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「水からの伝言」の話をしてみた

Posted on 10月 31st, 2007 in 倉庫 by apj

 恒例の共通教育の科学リテラシーで、「水からの伝言」の話をしてみた。学生さんのコメントを見た限り、授業で訊いたと書いてきた人が居なかった。さすがに、学校でやるケースは減ってきているのだろうか。
 しかし、

タケコプターを科学的に説明すると、実際どのようなことが起こるのでしょうか。

は一体どうしたもんかと。私ゃ、柳田理科雄じゃないんだが……^^;)

弁護士なら当事者とそれ以外の区別くらいしてくれ

Posted on 10月 30th, 2007 in 倉庫 by apj

 橋下徹のLawyer’s EYEより。

皆さんがタクシーに乗って,運転手に不快な思いをさせられたらどうします?銀行の受付窓口で不快な思いをさせられたら?こりゃひでーなーという広告を見たら?食品を買って何か異物が入っていたら?
まずは,そのタクシー会社や銀行,広告主,販売業者にクレームを入れるでしょ?
そしてそのタクシー会社,銀行,広告主,販売業者の対応もふざけてるなって思ったら?
そしたら,タクシー業界,銀行業界,広告主や販売業者が属する業界を監督する監督官庁(国・行政)に苦情を入れるでしょ?

 まあ、クレームをつけるかもしれないけど、それは私が当事者である場合、つまり、タクシーに乗ろうとした・乗った場合、その銀行を使った場合か、その食品を食べようとした場合に限られる。だから、どこぞのバラエティ番組で、「この間さあ、タクシーに乗ったら運転手の態度がとんでもなく横柄だった上に遠回りして普段の1.5倍も金をとられた、これはみんなでクレームつけなきゃね」などという発言を聞いたからといって、私がわざわざクレームをつけることはしない。blogで番組もろともネタにすることはあるかもしれないが。
 いずれにしてもクレームは問題の影響を直接受けた当事者がつけるのが基本であって、伝聞や風評に基づいてつけるものではない。
 橋下弁護士は、きちんと対処するつもりがあればクレームはつけられた側にとって役立つと考えているらしい。確かにこれは一般論としては正しい。まっとうな企業なら、ユーザーの(←ここ重要)クレームをサービス改善に役立てるだろう。しかし、ユーザー以外の無関係な人々による伝聞と風評に基づくクレームが殺到したとしても、サービス改善につながる情報などまず引き出せない。そういうクレームは、本来の業務の妨げにしかならない。
 さらに、具体的なサービスと広告をごっちゃにして議論しているのも乱暴すぎる。広告については、それを見て情報を受け取った人全てが当事者になるから、見た人は誰でも「広告の内容についてのクレーム」ならつけてもかまわない(広告に出ているサービスそのものに対するクレームではないことに注意)。しかし、個別のサービスへのクレームを正しくつけられるのは、そのサービスを利用した人だけだろう。
 さて、橋下弁護士は、直接の当事者でもない視聴者に、クレームどころか弁護士に対する懲戒請求をするように煽った結果、提訴されている。
 誰でもクレームをつけるはずだとか、クレームの受付場所がないといったことをいくら並べ立てても、当事者でない人に対して風評に基づく懲戒請求を出させるように誘導した事実は消えない。橋下弁護士のエントリは、当事者かそうでないかを敢えて無視し、一般論を持ち出して読者を煙に巻こうとしているだけのように見える。

これはひどい

Posted on 10月 29th, 2007 in 倉庫 by apj

「でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相」福田ますみ著 新潮社
 2003年6月に、福岡の小学校で担任の教師が生徒に向かって「早く死ね、自分で死ね」などと暴言を吐いて体罰を繰り返したという事件があったと報道された。マスコミはこの教師を大バッシングし、医師はその子供がPTSDになったと診断し、550人もの弁護士が弁護団に名を連ねて教師と福岡市を提訴した。
 ところが、この騒動がすべて、子供の親の虚言癖によるでっちあげだったというもの。
 体罰は事実無根、PTSDを診断した医者は実はまともな診断をしていない、校長も教育委員会もまともな調査をしていない、マスコミの取材も不足していた。
 事態が悪化した原因は、
・モンスターペアレンツに比べて教師の立場が弱かった。
・マスコミのネタにされることを避けるため、事なかれ主義に走った校長が、ろくな調査もなしに言葉尻だけとらえて教師が悪いことにして無理矢理謝罪させた。
・親の行動が異常で、言ってもいないことを言ったといい、反対の意見を言う別の保護者に怒鳴り込んだりしていたので、みんなが避けていた。

