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ハラスメントの誤用

Posted on 6月 2nd, 2009 in 倉庫 by apj

 引き続き集団強姦事件の記事より。

「教育的配慮」…集団準強姦の重大性とズレ、京都教育大学長が会見
2009.6.1 22:28

 男子学生6人の逮捕を受け、京都教育大学の寺田光世学長(67)らが1日、学内で記者会見。寺田学長は「教育が至らなかった」として謝罪する一方、事件について「学内の調査では公然わいせつと認識していた」と述べたほか、処分後も公表しなかったことについて「教育的配慮を優先し、正確な情報を得てから公表すべきと判断した。間違った対応はしていない」と正当性を主張するなど、事件の重大性とのズレを露呈した。
 同大学によると、被害を受けた女子学生は、今年3月3日に教員に相談。大学側は同6日に「ハラスメント防止委員会」を設立し、教員らが、被害学生や逮捕された6人などに対して聞き取り調査を行った。
 ところが、大学側は24日、被害学生の保護者に対し「公共の場所で性的なことをした公然わいせつは6人とも認めたが、同意があったのか、無理矢理だったのか、細かいところは判断できない」とし、「警察に告訴するかどうかを考えてください」と話したという。その後、31日付で6人を無期限停学処分とした。
 会見で寺田学長は「大学は捜査機関ではないので、細かい事実を追及するのには限界があった。(大学として)警察に早期に相談しなかったのは、内密に事実確認を行うことを優先したため」と釈明した。
 学内ではこの事件についてすでにうわさになっていたという。体育会クラブ所属4年の男子学生(21)は「事件のことは聞いていたし、公表しなかったのはおかしい。新学期になって顧問から、コンパでは飲酒を控えろと言われた」と話した。

 この事件に対して「ハラスメント防止委員会」で扱おうとしている時点で、大学の判断力の方がもう終わっているんじゃないかな。起きていた事件は「ハラスメント」ではなくて、れっきとした「犯罪」なのだから。
 ハラスメントとして扱う問題とは、例えば、「職場のあちこちに堂々とヌードポスターやカレンダーがあって女性社員が不快」のように、掲示物自体はわいせつ物陳列罪になるほどのものではない(違法性がない)が、不適切な場所に掲示されていて、それだけで権利侵害で訴えるハードルも越せてないけど、職場のパフォーマンスに影響する、みたいな、法的措置まで到達しないようなものだろう。こういう行為が、一定期間一定回数繰り返される場合に、ハラスメントである、とすることになる。
 一方、刑法に引っ掛かるような行為や、民事上の不法行為は、繰り返し無しで、1回の行為でも成り立ってしまう(不法行為の場合は繰り返しによって損害賠償請求のハードルを合わせ技で越えるということはあり得るが)。その違いがわからない人達が、ハラスメント処理で問題を扱いきれると思っていること自体、制度の運用能力がないと考えるしかない。

【追記】
 素人判断せずに弁護士を呼んで相談していれば、準強姦と公然わいせつを間違える、などということは起きなかったのではないか。いまどきの大学なら、事業所の規模からいって、顧問弁護士をしっかり活用し法務部門も内部で持たないと、コンプライアンスの問題が解決できず、組織として回らないのではなかろうか。


ここからは旧ブログのコメントです。


by Isshocking at 2009-06-24 06:59:24
調査・・・したの?

学長発表によると、当事者からの聞き取りを行ったということですが、それでどうすれば「公然わいせつ」という要件を構成していると判定できたんでしょう。
調査委はおそらく準強姦の心証を学長に報告したと思うのですが、学長が思いこみで「公然わいせつ」と言い張ったんでしょうか。(最高学府の複数の職員がそろいもそろって「公然わいせつ」を主張したとは到底思えない)
意外とプレッシャーで思考停止するタイプの方なのかも知れません。
モザイク状の認知症の前兆でなければ良いのですが。


