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前期の講義でどう答えるか迷った質問

Posted on 8月 23rd, 2007 in 未分類 by apj

 前期、「科学とニセ科学について考える」という共通教育の講義をしたのだけど、その時にどう答えたらいいか、ちょっと迷った質問がこれ。
「温泉はニセ科学ですか」
 温泉に行くと、リウマチに効果があるとか何とかちょこっと書いて貼ってあるアレがニセ科学と呼べるか?という質問である。
 もし、瓶に入れた怪しい液体にそれらしい名前を付けて効能書きを添付して売ったら、まず確実に薬事法に触れる。また、温泉の効能書きについて、どれだけ厳密な臨床試験がなされているかは疑問である。字面だけ見ると、根拠出せやゴルァ!となるが、しかし実感としては、通常の温泉の効能書きがニセ科学には見えない。よっぽど極端に科学的根拠を主張して、かつそれがインチキなら別だろうが……。

 普段使っている「ニセ科学」の定義は「科学を装うが科学でない」というものである。温泉について考えるなら、まず、温泉の効能書きのあり方が「科学を装う」にあてはまるかどうかを考えないといけない。すると、確かに、病気に対する効果や飲み方が書いてあるが、臨床試験をしているとは思えないものが多数である。
 ところで、温泉とは、ずっと昔から病気に対する効果が書いてあるものであった。その効果が言われ始めたのは、おそらく、医学が今ほど発達しておらず、医者に気軽にかかってよく効く薬をのむこともできない、体を使う作業の多かった時代からであろう。そのような時代では、数日仕事を休んで湯に浸かってのんびりするだけでも、体を休めて病気の回復を助けたり、症状を和らげたりする効果は、今よりもはっきり感じられたのではないかと思う。その後医学が発達しても、温泉が医学の領域を侵すことはなかったし、温泉の側が代替医療としての地位を確立したわけでもない。怪しい代替医療信者が温泉を取り入れてことさらに効果を喧伝することが無いとは言えないが、普通の温泉については、「風呂に入ってくつろぐと云々」というのとさほど大きな隔たりはない。温泉地は、観光の目的地として人気が高いものも多く、そのような場所で病気に対する効果が書いてあったとしても、それを通常の医学や科学で十分に根拠づけられたものであると勘違いする人もまず居ないだろう。まあ、温泉が効くのは水のクラスターが……などと余計な科学モドキをくっつければ、温泉の説明でもニセ科学になるが、単に効能だけを控えめに書いてあるなら、それはもう科学とは少し違うカテゴリーのものとして定着している。
 こう考えると、温泉の効果は、文面上は病気に効くことになっていても、科学を装うということにはあたらないと考えられる。だから、「温泉がニセ科学ならショックだ」という学生さんに対して、「科学を装う状態にはなっていないから、普通はニセ科学だと批判するような対象ではない」と答えたのだった。

 この問題の難しいところは、一部分だけ取り出すとニセ科学といえそうでも、社会におけるあり方、全体の態様を考えると科学を騙っているとは言えないものがある、というところではないかと思う。


ここからは旧ブログのコメントです。


by tamtam at 2007-08-19 18:47:19
Re:前期の講義でどう答えるか迷った質問

温泉の効果については大抵の人は神社のお札よりは効果があるかも程度の考えではないでしょうか。

次の事例はグレーっぽいです。
秋田の玉川温泉はラジューム温泉で有名ですが放射線ホルミシス効果を狙って難病の治療目的で訪れる人がいます。
ホルミシス効果については色々説があって定まっていないと思いますが
効果が有ったとしても本の少し(目に見える効果があるのならとっくに結論出ている)のものに頼るよりは効果が確認されているものを採用するほうが良いと思うんですけどね。

次の事例などは”ニセ科学”といって良いでしょう。
「ホルミシス温泉母岩」という商品があります。
「玉川温泉岩盤浴のラジウム温泉をご自宅で」
「マイナスイオン」、「 放射線ホルミシス」、「遠赤外線」
http://www.the-seniors.com/karada.htm#onsenbogan
ニセ科学で定番の用語が2つも出ています。
「ホルミシス」も定番の用語に加えたほうがよさそうです。

なお、玉川温泉との関連をうたった健康グッズが沢山有るようで、当の玉川温泉では下記のように注意を呼びかけています。
> 「玉川~」との名称で、あるいはあたかも玉川温泉と関連があるかのようなキャッチコピーで販売している健康グッズは、一切当玉川温泉とは無縁でございますので、ご購入の際はお間違えなきようお願い申し上げます。
http://www.tamagawa-onsen.jp/news/index.html?200603#372760