 この事件から得られる教訓は次のようなものだろう。

・謝罪は事態を悪化させ、嫌がらせ訴訟の賠償金上乗せに利用されるだけ。
(謝罪が親の妄想を暴走させて巨額の賠償金を請求する訴訟に発展した)
同僚や上司の誘導尋問には引っ掛かるな。特に、その個人の判断や意見を認めないといった態度を取ったヤツは明白に敵。
(最初から親の前で謝罪させるというシナリオが校長によって作られていたが、まともな根拠が無かった。校長はそのシナリオ通りに行動することを教師に求めた。)
クレーマーを親と思うな。敵と思え。
(実際この事件では悪意満々だった)
事なかれ主義の管理職は敵よりタチが悪い。
(最初から教員を悪者にして親を納得させようとする意図が見えていた。)
教員が身を守るには、最初から出るところに出るという姿勢が大事。組織は守ってくれない。
(教育のことを考えて、謝罪で済むなら……と譲歩したことが後まで響いた)
マスコミ対策で組織に箝口令が敷かれた場合は、それに従ってはならない。組織に都合の良い情報だけが発信されて、個人に責任が押しつけられる。
(取材に対して、学校発の情報ではいじめがあったことにされた。)
個人で勝手なことをして、などと言う連中は、同僚だろうが上司だろうが足を引っ張るだけである。
(取材に対して教員個人が発言したら、学校の作ったストーリーと違うことを責められた)
処分があったら即座に提訴。
(処分が先にあったためか、一審判決で請求棄却を勝ち取れなかった。現在控訴中。もし、処分の方も争っていたら結果は違ったかもしれない、というのが感想。)

 極端なモンスターペアレンツを踏んでしまった場合は、この程度のことを考えていないと、多分身を守ることはできない。

 もう一つ別の教訓としては、正義(を信じるヤツ)ほどタチの悪いものはない、といったところか。

【追記】
 「万国の労働者よ,団結せよ」って有名なスローガンがあるが、これからは「全国の教師よ、法廷闘争せよ」をスローガンにした方が良くないか?
 amazonの書評には、現職教員で、同じような目にあったらしい人の書き込みもあった。教員志望の学生には必ず読んでもらいたい本である。

利用厳禁:懲戒請求テンプレート

Posted on 10月 28th, 2007 in 倉庫 by apj

 モトケンさんのところで懲戒請求テンプレートサイトへのリンクがあったので貼っておく。「請求の理由」は次の通り。これは参考のために貼ったのであって、上記サイトの主張(最高裁判例を無視)を信じてはいけないし、上記サイトで公開されているテンプレートを使って懲戒請求を行ってはいけない。テンプレートは、法律文書としては箸にも棒にもかからない出来損ないである。

被調査人は、1999年4月14日山口県光市における母子殺害事件の差し戻し審第1回公判において、
見ず知らずの女性を殺害後強姦したことを「死者を復活させる儀式」、
赤ん坊を床にたたきつけたのは「ままごと遊び」、赤ん坊の首をひもでしめあげたのは「謝罪のつもりのちょうちょ結び」等
科学的にも常識的にも到底理解できないし理解したくもない
主張を並べ立ててまで被害者を侮辱し死者の尊厳を傷つけています。
また、この差し戻し審において地裁高裁等では被告自身が認めていた殺意を上記のような非科学的、
非人道的な主張を行ってまで否定しようとしておりますが、これらの行為は、意図的に裁判の遅延を試みているとしか思えません。
これらの行動によって、被調査人は、日本における裁判制度と弁護人制度への信頼を傷つけ続けています。
あのように不誠実で醜悪な主張及び行動を繰り返す人間が弁護士としてふさわしいとは思えません。
以上の理由により私は、被調査人が上記控訴審においてとっている行動が弁護士法56条に定める所属弁護士会の秩序または信用を害し、その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行であると考えます。
よって弁護士法第57条、58条に基づき、請求の趣旨の通り求めます。

