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対策を間違えているのでは?

Posted on 9月 24th, 2008 in 未分類 by apj

 Yahoo経由産経新聞の記事より。

大学の高校復習に補助金 来年度から文科省 学力低下に対応
9月24日8時24分配信 産経新聞

 希望すれば誰でも大学に進学できる「全入時代」に事実上突入するなか、文部科学省は来年度から、新入生に高校時代の授業内容を復習させる補習授業などの取り組みに補助金を交付する方針を決めた。大学生の学力不足が指摘されるなか、各校が学生の学力向上に取り組むよう促す狙いだ。

 文科省の調査によると、高校時代の補習授業を導入している国公私立大は平成18年度時点で33%(234校)。国立では、香川大工学部が18年度から新入生を対象に、数学と物理の補習授業を始めている。

 少子化の一方で大学数が増え続けて進学が容易になり、「全入時代」に事実上突入し、学生数を確保するために推薦・AO入試で一般入試を経ない大学生も増えている。このため、大学関係者からは「高校の授業内容の理解が乏しいため大学の専門教育についていけない学生が増えてきた」との指摘が上がっている。

 このため、文科省は、大学生らに高校の授業内容を復習させる機会を広げる必要があると判断した。

 来年度から行われる取り組みは、大学、短大、高等専門学校から公募。同省設置の有識者委員会の審査で合格すれば、年間2000万円以内の補助金を1~3年間交付する。

 大学生の学力向上策として、高校の授業内容の復習のほか、文科省は、安直な単位認定を厳しくし単位を実質化させるための学習支援策▽成績評価の厳格化-など学生の学力向上を支援する取り組みも各校に促す。

 大学生の学力低下に詳しい和田秀樹国際医療福祉大教授は「中学レベルの学生を受け入れてきた大学側にも問題がある。補習授業などへの補助金交付を否定はしないが、大学入学段階で一定の学力を保証する『高大接続テスト』を導入し、入学時点で厳しくすることが先決ではないか」と話している。

 高校で一定の学力を身につけていないのに、高校卒業の資格を与えることが根本的に間違っているのではないのかと。補助金を出すのなら、大学にではなく、学力が身につかなかった生徒をケアするための費用として高校に出す(つまりは留年者に対応するためのの費用)のが本来の姿のはずである。記事のやり方だと、たまたま大学に受かった人は救済されるが、そうでなかった人は、学力不十分なまま高卒の肩書きだけあるという状態になってしまう。高校卒業要件のところで絞れば、大学進学の有無にかかわらず、高校で身につけさせるべき内容(指導要領の内容)を修得させるためのケアが可能になる。
 現状のやり方では、結果として、高校卒業資格も成績証明書も大学入試に受かったという事実も(全部ではないとしてもそれなりの部分で)学力の保障にはなっていないのだから、接続テストをやって、高校や大学の勝手な都合でお手盛りの評価をされないように、もう少し厳格な資格試験のような位置付けで運用することも必要ではないか。
 それに、そもそも、AO入試や推薦入試をやるように大学に圧力をかけたのは当の文部科学省なのだから、補助金云々の前に、学力中心の試験に戻すように大学に通達でも出すのが先だろう。AO入試や推薦入試をさせたことについて何の反省もないというのは一体どういうことなのか。反省の必要が無いというのであれば、「学力試験を経ない学生が学力不足で大学で入ってから困ったとしても、大学に補助金を出してでもAO入試や推薦入試を維持させなければならない必然あるいは理由」の説明をしてもらいたいのだけど。
 なお、大学に対して単位の実質化を要求するのなら、高校に対しても教育内容の実質化をさせてもらいたい。もちろん、中学校や小学校に対しても。前にも書いたが、小中高と教育内容が身についていない生徒を卒業させるという、教育業界ぐるみの「粉飾決算」が横行していることが本当の問題ではないのだろうか。


ここからは旧ブログのコメントです。


by 憂鬱亭 at 2008-09-41 05:26:41
高校教育には

 こんばんは。
 高校での教育には、可能な限り公費をかけたくないのでしょう。
 また、今や高校卒業で就職する者は、低廉で従順な労働力としてのみ必要なので、学力の保障は考えたくないのでしょう。
 下手に知恵をつけて労働法規などを覚えられてはサービス残業させるのが難しくなるじゃないですか。計算力が身について給与を細かくチェックされても困るんですよ、きっと。


by 北風 at 2008-09-54 07:34:54
Re:対策を間違えているのでは?

