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ac.jpなのにものすごいことになっている件

Posted on 6月 11th, 2009 in 倉庫 by apj

 東京女子医科大学付属青山自然医療研究所クリニックの治療の方法メニューがニセ科学過ぎる件。

 私はこれまでに、怪しい情報かどうかをある程度判別するには、普通にネット検索したときと、ac.jpドメイン限定でネット検索した時の差を見ろ、と学生に教えてきた。しかし、今学期からは、ac.jpでもダメなものはダメ、と教えないといけないようだ。

 「自然医療と統合医療」では、

自然医療とは、漢方、鍼灸(刺絡を含む)、気功、マイナスイオン治療、音感治療、温熱治療、ホメオパシー、メディカルアロマセラピーなど、西洋医学(一般の病院・診療所等で行う保険の範囲の医療)以外の治療の総称です。同じような内容の言葉としては、代替医療やCAM(相補・代替医療)などがあります。東洋医学も自然医療の中に含まれています。

 「自然医療と統合医療」を見ると、もっと不穏なことが書いてある。

欧米に比べ、残念ながら、研究・臨床・教育の各面で日本の自然医療の普及は遅れています。欧米各国の進んだ状況をご紹介します。

 私は以前から、ウチの学生達に向かって、「特に米国では金持ち以外はまともな医療を受けられないから、代替医療を容認している面がある。日本でも、医療費抑制の目的から、保健医療の制度を潰して、貧乏人は代替医療で我慢せよ、という政策がとられないとも限らない。このとき、政治家や官僚は絶対に”貧乏人は代替医療で我慢せよ”とは言わないはずである。言うと反発されるのがわかっているからだ。そのかわり、代替医療を黙認したり、選択肢の1つとなるような状況を作って、弱者が自分から進んで代替医療を選び取るように仕向けるだろう。弱者は、自分で決めたということで満足するに違いない。今は、厚生労働省はインチキ療法を取り締まる立場だからまだ大丈夫だが、代替医療も積極的に試そう、という方向に流れて取り締まりが甘くなった時が要注意である」と教えてきた。

 日本で自然医療の普及が遅れている、などと脳天気な言葉に騙されてはいけない。代替医療なんか普及しなくたってちっとも構わない。普通の人が支払える値段で、そこそこのまともな医療にアクセスできる状態を維持する方がずっと重要である。

 ac.jp経由で、代替医療容認の方向に引きずられると非常にまずい。

 欧米各国が進んでいるなどというのはとんでもない話で、「弱者が騙されている」の間違いじゃないのか。

 十分な科学的根拠にとぼしいサプリメント等についてまともな評価をしようというのは、やってもよいだろう。他の、専ら患者をリラックスさせるであろう方法を否定するつもりもない。ただ、そのリストに、どう考えてもダメだろうというものが混じっていることが問題である。ダメな例を、「自然医療と統合医療」から抜き書きしておく。※印付きのものが、実際に行われているものらしい。

マイナスイオン療法※
マイナスイオン療法も、症状を抑えるだけの対症療法と違い、自然治癒力を高めて生体自らの力で病気を治す根治療法です。マイナスイオンが多くなると血液は弱アルカリ性になり、その結果、新陳代謝が活発になり、人体に有害な活性酸素を中和して水にします。また、細胞の活性化を促進し、精神を安定させ治癒力を高めます。
※当クリニックには、マイナスイオン発生器を設置しています。

 マイナスイオンの化学的実態もわからないのに、いきなり治療に使おうとすること自体が無理過ぎる。やるなら、マイナスイオンと称する物質の特定と濃度による効果を確認するという基礎研究が先だろう。

ゾーンセラピー※
ゾーンセラピーとは、20世紀初頭、アメリカの医師の研究から発展したもので、足を全身の地図とし、足の各部分を身体の各器官に当てはめ、反射帯(反応ゾーン)を治療することによって、体をよくするという反射療法です。
1930年代にさらに詳細な「足の地図」を作り上げ、「リフレクソロジー」と呼び名を変えました。

 骨相学の亡霊みたいな話だ。東洋医学ではツボは全身に分布しているとされるが、アメリカ人がやると足裏に全部集中するという話になるのか。健康サンダルを履いていればそれで済みそうな……。