 まず、弁護の内容について。刑事弁護の弁護人は、被告人の主張に反することを主張するわけにはいかないのだから、被告人が行った「非人道的」主張に沿った弁護をしたとしても、弁護人を非難する理由にはならない。被告人のトンデモ主張を受け入れて弁護したからといって弁護人をいちいち懲戒していたのでは、刑事訴訟の手続きなど成り立たない。懲戒請求者が「科学的にも常識的にも到底理解できないし理解したくもない」と思ったとしても、そんなものは弁護人を懲戒する理由にはならない。この懲戒理由を主張することの方が、よっぽど、日本における裁判制度と弁護人制度への信頼を傷つけるものである。被告人が「不誠実で醜悪な主張」をしても、弁護人はそれに沿って弁護するのが、弁護人制度の信頼の維持にかなった行動である。
 次に、裁判手続きについて。差し戻された以上もう一度事実審を重ねるしかないので、その手続きの中で主張を行うのは、裁判所の訴訟指揮に従った上でのことである。そうである以上、「意図的に裁判の遅延を試み」たことにはならない。もし、「意図的に遅延を試み」たことが明らかであるならば、それを止めさせるように訴訟指揮を行うのは裁判所の仕事である。裁判所が「意図的に裁判の遅延を試み」たと判断せず、公判を続けているのであれば、その判断を尊重すべきである。裁判所が認めている公判手続きに対して、外から「意図的に裁判の遅延を試み」たなどというのは、言うだけならば言論と表現の自由の範囲だからかまわないとしても、せいぜい井戸端会議のネタにとどめておくべきことである。
 従って、この請求の理由には理由と呼べるような内容が含まれていないので、法的に有効なものとはいえない。「マスコミの報道を見た」程度しか事情を知らないままに、このテンプレートに基づいて懲戒請求した場合は、民事の不法行為責任を問われても仕方がないだろう。最高裁判例は、懲戒請求にあたって、「通常人が普通の注意を払えば、相当の根拠がないことが分かる程度」の調査・検討義務を尽くすことを求めている。る。
 常識的に考えて、弁護士(だけではなく誰でも)を懲戒せよと請求するのに、個別の事実関係を確認できる立場にもいないのに、マスコミの報道を根拠に他人が書いたテンプレート文書を気軽に使うというのは、どう見てもおかしい。
 弁護士に対する懲戒請求は誰でもできるが、誤爆すれば逆に提訴されるリスクも負う。一般人が訴訟に耐えられるだけの理由を提示して懲戒請求できるのは、実際問題として、懲戒請求したい弁護士に対する依頼人であった場合か、懲戒請求したい弁護士が紛争の相手方の代理人である場合に限られるだろう。懲戒に値する弁護士の非行とは、渡すべき賠償金を渡さず着服したとか、ろくに弁論に出ず必要な手続きをしなかったために敗訴したとか、刑事弁護の場合であれば被告人の主張を全く無視した弁護をした、といったものが考えられる。

 なお、自分の判断でこのテンプレートを見て懲戒請求をした人は、やったことについて責任を負うしかないのだが、今回は、懲戒請求した人の中に、橋下弁護士のテレビでの発言に煽られて出した人が混じっている(もしかしたら煽られた人の方がずっと多いのかもしれない)。その橋下弁護士は、弁護団から多数の懲戒請求を引き起こして業務を妨害したということで、不法行為を理由に提訴されている。注意すべきことは、現在、橋下弁護士の利害と懲戒請求をした人の利害が対立していることである。懲戒請求が橋下弁護士の発言と無関係に行われたのであれば、橋下弁護士のテレビでの発言の責任はそれだけ減り、その分、懲戒請求をした人の責任が増えることになる。つまり、橋下弁護士としては「請求は自分の発言と無関係」と主張して懲戒請求者各人に責任を負わせた方が利益になるし、懲戒請求した人々は(まだ提訴はされていないが、将来もし提訴されることになった場合には)「プロの弁護士が言うのだからとつい信じてしまった」と主張して橋下弁護士に責任を負わせた方が利益になる。

 民事の不法行為は、故意と過失を区別していないので、結果が発生すれば責任を問われうる。この部分は、故意の有無を問題にする刑法とは異なっている。

特に問題があるとは思えないが……

Posted on 10月 27th, 2007 in 倉庫 by apj

 朝日新聞の記事より。

大卒研究職社員の資質「期待上回る」は1% 文科省調査
2007年10月27日12時33分

 研究職として採用した大卒・大学院卒社員の資質が「期待を上回る」と答えた企業はわずか1~2%台――文部科学省の「民間企業の研究活動に関する調査」で、こんな実態が明らかになった。「期待を下回る」は学士で約31%など、企業側は、基礎教育の不十分さや、独創性の不足に頭を痛めている。

