処分も指導も不要なケース
京都新聞の記事より。
Kyoto Shimbun 2009年7月12日(日)
AV出演が発覚、退部処分
立命大アメフット部員
立命館大アメリカンフットボール部の部員の男子学生(4年)がアダルトビデオに出演し、部から退部処分を受けていたことが12日、分かった。大学も学生への処分と部への指導を検討している。大学によると、学生は1年生だった2006年から07年にかけてビデオ6本に出演。今年6月中旬に関係者が事実を把握し、「学生の本分にもとる行為」として部の倫理規定に基づいて退部処分とした。学生は「スカウトされ、金になるアルバイトと思って出演した」と話しているという。学生は準レギュラーで公式試合にも出場していたが、「個人的な行動」として部の活動は続ける方針。
ビデオ出演をめぐっては、大阪経済大ラグビー部が大麻取調法違反で部員が逮捕後、部員らのアダルトビデオ出演が発覚し、大学は10日に部活動の無期限停止処分とした。
フットボール部は、学生が任意で参加しているいわばオプショナルな活動であり、部を追い出されたところで、授業料を支払い単位を取得し卒業証書を得る、という大学の機能の利用には何ら影響しない。従って、部独自の道徳的基準に従って、退部にしてもかまわないだろう。
しかし、大学が学生を処分するとか、部を指導するというのは別の話である。
AV出演がアメリカンフットボール部の斡旋により組織的に行われていたのであれば、部としての本来の活動を逸脱しているという理由によって、大学から注意されても仕方がない。しかし、学生のAV出演と部としての活動に関係が無いのであれば、大学が部を指導するということは、学生に対する「しつけ」を大学が部に担わせるということにほかならない。これは話が違うだろう。この部分は、学生のAV出演と部としての活動の関係がどうであったかによって判断が分かれることになる。
もっと問題なのは、AVに出演しただけでは違法ではないので、大学が学生を処分する根拠にならないということである。違法でないアルバイトの職種について、大学が学生に対して口を出す権利は無いはずである。「学生の本分」は、勉学をして単位を取ることであり、それ以外にアルバイトで何をしていようが、大学にとやかく言われる理由はない。立命館大学を卒業見込みの学生がAV製作会社や出演者派遣会社に内定をもらった場合、立命館大学がしゃしゃり出て内定先の業種を理由に学生を処分するとは考えがたいし、そんなことをすれば権利侵害で提訴されて大学が敗訴することはまず間違い無い。従って、アルバイトの内容がAV出演だったからといって、大学が学生の処分を検討することについて、正当な理由を説明できない。
「学生の本分」などという、どうにでもとれる内容を基準として、強制力を伴う処分が行われるのでは、紛争発生の種になるだけである。処分に用いる基準として、個人の倫理観や好き嫌いごときではブレない基準を立てておかないと、手続きが安定せず、逆に違法になったり不道徳な結果をもたらしたりする。中の偉い人が、私立大学のブランドだか体面だかを維持する目的で、在学生のAV出演許すまじという方針をとりたいのであれば「AVに出演したら○○の処分をする」と学則に明記した上で公開し、前もって入学する学生の同意を得ておくしかない。この方法なら、入学者は全員「在学中にAV出演したら処分される」ことを了承した上で入ってくることになる。私立大学であれば、そういう学則をつくっても、社会的に非難されることは無いだろう。それでも、就職内定先がAV関連業界であることについては不問とするということとの整合性はとれないが……。
ちょっと前の京都教育大のように、明らかに違法な行為を行った学生を「教育的配慮(笑)」をタテにかばいまくった挙げ句準強姦罪の加害者に教師になる道を残して社会不安を煽ったかと思うと、今度は、権利もないのに学生の処分を検討するという、大学の迷走ぶりに呆れた。教育現場だから社会と異なった基準が通用する、という思い込みをそろそろ捨ててはどうか。「教育」を特別視した途端、権利に対する考え方が雑で無神経なものになるのは何故だろう(少なくとも私にはそう見える)。
なお、学生の「不道徳」な行動については、学科とか学部の顔見知りの先生や、担当のアドバイザー教員がこっそり呼びつけて「説教する」あたりが正しい対応で、会議に報告されて記録にも残るような「処分」をするのはバランスを欠いているのではないか。
大麻取締法違反のケースとの比較は適切ではない。大麻は、在学中に手出ししても、就職してから手出ししても、違法である。刑事罰を科される行為を行った事に対する処分ならば説明可能である。
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