肩書きの悪用に厳罰?
時事ドットコムの記事より。
北大准教授を諭旨解雇=「神世界」霊感商法に関与か-自宅マンションにサロン
北海道大は30日、霊感商法事件でトラブルが多発している有限会社「神世界」(山梨県甲斐市)の運営に関与したとして、同大電子科学研究所の竹市幸子准教授(44)=認知神経科学=を諭旨解雇処分にしたと発表した。退職届の提出を勧告しており、応じない場合は懲戒解雇とする。
北大によると、竹市准教授は助教授として赴任した2004年3月ごろから、札幌市中央区の自宅マンションを神世界のヒーリングサロンに提供。肩書を利用し、自ら勧誘も行っていたという。サロンは今年7月に閉鎖された。
准教授は北大に対し「勧誘はしていないし、運営にはかかわっていない」と説明したが、大学側は寄せられた苦情を基に調査し、准教授の関与を確認したという。(2008/12/30-13:49)
霊感商法に荷担すればリスクがあるし、肩書きを悪用して勧誘したことが本当なら、最低でも民事的責任を負うのが当然だと思うが、疑問がいくつか。
報道によれば大学の調査結果と本人の主張が真っ向から対立している。大学には、解雇の根拠を見つけるほどの調査能力があるのか?「関与を確認」といっても、「部屋は貸したが霊感商法とは知らず善意でサロンを運営していただけ、無料のボランティアのつもりだった」なのか「部屋を貸していたが有料で貸していて無届けの兼業にあたって問題」とか「霊感商法と知った上で部屋を貸して利益を得ていた」とか、関与の程度は様々だろうと思うのだが、今回のケースの事実関係はどうなっているのだろう。このままいけば解雇をめぐって紛争発生が予想されるが、そうなった場合の攻防戦がどうなるのだろう。
北大の就業規則を見てみる。
(解雇)
第22条 大学は,職員が次の各号の一に該当した場合には,解雇することができる。
(1) 勤務成績が著しく不良の場合
(2) 心身の故障のため職務の遂行に支障があり,又はこれに堪えない場合
(3) 前各号に定めるもののほか,その職務に必要な適格性を欠く場合
(4) 国務大臣及び国会議員並びに地方公共団体の長及び議会の議員その他の公職に就任することにより,大学の業務を遂行することが困難な場合
(5) 業務量の減少その他経営上やむを得ない事由により解雇が必要と認めた場合
2 大学は,職員が次の各号の一に該当した場合には,解雇する。
(1) 成年被後見人又は被保佐人となった場合
(2) 禁錮以上の刑に処せられた場合(誠実義務)
第27条 職員は,別に定める場合を除いては,国大法に定める国立大学の使命と業務の公共性を自覚し,誠実かつ公正に職務を遂行するとともに,その職務の遂行に専念しなければならない。
(法令等の遵守)
第28条 職員は,その職務を遂行するに当たっては,関係法令及び大学の規則等を遵守し,上司の指示命令に従ってその職務を遂行しなければならない。
(信用失墜行為の禁止)
第29条 職員は,職務の内外を問わず,大学の信用を傷つけ,又は職員全体の不名誉となるような行為をしてはならない。第33条 職員は,国立大学法人北海道大学役職員倫理規程(平成16年海大達第103号)を遵守し,職務に関して直接たると間接たるとを問わず,不正又は不当に金銭その他の利益を授受し,提供し,要求し,若しくは授受を約束し,その他これに類する行為をし,又はこれらの行為に関与してはならない。
(兼業)
第34条 職員は,職務以外の他の職を兼ね,職務以外の他の事業若しくは事務に従事し,又は自ら営利企業を営んではならない。ただし,国立大学法人北海道大学職員兼業規程(平成16年海大達第104号)の定めるところにより許可を受けた場合はこの限りでない(懲戒)
第43条 大学は,職員が次の各号の一に該当する場合には,懲戒することができる。
(1) この規則又は法令に違反した場合
(2) 職務上の義務に違反し,又は職務を怠った場合
(3) 職員としてふさわしくない非行のあった場合
2 前項に定めるもののほか,必要な手続きに関しては,国立大学法人北海道大学職員の懲戒の手続きに関する規程(平成16年海大達第99号)の定めるところによる。
(懲戒の種類)