 研究開発をしている資本金10億円以上の企業1791社を対象に今年2~3月に調査し、896社(50%)から有効回答を得た。

 研究者の資質を学歴別に尋ねたところ、「期待を上回る」は、学士が1.0%、修士課程修了者で1.4%、博士が2.6%、ポストドクター(任期付きの研究職などに就いている博士)が2.2%にとどまった。

 いずれも「ほぼ期待どおり」は60%前後。「期待を下回る」とした割合は、学歴・年齢が高いほど低く、修士では約26%、博士約15%、ポスドク約8%だった。

 期待を下回る理由は、学士では「基礎教育の内容・方法が不十分」が最も多く、修士や博士は「企業ニーズに無関心など企業研究者としての自覚に欠ける」が最多だった。ほかに「教科書や既成理論への偏重教育で独創性が育っていない」「隣接分野の教育が不十分」を挙げた企業も多かった。

 60%がほぼ期待通りだというなら、そう悪い数字とも思えない。期待を下回る、が学士で31%、修士で26%というのが多い気もするが、学士は研究向けに選別がかかってないから研究職向けの人材の割合が元々そんなに多くないだろう。
 修士で期待を下回るケースがそれほど減らないのは、いわゆる学歴ロンダリングに騙されているのではないだろうか。修士課程の定員が旧帝大系で増えたせいで、外部から入学する人が増えている。特に、大きな大学だと学内の付属研究施設のようなところが、対応する学部無しに大学院生を受け入れていることがある。内部進学する院生はどうしても学部から続けて同じところに所属したがるので、付属研究機関は希望者が少なくなりがちであるから、定員を満たすために、入試の難易度を下げていることが多い。例えば、私や私の先輩が修士課程に入学する頃は、学力試験として、英語・第二外国語・物理(専攻分野の試験で学部必修科目全域が範囲)・数学(これは大学院によるが旧帝系は必須)といった具合だった。今は、第二外国語は無いし、専攻分野の試験も選択あるいは小論文のようなもので無いに等しかったりするし、数学を課さないところも多い。昔なら、修士課程に入ろうという人は、その学年の学力上位層で、しかも試験の準備のためにさらに勉強していた。ところが今はそうではない。いろんな大学院の募集要項を見ればわかるように、十分な学力試験を行っていない専攻が有名大学でもたくさんある。
すると、難易度低めの大学で単位はとったが、もしまともな入試をされたら(やった内容が十分定着していないために)落ちる人達が、旧帝大系や大規模な大学の付属研究機関の大学院には入れる場合が出てくる(実際、私のところの専攻は専攻の専門分野の試験をまんべんなく行っているから、学力試験でウチを落ちた人が東北大に通るといったことが実際に起きている)。そういうところは研究室も大所帯だから、きめ細かい指導が行き届くとは限らない。結果として、最終学歴が規模の大きな大学の博士前期卒、学力の方は疑問符が付くという人材が出てくる場合がある。もちろん、自分で勉強して、力をつけてくる人もいる。しかし、博士前期課程の最終試験は、どこの大学でも、修士論文をまとめて口頭発表するというもので、学力試験を課すわけではないから、学力不足の人でもチェックをすり抜けて修了することができてしまう。
 採用時に最終学歴だけ見るのではなく、本人の学力をきちんと見ないと、採用したはいいが期待はずれということが起きても不思議ではない。簡単な専門知識のチェックとしては、例えば国家I種の公務員試験のそれぞれの専門分野の過去問のうち基礎的な問題を何問か解かせてみるというのはどうだろう。新規に問題を作る必要はないから社内で簡単にできるし、ヒントを与えながら面接して考え方を見るという形でもよい。分野が多少ずれていても、解決のためのストーリーの立て方を見れば、多分判定はできるのではないか。
 とりあえず、会社の人事の方には、採用の時には学部の学歴も併せて考慮するように注意を促したい。実はこんなのは今に始まったことではなく、私が博士課程を過ごした時期(つまり今から10年ちょっと前)の東大軽部研でもその兆候は既にあった(ただし博士課程の方でだが)。

 気になったのが「教科書や既成理論への偏重教育で独創性が育っていない」だが、「研究開発をしている資本金10億円以上の企業」ならまあまともな基準でモノを言っていると思ってよいのだろうか。独創性とトンデモを取り違えている企業は世の中にたくさんあるので、独創性=社長がブチ上げた夢のようなエネルギー、既成理論=熱力学の3つの法則、だったりしたら笑うしかないのだが。

学生の質問に答えるために……

Posted on 10月 26th, 2007 in 倉庫 by apj

 マッカーリ&サイモンの「物理化学」の25.3節を見ていたら、

溶液の凝固点においては、固体の溶質と溶媒とが平衡状態にある。

と書いてあって何だか意味不明。原書の方を見たら、

At the freezing point of a solution, solid solvent is in equilibrium with the solvent in solution.

