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磁気活水器や波動に毒されてしまった人のための物質科学入門(案)

Posted on 7月 13th, 2008 in 未分類 by apj

 訴訟掲示板の方で、8-OHdGさんにいろいろ書いていたら、まとまったものを書いた方が良いのではないかと思った。すぐには完成させるのは無理なので、項目だけ立てておく。

○物質は原子からできている
 原子はどれも同じ。日本の水素原子もアメリカの水素原子も宇宙空間を漂っている水素原子も全部同じ。酸素も同様。
 ※「波動」の話はナンセンス。電子の波動性のおかげで、元素の周期表で分類が足りている。
○分子ってどんなもの?
 原子の配置(原子核の位置)が特定のパターンになっていて、そのまわりをぼやっとした電子雲が取り囲んでいる、というもの。熱によって、原子核の位置がお互いに微妙に揺らいでいて、その影響で、電子雲の重なり方がずれたり形が変わったりする。このずれや形の変化も、ずれっぱなし、変化しっぱなしじゃなくて、揺らいでいる。
○水分子はどれも同じ
 H2O、どれも同じ酸素と水素からできていて、かつ、H-O-Hの配置(結合長、結合角)は原子の性質から決まってしまうから。
 ※もっとたくさんの原子からできていて、分子のつながり方は同じでも、形を変えて(角度など)いろんな配置をとれる物質もある。
○水素結合って何?
 水分子のHと、別の水分子のOが引き合う相互作用。Oは電子を強く引きつけるので負に帯電し、Hは酸素に電子を一部持って行かれた恰好で正に帯電している。水素を仲立ちとして電気的に強く引っ張り合う結合。
 他には、たとえばアルコール分子も分子間水素結合を持つ。
 水素結合は、特定の方向でしか結合しないとか、適切な距離でないと結合できないという性質がある。
 水は、分子のサイズに比べて水素結合が強いので、一般の有機溶媒と比べて、変わった性質が出てくる。
○水は電気に影響されるか?
 外から電気的に引っ張られると、ごくわずかだけど、電場の方向を向きたがる。分子に正負の電荷のかたよりがあるから。でもごくわずかだけ。熱運動で乱雑に動き回る効果の方がずっと大きい。何となく電場の方向を向いていることが確率的に多いかな、というイメージでよい。電場を取り除いたら、すぐに元にもどってしまう。
○水は磁気に影響されるか?
 水の磁気的性質は、とても弱い反磁性体。強い磁石を近づけると、水は磁石から遠ざかろうとする。外からかけている磁場を取り除いたら、磁場の影響は後には残らない。
○鉄釘に磁石を近づけたら弱い磁石になって、磁場の影響が後に残るけど、水ではどうして残らないのか?
 水では、1個1個の分子が、磁場を取り除けば元に戻ってしまう。その上、分子が好き勝手な方を向いて動き回っているから、「上向きに磁場がかかっていた」などということを覚えておけない。
 固体の場合は、原子の位置が固定されているので、磁化したらそのまま保たれる(注:強磁性体の場合)。磁石になった鉄だって、加熱して一旦溶かして固めたら、磁石になってたことなんか忘れてしまう。水は室温でも忘れるってこと。
○水素結合を観測するのにいい方法は?
 ラマン散乱や赤外吸収で、OH伸縮振動のところを見る。誘電率を測定する。
 NMRもあるけど、T1緩和時間を見ないとだめ。
○ラマン、赤外では何がわかるの?
 分子を作っている原子が熱で揺らぐと、電子雲が歪んだり、電子雲の中心と原子核がずれたりする。すると、正負の電荷がずれて、分子全体として電荷の偏りが変わったり、形が歪んだりする。この変化が、赤外線の吸収や光の散乱を測定するとわかる。
○誘電率で何がわかるの?
 分子が動き回りながら、何十個か集まると、集団としての電荷の偏りができる。分子のまとまりで見た場合、どの程度偏ってるかの指標が誘電率になる。
○水素結合が変わると測定結果が変わるの?
 ラマンや赤外の場合、分子の振動は、もともとのOHの結合(これはあんまりかわらない)と、OHの周りがどうなっているか(つまり水素結合してるのか、他の分子が居るのか、イオンにくっついているのかなど)の両方で決まる。OHの結合はそうそう変わらないが、OHのまわりの環境はいろいろなので、それに応じて変わる。
 バネでつないだボールを弾いたら、大体の振動はバネの強さや長さとボールの重さで決まるけど、周りに邪魔するものがあったら、自由なときと比べて動きが変わるというのをイメージすればよい。
○誘電率と水素結合はどういう関係があるの?
 普通の水の室温での誘電率は80位。これは、電気的な偏りを持った水が、通常通り水素結合してこうなっている。もし、水素結合が無くなって、水分子が全部ばらばらになったら、もっと小さくなるはず。
○水素結合は切れないのか?
 温度と圧力を上げて超臨界状態に近づけていけば、分子運動が激しくなって密度が下がる(隣が遠くなる)から、結合していない分子が増える。水の場合だと、水素結合せずに混合する有機溶媒に、水分子を分散させると、分散した水分子の水素結合は切れる。


ここからは旧ブログのコメントです。


by anonymous coward at 2008-07-42 02:56:42
イオン

トルマリン水のヒドロキシルイオンの説明に嵌まっている知り合いの説得に苦労しているので,イオンの説明も加えていただけると助かりますです.


by mimon at 2008-07-22 05:45:22
既視感があって

> ○物質は原子からできている
どこかで見たタイトルだと思ったら、「水を理解するために」のページが
http://atom11.phys.ocha.ac.jp/water/text01/index.html
未完のままになっています。
あの続きに書いていけば良いのではないでしょうか。


by apj at 2008-07-18 08:08:18
続きも気になってます

mimonさん、
 続きも気になっています。
ただ、現状のままだと、コンテンツが増えると大変そうなので、どうしようか思案中。CMSを入れようかどうしようかって話ですけど。


by MJS at 2008-07-07 03:33:07
つっこみ

些細なつっこみです。

>○水素結合って何?
> 水は、分子のサイズに比べて水素結合が強いので・・・

サイズは強い弱いといわないので日本語としておかしいです。
意味はわかりますが、入門ですし気をつけてはいかがでしょうか?


by apj at 2008-07-27 03:44:27
了解

MJSさん、
 解説を書く時は、他の分子間水素結合を持つ分子に比べ、水素結合が強いのに分子の大きさが小さいから、水素結合の影響がより強くでる、といった表現にします。まあ、沸点や融点の話も一緒に書く予定なので、誤解はされないようにできるとは思います。


by samu at 2008-08-22 18:38:22
さらに提案

> 他の分子間水素結合を持つ分子に比べ、水素結合が強いのに

最後の 「のに」 が気になります。
他の分子間水素結合を持つ分子に比べ、水素結合が強く分子の大きさが小さいから、水素結合の影響がより強くでる、では如何でしょう。