ヨウ素についての情報整理
水道水の放射能汚染の報道のせいで、浄水器メーカーに問い合わせが殺到しているらしいです。しかし、慌てて浄水器を買いに走ってもあまり意味がないと思われます。
放射性ヨウ素の環境中での存在形態ですが、空気中では、I2, HOI, CH3I, 粒子状のヨウ素として存在しています(ソース)。
チェルノブイリの時の放射性ヨウ素計測では、フィルターで捕まえています(この文献、アブストラクトのみ)。これは、エアロゾルに付着したものをエアロゾルの粒子ごと捕まえるので、フィルターが使えたと考えられます。雨水からの抽出は、chloroform extraction であると書かれています。
「原発事故ニュースの中に放射能を防ぐ「フィルタ」があるという表現が度々出て」くるそうですが、これは、発電所から直接空気中に漏れ出した放射性同位元素の微粒子や、放射性同位元素がエアロゾルに付着しているものを取り除いているのでしょう。
ところが、ヨウ素が水に溶けた場合は、空気中とは異なり、I-(ヨウ化物イオン)や、IO3-(ヨウ素酸イオン)という形で存在することになります(水道水の放射性ヨウ素は煮沸で幾分減るのだろうか?)。
この場合、ヨウ素の入った水からヨウ素を除去するということは、食塩水から真水を作るのとだいたい同じです。
食塩水を煮沸すれば、水が蒸発して濃い食塩水が残ります。また、活性炭と中空糸膜を使った浄水器では、食饌水は真水にできません。ですから、煮沸して残った水を飲むのは却ってよくないし、普及型の浄水器を慌てて購入する意味もありません。
ただし、煮沸による濃縮が問題になるのは、長時間沸騰させて煮詰めた残りを飲んだ場合の話です。薄い食塩水を作って、加熱殺菌できる程度煮込んでも、見た目で水がさほど減っていなければほどんど塩辛さはかわらない、というのが日常経験するところです。ヨウ素についても同じです。被災した地域では、水の入手が困難だったり、安全のために水を加熱殺菌することが必要になったりするでしょう。どうか、滅菌のための加熱をためらわないでください。放射線もリスク要因ですが、感染症も健康に被害を及ぼします。
浄水場でも活性炭処理はしていますから、その活性炭で除去できなかったのであれば、家庭用浄水器の活性炭で除去はほとんど無理でしょう。また、活性炭などのフィルターで除去できるのは、細かい塵などの粒子に付着しているヨウ素だけで、イオンとなって溶けているものは通過してしまいます。
これだけだと、家庭用浄水器の意味がなさそうに見えますから、念のため補足します。家庭用浄水器には、安全のために入っている次亜塩素酸を飲む直前に取り除いておいしくするとか、水道配管の劣化によって混入する錆や、配管保護のために行ったコーティングが原因のわずかな臭いを取り除いたりする効果があります。
さて、食塩水を真水にする方法として、イオン交換する、蒸溜する、逆浸透膜(RO)フィルターを使う、といったものがあります。これらの方法であれば、水中のヨウ素も除去可能です。
一方、その他の水処理装置、たとえば、電解水(アルカリイオン水を含む)製造装置や磁気活水器を使っても意味がありません。この騒動に便乗した売り込みが行われる可能性がありますので、慌てて買わないように注意してください。
これによると、環境中に放出される放射性同位元素のうち、要注意なのは、セシウムやストロンチウムではなく、ヨウ素だということです。ヨウ素は半減期が8日と短い上、発生源の状況も変動しています。今、、コストをかけて純水製造設備を一般家庭に入れる必要があるか、というとそれも疑問です。物理・化学的に手段が存在するということと、それを現実の社会において実行するかどうかの判断は別です。
現状でのリスクについては、社団法人日本放射線学会の解説をごらんください。
健康に被害を与えるリスク要因は他にもたくさんありますので、どれにどこまでコストをかけるかは、リスク管理の問題になります。私にはすぐには答えられません。中西準子先生あたりがご専門かしら、と思いつつ……。
【補足】
安価で手間のかからない方法として、水を汲み置いて放射性ヨウ素が減るのを待つ、ということをすぐ思いつくわけですが……。水道水は次亜塩素酸で殺菌されていますが、時間が経って濃度が減ると、再汚染への抵抗力が失われます。長期に汲み置くのであれば、時々、殺菌用の次亜塩素酸を追加するなどして、感染症に注意してください。
水源がきれいな場所にある水道局では、活性炭処理をせず、殺菌のみ行っている場所もあるようです。その場合も、仮にヨウ素が混入したとして、家庭用の活性炭を使った浄水器に効果がほとんど無いだろうという結論はかわりません。team-nakagawaが実験を依頼して調べたところ、煮沸で飛ばないことが確認済みです。おそらく、左巻さんの指摘のように、イオンとして存在していると考えられ、この場合は活性炭では吸着できません。ほとんど、というのは、ヨウ素が水の中の塵などと結合している分があれば、塵ごと取り除けばその分だけは減るだろう、という意味です。
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