博士課程に進学する前に読むべき本
『高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場としての大学院」』水月昭道著(光文社新書)978-4-334-03423-8。
大学院重点化後の博士取得者がどういう環境に置かれたかを正面から捉えて議論している本。
ポスドクまで到達する人を一人育てるのに投入された税金は1億円で、研究者数と研究レベルの確保をするはずが、増えたのは博士号を持ったワーキングプアだった。大学は規模縮小に向かい、旧国研も人員削減、企業側は元々博士号取得者を採用するつもりが無かったという話。結局、18歳人口が減る分の埋め合わせを兼ねて、たまたまバブル崩壊後の不況で就職難になった世代を政策的に大学院に誘導したのだろうと著者は論じている。
博士卒の失業率は、著者によると医歯薬系を除くと50%程度(分野による差はある)である。博士号取得の後、死亡・不明の者は9.2%、つまり10人に1人は社会との接点無くどこかに消えている。
所属組織の利害には反することを承知の上で、私は、研究者になりたいという学生には、大学や独立行政法人の研究所に関する限り、当分の間はその見込みがほとんど無いことを正直に告げている。もしどうしても博士課程に行きたいならば止めはしないが、博士2年の春頃から修了見込みで就職活動して中途採用にならないようにフレッシュマンとして企業に就職すべきである。給料の上では、修士と同じ扱いの会社もあったりするが、それでもまともな生活をすることができるだろう。ポスドクは、その先がほとんど無いから、人生を棒に振る覚悟があるか、働かなくても食べていける収入源を確保している人でない限り薦めない。この間も若い人に「若い間は薄給で任期付きで仕事をしながらチャンスを待つという気分でいることができても、その状態では、結婚はまず無理(収入が不安定な上に勤務地が短期で変わる可能性あり)、社会保障からもはじき出される可能性が高いし、数年して同級生に妻子が居てマイホームでも持とうかという状態を横目で見ながら、それでも研究に打ち込む貧乏暮らし人生に自分が満足していられるかをよく考えてから進学を決めるように」と言ったばっかりだったりする。とにかく、博士取得後任期制でないポストを得たのが何割かを見ろ、任期付きになってる人達は全て失業者予備軍とカウントせよ、あと、就職していても人材派遣会社に就職した人は別扱いにすべきで、そうやって出した失業率を見て、それでもあなたはその道を選ぶか?というのが、これから進路を決めていく若い人に真面目に考えて欲しいことである。
但し、博士前期課程までなら企業もキャリアとして見てくれるので、就職のチャンスを拡げたいという目的があるなら博士前期課程を終えた段階で企業に就職するとよい。うまく従業員を育ててくれる大手に就職してきちんと仕事をすれば、入社数年後に社会人大学院生として博士課程に入り、博士号を取得後また企業の研究開発の現場で働くこともできる。そういう優秀な人を私は何人も知っている……というか博士課程を過ごした研究室に何人もいて、いろいろ助けていただいた。
既に公務員として働いている卒業生が博士前期進学について相談に来た時は、休職にするか職場の研修の制度を使うなどして、必ずもとの職場に戻れる状態での在学を薦め、その場合は卒業した学科ではなく他の学部を使うことも考えてはどうかとアドバイスした。再チャレンジというのは掛け声だけで(ってか掛け声かけてた張本人が総理を途中で投げ出したという皮肉な状態だが)、実際にはレールを外れると戻ることが著しく困難なので、敢えて負け組転落の可能性が高い道を薦めることはできなかった。相談者の期待には反したかもしれないが……。
勤めている会社を辞めての博士進学は、本人がいつでも起業できるだけのノウハウと営業能力を持っている場合に限り、やっても大丈夫だろう。そうでないなら博士取得後に苦労するのが目に見えているので、やめておいた方がよい。
なお、大学教員のうち、大学院重点化前に博士号を取得して就職した人の意見は、博士進学の是非に関することについては考慮するべきではない。その人達が進学した頃と今とでは状況が様変わりしている。昔なら、コネや力のある研究室に入れば、何とか就職先を世話してもらえたかもしれないが、今は人員削減で、人を紹介できる先もほとんどなくなっている。昔は博士課程進学の段階で選別がかかっていたから、ほとんどの人が数年のポスドクの後で常勤のポストを得ることができた(一部の分野でオーバードクターが問題になっていた、それにも関わらず重点化をやった人の正気を疑う)。そんなのどかな頃の感覚で進学を薦められても、それを受け入れたら、今の若い人達には破滅への道が待っているだけである。
