論も始まってないのに、地元の新聞記者から電話取材があって驚いた。裁判所を定点観測していて気付いたらしい。私としては、法律的には何の目新しさもないきわめてありふれた名誉毀損訴訟のつもりでいたので、話題性は皆無だと考えていた。記者さんの話だと、山形地裁の損害賠償請求訴訟は年に二十件ほどあるが名誉毀損はかなり珍しいということだった。
 以前から書いているように、法的紛争は近代社会における個人の自立の証であるというのが私の考えである。つまり、紛争は普段の生活の延長線上にあるべきだと思っているので、芸能人や政治家でもない一般人同士の法的紛争が、地方限定とはいえマスコミのネタになるというのは、かなり違和感を持ってしまう。まして、先日、判決が確定した環境ホルモン濫訴事件で、原告が行きすぎたプレスリリースを出した(かなり見苦しい振る舞いを)見ているわけで……。
 でもまあ、ネットがらみの名誉毀損が珍しい、山形にはそんなに事件がない、ということを言っておられたので、もし記事にするなら、「ネットは怖い」という煽りはやめてほしい、「とんでもない人に関わった」という被告攻撃系の内容もやめてほしいと伝えた。その上で、
・ネットが社会に入って来たが、未だ過渡期で、昔なら法的紛争にならなかったものが紛争になるケースが出てきている。
・今回のも、限られた地方の中だけでの出来事だったならば、裁判所にまで話が行かなかったかもしれない。実際、被告との面識は全くない。
・個人と公人の区別、私信とは何かという区切りについてなかなか合意がとれず、トラブルの原因になっている。
・情報発信は、法的紛争まで含めて考えるべき時期にきている。
・「水商売ウォッチング」のような、理由無しに内容変更や削除ができない、脅したりごねたりする相手の言いなりになったが最後成立し得ないコンテンツを作っている場合には、特に紛争まで視野に入れる必要がある。
・名誉毀損訴訟の立証責任の配分は、「公然と」名誉毀損できるのが例えばマスコミなどの力のある団体、名誉毀損される側が政治家など、というパターンが続いた時代から変わっていない。個人対個人の名誉毀損が技術的に可能な時代になったのだから、少し変わる方がいいのかもしれないが、まだその動きは法曹にはない。
・プロバイダ責任制限法の考え方からすると、実際に情報を公開している人間が特定できたら直接当事者で解決すべきところ、今回は事実上「発信者情報開示済み」であるにも関わらず、大学(=お茶の水大)に対して削除要求が送られ続けた。大学を紛争から切り離すためには、民事の時効が来る前に私の方から提訴して、まずは相手の責任をはっきりさせる以外に方法が無かったという面がある。
・コミュニケーションのあり方について、従来は声が大きかったり単にしつこかったりする人の主張が通るという文化(?)があったが、ネットになってそれが変わった。紛争の原因として、一種の文化摩擦が(わりと広く)存在するのではないか。
 こんなことを話してみた。
 記事にするとき私の名前を匿名にしようかと言われたが断った。既にさんざん実名でネットで話題になったもめ事の、いわば最終処理なわけで、今更私の名前を匿名にしたって何の意味もない。紛争自体にニュースとしての価値があるとはとても思えないが、ネットの普及によって違う文化が共存せざるを得ない状態になったという視点から記事にしてもらえるのであれば、ネットとどう付き合っていくかという理解が深まるだろうとは思う。今更ネットのない時代に逆戻りはできない。記事にするかしないかも含め、あとは記者さんの判断にお任せするしかないですね。


ここからは旧ブログのコメントです。


by Kaz at 2007-04-56 18:03:56
Re:取材があって驚く

はじめまして,時々読ませてもらっています。

以下の一文,ちょっと気になったので書き込みします。

>記事にするかしないかも含め、あとは記者さんの判断にお任せするしかないですね。

研究について取材された結果,記事を書く側に悪意は無かったかもしれないが,読者をひきつけるために,いわゆるデスクという人が,興味をひくような見出しをつけた,ということで不快な思いをしたことがあります。
本質でない部分でやられても不快に思いましたし,記事に関しては,当時FAXでやりとりして校正し,慎重なつもりだったのですが,,。2次災害にならないように,,。