と書いてあった。つまり、「固体となった溶媒と、溶液中の(まだ液体の状態の)溶媒とが平衡状態にある」というのを間違って訳していた。
 沸点上昇も凝固点降下も、溶媒の方は異なった相の間で平衡状態になれるけど溶質は液体相にしか存在できない、という状態でのchemical potentialの釣り合いの式を書いて説明するから、訳の説明では何だかわからなくなる。

余剰博士問題:分かりやすい説明

Posted on 10月 25th, 2007 in 倉庫 by apj

5号館のつぶやきさんのところに、通りすがりさんが大変分かりやすい説明を投稿されていたので引用させていただく。なお、投稿は2つに別れていたが、読みやすくするため1つにまとめさせていただいた。

例えば100人の博士取得者とします,アカポスの求人が30人分あります.倍率の期待値は3.3倍になります.果たしてそうでしょうか?

この制度を始めて1年目は
1年目(求職者)新卒100人 PD0人 →アカポス30人,PD70人
アカポス就職率(30/100): 30%
2年目(求職者)新卒100人 PD70人→アカポス30人,PD140人
アカポス就職率(30/170) 17.6%
3年目(求職者)新卒100人 PD140人→アカポス30人,PD210人
アカポス就職率(30/240) 12.5%
....
6年目(求職者)新卒100人,PD350人→アカポス30人,PD420
アカポス就職率(30/450) 6.6%
....
9年目(求職者)新卒100人,PD560人→アカポス30人,PD630
アカポス就職率(30/660) 4.5%

27歳で学位取得した人が33歳までポスドクを続けるとすると,毎年6.6%,36歳まで続けるとすると,毎年4.5%しか,アカポスに就けない計算です.これが現状なのです.

公募(倍率は数十倍,時には100倍を超える)に,1年間,出し続け,漸く15-20人に1人がアカポスに就く計算です.
(ここでのアカポスは,旧帝大とかではなく,地方の小さな私大や短大,国立,全てのポストを含めた確率です.)

それを9年間続けると,期待値として,3人に1人がアカポスに就く状況なのです.9年間,何十回も公募に出し,落とされ,を繰り返し,不安定な身分で仕事を続けます.(精神的におかしくなる人もいます.)

その後は,任期付アカポス(契約職員と同じ)か,ベンチャー系の中小企業か,失業です.誰がこんな道を選ぶのでしょう?世間並みの人生設計がある暮らしが出来ないのです.

新聞社が運営するサイトにも,ポスドクの妻が書いた,生活不安の相談が複数出ています.科学の振興を本気で考えるなら、贅沢でなくとも人並みの生活が出来ることが必須です。

なお,上記の計算は,博士課程定員の3割程度のアカポス求人があると仮定し計算しました。現状は、博士課程の定員の2割以下です。一方、博士取得時に初めから企業を目指す人もおり、若干修正の余地はあります.それでも,かなり実感に近い筈です.

 現実には、40歳近いポスドクも居るから、この試算の数字よりもさらに状況は悪いかもしれない。いずれにしても、博士号を取得した人100人のうち4人程度しか大学や研究所には就職できない状態を続けるわけで、その時残りの96人は、修士号をとって企業に就職したのと比べるとかなり不利なままになる。収入を得始めるのが何年か遅れるだけでも、生涯賃金としてその分を取り返すのは大変である。それでも、早めに就職活動してうまく企業に入った人はそこそこ食べていけるが、タイミングを誤ると日本の企業の採用慣行が邪魔をして、ワーキングプアへまっしぐらとなる。
 身につけた専門を活かして食べていける人の割合が4%というと、近いのが法科大学院以前の司法試験の合格率である。平成16年度で3.4%だという数字が出ていた。弁護士の方も司法試験合格者数が急に増えたので、来年あたりから問題が表面化しそうだが、少なくとも法科大学院になる前の司法試験合格者であれば、ほぼ間違いなく法曹になれ(多くは弁護士)、弁護士の収入は一般的に見て日本の上位層であった。また、記念受験する人が混じっているという話もあったから、実質の競争倍率はこれよりも低かったかもしれない。
 現状の博士後期課程というのは、
・専門を活かして食べていける可能性は昔の司法試験合格者並み
・運良く「合格」しても、収入は昔の弁護士とは比較にならないほど低い(半分以下)
ということになる。若者が頑張る対象としては、大学院重点化後に博士を取得して研究者を目指すよりは、司法試験合格を目指して努力するほうがよっぽどマシだったということになる。まあ、弁護士の方も、合格者数急増で近々問題が発生しそうではあるので、これから選ぶ道としてはよく考えた方がいいかもしれないが。