by apj at 2009-06-28 07:23:28
合意と言い張った部分で判定にコケたのかも

Isshockingさん、

 双方が合意の上(←ここ重要)で、人目につくところで性行為を行った場合は公然わいせつじゃないですかね。

 調査する→合意だったと言い張る→公然わいせつ、と判断してしまったとか?
 実際には、女性が飲酒酩酊していて「人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じること」を満たす状態だった。仮に本人が「OK」とその場で言ったとしても、その「OK」は通常の理性的な判断のもとで出されたとは言い難い状態だったとか……。たとえば、男性:酔っ払ってたけどOKって言った、女性:酔っ払っててよくわからんけどOKって言っちゃったかもしれない、とかいう状態だと、大学側が、合意があって人前でやったのなら公然わいせつ、と思ってしまうかもしれない。


by Isshocking at 2009-06-42 08:46:42
公然わいせつなら

公然わいせつであれば、同意が前提ですから、女子学生も同罪。
すると、男子学生だけ無期限停学にした処分の説明が難しくなります。
それに、調査は女子学生側からの請求で始められたこと、調査後に、告訴の件は女子学生側に委ねる旨述べたということ(と、学長が報告している)との整合性がないような。


by apj at 2009-06-33 08:56:33
なるほど

lsshokingさん、

>すると、男子学生だけ無期限停学にした処分の説明が難しくなります。

 確かにそうですね。

>告訴の件は女子学生側に委ねる

 何か別のとてもイヤな思惑を感じてしまいました。

 「この手の事件は、被害にあった女性が二次被害を恐れて表沙汰にしたがらないに違いない、だから学内で加害者にそれなりに厳しい措置をとって、それをみた女性が告訴をあきらめてくれれば、騒ぎがバレないはず」といった思惑が大学側にあった、という可能性も……。

#告訴するかどうかを委ねたと言いつつ、後から、実はそれとなく「告訴するとした側も(自主規制)」なメッセージを伝えていたりはしないだろうなぁ。何だか信用できん。


by よしの at 2009-06-45 19:57:45
Re:ハラスメントの誤用

apjさん:「ハラスメントとして扱う問題とは、例えば(ちゅうりゃく)、それだけで権利侵害で訴えるハードルも越せてないけど、職場のパフォーマンスに影響する、みたいな、法的措置まで到達しないようなものだろう」とあります。
しかし実態は、法的措置にまで到達しないようなものも、民事で訴えれば確実に勝てるような案件も、両方扱われています。また大学に訴えるのと裁判等で訴えるのは両立しますから、大学での訴えの後裁判に訴える人や、その逆の人もいたり、さまざまです。
それはそうと、ハラスメント委員会に識者としてこの問題に見識のある弁護士を入れるのは常套手段で、京都教育大の対応は論外に思えます。
別途文科省への釘差しは必要だろうということをとあるところで考え中です。


by apj at 2009-06-36 06:43:36
ADR

よしのさん、
 現状のハラスメント処理が、いろんなものをごっちゃに扱っていることは知っています。私の問題意識は、そういうことをしていると逆に集中が付かなくなるだろうということ、処理の最初の段階で法律家を入れないで、素人だけでどうにかしようとすると、逆に事件を大きくしかねないということです。

 京都教育大学の対応は論外ということに同意します。

 また、問題をなあなあで済ませたいとかうやむやにしたいことがミエミエの人達が、適当な言い訳をしながらごまかすことを助長するようなシステムなら不要ですから、きちんとADRとして機能させる方向に持っていくことを考えないとまずいと思います。


by apj at 2009-06-06 06:44:06
ADR

よしのさん、
 現状のハラスメント処理が、いろんなものをごっちゃに扱っていることは知っています。私の問題意識は、そういうことをしていると逆に収拾が付かなくなるだろうということ、処理の最初の段階で法律家を入れないで、素人だけでどうにかしようとすると、逆に事件を大きくしかねないということです。

 京都教育大学の対応は論外ということに同意します。

 また、問題をなあなあで済ませたいとかうやむやにしたいことがミエミエの人達が、適当な言い訳をしながらごまかすことを助長するようなシステムなら不要ですから、きちんとADRとして機能させる方向に持っていくことを考えないとまずいと思います。