博士号の文化的価値、学問的価値は昔から変わらずにあると思うが、経済的価値とあまりにも乖離してしまっているのが現状なので、手放しに一方の価値だけを重視するのは危険である。
【追記】
本の中では、工学系はそんなに就職難でもないようなことが出ていたが、実際は工学系も(そしてもちろん理学系も)屍累々である。
また、講義のある日だけ短時間出勤してくるのが大学教員の勤務実態のようなことが書かれていたが、少なくとも理工系の教員にそんな人は居ない。民間より多少フレックスだが残業の嵐なのは同じだし、年休をじゅうぶん取っている人も見かけないし、代休の取得も定められた期間内に済ませるのは困難だったりする。
ここからは旧ブログのコメントです。
by 通りすがり at 2007-10-42 02:11:42
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
このお話を思い出しました。。
http://www.geocities.jp/dondokodon41412002/
私の周りにも、PDが何人かいますが、みんな大変そうです。
とくに私の関係する分野(生態学)だと短期間で本数を稼げないので、任期付だと期間中に実績がなかなか挙げられず、実験系(分子生物学とか)の本数を出して、実績の多い人に比べると次の職場が探しが大変、また職場が変わると研究内容が変わってしまうため1から研究のやり直しなどと、いろいろ苦労が多いようです。
本来ならば博士をとった若手は、じっくりと育てて世界に通じる人間を養成してほしいと思うのですが、金やそうもいかないのでしょうね。
そういう私は前期でリタイアしました。でもまだ研究職に多少の未練はあります。情けないですが。
by apj at 2007-10-05 02:35:05
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
通りすがりさん、
大学に居る立場でこんな事を言うと叱られそうですが、前期までで他の進路を選ばれたのは、今の博士取得者の置かれている厳しすぎる状態を見る限りでは、却って良かった面も多いのでははないかと思います。より良い充実した人生を歩んで行かれるよう、願っております。
じっくり取り組まなければならない分野の研究者がまるで育たない制度を作っても、そうそう長続きするとは思えませんが、たまたまその騒動にぶち当たってしまった世代の方には、不運だったとしか言いようがありませんよねぇ。悲しいことですが。
by ひご丸 at 2007-10-40 10:14:40
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
うん、うん、と激しく同意しながら読ませていただきました。
「ドクター取ってしまえばもう、引く手あまただぞ」
という教授の言葉を鵜呑みにして、ドクターは取ったものの、その後はいつまでもPDとして大学から大学へ渡り歩くジプシー稼業。
今春ようやく正社員という座にありつけたものの、ドクターとしての経歴は関係なく採用され、毎日現場で肉体労働。
ボイラーとフォークリフトの免許も取りましたw
それでも・・・「50%程度」あるいは「9.2%」の中に入らなかっただけでも幸せなのかも。
by なざろふ at 2007-10-43 11:55:43
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
私は運良くPD(民間の研究所)後に定職を得ることができましたが、知人・友人(地方大学であった為数は少ないが)を見ているとかなり苦労していますね。
私自身も学生時代にアカデミックポジションに拘った為、就職活動に支障をきたし、1ヶ月間無職でした(良く1ヶ月で済んだと思う)。
ただ、短い期間であるとはいえ、やりたい研究ができたことを考えれば進学したこと自体は後悔はしていません。
しかし、自身の経験や現状を見る限り、人に勧めることができないのは確かですね。
by 酔うぞ at 2007-10-33 19:45:33
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
NHK教育だったかと思いますが、職業を紹介する番組があります。
それに金型組み立て工が紹介されました。
