もっと簡単な話なのだが
社会学玄論の「ニセ科学批判の意味空間」にツッコミを入れてみる。NATROMさんのところでも、「ニセ科学批判者は科学を絶対視しているか?」というエントリーが上がったので、私のところでも議論してみる。
人によって科学の定義が異なるおそれもある。単に科学者による発言や発明品を全て科学と思う人もおれば、ニセ科学批判者のように科学哲学的な公準で厳密に考える人もいる。
少なくとも私は科学哲学的な公準は採用していない。「科学を装う」については「通常人の常識で見ると科学(あるいは科学的根拠がある)と誤認することがある」という、むしろ法解釈の基準に沿ったものを提案しているし、「科学でない」については、「通常人」のかわりに「専門家」を想定して判断することになるだろうと考えている。「専門家の判断」がどのようなものになるかは、例えば公正取引委員会の景表法4条2項の運用指針を読むとイメージがつかめるはずである。
物理的リアリティ(対象と認識の一致)の世界では、科学が唯一絶対的な正しい真理であるという前提において、はじめて装おうことが意味をもつと考えられる。
この部分は間違っている。「科学が唯一絶対的な正しい真理である」という前提は不要で、そのかわりに「科学とはどのようなものかという専門家の間での共通認識がある」が「その共通認識の全てが必ずしも通常人にまで共有されていない」という前提があればよい。
そして、ニセ科学批判も、科学の立場からなされるのならば、科学が唯一絶対的な正しい真理であるという暗黙の前提をもつことになる。
この部分は間違い。「科学とは何か」ということについて、一定の合意があれば良い。グレーゾーンはあってもよいが、「これはどうやったって真っ黒だろう」というものについて合意がとれていればそれでよい。「これは真っ黒」と「専門家」なら誰でも判断するものを、「かなり白です」と敢えて触れ回るようなことをされた場合には、「それは違う」と言うしかない。
ニセ科学批判者たちが、なぜそんなに熱くニセ科学やニセ科学批判批判を批判するのか、その理由が釈然としないもどかしさを感じる。
その程度のこともわからないのだとすると、おそらく、merca氏は自身の専門を相当軽んじているに違いない。
例えば、○○工務店を経営して、マイホームを建てたいお客さんに、技術的基盤のある、防火耐震に気を配った設計施工をしていたとする。そこに、××工務店が出てきて「ウチなら同じ機能の家を□□工法でやるので10分の1の価格で」などと商売を始めたとしよう。□□工法はそれらしいパンフレットで宣伝され、素人目には良さそうに見えた。しかし、同じ機能を10分の1の値段で実現する□□工法があるという技術的根拠は、今の建設業の技術的完成度からみて、何一つ存在しなかったとしよう。○○工務店としては「□□工法にはこれこれの理由で根拠が無いから、確立した従来通りの工法をウチはお薦めします」と言うしかないのではないか。そのうち、「□□工法」に騙される人がたくさん出てきたら、今度は建設業界を挙げて「□□工法を騙る悪徳工務店にご注意!」と、消費者に注意喚起することになるだろう。
工務店の例で書いたが、どの業界でも同じである。まっとうな商売をしているところに、粗悪品でぼったくる悪徳商法が進出してきたら、「最近は粗悪なものを売りつける商売が流行っているから気を付けて下さい」位の事は言うものである。粗悪品の流通を許したら、消費者も被害を受けるが、まっとうな商売をしている側だって大打撃を蒙る。
自身の専門を重んじるのであれば、自身の専門が偽られて他人を騙すことに使われているのを見たら、注意喚起をするのが当然ではないか。
科学だけが正しいとは限らないという私のような相対的な認識をもっている者には不思議にうつるのである。科学が唯一絶対的な正しい真理と堂々と思っているから熱く議論するのであると正直に言えばいいと思う。ポストモダンが生み出した懐疑論者やニヒリストたちの前で、科学は文化を越えた唯一絶対的な真理であると単純にいうのは、恥ずかしいと思っているのかと思う。
正直に言おう。自分が生業にしている仕事のイメージが悪いことに利用されているのを見たら、それを防ぐために注意喚起をするのは、人として当たり前のことだと思う。ポストモダンや懐疑論者やニヒリストだということが、自分の専門について、知識の差を利用した騙りが横行しているのを放置することを正当化するとは、ちょっと考えられない。
【追記】
このあたりの厳しさは、職種によっても相当異なる。例えば、資格もないのに「債務の整理をしてあげますよ」などと持ちかけて怪しげな一本化をやったりすると、弁護士であることを騙らなくても、非弁活動ということで処罰される。インチキ債務整理屋が跋扈したら社会的弊害が極めて大きいし(大抵そういう商売はヤ○ザが絡んだりするし)、弁護士業界全体の信用にもかかわるから、この手のことをやったら最後、それはもう弁護士が腕によりをかけて熱心に狩り出して刑事と民事の両方できっちり責任を負わせてくれるはずである。
これが科学者やら技術者になると、国家資格である士業ではないから、ニセ科学言説を振りまいた人が直ちに処罰されるわけではない。が、ニセ科学言説が広まるのを放置しておくと、科学や技術の業界と業界の提供するサービスの信用低下を引き起こすことは確かなので、専門家の側が「それはニセ」とはっきり言った方が望ましいだろう。
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