>高校で一定の学力を身につけていないのに、高校卒業の資格を与えることが根本的に間違っているのではないのかと。

同意です。高校の存在意義というか、高校は何を生徒に身につけさせるところか、という根本的な問題にもつながりますが。
小・中学校に至っては義務教育ですから、何を生徒に身につけさせて卒業させるのか、という点が問題として。

>教育業界ぐるみの「粉飾決算」が横行していることが本当の問題ではないのだろうか。

ここのところ、企業が「粉飾決算」するときというのは、そうでもしないと持ちこたえられないような瀕死状態であることも多いのですが。
本当の問題としては、教育業界がその「粉飾決算」をするまで追い込まれているところにあるかと。

その要因をどうにかすることに金かけないと対処療法にもならないのでは、と。


by VOT at 2008-09-51 09:17:51
高卒に失礼過ぎませんか

定員われで願書を出せば誰でも大学に入れる時代、
高卒を選ぶ方は学力不足よりは家庭の事情や他の目標が
ある方も多いと思いますが。
数を調べたわけではありませんがね。


by BJ-cedar at 2008-09-56 10:39:56
どっちが悪いのだろう

うーむ。
全くおっしゃる通りだと思うのですが、これってこんな施策を考えて予算要求した文科省の問題なのか、文科省は高校教育の充実も予算要求はしたけど、大学の復習の方にしか予算を付けなかった財務省の問題なのか・・・
(官僚もapjさんが考えているようなことを官僚が考えてないはずはないと思うんですが、どうして実施する施策が結果としてこんなことになってしまうのかには興味あります)


by なる at 2008-09-52 08:54:52
Re:対策を間違えているのでは?

大学の補助金をなくして統廃合を進めれば良いのではないでしょうか?
財政出資減らせて、レベルがアップして万々歳。脱落者も増えるでしょうが。


by apj at 2008-09-19 09:43:19
よくわからない方向に進んでいる気がするんですよねぇ

北風さん、
>本当の問題としては、教育業界がその「粉飾決算」をするまで追い込まれているところにあるかと。

 追い込まれた、というよりは、タテマエだけ維持しようとしたことの積み重ねのような気がします。

VOTさん、
>高卒を選ぶ方は学力不足よりは家庭の事情や他の目標がある方も多いと思いますが。

 私のエントリーですが、高卒だから学力不足ということを前提にはしていません。大学に進学する人の中にも、そうでない人の中にも、高校の教育内容を十分身に付けられなかった人が居ることが予想されるのに、記事の救済策では、たまたま大学に行った人だけが救済される(つまり、行かなかった人は本来高校で身に付けるべき内容を十分習得しないまま)になることが、何だか不公平だなぁと思ったわけでして。
 高校の内容を、1年余分にかけてもがっちり高校で習得させる方が、高卒で就職する人も大学に行く人も両方が幸せなんじゃないかと。

BJ-cedarさん、
 仰るとおり、どうしてこんなちぐはぐな結果になるのかが謎です。

なるさん、
 >大学の補助金をなくして統廃合を進めれば良いのではないでしょうか?
 統廃合には同意しますが補助金は(奨学金が奨学ローンである現状を考えると)授業料を安価にするためには必要ではないかと。大学進学のリスクを上げすぎる(=貧乏人が進学すると間違いなく大借金を背負う状態にする)と、ちょっとまずいような……。
 統廃合が進めば、私も失業するかもしれませんが、多すぎる大学が社会にとって良いかどうかはまた別問題ですし。


by 北風 at 2008-09-38 15:30:38
Re:対策を間違えているのでは?

