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Business Media 誠が水素水に関するデマを広めている件

Posted on 10月 21st, 2009 in 倉庫 by apj

 Business Media 誠の水素水の記事より。

銀座に「バー」まで登場……「水素水」ブームの予感
一般にはまだなじみの薄い「水素水」だが、最近は愛飲するトップアスリートが増えているという。都心にも「水素バー」が登場するなど、ブームの様相を呈している。

 住宅建材大手のパナソニック電工と九州大大学院薬学研究院は先ごろ、水素を含む水をあらかじめ飲用することで、パーキンソン病などの脳神経疾患の予防と治療に有用な可能性があると発表した。一般にはまだなじみの薄い「水素水」だが、最近は愛飲するトップアスリートが急増。都心のど真ん中にも「水素水バー」が登場するなど、ブームの前夜の様相を呈している。

 検証結果によると、水素水を飲用することで、パーキンソン病に見られる脳の神経細胞の脱落を抑制できたという。0.08ppmの低濃度でも効果が見られたうえ、神経細胞の脱落の原因となる、活性酸素によるDNAの酸化損傷を抑制することも確認されたため、米オンライン科学誌に結果を掲載した。水道水の電気分解時にも水素が生成されるため、パナソニック電工などが販売するアルカリ浄水器(実売価格2万9800円)で電気分解された後の「電解アルカリ水」にも水素が含まれるという。

 水素水の効用は、トップアスリートやエステティシャンの間では以前から知られていた。体内に蓄積した活性酸素は疲労や老化、重大疾病の原因とされる。それを水素が持つ強力な還元力で抑制。細胞やDNAの損傷を軽減することで疲労しにくい体を作るほか、高い美容効果も実証されている。そのため、市販の水素水を日常的に愛用したり、水素水を精製する浄水器を導入する事例が昨年以降増えているのだ。

 180ミリリットルパウチタイプの高水素濃度ウオーター「SWAT」(メディカルパートナーシップ、10本3000円)を愛飲するプロテニスプレーヤーの中野佑美(21)は、「1試合で最低6本は飲んでいますが、試合中に疲れにくいうえ、翌日の目覚めが最高に快適。プロスポーツ選手はもちろん、スポーツ好きな方や体調管理に自信がないサラリーマンの方にも良いのでは」と話す。

 テニスのクルム伊達公子やプロ野球の高橋由伸、大相撲の豊ノ島など多くのアスリートたちも愛飲。そんななか、東京・銀座6丁目に今月、「水素水バー SUISOS(スイソス)」がオープンした。

 代表の立花守満氏は日本で唯一、水中の水素含有量を限界値(1.8ppm/7度)まで高めることに成功した水素水の第一人者。同店では常時、専用サーバーで水素水を無料供給するほか、500ミリリットル700円の専用真空容器を購入することで、営業時間の午前11時から午後7時まで何度でも店内のサーバーから高濃度水素水「SUISOS」をくむことができる。

 立花氏は「近隣のエステティシャンやホステスさんはもちろん、高級日本料理店の方なども1日に数回、水素水を調達にこられます。日ごろから体の疲れや肌荒れ、持病やメタボ体形に悩みを持つ方は、ぜひ利用してほしいですね」と言う。「水素」が新時代のキーワードになりそうだ。

 パーキンソン病への効果については、このエントリーで紹介したが、パーキンソン病そのものへの治療を行ったわけではなくて、「パーキンソン病と同様の神経破壊を起こさせる薬の効果が軽減された、しかも動物実験でありヒトでは(そんな実験は倫理的に問題があるからそもそもできないので)未確認」というだけである。この記事の書き方だと、読んだ人が間違った情報を信じることになる。
 活性酸素であれば、どの分子種も寿命は短いので、体内に蓄積することはあり得ない。すぐに他のものと反応して無くなってしまう。
 水素ガス(水素分子)の「還元力」は、アスコルビン酸のような、フリーラジカルを直接消去するような強いものではないので、強力な還元力、という書き方は間違っている。このあたりは、活性水素検証の実験を行った杏林大の平岡さんが指摘している。

 ところで、共通教育の「科学リテラシー」の講義では、「食卓の安全学」(松永和紀著、家の光協会)をテキストにし、期末レポートでは、この本に書かれた科学記事の見極め方をまとめる、というものを課題の一つにしている。その章の最初の目次のいくつかはこんな具合だ。

1 有名人のお墨付きにはご用心
2 「体験談は信用度ゼロ」と思え!!
3 動物実験にごまかされてはいけない
4 記事広告にも気をつけて
5 数字、単位、グラフのトリック

 記事内容が正しいかどうかを判断するために列挙された項目の最初の3つが、松永さんの本を見てわざとに書いたのかと思うくらいに、そのまま当てはまっている。
 私の講義を半期受けた学生なら、この記事を信用することなど無いだろう。また、この記事をネタにすれば楽勝でレポートが書けるだろう(注意:私が既にここで書いちゃったし、ネット情報の丸写しは大幅減点だから、残念だけどこの記事はレポートのネタにはならないよ>受講生全員)。

 仮に、何かの病気の治療法として水素が有効であることがわかったとしても、治療法≠健康法であるのが普通だから(∵例えば癌予防のために普段から抗がん剤を飲むことを健康法として実行する人などいない)、水素水を常用した場合の結果が保証されているわけではない。水素水の健康に対する効果を調べたければ、水素水を摂取した人とそうでない人でその後のどんな病気になるかに差があるかを追跡する、大規模な疫学調査をしないと結論は出ない。今のところ、前向きコホート研究が行われたという話は無い。根拠が何もないのに、水素水が健康にいいかのように装った商売をすることにもそれを助長することにも問題がある。