金型メーカの90%は零細企業ですが、紹介されたのは金型メーカの中では5本の指に入るぐらいの大メーカでした。
そこで、金型組み立て工として技能向上中の青年を取り上げていたのですが、かれは大学の工学部卒業でその金型メーカに営業社員として入社後に現場が面白いといきなり金型工員になります。
現在でも現場の工員のほとんどは高校卒、専門学校や高専卒の人が多く、大学の工学部卒業だと設計に回されたりするのが普通です。
当然、23歳からの新人工員として数年のキャリアを積み始めたところですが、社内で結婚した奥さんはどうも高校も卒業しないで金型の研削キャリアが十数年という方だそうです。
職業紹介ですからその会社の初任給などが表示されるわけですが、実は金型工場など技能に大きく依存する職場では技能者の給与は金額としてはかなり高いです。
若いうちは、この差は特に大きい。
彼にとって、大卒→工員というのは世間(親や親戚など)に説明するのは大変だったろうとも思いますが、間違えなくそれを上回る全ての面でプラスだったからと、自分の技量などに向いていたからの選択でしょう。
結局は、何を目指すのかは難しい。
by apj at 2007-10-38 21:35:38
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
私は、博士の学位取得の段階で教授の言うことを聞いていたらテーマがつぶれ、教授に逆らって学位をとったものの投稿論文の数が少なく、コネと力は十分にある研究室だったがそこでの研究自体にはもううんざりして……という状態だったので、10年近くあちこち渡り歩くことになりました。
後輩にも、学生にも、(もし居たとすれば)子供にも、同じ道を歩むことはとても薦められません。
なお、もし大学でなかったとしたら……やっぱり工場勤務を希望するかなぁ、私の場合は。作ったり測ったりというのが性に合ってるので。
by apj at 2007-10-30 21:40:30
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
ひご丸さん、
フォークリフトの免許って、何かかっこいいです。
by しもふり at 2007-10-18 22:25:18
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
学生時代、博士への進学を本気で考えていた私に指導教官曰く、「自分としては進学して欲しいが、将来は保証できないので推奨できない。やめておいた方がよい」とのこと。
公務員試験に合格して国研にもぐりこみ、論文博士を取得しました。
指導教官の極めて適切な進路指導に大変感謝してます。
公務員試験で研究者になれた最後の世代ですね、私あたりが。
ちょうどバブル崩壊まっただ中の団塊ジュニアとしては、よくぞこういうポストに就いているものだと自分でも「適切な進路指導と運のおかげ」だと思っています。前後の学年で博士課程に進学した人々の現状は、まさに天国と地獄くらい格差があります。
子供が博士号取得を望んだら、迷わず「修士卒で社会人大学院に行かせてもらえる会社に就職しろ」と強く推奨すると思います。
by apj at 2007-10-08 01:14:08
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
しもふりさん、
>「修士卒で社会人大学院に行かせてもらえる会社に就職しろ」
私も、学生にはこれを提案しています。博士号が欲しいなら、という場合ですが。
by nomad at 2007-10-53 05:52:53
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
> フォークリフト
小型移動式クレーンも持ってるといいですよ!
(ちょっと自慢www)
>100人の村
これってたとえ話じゃなくて、ホントの統計情報を基にしてるんだよね。
文部科学省「学校基本調査 -平成18年度- 高等教育機関 統計表一覧」(「86博士課程の進路別 卒業者数」 あたりかな)
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/06121219/004.htm
by ひご丸 at 2007-10-11 10:53:11
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
フォークリフト、かっこいいですか?