温泉がらみでも白に近いものから真っ黒なものまであるということでしょう。


by anonymous coward at 2007-08-09 21:14:09
Re:前期の講義でどう答えるか迷った質問

温泉に行くと、保健所とか薬剤師協会とかいった権威付けされた分析機関の名の下に、細かい成分表示(ナトリウム何グラムとかそういうもの)を行った上で,(効能についての統計的検討をしていないと思われる)効能表示をしている紙が掲出されていますよね.これは、マイナスイオンや水商売の場合と同じ構造(大学や研究機関で、こういう分析結果が出ています!と言って売りつける構造)をしていると思うので、ニセ科学と断じて構わないのではないかと思いますが、どうでしょう。
なお、個人的には、効能は信じていませんが、気持ちよいので温泉は大好きです。


by bose at 2007-08-17 22:36:17
Re:前期の講義でどう答えるか迷った質問

> 温泉に行くと、保健所とか薬剤師協会とかいった権威付けされた分析機関の名の下に

これは温泉法かなんかで表示義務があったのだと思います。
効能の正当性はどこまで正しいのか知りませんけど、
少なくとも成分表示は必要だったかと。


by anonymous coward at 2007-08-20 23:53:20
Re:前期の講義でどう答えるか迷った質問

成分表示は分かるのですが,効能表示はやりすぎでしょ,ということです。
成分表示だけなら,再現性もあるし、科学的な営為の範疇.しかし、その数字でもっともらしく見せながら,統計的な検討を怠って、効能表示をするのはニセ科学ではないでしょうか。


by anonymous coward at 2007-08-15 23:55:15
Re:前期の講義でどう答えるか迷った質問

ちなみにホントにnameを空っぽにしたら,「お名前が未入力です」と怒られるはずなんですが… > 3つ↑の人


by 検査員 at 2007-08-11 00:31:11
Re:前期の講義でどう答えるか迷った質問

>>効能表示をしている紙が掲出されていますよね

温泉法第14条の規定ですね

第14条 温泉を公共の浴用又は飲用に供する者は、施設内の見やすい場所に、環境省令で定めるところにより、温泉の成分、禁忌症及び入浴又は飲用上の注意を掲示しなければならない。

温泉成分の分析法は環境省自然環境局の「鉱泉分析法指針」に基づいて実施し、その結果特定の成分が一定量以上含まれるものが「鉱泉」と認定され、さらに泉源の温度が25℃以上の場合「温泉」とされます。この中で、選ばれし成分が一定量以上含まれる場合「療養泉」へとレベルアップし、「温泉成分表」に「一般的な禁忌症・適応症」がくっつくことになります。
この「一般的な禁忌症・適応症」の内容は、どの療養泉も同じ内容で、環境庁自然保護局長発(昭和57年5月25日)環自施第227号によって通知されています。成分によっては「泉質別禁忌症・適応症」がくっつくことがありますが、これも先の通知の中にある表から成分に応じて選択する形になっています。

ご参考まで。


by anonymous coward at 2007-08-25 02:20:25
Re:前期の講義でどう答えるか迷った質問

あ、なるほど。> 検査員さん

つまり、禁忌症・適応症の表示は,成分表示を翻訳した表示にすぎず、あの表示によって「何らかの効能がある」ことを主張しているわけではない、と。

ということでしたら、ニセ科学という範疇で括るのは適切ではなさそうですね.誤解を招きやすい表示だなあとは思いますが…。

勉強になりました。


by apj at 2007-08-43 02:54:43
Re:前期の講義でどう答えるか迷った質問

本物のanonymous cowardさん、
先ほどは失礼しました。ちょうど複数のウィンドウを開いて、出先で時間の無いときに書き込みをしていたので、別エントリのコメントと混同しました。
紛らわしいので消しました。慌てると間抜けをやってしまうものです。
温泉についての情報ありがとうございました。温泉法ってのがあるんですね、興味深い。


by 検査員 at 2007-08-40 06:50:40
Re:前期の講義でどう答えるか迷った質問

そうですね、かなり紛らわしい表現になっています。
特に分析したのが薬剤師会系の検査機関とかだと、なにか薬効を保障してくれているような気になりますが、温泉の成分分析事態は温泉法15条に基づく登録をすれば誰でも出来る(もちろんそれなりの設備等が必要ですが)ので、禁忌症・適応症の欄も医薬の知識がある人が作るわけでなく、先に書いたように分析結果の数字から機械的に当てはめて作成するだけです。いわゆる医薬品の類の効能を期待する様な物ではないです。


