利用厳禁:懲戒請求テンプレート
モトケンさんのところで懲戒請求テンプレートサイトへのリンクがあったので貼っておく。「請求の理由」は次の通り。これは参考のために貼ったのであって、上記サイトの主張(最高裁判例を無視)を信じてはいけないし、上記サイトで公開されているテンプレートを使って懲戒請求を行ってはいけない。テンプレートは、法律文書としては箸にも棒にもかからない出来損ないである。
被調査人は、1999年4月14日山口県光市における母子殺害事件の差し戻し審第1回公判において、
見ず知らずの女性を殺害後強姦したことを「死者を復活させる儀式」、
赤ん坊を床にたたきつけたのは「ままごと遊び」、赤ん坊の首をひもでしめあげたのは「謝罪のつもりのちょうちょ結び」等
科学的にも常識的にも到底理解できないし理解したくもない
主張を並べ立ててまで被害者を侮辱し死者の尊厳を傷つけています。
また、この差し戻し審において地裁高裁等では被告自身が認めていた殺意を上記のような非科学的、
非人道的な主張を行ってまで否定しようとしておりますが、これらの行為は、意図的に裁判の遅延を試みているとしか思えません。
これらの行動によって、被調査人は、日本における裁判制度と弁護人制度への信頼を傷つけ続けています。
あのように不誠実で醜悪な主張及び行動を繰り返す人間が弁護士としてふさわしいとは思えません。
以上の理由により私は、被調査人が上記控訴審においてとっている行動が弁護士法56条に定める所属弁護士会の秩序または信用を害し、その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行であると考えます。
よって弁護士法第57条、58条に基づき、請求の趣旨の通り求めます。
まず、弁護の内容について。刑事弁護の弁護人は、被告人の主張に反することを主張するわけにはいかないのだから、被告人が行った「非人道的」主張に沿った弁護をしたとしても、弁護人を非難する理由にはならない。被告人のトンデモ主張を受け入れて弁護したからといって弁護人をいちいち懲戒していたのでは、刑事訴訟の手続きなど成り立たない。懲戒請求者が「科学的にも常識的にも到底理解できないし理解したくもない」と思ったとしても、そんなものは弁護人を懲戒する理由にはならない。この懲戒理由を主張することの方が、よっぽど、日本における裁判制度と弁護人制度への信頼を傷つけるものである。被告人が「不誠実で醜悪な主張」をしても、弁護人はそれに沿って弁護するのが、弁護人制度の信頼の維持にかなった行動である。
次に、裁判手続きについて。差し戻された以上もう一度事実審を重ねるしかないので、その手続きの中で主張を行うのは、裁判所の訴訟指揮に従った上でのことである。そうである以上、「意図的に裁判の遅延を試み」たことにはならない。もし、「意図的に遅延を試み」たことが明らかであるならば、それを止めさせるように訴訟指揮を行うのは裁判所の仕事である。裁判所が「意図的に裁判の遅延を試み」たと判断せず、公判を続けているのであれば、その判断を尊重すべきである。裁判所が認めている公判手続きに対して、外から「意図的に裁判の遅延を試み」たなどというのは、言うだけならば言論と表現の自由の範囲だからかまわないとしても、せいぜい井戸端会議のネタにとどめておくべきことである。
従って、この請求の理由には理由と呼べるような内容が含まれていないので、法的に有効なものとはいえない。「マスコミの報道を見た」程度しか事情を知らないままに、このテンプレートに基づいて懲戒請求した場合は、民事の不法行為責任を問われても仕方がないだろう。最高裁判例は、懲戒請求にあたって、「通常人が普通の注意を払えば、相当の根拠がないことが分かる程度」の調査・検討義務を尽くすことを求めている。る。
常識的に考えて、弁護士(だけではなく誰でも)を懲戒せよと請求するのに、個別の事実関係を確認できる立場にもいないのに、マスコミの報道を根拠に他人が書いたテンプレート文書を気軽に使うというのは、どう見てもおかしい。
弁護士に対する懲戒請求は誰でもできるが、誤爆すれば逆に提訴されるリスクも負う。一般人が訴訟に耐えられるだけの理由を提示して懲戒請求できるのは、実際問題として、懲戒請求したい弁護士に対する依頼人であった場合か、懲戒請求したい弁護士が紛争の相手方の代理人である場合に限られるだろう。懲戒に値する弁護士の非行とは、渡すべき賠償金を渡さず着服したとか、ろくに弁論に出ず必要な手続きをしなかったために敗訴したとか、刑事弁護の場合であれば被告人の主張を全く無視した弁護をした、といったものが考えられる。
なお、自分の判断でこのテンプレートを見て懲戒請求をした人は、やったことについて責任を負うしかないのだが、今回は、懲戒請求した人の中に、橋下弁護士のテレビでの発言に煽られて出した人が混じっている(もしかしたら煽られた人の方がずっと多いのかもしれない)。その橋下弁護士は、弁護団から多数の懲戒請求を引き起こして業務を妨害したということで、不法行為を理由に提訴されている。注意すべきことは、現在、橋下弁護士の利害と懲戒請求をした人の利害が対立していることである。懲戒請求が橋下弁護士の発言と無関係に行われたのであれば、橋下弁護士のテレビでの発言の責任はそれだけ減り、その分、懲戒請求をした人の責任が増えることになる。つまり、橋下弁護士としては「請求は自分の発言と無関係」と主張して懲戒請求者各人に責任を負わせた方が利益になるし、懲戒請求した人々は(まだ提訴はされていないが、将来もし提訴されることになった場合には)「プロの弁護士が言うのだからとつい信じてしまった」と主張して橋下弁護士に責任を負わせた方が利益になる。
民事の不法行為は、故意と過失を区別していないので、結果が発生すれば責任を問われうる。この部分は、故意の有無を問題にする刑法とは異なっている。
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