 いずれにしても、これから博士後期課程に進学しても「研究でやっていける可能性は(毎年)4%、就職は博士前期に比べてよくて同程度か、大抵は圧倒的に不利」という未来が待っている。上記の通りすがりさんの試算のようなこと、つまり「毎年の博士取得者の2割程度はポストがある」といったことを指導教員が言ったとしたら、それは何も分かっていないか、意図的に学生を破滅に導くために騙しているかのどちらかだと思うべきである。

【追記】
 大「脳」洋航海記さんのところで、「ドクター・ポスドク問題その後(6):そもそもポスドクの口すら足りない」というエントリが出た。上記のモデルで考えた場合、PDの人数は年々増え続けるが、PDを雇う予算の方には限りがあるから、今度はPD内で「有給」「無給」に分かれることになり、同様の計算によって「PDの有給率」も年々下がる、ということになる。実際すでにそうなりつつあるというのが大「脳」洋航海記さんの指摘である。
 PDのポスト不足について、5号館のつぶやきさんのところでも「ポスドク問題が新しいフェーズに」という新エントリが上がった。
【さらに追記】
 合格率4%だと、旧司法試験よりもむしろ弁理士試験の合格率に近い。司法試験は制度改革でロースクールに行かないと難しくなってしまったが、弁理士試験には制限は無かったはずである。

再チャレンジw

Posted on 10月 23rd, 2007 in 倉庫 by apj

 まだ詳細が決まらないから宣伝できないのだが、安倍元首相の肝いり再チャレンジプロジェクトをウチの大学も引き当ててしまった。社会人や中高年齢の人に修士課程に来てもらって一緒に勉強や研究をしようというものだが、予算やら何やらの配分額が確定するのが12月だとかで、それから宣伝して募集して、来年4月入学の人が来てくれるのかと心配していた。
 ところが、生物の先生によると「熊撃ちの人が、どれくらいなら熊をとってもいいか研究したい、と言ってるので来るかも」「熊の調査してくれって言われてるんだけども……」。後でウチの学科の亀田先生にきいたら、「山形じゃ熊と人が遭遇して襲われたりしている。だから、熊の出没を予測するための研究にも予算が配分されている。カモシカも増えて大変なのでどうすれば被害を受けずに共存できるか悩ましい」
 えーと、もしマタギが数人入学してきて「熊の研究を……」と言ったとして、一体学内の誰が教えるのだ?ってかどう見ても、その指導にあたった教員が、逆に、マタギから熊について教わることになりそうな気が。
 社会人の再チャレンジ支援ではなくて、「教員をマタギにするための再チャレンジ教育」だったというオチになりそうな予感(笑)。

#エントリは半分冗談だが、再チャレンジコースの設置は本当で、きちんと対応するため打ち合わせの最中である。

フィンガーチョコレート

Posted on 10月 22nd, 2007 in 倉庫 by apj

 以前、フィンガーチョコレートを暫く見かけないと思って調べたら製造中止になっていた。類似品はMary'sのテーブルチョコレートという多少割高な品しか無い状態が続いていたのだが、今日、大学近くのファミリーマートのボクのおやつシリーズにフィンガーチョコレートが出ているのと見つけてまとめて衝動買い。
 オリジナルは、ミルクチョコレートじゃなくてビターチョコレートだったと思うが、まあ満足できる品だった。

精進料理じゃないのね^^;)