第44条 懲戒の種類は,次の各号によるものとする。
(1) 戒告 始末書を提出させ事由を示して戒める。
(2) 減給 減給1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えず,総額において一給与支払期間における給与の10分の1以内において給与を減ずる。
(3) 出勤停止 1日以上10日以内を限度として出勤を停止し,その間の給与を支給しない。
(4) 停職 1箇月以上1年以内を限度として出勤を停止し,その間の給与を支給しない。
(5) 諭旨解雇 退職届の提出を勧告し,これに応じない場合は,懲戒解雇する。
(6) 懲戒解雇 予告期間を設けないで即時解雇する。この場合において所轄労働基準監督署長の認定を受けたときは,予告手当(平均賃金の30日分)を支給しない。
27条は訓示規定に読めるので、処分の根拠にするには曖昧過ぎる。28条は、「職務の遂行」が条件だから、職務と関係なく個人的な活動をしていたものについては適用できない。29条も直接適用すると手続きが安定しないのではないか。信用を傷つけたか、不名誉かどうか、については、必ずグレーゾーンがある上に、その程度と処分の内容のバランスも問題になる。33条は、職務と関係のない個人的な活動には適用できない。適用できるとしたら34条で、兼業の届け出をせずに利益を得た、といったことを立証することになるのだろうか。
カルトに荷担することを容認すべきではないと思うが、大学の規則適用のやり方によっては、逆にまずいことにならないかが心配である。
私が何にひっかかっているかというと、極めてよろしくない結果を発生させたケースだという理由で、結論さえ合っていれば良いという考えのもとに無理な形で規則を適用して懲戒に持って行くと、後々副作用があるだろうということである。形式的な委員会を作って手続きを踏めば、気に入らない奴を解雇できる道を造ってしまう可能性があるということが気に掛かっている。誰でも証拠を確認できて、ブレのない条文の適用ができていれば問題無いのだけど。
現に、私は2008年の夏前から、所属する学科ぐるみでハラスメントの加害者にでっち上げられる(でっち上げに使われた証拠書類一式は手元に押さえてある)という経験をすることになった。北大の准教授のケースで、内輪もめによる冤罪の可能性を一応は疑っておくのは、私の今置かれている立場からみればは当然である。
私の立ち位置は反カルトで、例えばリンク総合法律事務所のカルト対策の活動にも全面的に賛同している。だから、追記のURLの反カルトの人達の主張に大体は同意するのだが、安易に大学による処分の道をつけると、私がやっている対悪徳商法系のニセ科学に対する批判の活動にも差し障ることがあるわけで、手放しで同意もできないところが微妙なんだよなぁ。
霊感商法だけではなく、広く悪徳商法(インチキ健康食品の販売等も含む)の宣伝に肩書きを貸して荷担した「なんちゃって学者」には、消費者被害が発生した場合にどんどん賠償責任を負わせる方が、抑止力になると思う。もともと事実認定能力のない大学が頑張って調査するよりも、裁判所で決める方が話はすっきりするし、反論する側だって存分に攻撃防御ができるだろう。
この件について考えていて、ふと思い出したのが公認会計士法とマルチ商法の関係だったり。公認会計士の場合は公認会計士法24条に業務制限があるので、公認会計士の立場のままでクライアントをマルチ商法に誘ったりしたら引っ掛かることになる。大学教員にはこれに該当するものが無いが、顧客=学生、と読み替えるなら、ハラスメント等とは無関係に、勧誘一般に関する業務制限が明文であっても良さそうに思う。ただ、顧客以外、つまり学外の一般の人を勧誘したというケースにまでは網をかけられない。
関連文書の情報開示をかけて、何条をどう適用したか、調べておいた方がいいかもしれないなぁ……。
【追記】
この件について調べている詳しいサイトがあった。五号館のつぶやきさんのところ経由で知った。
「准教授に対する北海道大学の対応」
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