教員個人評価基準がニセ科学あるいは詐欺を後押しする?
向こうの掲示板に投稿された内容だが、こちらでもまとめておく。既に知れ渡りつつあるが、朝日新聞の円天破綻の報道より。
勝手に学者を関連団体所長に L&G社
2007年10月08日03時01分健康商品販売会社「エル・アンド・ジー(L&G)」(東京都新宿区)による出資法違反容疑事件で、同社が学者らの名前を勝手に関連団体の幹部として使ったり、話を会員向けのDVDで無断使用したりしていたことがわかった。資金繰りが悪化していたとみられる昨年末ごろから、こうした動きを活発化させたという。同社は「広告塔」として複数の大物歌手による会員向けコンサートを開いており、学者らの名前も資金集めや商品販売に利用する意図があったとみられる。
関東地方の私立大学の准教授(免疫学)によると、本人が知らないうちに昨年11月ごろ、L&Gの関連団体「自然免疫研究所」の「所長」になっていた。「研究所」の幹部にはほかにも多くの学者の名前が無断で使われていた。
准教授によると、04年秋ごろ、L&G関係者から突然連絡があり、同社の波和二(なみ・かずつぎ)会長に自然免疫の話をした。その後、年に数回、会員のイベントで無償で講演したが、同社の投資商品を取り上げたり勧誘したりしたことはないという。
同社は会員誌でこの准教授を「教授」として顔写真付きで紹介し、自然免疫に関する論文を掲載。その後、昨年末ごろになって、無断でホームページに転載し始めた。また、会員に配ったDVDでは准教授が免疫について話す場面を勝手に使い、健康食品の宣伝に利用していた。
准教授は、同社が05年ごろに疑似通貨「円天」を始めたころから「おかしい」と思い始め、今年5月の講演を最後に関係を絶った。「自分の研究が悪用されたとしたら許し難い。消せるのなら消したい過去だ」と言う。
一方で、L&Gが販売する健康・美容用品の開発に学者が携わるようなケースもあった。中国地方の私立大学の教授(生物化学)は同社に原材料を提供し、年300万~400万円を受領。数年前から年に1、2回、L&Gの講演会でこうした商品を宣伝した。会員向けのDVDにも登場し、健康商品をPRしていた。教授は「商品PRの機会をくれた波会長には感謝しているが、今となると私も被害者」と言う。会員のイベントで「私も会員」と発言したが「勧誘したことはなく、あくまでビジネスの関係。問題ある団体と知っていればかかわらなかった」と話す。
この教授は同社が事実上破綻(はたん)していた今年5月末、月利1%をうたう「円天共鳴金」に100万円を出資した。「波会長から頼まれ、協力するために出した」と言う。
記事中に登場する3人の学者はほぼ特定できている。ウェブ魚拓された証拠のページから引用すると、
本物とは何ぞや?
例えば
医学博士が開発し、自らが自信を持って
商品説明し、臨床試験もしている物、、かな。
で始まる、典型的な権威利用セールスの宣伝文句に続いて、
自分を守る力、自然免疫とは
・ アメリカではアトピーや湿疹等の治療に使用されている自然免疫デタント
・ 自分を守る力、自然免疫とは
(映像略)
(株)イムノヘルス ジャパン 代表取締役 国立感染症研究所(感染病理客員研究員)慶応義塾大学 医学部(微生物学・免疫学) 助教授森山雅美 医学博士
代化石珊瑚カルシュームと
スカールコラーゲン
・ 本物のカルシュームとは
・ カルシュームが不足すると。。。
(映像略)
国際食品機能学会 会長筑波大 名誉教授 細川淳一医学博士
CoQ10について
・ スカールコラーゲンとCoQ10
・ 変質しない安定なCoQ10とは・ CoQ10を配合したEXクリームとは
(映像略)
岡山理科大 臨床姓名科学科 学科長 浜田博喜 博士
最後の「姓名」は「生命」のtypoだろう。この3人がどの程度の故意をもって、破綻確実な違法商売に荷担していたのか、それとも完全に利用されたのかは、これから明らかになるだろう。
先生方の行動パターンを見ると、2005年に怪しいと気付いて最近まで何もせずにいたというのが本当ならば、いかにも脇が甘かったとしか言いようがない。「私も会員」発言をしたのは、まあ詐欺に荷担したと言われてもしかたがないだろう。この場合、会員ということは出資したことを意味するわけだから、金銭面で詐欺商売を手助けしたことになる。筑波大の名誉教授もしっかり利用されている。