by apj at 2007-04-35 19:38:35
Re:取材があって驚く

Kazさん、
 ご指摘ありがとうございます。
メディアの取材姿勢については、cnet.japanで、佐々木俊尚さんが興味深い一連の記事を書いておられます。
http://blog.japan.cnet.com/sasaki/
 簡単に言うと、取材する側とされる側の関係が変わりつつあるということです。いろんなところで手探りが続いているのが現状ではないかと。
 記者さんの判断に(記事については)任せるとしても、私の方もネット上できちんと議論し、考えていこうと思っているので、大きく外れたことを書けば、見識を問われるのはメディアの側です。逆に、私が考えているのと違う切り口でうまく整理した記事が出れば、理解が深まると思います。この意味では、私と記者さんの勝負(?)ですねぇ。立ち位置は当然異なりますが。


by hrgy at 2007-04-51 00:41:51
Re:取材があって驚く

http://www.yamagata-np.jp/
で,山形新聞に出たりした暁には,
ここで読めたりするのかな...


by nomad at 2007-04-02 01:18:02
Re:取材があって驚く

御崎の兄。さんとマイミクになりました。
マタミクつながりという程度であまり彼のことは知らなかったのですが、ちょっとぐぐってみたら、僕が「ギネアアブラヤシ教団」に入信するきっかけになった花オフの件や、そこから巡り巡ってapjさんの件に行き着くことを知りました。
うはシンクロニシティ巡る因果は糸車でございます。


by apj at 2007-04-46 10:50:46
Re:取材があって驚く

nomadさん、
 何だか、小数の「とんでもない迷惑をまわりに振りまく人達」が居て、それを介してつながりができているような気がして何かアレなんですが。

>2次災害にならないように
 既に微妙に二次災害発生中かも。
 どうも、記者さんが相手(被告)にも取材をかけた模様です。被告はびっくりしたんじゃないかなぁ。
 私はこの件については、自分トコのサイトで取り上げる予定はあっても、環境ホルモン濫訴事件のように周りの関心を意識的に集める必要のあるものだとは思ってないし、従来のメディアがニュースとして取り上げる種類のものでもないと思っています。
 だからといって、新聞社の記者さんに向かって「記事を書くな」と言うと、それはそれで言論と表現の自由やら、知る権利やらを妨げることになって、別の問題が発生する。第一、そんなことを言ってみたところで、ジャーナリストというものは記事にするときは自分の判断で記事にするものですから意味がない。見つかっちゃったもんはまあしょうがない、と思うしかない。


by 酔うぞ at 2007-04-25 06:01:25
Re:取材があって驚く

随分とまぁ一生懸命な記者さんですな、それほどのニュースバリューがあるとは思えないのが、スレている証拠でしょうか?(^_^;)


by のりたま at 2007-04-57 20:30:57
Re:取材があって驚く

新聞記者はちゃんと相手を探し出したわけですか、うーむ蛇の道はヘビですね


by apj at 2007-04-34 20:49:34
Re:取材があって驚く

のりたまさん、
>新聞記者はちゃんと相手を探し出したわけですか、うーむ蛇の道はヘビですね

 訴状には相手の本名と住所が書いてあります。訴状は裁判所に行けば誰でも見ることだできます(裁判の内容は一部を除いて公開が原則のため)。記者さんがやったのは、住所から電話番号を割り出すという作業ではないかと。


by apj at 2007-04-40 02:14:40
Re:取材があって驚く

酔うぞさん、

>それほどのニュースバリューがあるとは思えないのが、スレている証拠でしょうか?(^_^;)

 いや、私もニュースバリューがあるとは思えないんですけど、よくよく考えてみたら、「読者(=山形の住人)がスレてない」という可能性があることに気付きました。山形は地方都市ってかぶっちゃけ田舎、農村が多いです。ってことは、顔見知りとか隣組とか、まあとにかく広い意味での人のつながり、コミュニティがちゃんとあるということなんじゃないかと(他所者の私が気付いてないだけで)。そういうところでは、たとえ罵り合いが発生したとしても、仲裁する人もなだめるひともいるし、まわりでそれを聞いてる人もうすうす事情をしっている、なんてことになるわけで、なかなか提訴ということにはならないでしょう。
 コミュニティが存在しなくなっている都市部や、地方都市在住同志でもともと全く違うコミュニティに所属している者同士の争いになると、人による調整が働かないから、法でもって解決するしかなくなるわけです。