えへん(違)
momadさん、どうせなら玉掛も欲しかったりします^^;
ただ、今の職場では必要に迫られていないので・・・
(ボイラーとフォークリフトは必要に迫られてたので)
ちなみに、私は今の境遇には満足しています。
まさに職人の世界に弟子入りしたようなもので、技能はいろいろと身に付けられました。
なにより、自分の将来の人生について、前向きに考えられるようになったかな、と。
個人的には、正しい選択だったと思います。
by apj at 2007-10-15 11:09:15
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
小さめのから大きめのまで、メカ物を動かすことになぜか燃えるのは、私がマジンガーZで育った世代だからでしょうか。
もちろんクレーンもカッコヨス。
フォークリフトは、以前の実家裏の工場で活躍する姿を見て育ったので、あんなの動かしてみたいなあ、という気持ちはありました。もちろん、仕事でなさっている方からすれば、そんなヌルい感想を持つなと怒られそうですケド……。
by 通行 at 2007-10-16 18:33:16
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
>文化的価値、学問的価値は昔から変わらずにあると思うが、経済的価値とあまりにも乖離してしまっている
という訳で。
博士課程に進学する前に読むべき本 第2弾:
金と芸術 なぜアーティストは貧乏なのか
ハンス アビング (著), 山本和弘 (翻訳)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/product-description/4903341003/
by 杉山真大 at 2007-10-01 01:17:01
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
博士号で食っていくとなると、今の時分インチキ商売に手を染めるか博士の”虚名”に乗って何かコンサルまがいのことやるしか無いのかしらねぇ。
そう言えば、「火の玉教授」の著作にこんな↓のがありまつね。
『大学院のすすめ―進学を希望する人のための研究生活マニュアル』東洋経済新報社
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4492222456?ie=UTF8&tag=mtcedarcom-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4492222456
by apj at 2007-10-47 02:26:47
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
杉山真大さん、
大槻教授の本は2004年ですよね。就職難が十分認識されてた頃にこんな本を出すなんて。
生活が大変なことになるという実態まで書いてあればいいんですが、どうもそんな感じじゃなさそうですよね。
by mimon at 2007-10-04 05:25:04
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
昔、実家が工務店をしていましたので、小型の「ショベルドーザー」がありました。
小学生のころ、遊びで裏山に穴を掘ったりしていたのですが、子どものことですから、
すぐに飽きて、「技能」習得までは、到りませんでした。
by nomad at 2007-10-28 08:55:28
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
> ひご丸さん
そりゃもう玉掛も持ってますよ!アレはセットで取るものですww
あと、ロープワークは覚えておいたほうがいいです。
日常的に万力締めは荷物を固定するのに重宝しますし、キャンプばかりでなく災害など、イザという時に必ず役立ちます。
by rico at 2007-10-17 07:46:17
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
最初このページを見つけた時、「私のこと???」だと思いました。
メディア研究から始まって「現実」の働く女性の問題を扱っていたら、世の中女性/男性ではなく、金持ち/プアーに別れていることに気付き。。。そして、認めたくないとずっと逃げながらもこと此処に至っては私がワーキングプアだと認めざるを得ない。私もポスドクだ。。しかも、かのT大のだ。。
つまり私は今私自身を救う研究をする「べき」なのだ!
