さぼるなゴルァ、の残りの半分
一昨日は、「さぼるなゴルァ!」モードで、数IIICを履修させろと書いたが、今日はその残りの半分について、私の経験も交えて書いてみる。結論はやっぱり数IIICをやってほしい、ということなんだけど。
私が高校の時、普通科高校の数学は、数学I・線形代数・基礎解析・微分積分・確率統計の5分割になっていた。大体この順番で高校1年から履修することになっていた。地方の進学校だしまわりに予備校もないし、大先輩にあたる担任の先生は一浪した時もう一年高校に居候させてもらって受験勉強して大学に行ったと、まあそういうのどかな状況だった。
私は、高1、高2の大部分の間、数学が苦手だった。特に数Iのあたりは、教科書を読んでも何がしたいのかがわからなかった。線形代数は絵が描けるからわかりやすかったのだが、他のものについては、問題集を解いていても「思いつかないと解けない」という印象を持っており、「思いつくことの訓練」をどうしたらいいのかわからなかった。理系に行こうとは思っていたが、数学の点数については、赤点にはならなかったものの低迷していた。特に入試問題が出ている参考書を見ても、やっぱりその場のひらめき頼りで、つながりがわからなかった。
ところが、あるとき何かの本で、高校数学の大部分は受験数学に毒されてパズル化しているが、微積分はパズル化しておらず、話の進み方が数学の王道に近い、といったことを読んだ。それで、パズルでないなら私にもできるかもしれない、と思って、そこまで授業が進むのを待っていた。正直、微積分でなじめなかったら理系に行くのはやめようと思っていた。物理はというと、公式の暗記ばっかりで、やっぱりつながりが判らず、暗記物が嫌いなために成績は低迷していた。
2年の3学期になって、基礎解析の最後の方に微積分が出てきた。先生の説明をきいて、頭の中でイメージが作れて納得できたのは、微分の授業が最初だった。できることなら数Iの前にこっちをやりたかったと思った。
定期テストの結果はというと、高校に入って以来、初めて満点近かった。これに気をよくして、積分の方も取り組んだから、その次のテストの点数もよかった。3年生になって微分積分の教科書に進んだあたりで、自分で微分積分の本(not受験参考書)を買ってきて読んだりもしてみた。物理の方も低迷していたが、微積分を使えば公式の暗記をしなくても解けるし、難問といわれている問題のいくつかも簡単に解けることがわかった。大学入試は、あてずっぽう以外の方法で正解にたどり着けば点がもらえると踏んで、可能な限り微積を使って物理の問題を解くようになった。このおかげで、理系振り分け直後に赤点喰らった物理が、3年2学期には定期テストも模試もほぼ満点ということになった。
もし、高校の数学が選択制で「微積分はやらんでいいよ」という指導をされていたら、私の数学苦手意識は払拭されることは決してなかった。物理で点がとれるようになることもなかった。私は理系の進学をあきらめただろうし、もしあきらめなかったとしてもそもそも理学部物理学科なんかには受からなかっただろう。
数学が苦手で困っていた私は、微積でやっと救われた。というか、微積のおかげでその後の人生まで変わった気がする。不思議なことに、微積で数学苦手意識が払拭されると、何となくいろんなものが見え始めて、これまでそんなに点がとれていなかった項目でもそれなりに解けるようになったりした。多分、「微積はやらんでいいから苦手なところをもっと受験に向けてトレーニングしろ」とやっていたら、苦痛ばっかり大きくて、効果が上がらなかったに違いない。
#かといって、数学科の公理論に馴染むほどではなかったので、物理を選んで正解だったのだけれど。
今、高校で数学が苦手だという人のうち、私と同じ理由で数学に苦手意識を持っている人がいるんじゃないかと思う。だとしたら、微積分のストレートな展開に触れれば、数学苦手から救われるかもしれない。選択制で数IIIをやらないことにしてしまったら、そういう人達が救われる機会を奪ってしまっていることになる。これは、実は相当罪深いことなのではないか。
予備校なら試験対策以外のことはしない、でもかまわないのだが、高校は、いろんなものに触れて、何ができるかを確認できるチャンスを増やす方向でやってほしいと思う。「苦手だった、もう二度と見たくない」と思って卒業するのと「私にもこれができる」と思って卒業するのとでは、やっぱり後の方が気分がいい。
ここからは旧ブログのコメントです。
by Toshi at 2007-04-39 18:46:39
Re:さぼるなゴルァ、の残りの半分
意外といいますか、何と申しますか・・・・・・