ホメオパシー(同毒医療)※
ホメオパシーは、18世紀末にドイツで発祥した医療体系です。自然界に存在する動植物・ミネラルなどを希釈したレメディ(丸薬)を服用することで、いったん刺激を与え自然治癒力を高めて治します。

 質量作用の法則をまるで無視した話に乗っかってどうするのかと。

フラワーエッセンス※
フラワーエッセンスとは、花の持つエネルギー(波動)を水に転写して活性化した花の波動水で、主に飲んで身体に取り入れます。この植物エネルギーは、様々な感情や心の状態や性格のタイプに対応しており、穏やかに心と身体のバランスを取り戻すのを助けます。

 「波動」が登場している時点で終わっている。花の有効成分(化学物質)を利用するのならまだわかるが、意味不明な植物エネルギーって一体?

オーラソーマ(カラーセラピー)
ハーブやエッセンシャルオイルなどを原料とした102種類の様々な色のボトルから4本を順番に選び、専門知識と高いリーディグ能力をもつプラクティショナー(治療者)によって、その人に適した解釈(本来の魂の目的・今後の人生の方向性・課題など)をしてもらいます。魂のセラピーであって、体への直接的治療を目的とはしません。体に塗ったり眺めたりすることで、精神的リラクゼーションが得られるとともに、魂のレベルまで深く癒されます。

 他のセラピーはリラックスさせる効果くらいはありそうだが、「本来の魂の目的・今後の人生の方向性・課題」は、病院で決めてもらうことじゃないだろう。ってか、やってないとはいえ、これって「療法」なのか?

水療法※
広義の水療法には、�電解還元水・イオン水の飲用・塗布、�各種名水等の飲用、�波動水の飲用、�温泉、腰浴、サウナ、シャワー、プール、足浴、浣腸などが含まれます。

 「波動水」はダメだろう。というか、消費者被害の片棒をac.jpが担いで一体どうするのか。

健康関連器具・グッズ
快眠のための枕、電磁波防止グッズ、マイナスイオン発生器、入浴剤、マッサージ機・腹筋マシン・金魚運動マシン・健康サンダル・トルマリン・磁気ネックレス・ツボ押し棒・関連書籍など、広くは予防・健康を意識して購入したもの全般が含まれます。

 健康増進法にひかかるような「バイブル本」も含まれる罠。一応、アドバイスはしているらしいし、まともなアドバイスをしてくれるならいいんだけど、他の診療メニューに堂々とニセ科学が入り込んでいるようでは、不安を払拭できない。

 代替医療について解説しておかなければならないから怪しいものまで入れたのであって、実際にはこれ以外のまともなものしかやってないのでは?という淡い期待は見事に打ち砕かれた

【当クリニックで対応可能な自然治療】
漢方、鍼灸(刺路を含む)、気功健康食品・サプリメント(※1)、マイナスイオン治療、音感治療、ホメオパシー、メディカルアロマセラピー(※2)、ロルフィングなど

 どうも、説明で列挙した治療を実際にやっているらしい。

 「自然医療をこんなときに」を見ると、

全て自費診療で行うため、お1人ずつに十分時間をとって、ゆっくりとご相談に応じることが可能です。

ということで、当然のことながら自由診療である。つまりは、西洋医学の治療でものたりない金持ちをターゲットに、さらに代替医療で儲けようということか。
 金持ち以外はお呼びでないなら、このクリニックが直接の原因で貧乏人が損をすることは無いだろう。ただ、既にニセ科学だとはっきりしていて、他の民間企業が消費者被害を発生させているような商材をリストに加えることで、大学のお墨付きを与えたり、予想しない場所で宣伝に使われたりすることになったら、よろしくない結果になる。
 病気とはいえないが不具合の自覚症状はある、というケースの相談場所が少ないことは確かだし、そのニーズをくみ取るのはかまわないが、インチキまでセットにして広めなくたっていいのに。

