微妙な本
「不思議な水の物語 トンネル光子と調律水 上」(鈴木俊行著 海鳴社)というのを生協店頭で見つけた。
新手の水商売ネタかと思ったのだが、見てみるとどうも様子が違う。
著者たちが実際にやったことは、海洋深層水をそのまま使うとうまくいかない→混ぜて使うと良さそう→ほどよい混合方法を見いだした、ということらしい。
ところが、これを「常識外れの結果」と受け止め、理由を説明するために四苦八苦した……のは仕方ないとしても、四苦八苦の挙げ句場の理論に突っ込んだ。さすがにこれをノンフィクションとして書くと関係者に迷惑がかかるということで、この本は小説の体裁で書かれており、フィクションであることが明記されている。
この本の設定では、
すなわち、液体である水分子は電気的な偏りである電気双極子を形成して自由な回転運動を行っているが、生命体を構成する細胞膜や細胞質内の物質それぞれの表面は、電気的にプラスの電荷を帯びているために水分子の電気双極子は整列をなす結合水の凝集体となって電磁場を形成する。この時、自発的対称性の破れにより南部-ゴールドストーン量子がゲージ対称性により電磁場のベクトルポテンシャルの中に取り込まれるが、電磁場は南部-ゴールドストーン量子を取り込むことにより光子が有限の質量を持つ準粒子のコヒーレントのトンネル光子よりなるボーズ凝集体が生まれる。
このトンネル光子凝集体は、自発的対称性の破れを引き起こす原因とあった生命体の死後(生体分子の電気双極子の焼失)もそのまま維持され存在し続ける。これが前期の生物由来の微細な死骸片やタンパク質、栄養塩にまとわりついているトンネル光子凝集体である。
しかしこれらのトンネル光子凝集体はばらばらに存在しているために連成していない。エネルギーの高いトンネル光子凝集体を含む水を少量海水に添加することで、前記のばらばらな生物死骸由来のトンネル光子凝集体の連成を長時間に渡って促すため、栄養塩の濃度の高い深層水が貧栄養の表層海域へ流動が促進されることになる。また、深層の低水温の表層への伝導も促される。
となっている。
深層水が期待した効果をもたらさなかったのなら、海洋生物学者とか生化学者を連れてきて理由を尋ねれば良かったのに、どういうわけか場の理論屋さんのところに相談に行ってしまい、相談された場の理論屋さんは、その問いは生物屋さんの方が適切だというアドバイスをせずに、大まじめに場の理論の枠組みで何とかしようというストーリーを拵え上げたということらしい。
科学としてはトンチンカンな方向に突っ込んでいるようにしか見えないが、SF設定だと言い張るのならそれはそれで有りだろう。ただ、その場合は、SFとして、この設定をどこまで作品に活かしているかの方を問題にすることになる。
さて、どう読んだものやら……。
ここからは旧ブログのコメントです。
by もとエスペ at 2009-06-50 18:11:50
生協のマーケティング
生協の担当者は、表題を見るやapjさんの顔を思い浮かべたに違いない。
by Isshocking at 2009-06-26 08:18:26
水ごときにこの理論はもったいない
同じ論理で霊とか魂の実在を物理的に説明したほうが本は売れるように思います。
by apj at 2009-06-02 06:54:02
まともに批判しても野暮なだけだし
>同じ論理で霊とか魂の実在を物理的に説明したほうが本は売れるように思います。
確かに……。
まあ、フィクションだといってるものに対して、まともに科学考証したって、野暮なだけで面白くないし。ただ、「コレジャナイ感」はかなり漂っているわけで。
下巻まで手に入れて読んでから、同じ設定で二次創作でもしますかね。そのネタなら水じゃないだろーっ!という批判目的で。