実は私もほとんど同じ様な状況でした。私の時は数1、数2B、数3という区切りだったかな?で、数1の頃は結構絶望的な状況だったのですが、極限から微分に入るあたりで「何がしたいのか」がイメージできるようになり、結果として一気に成績が上がりました。apjさん同様(レベルは別として)曲がりなりにも理系の端っこで飯が食えているかなり大きな原因になっています。
で、そんなことを考えていて思い出したのですが、当時微積分は好きな人間、苦手な人間、かなり両極端に分かれておりまして、その後技術系を職業に選んだ(あるいはしがみついた)人間は、ほとんど例外なく「好き」組でしたね。改めて思い出し直して驚いてます。
by お代官 at 2007-04-51 19:45:51
Re:さぼるなゴルァ、の残りの半分
先日、現役の大学生(関西の有名旧1期校の文学部2年)の子と喋っていたのですが、軽音楽部に所属しているので、PAの話になったのですが、dBの意味が通じないのです。
話を聞くと、高校時代に対数を習っていないと言うのです。これば履修云々の問題では無く、文部省の問題かもしれませんが、理系文系に限らず、対数の考えを知らずに、物事を数値化するような学問が学べるはずが無いと思うのですが。
まあ、私の回りの「理系出身者」でも、2から9までの常用対数を、小数点2桁まで四則演算だけで計算しろ、って言っても、9割以上できない所を見ると、習ったからといって、身についているわけではなさそうですが。
ちなみにに「1Bは1dBの10倍だから11dB?」ってギャグはfjでも数人にしか通じませんでした。
by hrgy at 2007-04-14 20:11:14
Re:さぼるなゴルァ、の残りの半分
わたし自身は,受験で,私大は数学科も受けたけど,
行かないで良かったと,国立大学入学後思いました.
高校の数学は,計算技術の練習が中心だったんだ
なと...
by hrgy at 2007-04-10 20:34:10
Re:さぼるなゴルァ、の残りの半分
雑誌「大学への数学」の学力コンテスト,通称学コン.
こんなん,大学の数学を学べば楽々解けてしまう題材
を高校の数学の範囲内で解かせるから,むちゃ難問
となるらしい.で,満点近く取る者が毎回居て,そうい
う人の中から,後々数学者として成功した者もいます.
以上,数ヶ月前か,朝日新聞の夕刊にあった連載の
受け売りでした.
by apj at 2007-04-00 21:47:00
Re:さぼるなゴルァ、の残りの半分
>満点近く取る者が毎回居て
きっとそういう人は、とてもセンスが良くて、高校数学の内容を見て大学数学の構造がわかっちゃうような人なんでしょうね。あるいは、マニアックに先取りして数学の本筋を自分でやってる人だったりとか。
私は凡人だったから、微積でやっと風景が見えたけど、数学プロパーになる力は持っていませんでした。
by B-51 at 2007-04-19 22:38:19
Re:さぼるなゴルァ、の残りの半分
ちょっと漠然とした話になってしまって申し訳ないのですが。
数学がその後物理等をやる上での基礎になることは疑いようの無い事実なんですが、それでもその時点では「目的」が見えなくて理解しにくい、やる気が出ないというのは大きいと思います。
スポーツに例えると、「中学の間は基礎練習のみで、試合は高校に行ってからね」ってのと同じような感じではないかと。
これではやる気が出ないし、理解が進まないのも無理は無いと思うんですよね。
まあ、安直にスポーツと結びつけるのはどうかとは思いますが、まずは試合をさせてコテンパンに負けさせる。
その後、勝つためにはって理論で基礎練習をやってゆく方が確実にやる気にもなるし、身にもつくでしょう。
同じように、中学なり高校なりでも、「将来のための数学」ではなく「こういった事象を理解するための数学」って方向で進めるべきではないのでしょうかね。
小学校の算数は、比較的このような形になっていると思いますので、その延長でやった方が良いと思うんですよね。
by hrgy at 2007-04-58 01:36:58
Re:さぼるなゴルァ、の残りの半分
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=415174129&owner_id=528924&comment_count=8
私のマイミクさん,apj さんのブログのファンなのですが,
なぜかコメントは自分のミク日記ばかりに...
自分の公立小・中・高校って,算数・数学の教師ではかな
りめぐまれていたんですね.中学では「おまえ暇そうにして
いるから,3平方の定理の証明を英語で読んでみないか?」
読みましたとも...論理は追えましたが,英語の数学用語
なんか,使わないから,片っ端から忘れていく...
