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博士課程の定員減少

Posted on 5月 26th, 2007 in 倉庫 by apj

 酔うぞさんにも紹介していただいたが、メモしておいたほうが良いので、ここに書いておく。asahi.comの記事より

就職難で「博士離れ」か 博士課程の定員、初めて減少
2007年05月26日10時25分

 国立大学の博士課程の入学定員が今年度、初めて減った。政府は「科学技術創造立国」を掲げて博士の数を増やしてきたが、就職難から学生の「博士離れ」が始まり、一部の大学が定員の削減に踏み切ったためだ。関係者からは「現状を放置すれば優秀な人材が集まらなくなり、日本の国際競争力が低下しかねない」と心配する声も出ている。

 文部科学省によると、国立大大学院博士課程の07年度の定員は1万4282人で前年度より118人の減。定員を減らしたのは秋田大(26人)、九州大(20人)、神戸大と千葉大(各18人)など。減少は56年以来だが、このときは戦後の学制改革の影響だったため、実質的には初めてという。

 政府は91年度から大学院生の倍増計画を進めてきた。国立大博士課程の定員は91年度の7589人から右肩上がりで増え続け、ほぼ倍増。一方で、博士の受け皿となる大学や公的研究機関の研究職の数は増えず、06年3月に博士課程を修了した人の就職率(企業なども含む)は6割程度にとどまった。

 学生の「博士離れ」は既に始まっており、大学院博士課程への入学者数は03年度をピークに減少に転じている。とくに理工系では、優秀な人材が修士課程までで企業などに就職する傾向が強まっているという。

 文科省で科学技術・学術政策局長を務めた有本建男・科学技術振興機構社会技術研究開発センター長は「このままでは優秀な人材が博士課程に入ってこなくなり、国際競争力も下がってしまう。博士の就職難対策に政府と大学、企業がともに本気で取り組む必要がある」と話している。

 国際競争力のために個人に向かって「犠牲になれ」と国が言う(あるいはそういう制度を作る)のは間違っている。科学技術のどれかの分野が好きで好きで、結果として生活を犠牲にする個人が出てきてしまう、ということはあるかもしれないし、あってもしかたがないが……。
 もともと、大学院進学、特に博士課程進学は、個人にとっては経済的に見合わない行為ではなかったか。
 同じ大学の同じ学科を出た人で給料を比べた場合、学部で卒業すると即給料がもらえて、会社でキャリアを積むと、多少は上がっていく。博士前期課程(修士)まで進むと、同級生が2年間給料をもらっている間の収入は無い。修了して会社に入った後の収入が、学部で就職した人と比較して、一定期間後に遅れを取り戻せれば、個人にとって「学歴で損はしなかった」ことになる。修士卒の給料を高めに設定している会社は多いので、修士までなら、個人にとって「遅れた分を取り戻せる」のではないか。それでも「取り戻せる」だけで、どれだけ「利益を得る」ことが出来るかは疑問である。ただ、会社によっては修士の場合は選択肢が広がったり、まるきり予想できない部門にまわされる確率が減ったりするから、その意味では個人にとってメリットがあるだろう。
 これが博士になると、さらに3年社会に出るのが遅れる上に、出た後の就職先の選択肢が少なくなる。同級生がさらに3年給料をもらってキャリアを積んでいる時、収入は(限られた人を除いて)ない。大学院5年間で自分に投資した金額、つまり授業料等と、就職していたらその間得られたであろう収入を、修了してから取り戻せるかということが問題になる。この場合の指標としては、生涯賃金の額が最も適切だと思うが、これが「博士卒が十分高い」状態になっていなければ、普通の人なら「進学は損」と思うのが当たり前である。もともと小数の学問オタク、学問マニアが存在し、「損をしたって生活が不安定になったってやりたいことをやる」という生き方を選んでいた。そういう人がこれまでは大学に残ったりしていたのだけど、世間から見れば例外だろう。
 制度として「博士を増やす」ことにしたということは、マニアックな個人の行動に頼るのは止めてシステマティックに人材養成をすることにしたということだろう。そうすると、博士課程に進むかどうかの判断基準の方だって世間並みになるのが必然で、収入面でメリットが無ければ普通の人には全くアピールしないのは当たり前である。
 また、本当に企業に人材を送り込みたかったのなら、ポスドクを増やしたのがそもそもの間違いではないか。博士卒でも、受け皿が一番多いのは、フレッシュマンとして就職する場合である。ポスドクをやってからの就職になると中途採用扱いだから、会社の業務とマッチしないと優秀でも採用してもらえなくなる。ポスドクを増やしたために、企業への人材供給を狙って定員を増やしたのに、出てきた人がポスドクに止まることになって、さらに就職難を推し進める結果になったのではないか。