[:くじら:]
by apj at 2007-10-42 23:20:42
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
ricoさん、
うまい脱出方法を見つけられることを願っています。
大学では、博士後期課程の進学者が減ったと嘆いている先生が居ますが、高い学費を払って行き着く先がワーキングプアか失業者への道では、誰も進学したがらないのは当たり前です。
博士前期で就職した場合の給料や就職先や就職率と、博士後期で就職した場合の給料や就職先や就職率を全部明らかにして「博士後期まで行くとこんなにおトク」という宣伝を進学者に対してできない限り、人が来ないのは当たり前です。
by 嫌われ元素 at 2008-02-16 07:58:16
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
偶然このプログを見ました。私は大学を出て社会人となりましたが、辞めて大学院へ進み博士を目指します。
小学生のころから化学が大好きで研究者になると決めていたからです。理由あって回り道しましたが、ずっと気持ちは変わりませんでした。厳しいのは知っていますが、もともと好きなことができれば生活レベルが低くてもよいとの考えでした。apjさんもそうではないのですか。
確率が低いとはいえゼロではないのですし、実力の世界ですから決して悲観することはないと考えてます。
今のような状況になっているのは、研究者になるという信念を持たずに博士課程に行く人が増えたのが原因のひとつじゃないでしょうか。だからそのような人が諦めて去っていくのはある意味当然です。
企業でも研究できると言われますが、私はやはり大学と企業の研究は違うと思います。
実際毎日のようにアカデミックポストに就いている人がいる限り私は諦めずに頑張ります。
by 杉山真大 at 2008-03-57 01:27:57
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
偽学位追及で名高い(?)小島教授とこからの又引きなんですが、林周二氏がこんな指摘をしているんですね。
http://degreemill.exblog.jp/7566550/
「総体として見たとき、文系大学院生の質の悪さということを、僕の出身校である東大経済学部の場合を例にとると、そこでは大学院生よりも一般学部学生のほうに(少なくとも潜在的に)能力の高い優秀な者が多いという事実によって、それをまず説明できる。なぜなら東大の一般学部生で大学院へ進み、高度の勉強をしようとするほどの優秀な素質の学生たちは、本郷の大学院などよりも、米国などの一流の大学院進学を志す傾向があるからである。つまり東大院ではなく、ハーバードやスタンフォードなどの大学院を志す。こうして最近は、わが国の社会科学系大学の定員枠は(どこの大学院でも大幅に募集枠が増えたこともあり)、同じ大学の学部と院では、むしろ後者のほうが門が広く低くなっている」
「欧米の場合は、ある大学の大学院へは、学部卒業生よりも当然のことながら質の高い優秀な学生が入ってくる。したがって、大学院そのものの社会的評価はそこでは高い。日本では、就職できないモラトリアム人間型の学生で、大学院がしばしば占められている」
これは社会科学系(文科系)についての話ではありますけど、理科系でも似た様なことが言えるんじゃないですかね?
「」
by apj at 2008-03-05 03:56:05
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
杉山真大さん、
もしかして、明治維新以降続いている失敗、なんでしょうかね。
最初は外国人講師を呼んだり、留学したりした人達が戻ってきて大学で教えていましたよね。そういう人達を増やして、徐々にレベルの高い教育を普及させ、その弟子達がさらに……と、母国語できちんと教育出来る体制を作ろうとしていたはずなんですが。
理科系でも、似たようなことになる場合は確かにあります。レベルを維持しているのは、審査に当たって、査読を通った学術論文の数を要求しているところです。一応、共通のモノサシとして、どういう論文誌に何報、という基準が理科系では存在しています。レベルが怪しくなるのは、日本語の報文でないと現場が読まないという理由で、英語論文を評価しなかったりする一部の工学系とか……。
by 杉山真大 at 2008-03-15 07:54:15
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
>最初は外国人講師を呼んだり、留学したりした人達が戻ってきて大学で教えていましたよね。そういう人達を増やして、徐々にレベルの高い教育を普及させ、その弟子達がさらに……と、母国語できちんと教育出来る体制を作ろうとしていたはず
それは教育の次元の話であって、研究の次元では無いでしょう。研究職で食っていこうとするくらいの超優秀な学生だと、教育レベルがチャンとしているのは当たり前でトレンドとなる研究を手がけているかってことが興味関心事になっちゃう訳ですし。
理科系だと技術立国という大義名分が働くだけ研究の方にも力を入れられる側面があるとは思えますけど、文科系では時として体制批判が関わっちゃったりしまうし、その逆に体制の権威付けに使われたりってことがあるんで、国際レベルの研究ってのはなかなか意識し難いんじゃないですかね?