>>本当の問題としては、教育業界がその「粉飾決算」をするまで追い込まれているところにあるかと。
>追い込まれた、というよりは、タテマエだけ維持しようとしたことの積み重ねのような気がします。

そうですね。
方針というか施策が、タテマエだけ維持しようとして適切な対処になっていないと、どんどん現場にシワヨセがいくので、現場は追い込まれる。
施策自体が適切でなかった、ということは間違いないのですが、じゃあどうするか、となると、まず現場をなんとか立て直しにいかないといかんのでは、と。


by VOT at 2008-09-06 00:57:06
Re:対策を間違えているのでは?

あー、すみません。アンカうち忘れました(^^;
私のコメントは 憂鬱亭さん宛てです。
不愉快な思いさせて申し訳ありません。


by apj at 2008-09-24 04:11:24
了解です

VOTさん、
 了解です。
 文字のみのやりとりですから、お互いに、行き違いはいつでもあります。追加説明で了解できればそれで良いかと。


by 憂鬱亭 at 2008-09-56 04:54:56
説明不足でした。

VOTさん、私は高校の教員です。

 冬場摂氏10度で暖房が止められる教室で授業するなど、
高校教育の現場にカネが落ちてこないことを私自身が怒っているので、ああいう文章になりました。

 政治的な発言力が強い官僚や財界トップの人たちが、「高卒に学力は不要だ」という政策を採っているので、高校で充分な勉強が出来ない、ということを言いたかったのです。

 今や高校卒業で就職するか大学に進学するかは、おっしゃるとおり経済的な事情によって決まることが多いです。
 なのに、企業も社会も大卒の方が学力が高いかのように扱い続けています。確かに、勉強しなおす時間的なゆとりは大学に行けば生まれやすいのでしょうが、実際に勉強するかどうかは大学次第、学生次第ですね。


by 北風 at 2008-09-53 20:58:53
Re:対策を間違えているのでは?

 タテマエでいくなら、高校卒業時に、高校で身につけさせるべき内容(指導要領の内容=学力含む)を履修させているはずですね。
 で、引用記事は、そのタテマエが崩れている、ということを認めてざるをえない結果のはずなんですが、認めたような内容になってない。

>政治的な発言力が強い官僚や財界トップの人たちが、「高卒に学力は不要だ」という政策を採っているので、高校で充分な勉強が出来ない、ということを言いたかったのです。
>高校教育の現場にカネが落ちてこないことを私自身が怒っているので、ああいう文章になりました。

 「タテマエが崩れている」ことに対処しようとすれば、普通は現場を立て直そうとするはずですよね。「タテマエは崩れていないんだ」的な見栄を張らない限り。

 ただ、どうしたらいいんでしょう?
小・中学校と違い、義務教育ではない。
>実際に勉強するかどうかは大学次第、学生次第ですね。
というところは、高校生にも当てはまる。

少なくとも、現場の声・実態に対して適切な対処・施策がなされるようにならないと改善もままならないのでしょうが、どうしたものか。


by 憂鬱亭 at 2008-09-21 08:54:21
Re:対策を間違えているのでは?

こんばんは。

 もう一度エントリー最初の引用記事を読み返して見ました。
 要するに、大学に補助金を増やしたい、という趣旨の文部科学省の方針を示しているんですよね。
 で、その理由として、「大学全入時代」で「学力不足の学生が増える」から「補習にかける費用を補助しよう」ということなんですね。

 結局、大学に補助金を増額するのが目的で、理由はおまけのような気がします。萩の次に破綻する4年制大学はどこか、というのがうわさになるほど、今、私立大学の経営はピンチですから。

 もっとも、補助金が支出されることになったとして、どういう基準で大学ごとに割り振るのか、疑問は残ります。