by apj at 2007-08-04 07:17:04
Re:前期の講義でどう答えるか迷った質問

検査員さん、
 じゃあやっぱり、普通の人の感覚で「一応書いてあるだけ、まあ大部分雰囲気だけだよね」という認識で結果的に正しいんですねぇ……。


by newKamer at 2007-08-09 19:02:09
Re:前期の講義でどう答えるか迷った質問

う~ん…。
私は
> 環境庁自然保護局長発(昭和57年5月25日)環自施第227号
自体がニセ科学なんではないかと思ってしまいますが。


by tamtam at 2007-08-52 21:41:52
Re:前期の講義でどう答えるか迷った質問

科学とニセ科学の間にグレーゾーンがあるにしても全てを科学かニセ科学かというものさしで測る必要はないのだと思います。

問題は実体を理解した上で受け入れているのか実体を知らずに他者の言葉を受け入れてしまうのかの差ではないでしょうか。

建物の起工式でお払いをするのと祟りがあるからといわれてお払いをするのでは分けが違うと思うのです。
科学かニセ科学かというものさしで見たらどちらもニセ科学でしょうがそんなレッテル張りはしなくて良いでしょう。


by newKamer at 2007-08-13 02:45:13
Re:前期の講義でどう答えるか迷った質問

 いや、お払いは科学を装っていないのだから、ニセ科学ではないでしょう。オカルトとか超常現象の分野だと思います。


by ひらめ at 2007-08-43 22:39:43
Re:前期の講義でどう答えるか迷った質問

温泉マニアの私としては、いささかショックな話題だなァ~

まァ、自宅の風呂より気持ちが良いのは体験的事実なので実際の効能などは無くてもさほど深刻ではないけれど、効能の表示はまるで疑っていませんでした。

むしろ、漢方薬などのほうが疑わしいものが多いのでは?
もちろん、効能が解明されているものの方が多いとは思いますが、なかには絶滅危惧種の乱獲に繋がりながら効能のアヤシイものも含まれてますからね。
オットセイの睾○や鹿のオチ○チ○の干物なんて、フラシーボ効果でしかないと思ってます。
そういったアヤシイ漢方薬ほど高価ですしね。
香港の漢方薬専門店で聞いたら日本人がおみやげに買うのは精力増強関係の薬ばかりですって笑ってました。
潜在的にストレスによるEDが多いのか?

生き馬の目を抜く日本の大都会に住む人のストレスは大変なものだと話したら、香港の人に笑われた。
「香港は生き馬の心臓を抜きます。」だって・・・・・


by mimon at 2007-08-25 02:10:25
Re:前期の講義でどう答えるか迷った質問

ひらめ様、漢方ではないのですが、
先日、便秘の対策として、お医者さんから処方してもらったのが、センノシドの錠剤で、それでは効かなかったので、再度処方してもらったのが、センナのエキスの錠剤で、これも体に合わなかったのです。
しかたがないので、お医者さんに無断で、薬局に行って、局方「センナ」を(定価よりもかなり安く)買ってきて、
http://www.kanpo-yamamoto.com/item/iyaku/senna.html
煎じて飲んだら、いい具合に便通しました。

こんな薬剤が安く買えるのに、高価な健康食品を便秘薬の代わりに買う人の気が知れません。


by みずいろ。 at 2007-08-26 07:58:26
Re:前期の講義でどう答えるか迷った質問

>環境庁自然保護局長発(昭和57年5月25日)環自施第227号
>第5 その他
>1 本通知の適用範囲
>本通知は温泉を公共の浴用または飲用に供しようとする宿泊施設、
>公衆浴場等における利用について適用するものとし、
医療機関における温泉治療のための利用については適用しないものとする。

 とまぁ所詮その程度のものでしてw
 禁忌症については経験上「こりゃマズいだろ」というものがほとんどなので、注意喚起という意義はあるのかなと。

 それ以前の問題として、希釈して沸かして循環ろ過して塩素消毒とか、源泉をローリーで搬送とか、当たり前に行われている世界なので、薬効とか温泉成分の妥当性なんてあほらしくって語る気も失せようというものです。