by 嫌われ元素 at 2008-04-58 08:08:58
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
apjさんはアカデミックな研究職を目指している学生に諦めるように言われているようですが、私は行き過ぎではないかと思います。現実は厳しいことは私もわかっています。しかしなんとなく博士課程に進んだ人は別として、研究が好きで進む人にあまり否定的な指導は失礼になるのではないでしょうか。
やはり何よりも研究が好きなので研究をやりたい、そのためにリスクを持つことは当然のことです。研究に限らず、好きなことを仕事にするのはそういうことじゃないでしょうか。
夢と希望を壊すような指導はどうかなと私は思います。
by nomad at 2008-04-44 09:34:44
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
↑
どんな職業に就こうと、そりゃあ好きにすればいい。
プロレスラーだろうとレーサーだろうと政治家だろうと科学者だろうと。
だけど、その職業にどんなリスクがあるのかを良く知っておいた方がいい。そういうことだよ。
ちょっと調べてみなよ。博士号を取った人の就職率を。生涯賃金を。自殺率を。
僕が調べたところでは「ベトナム戦争並みの負け戦なので近代的な文化を持っているなら撤退しろ」って数字だった。
それでも挑むなら、承知の上でどうぞ。
ただ、市場が狭い業界なんで、あんまり希望者が多いようだと全員餓死ってこともありうるから、(これは比喩ね)大して才能が無いようなら先に戦線離脱してくれた方がお互いのため、ってことも忘れずに。
by apj at 2008-04-03 10:44:03
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
嫌われ元素さん、
人生棒に振る覚悟で行く人や、きっちりリスクヘッジした上で行く人は、私ごときが何を言ったって行くでしょうから、別に構わないんですよ。
好きを仕事にするってのは、度はずれた搾取をされる道につながっているという危険もあります。
苦にならないことを仕事にするにはどうしたらいいかとか、絶対やりたくないことをせずに済むにはどうしたらいいか、という方向で考えた方がまともな人生を歩めると思います。
by 技術開発者 at 2008-04-13 02:46:13
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
こんにちは、apjさん。
なんていうかな、私はいろんなたとえ話で法律説明をするんだけどね。その一つに民法第90条の「公序良俗に反する意思表示の無効」の説明に「震災における粉ミルクの暴利無効」なんて話があるんですね。こんな話です。大きな地震で震災後の火が迫った時に、食料品屋の親父が何も考えずに運び出した荷物が粉ミルクだったとしましてね。でもって避難所に行ったら、乳飲み子を抱えた被災者がミルクが無くて困っていたとしましょう。その時、「これぞチャンス」とばかりに、その粉ミルクを普通の10倍100倍の値段で売りつけるとどうなるか、なんて話です。その時は、本当に困っているから、「100倍でも買います」と言ってくれるかも知れないけど、後でこの民法第90条の「公序良俗に反する意思表示の無効」を主張されると妥当な金額以上の代金は返せと言う判決になるかも知れません、なんてたとえ話なんですね。私は、この話をするときに、「まあ、法律がどうこうという話をしておいて言うのも変だけど、そういう法律以前に、『人として、人の弱みにつけ込むような生き方』をどう考えるかは考えて欲しい」みたいな事を言うわけですね。
なんていうかな、「研究でおまんま食う」という生き方は、大変ではあるけど、やはり人を惹きつける魅力は有るものだろうと思います。いろいろと、その人に不利な雇い方をしても、希望者は絶えないかもしれない。でもね、「だから、無茶苦茶な雇い方をしても良いんだ」みたいになるとしたら、それはその社会が『人として、人の弱みにつけ込むような生き方』が当たり前になっている社会だ」という意味では無いのかななんて思うんですね。そういう社会に生きることが幸福かどうかは、雇われる方だけじゃない、雇う方もきちんと考えなくてはならない話なんだろうと思います。
by nomad at 2008-04-58 08:13:58
Re:博士課程に進学する前に読むべき本
こんにちは、技術開発者さん
おっしゃることはわかります。社会の側が研究者をもっと大切にすべきだと僕も思います。なんと言っても科学は大局的に見て、我々の社会を合理的に発展させていっていると思いますから。
そこらへんを理解した上で、ですが。
僕らは「愚行をする権利」を手放してはいけないとも思うんですよ。
僕らは非合理な試みもあえて行うべきだと思うんですよ。そうした非合理も選択肢に加えるべきだと思うんです。