算数でも教師にめぐまれたか,現在数学者をしている知人
もいます.小学校でのニックネームは,「算数の神様」.w
(本人は見ていないよね...ここ)
by ドラゴン at 2007-04-58 04:06:58
Re:さぼるなゴルァ、の残りの半分
こういう問題は、理想論と現実論が入り交じるので、よけい難しく感じます。算数・数学教育の立場から理想を言えば、当然全部履修してほしいです。でもそうもいかない現実もあるようです。
日本数学教育学会は、中央教育審議会に時数増加の要望を出しましたが、他の教科の方々からは、教科のエゴだとの批判もあります。どの教科も自分のところを充実させたい気持ちはあるのです。
その要望書の7~8ページにこうあります。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(2)科目編成に関わる事項
生徒の多様性に対応するという観点から,コア・オプション方式を継続する。
コアとなる科目は,微分・積分を最終目標とし,そのための基礎・基本となる項目で構成する。ただし,数学は必履修科目とし,ここで学習を終える生徒もいることに配慮して,中学との接続を考えて構成する。 7
オプションとなる科目は,コアとなる科目以外の幾何,離散数学,統計などの領域の項目で構成する。各科目とも,3~4項目とし,生徒の多様化に対応できるように構成する。
数学基礎は,科目の理念を活かすために,その内容を数学の中に組み込む。
http://www.sme.or.jp/pdf/060415.pdf
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
賛否は、いろいろあるでしょうが、微積分を最終目標として内容を再構成するようにしたいみたいです。
24日に実施された学力テストでもキーワードが「知識」と「活用する力」でした。算数・数学も使えなければいけないという雰囲気になっています。
by apj at 2007-04-29 05:31:29
Re:さぼるなゴルァ、の残りの半分
>当時微積分は好きな人間、苦手な人間、かなり両極端に分かれておりまして、その後技術系を職業に選んだ(あるいはしがみついた)人間は、ほとんど例外なく「好き」組
昔も今も変わらないのかもしれません。
微積分が何であるか全く知らない年頃(笑)に読んだ小説やエッセーで、旧制高校の話が出てきて、(戦前の)学生が微積分に苦労しまくっているというネタを目にしたことが。でも、そういう小説やエッセーを書いた人は当然その後文系にいくわけで、技術者にはなりませんから、わからん組に属するのはある意味当たり前かも、と今にして思いました。
by apj at 2007-04-55 05:48:55
Re:さぼるなゴルァ、の残りの半分
ドラゴンさん、
個人的意見、というかもし今から高校数学をやるならこんな内容で、というのを描いてみます。
まず、中学の平面幾何を全部削って、座標とベクトルを先に導入し、数式で図形を記述する、ということをやった方が良さそうです。ユークリッドは古典ですが、それにこだわる必要はもはや無い。
三元連立方程式は、線形代数の逆行列を使って解くことにし、行列のところに組み込む。高次の項が出てくる三元連立は手間の問題だけなので紹介程度にとどめる。
平面ベクトルと空間ベクトルを分けるのは無駄。最初から3次元でやればいい。
数値計算は不要。簡単なものなら、必要になったときに学べばよい。
ツールとしての数学にこだわるなら、集合論も不要。高校の集合のネタで本来の集合論を悟れというのは無理だし、ある程度突っ込まないと集合論はわからない。
媒介変数表示は図形でやる。曲線の長さはどうでもいい。
うーん……。
by 杉山真大 at 2007-04-18 06:34:18
Re:さぼるなゴルァ、の残りの半分
あ、自分も似た経験がありますね。もっとも自分の場合、微積分ではなくて確率・統計を勉強したら結構解り易かったんで、以後確率・統計に没頭。センター試験でも確率の問題を選択しました。
#もっとも、その動機と言うのも一橋大(何と身の程知らずな・・・)の入試に確率・統計が必修だったからなのですが。でも文系コースでは履修できなかったので殆ど自学自習でした
by miya.h at 2007-04-20 07:04:20
Re:さぼるなゴルァ、の残りの半分
高校の教員といえども(逆にだからこそ、かも知れませんが)自分の体験を越えることは難しいらしく、同僚と「あるべき教育課程」の話をすると、あら不思議、自分の体験したパターンに戻ってしまいます。
私などは、微積へ向かって「美しく」体系づけられた、数学I、数学IIB、数学IIIの時代を(実は、昭和50年代の教育課程って、内容が多すぎてかなり評判悪いらしいですが)どうしても理想化しがちです。
どうも、ドラゴンさんが引用された答申に、あの時代の息吹を感じて、個人的にはうれしいですが、何でアレをやめたのかもう一度思い出してからの方がよいような気もします。
通称「現地調達主義」といわれたその後の教育課程へ変化(apjさんの体験したものの、その次です)の理由って何だったんでしょうね。
関係ない話ですが、代数・幾何という教科書を見て「これ、本当にやるの」とびっくりして、中黒を見落としたことに気づいた遠い日を思い出しました。
by hrgy at 2007-04-14 07:58:14
Re:さぼるなゴルァ、の残りの半分
> 昭和50年代の教育課程って、内容が多すぎてかなり評判悪いらしい
だって,そのころ導入された共通一次にて,数学だけで
200点満点の配点があった位に「」が過密でしたもの.