提訴を装った詐欺に注意

Posted on 6月 11th, 2009 in 倉庫 by apj

 悪マニさんのところで知ったので、こちらでもネタとして取り上げる。
 以下のような文面の葉書が出回っているらしい。

内容確認通知書

契約会社に対し貴方が行った、料金の未払い或いは契約不
履行に対し、契約会社が貴方に対し訴状を管轄簡易裁判所
に申請した事をこの通知書にてお知らせ致します。

当センター職員にて契約会社、訴訟内容等につきましては
お調べ致します。
私どもは原告側からの最終通知、並びに被告人と訴訟内容
を確認する機関の為、個人情報保護法に基づき通知書本人
様のご連絡をお願い致します。

御連絡なき場合、管轄裁判所から訴訟の日程を決定する、
呼出状送達後、出廷となります。
尚、裁判所からの重なる通達を無視し続けますと原告側の言
い分通りの判決が下り、執行官立会いのもと、財産の差し押さ
え等をされる事がありますので十分に御注意ください。

※企業間で個人情報をやり取りし、悪用するケースもござい
ますので、至急御連絡ください。
※この通知は金銭の請求ではございません。

登録番号 (○) ○○××△△ 平成21年

NPO法人 国民消費相談センター
9時~17時30分
〒104-0061
東京都中央区銀座1-18-16
03-5649-9071

 もちろんこれは詐欺で、国民生活センターとも消費生活センターとも何の関係もない。
 こんなものが出回っているということは、これを信じてひかかる人が世の中には居るということだろう。しかし、少々の知識があれば、この葉書がいかにヘンテコかがわかって、お茶を吹く結果になるので、具体的に説明しておく。

  民事訴訟の開始は、
(1)原告が管轄の裁判所に訴状を提出
(2)内容に不備がなければ、裁判所が、期日を決めて被告に特別送達。
である。つまり、訴状が被告に送達されるまで、(代理人弁護士を含む)原告と被告と裁判所以外の誰かが関わることなど無い。そもそも、裁判所や原告本人以外から、訴状がどうなっているかの連絡が来ること自体が有り得ない。

 訴状は申請するものじゃなくて提出するもの。基本的な用語を間違えるなと。
 訴状に不備があれば、補正するように言わるし、従わなければ却下となる。却下されれば訴訟は始まらない。訴状の審査は裁判官の仕事、窓口で教えてくれるのは担当の書記官だったりするが、この内容が裁判所の外に漏れることはない。

 裁判所に訴状を「申請」し、それが関係ない第三者に知られているという設定自体、少なくとも日本の裁判制度の話でないことは確か。

 また、訴状の内容やら相手方については、訴状が送達されてくればはっきりするわけで、事前に誰かを通して調べてもらったって何の役にも立たない。訴状と証拠書類の実物を見ないことには答弁書も書けないし、弁護士に相談もできない。要約だけ先に知るメリットは何一つ無い。

 原告側の最終通知に至っては、一体どういう設定なのかと(笑)。最終通知も何も、裁判所にあるか、裁判所から送達途中の訴状について、誰か他の人が内容を知ることなんか不可能である。だから、原告:提訴と同時に記者会見、被告:「訴状を見ていないのでコメントできない」が繰り返されるわけだ。

 つまり、この葉書の、連絡を寄越せというお願いに至るまでの話は全部嘘である。

 大体、普通はこんな面倒な手順は踏まないはず。普通の原告は、提訴するぞといった内容証明の1通でも送って様子見した後は、訴状を提出しているものだ。相手が悪徳なら、内容証明を送るなどという効力もない無駄なことはしないで、とっとと訴えた方が手っ取り早い。そこに、関係のない自称NPO法人が絡める余地なんかあるわけがない。

 嫌がらせにせよ詐欺にせよ、本当に訴状が提出されているのならば、訴状が裁判所から送達されるのを待って対応すれば十分間に合う(「特別送達」というものでやってくる)。この葉書は、どう見ても架空提訴に架空NPOだから、きっと、脳内訴状しかなく、実際に訴状が届くことは無いと思われる。

 この手の葉書を受け取ったら、近くの消費生活センター(本物)や、警察に届けて、周辺住民や悪徳業者に名簿が渡ってしまっている人達への注意を喚起するために使って貰うと良いだろう。

【追記】ニセNPO法人は内閣府が晒してくれているので、内閣府に連絡するのも1つの手かと。