個別の人達への批判は必要だが、それ以前に大学のシステムにも問題があって、今のままいけば、インチキ商法に荷担する大学の先生は、増えることはあっても減ることはないと思われる。
まず、大学に対して産学連携の圧力がかかっている。これは、運営交付金を減らして、外部資金無しでは大学が立ち行かないようにされてしまっているからである。
研究費を受領というのが私的な受領でなければ、必ず大学の事務の契約部門を通り、契約書を交わしてからの受領になり、教授会等でも報告されて承認手続きを経ることになる。つまり、研究費の受領とそれに伴う活動は、大学も認めた上ということになる。ところが、この手続きの中で、「産」が一体どういう性質の「産」なのかということは全く問題にされない。契約担当の事務部門は、特許の負担割合や利益の振り分けや守秘義務や研究費の額について書類を作っても、普通は、名義の無断使用の禁止までは契約書に盛り込まない。逆に、「こんなに活発に産学連携しています」という、大学側の宣伝材料を欲しがっている面もある。これは、ブランド、というかむしろ信用を守るという点ではいささかガードが甘い。また、企業が真面目な相談を持ちかけてくる一方で怪しい宣伝や資金集めをしているかどうか、などということを調査する部署は大学にはない。担当する教員に任されてしまっているのが現状である。しかし、教員にこの調査能力があるかというと疑問である。資料を集める手間も能力もないし、出資法云々ということになると、そもそも理系の教員では条文にあたって判断するあたりがハードルになる。かりに、途中で多少怪しいと感づいたとしても、産学連携の圧力と、それに伴う教員個人評価(学外からの相談件数、受託研究や共同研究の状況、学外での活動状況などが個人の業績の評価項目になるし、昇任給にも反映したりする)の前には、目をつぶるということが十分に起こりうる。産学連携を教授会承認する段階では、企業名と研究テーマと金額くらいしか出てこないから、相手が裏で怪しげな資金調達や宣伝をしていても、誰かがそれをたまたま熟知していない限り、ノーチェックで承認されることになる。
ウチの大学では、教員の兼業にはまだ厳しく届け出が命じられているので、おかげで学会の役員をするのも面倒な状態で別の問題があったりする。しかし、もし、このまま人件費削減などが続けば、「食べていくのが難しい」という理由で、ウチの大学やそれ以外の大学でも、もっと制限なく兼業させろという話が出てくるかもしれない。その時には、今のままのチェック体制ならば、この手の詐欺的商法に大学教員が利用されまくるという状況が起こりうる。
事前規制をあまりにかけてしまうと、教員の活動自体が妨げられるが、教員も知らない間に名前を利用されて防御もできなかったというのではどうにもならない。
やるとしたら、
・受託研究契約時に大学名と教員名の使用を制限する。特に、製品の宣伝に直接利用されないように制限をかける。同時に、宣伝での大学や研究者の名前の使用をどう制限しているかを大学側が情報発信する。
→悪質な利用は防げないが、一定の歯止めにはなるし、社会に対する説明責任も果たせる。
大学が直接販売まで行う場合以外で、大学名や教員名の使用を許すのは、現状では弊害が大きすぎる。
・講演会等の情報の再利用に制限をかける。講演を引き受ける時に明文で相手に通知する(学術、教育目的に限って再利用可、など)。
→こちらも、悪質な利用は防げないが、ポリシーを先に公開すれば、一定の歯止めにはなる。「バイブル本」ならぬ「バイブル講演」みたいなモンだし……。
・産学連携の相手の調査を行う。
→予算と人員をどうするか、どこまでのチェックをするかが検討課題。
・通報の受付。
→今時のことだから、宣伝はネットにも流れるだろうし、信じて取り込まれた人は疑わなくても、そうでない人がおかしいと気付いて連絡してくる可能性はある。
・被害発生後は、知っていて宣伝に荷担した事実があれば教員も民事訴訟の対象にする。
→後から求償されるとなれば、慎重に行動するというインセンティブになる。民事の不法行為論の基礎には報償責任という考え方がある。
まあ、100%完全な方法は無いとしても、実質手がつけられない今の状態よりはマシになるのではないか。
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