再び温泉の話
あらきけいすけさんのこのエントリについて。
現在の「ニセ科学」の対象は、これに加えて「人を傷つける要素を持つもの」という要素も含めて考えておかねばならないと思います。この要素が判断に加わっていることは、apjさんのブログにおける「温泉はニセ科学か」に対する「ニセ科学には入らないだろう」という結論からわかります。
ということなんだけど、どうも私が考えていたのとは違うようなので説明を追加しておく。私のニセ科学の定義は「科学を装うが科学ではない」で、これに変更はない。「人を傷つける要素を持つかどうか」が温泉がニセ科学かどうかを判定するときに必要になるとは、私は考えていない。通常人の判断力を基準にした場合、「一般的な温泉の効能書きが科学を装っていない」という理由で、温泉はニセ科学には入らない、と結論できると考えている。
薬事法の説明でよくある例に、八百屋のおじさんが「今日は良い大根が入ったよ。酵素がたっぷり含まれていて消化を助けるよ」と言って大根を売ったとしても、薬事法には引っ掛からない、というものがある。普通の人の判断を基準にした場合、大根を医薬品と誤認することはまず無いからである。これが、売っているものがそれっぽいガラス瓶に入った粉やら粒やらで、「酵素がたっぷり含まれていて消化を助けるよ」などと表示したら、薬事法に引っ掛かることになる。見た目からいって、医薬品と誤認しやすいというのがその理由である。
温泉と人との関わりを考えた場合、それなりに昔から効能書きはついていたし、効能書きを見て入浴したり湯を飲んだりということもしてきたが、科学的手続きで立証されてそうなった、という認識で利用している人は少ないと思われる。もっともこれも程度問題だが、典型的な例として「昔から親しまれてきた云々、リウマチ、肩凝り、冷え性、胃腸病などに効く」などとありがちな効能書きがあったとして、科学を装ったものという判断になるかというと、まあ今のところは常識的に考えてならないだろう。昔からありがちな宣伝だし、効能の出方だってまあそれなりというか、医薬品とは明らかに違う精度のものだという共通認識があるのではないか。
これが、ことさらに「波動を測定すると××で、マイナスイオンを測ると××で、だから効く」などと、科学的に精度の高い検証をやって効果を確認したという誤解を誘発するような宣伝が並んでいたとしたら、「温泉一般がニセとは言わんがその表示はニセ科学だろーっ」とツッコミを入れるしかなくなる。
【追記】もし、ほとんどの温泉が誤解を誘発する宣伝を並べ立てるようになったとしたら、「温泉の効能書きはニセ科学」ということになるだろう。
つまり、温泉がニセ科学かどうかを考えた場合、一般には「ニセ科学じゃない」となるのは、これまでの人と温泉の関わりから「科学と誤認される」おそれがなく、効能書きが書いてあってもそれが「科学を装う」に該当しないからであって、「人を傷つける要素をもつもの」かどうかという基準は必要ないというのが私の考えである。
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