Posted on 10月 21st, 2007 in 倉庫 by apj

 Yahooニュース経由、フジサンケイビジネスアイの記事より。

癒やしスポットお寺が人気!?
10月21日8時32分配信 フジサンケイ ビジネスアイ

 ■プチ修業、カフェ、僧衣ファッションショーなど斬新な取り組み

 お寺を若い世代の癒やしの場にしようと、斬新な取り組みが盛んになってきた。日帰りの座禅や写経体験講座の参加者は増え続け、お寺に併設したカフェが人気だ。12月には築地本願寺(東京都中央区)で、複数の宗派の僧侶が集まり、僧衣のファッションショーも開催される。

 ≪敷居を低く≫

 浄土真宗本願寺派(西本願寺)東京別院である築地本願寺で12月15日に行われるのは、日蓮宗をはじめとした各宗派の共同企画「TOKYO BOUZ COLLECTION(東京ボーズコレクション)」。宗派の垣根を越えた初の試みとなる。

 僧衣たちが、それぞれの宗派の僧衣を身にまとってファッションショーを繰り広げる。袈裟や法衣は、宗派によって色や形、模様は多種多様。それらが一堂に会する。

 また、ダンスとラップを組み合わせた法話会、1、2時間ほどで座禅、写経、写仏を行う“プチ修行体験”、永六輔さんらの講話なども開催する予定。浄土真宗には“修行”という概念がないため、日蓮宗の僧侶が取り仕切るが、築地本願寺で修行が行われるのも、従来では考えられないことだそうだ。

 無料で参加でき、「文化祭のようなノリで行う」(主催する東京ボーズコレクション実行委員会)という。

 築地本願寺は、12月末までの期間限定で「カフェ・ド・シンラン」を親鸞聖人像横に開いている。健康で環境に配慮したライフスタイル「ロハス」を提唱する月刊誌「ソトコト」編集部が企画・運営。築地本願寺が境内駐車場の一角を貸し、実現した。

 カフェメニューのほか夕方からはライトアップされた本堂を眺めつつお酒を飲み、築地市場の旬の魚などを使った料理が楽しめる。

 ソトコト編集部が築地本願寺に今春、カフェ計画を提案。京都の西本願寺に同意を取り付けるなど、半年がかりで準備を進めた。営業は午前11時半から午後11時まで。日曜祝日は休み。

 この27日には「カフェ・ド・シンラン」で“仏像ガール”こと、廣瀬郁実さんのトークショーも行われる。廣瀬さんは「いっきゅー」の愛称で活躍する、20代の仏像コラムニスト。「仏像をポップに伝えていきたい」という、わかりやすい解説が好評だ。

 ≪企業と連携≫

 高野山金剛峯寺(和歌山県高野町)が南海電鉄と組み、東京・青山で9月中旬に6日間限定で開いていた「高野山カフェ」もたくさんの人でにぎわった。名物の高野豆腐などの健康食材を使った「精進ランチ」などを提供し、写経や瞑想、法話の体験講座も行える。

 若い女性をターゲットにした全7回の体験講座は、いずれも初体験者らで満員。「心を無にすることができた」「文字に集中する体験ができた」と人気だった。

 “お寺カフェ”としては、東京・神谷町の光明寺境内の「神谷町オープンテラス」が先駆け。お寺を地域の憩いの場にしようと、2005年5月に始まった。普段は参詣者の休憩場所として開放し、特定の曜日に住職がお茶やコーヒー、和菓子などを出す。料金は、さい銭箱に「お気持ち」を入れるのが作法だ。

 リラクゼーションの場としても人気がでてきた寺院に、旅行会社も動き出した。

 はとバス(東京都大田区)は、東京と神奈川にある有名寺院をめぐる「四大本山めぐり 巡礼の旅」ツアーの販売を始めた。鶴見総持寺(横浜市鶴見区)、高尾山薬王院(東京都八王子市)、芝・増上寺(同港区)、池上本門寺(同大田区)の4つのコースがあり、僧侶指導のもと座禅や写経なども体験できる。

 20~30代の女性が自己を見つめるためや、団塊世代の新たな趣味として、座禅や写経体験で寺を訪れることが、数年前から静かなブームになっているが、“癒やしスポット”として、ますます人気が高まりそうだ。

 「本堂を眺めつつお酒を飲み、築地市場の旬の魚などを使った料理が楽しめる。」って、生臭まっしぐらではないのかと^^;)。いいのかなぁ……。
 まあしかし、平安時代あたりだと、若くて人気のある僧侶の説法を聴きに行くのが、今でいうなら芸能人のコンサートに行くノリだったという話もあるわけで、ある意味原点回帰なのか……?