学校の進度が「B」に入ったら,かなり時間的に余裕の
ある授業になった覚えもあります.
その後の指導要領からは,高校2年までで習うのが標準
の内容で,共通一次やセンター試験で200点満点分を課
す方式に変わっています.
by ドラゴン at 2007-04-03 22:01:03
Re:さぼるなゴルァ、の残りの半分
apjさん
おもしろい考えだと思います。
物理学者養成コースでしょうか。
ただ、現実としては難しいですね。数学が苦手な子どももいます。時間数の問題もありますし、数学がツールだけというのに抵抗がある人もいます。数学はロマンだとか。
>集合論も不要。高校の集合のネタで本来の集合論を悟れというのは無理だし、ある程度突っ込まないと集合論はわからない。
これには、激しく同意します。今のままでは、どこまで理解されているか疑問です。
アメリカは、日本の指導要領に該当するものがないんで、NCTMという学会でスタンダードを作っています。
コアオプションが実現され、多様な選択ができるようになるならば、文系おすすめ経済学標準コースとか、化学必須コースとか、個人や学会で色々なパターンが提案されると面白いかなとも思います。
そういうことを通して、生徒が何で数学を学習するのか、決して受験ではないところに気づいてもらえると、それだけでも大きな意味があるように思います。
by うっま~ at 2007-04-30 00:38:30
Re:さぼるなゴルァ、の残りの半分
最近の数学科修士の院試問題を眺めてみたけど、
解けないんだよね。
数学の試験って大衆化すると、理論的に簡易化し、
パズル的に高度化するのかも。
院試の出題範囲にカリキュラムの制約も何もない
訳で。
by かち at 2007-04-06 10:19:06
Re:さぼるなゴルァ、の残りの半分
公立高校の「文系」コースでしたが数IIICまで必修でした・・・
物理化学生物地学も全部やらされて大変でしたけど結果的には視野が広がってとても為になったと思っています。
弟、妹と年代が降って行くに従ってどんどん数学の必修内容が削られて行きましたが、正直勿体無い事をしているなあって思います。どんな分野に進むにしても論理的思考は絶対に必要ですからね。
by フェイズ at 2007-04-18 17:13:18
Re:さぼるなゴルァ、の残りの半分
私も数では赤点とったりしましたが、数2Bで行列が出たあたりで面白くなり、数学の実力テストで学年一になったりして、物理学科に行きました。
でも3年物理の放物線試験問題で、先生がグラフを直線で描いて○つけて、クラスの半分以上がそれで点とってました(笑)。私はここがキモだと思って抗議しましたが「それでもいいんだ」という返事で、こういう教師の下からは物理学者は出ないだろうなあ。ロマンを踏みつぶしやがって。
あの先生、物理の教師やってなかったんですね。
by (ぱ) at 2007-05-55 10:00:55
Re:さぼるなゴルァ、の残りの半分
>ツールとしての数学にこだわるなら、集合論も不要。高校の集合のネタで本来の集合論を悟れというのは無理だし、ある程度突っ込まないと集合論はわからない。
私は文系の人間なので高校までの集合しか知らないわけですが、仕事をする上で普通に役に立ってますけど。ベン図も知らないようではいろいろ困ります。条件式をひっくりかえすのにド・モルガンの法則を使ったりもしますし。
by apj at 2007-05-14 11:29:14
Re:さぼるなゴルァ、の残りの半分
(ぱ)さん、
>私は文系の人間なので高校までの集合しか知らないわけですが、仕事をする上で普通に役に立ってますけど。
今だと、「情報」を教えることになっていますから、数学ではなく情報に入れるという手もありそうですね。