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対抗言論重視なのだが……

Posted on 4月 22nd, 2008 in 未分類 by apj

 「訴訟に対する誤解」のコメント欄で、ぴゅーまさんという方が、事実を確認せず印象だけで、私がすぐに「違法だ、提訴だ」と他人を脅しにかかる、などという誤解を振りまいているので、この際はっきり書いておく。
 まず、ネット上の言論について、私が提訴をちらつかせて相手の表現を変えさせたことは一度も無い。理由は明白で、双方が公開の場で表現できるというのであれば、言論によって傷つけられた名誉は対抗言論によって回復すべきだというのが私の信じるところだからである。だから、相手の表現に対して酷評することはあっても、提訴するぞと予告して内容を変えさせようとしたことはない。

 これだけでは説得力がないので、これまでの訴訟がどういう経緯であったかを簡単に書いておく。

(1)原告天羽、被告お茶の水大学、情報公開訴訟(行政訴訟)
【請求内容】大学に届いた、学外企業からのクレーム文書の内容の開示について、重要部分が伏せ字にされたことについて、開示を求める提訴。
【提訴の理由】何件かの開示請求のうち、日本システム企画株式会社からのクレームに対応する目的で、公開できる状態で完全な情報を入手する必要があったため。
【経過】内閣府の情報公開審査会の基準に従う、という話し合いがついたので口頭弁論前に取り下げて終了。
【提訴の予告の有無】
 無し。
【表現に対する効果の有無】
 情報公開法を根拠とし、開示を求める訴えであるので、そもそも言論や表現とは無関係。

(2)原告天羽、被告飛騨の中の人
【請求内容】名誉毀損、業務妨害、しつこい嫌がらせメールに対する損害賠償請求。
【提訴の理由】相手が掲示板荒らしを行い、その荒らし行為に対応するために現実に手間とコストが発生した。さらに、相手は書面で現金二十万円を私に不当に要求した。相手のサイトでの名誉毀損だけなら放置で良かったのだが、その範囲を超えたため。
【経過】相手が出廷せず弁論もせず、擬制自白により勝訴。
【提訴の予告の有無】
 有り。但し、刑事告訴の後。内容証明による。
【表現に対する効果の有無】
 相手がウェブサイトを閉鎖した後であったので、直接の効果はなかった。

(3)原告吉岡英介、被告お茶の水大学、独立当事者参加人天羽
【請求内容】掲示板投稿の内容について吉岡がお茶の水大を提訴。投稿者が天羽であると名乗り出て訴訟参加し、表現が名誉毀損ではないので削除義務が無いことを主張。
【提訴の理由】普通の名誉毀損は表現を行った者が責任を負うのが当然であると考えた。
【経過】原告吉岡は、名誉毀損とされる表現を行った天羽を提訴しないと裁判官の前で弁論。天羽は被告にもしてもらえないまま訴訟進行中。
【提訴の予告の有無】
無し。吉岡→お茶の水大も無かったし、私から双方へも何も無し。
【表現に対する効果の有無】
 表現をそのまま維持する。

(4)原告天羽、被告マグローブ株式会社、被告山形大学
【請求内容】掲示板投稿の内容に対する削除要求、blog内容に対する削除要求について、削除義務が存在しないことを確認する。
【提訴の理由】被告マグローブ株式会社の代表者吉岡英介は、大学に削除要求を出し、大学のみを訴えて現在係争中である。同じことを山形大学に対して行われるのを防ぐための防衛の意図で提訴。
【経過】被告は、削除義務があることを立証する予定がない、と弁論。現在は何というか詰将棋状態。
【提訴の予告の有無】
無し。(大学が何か回答して次のターンで相手が大学を提訴してくる前に、訴訟係属に持ち込む必要があったので、ほぼ最短時間で訴訟を書いて裁判所に突っ込んだ)
【表現に対する効果の有無】
 私の表現をそのまま維持する。相手が私に対してあれこれ書くことは一切妨げない。

(5)原告天羽、被告マグローブ株式会社、健康と環境の神戸クラブ、吉岡英介
【請求内容】名誉毀損を理由とし、自費出版本「水は変わる」およびウェブ版とウェブサイトの一部の削除及び損害賠償請求。
【提訴の理由】吉岡英介がお茶の水大を提訴し、法的解決を望むという意思表示を明確にしたので、私の方も問える責任を問うことにした。
【経過】期日指定待ち。
【提訴の予告の有無】
無し。「水は変わる」は弁護士が見て「何故天羽は訴えないのか」と即座に言った程度のものだが、私は、吉岡氏の提訴が行われるまでは、対抗言論で解決すればいいので私から提訴の予定はないと言い続けてきた。
【表現に対する効果の有無】
判決が出れば、吉岡氏の表現の一部削除になるかもしれない。

 見ればわかるように、私が提訴を行って、直接他人の表現に制限を加えようとしているのは(5)だけである。ただし、この件については、2年近く、提訴のつもりはないとネットのあちこちで書いていた。しかし、吉岡氏が大学を提訴したから、それならばということで提訴に踏み切ったものである。
 (2)の飛騨の人については、元の名誉毀損が刑事罰相当であった上、金を要求したり掲示板を荒らすなどして、単なる表現の自由を逸脱する行動があったから提訴に至った。相手が、ウェブで私の悪口を書いているだけならば、反論はしたかもしれないが、法的にどうこうするつもりは無かった。
(3)は、先に訴えたのは吉岡氏で、私は後から参加したに過ぎない。
(4)は、既に係争中の相手との新たな紛争であるから、通常の場合とは状況が異なる。

 他の件はどうか。比較的最近では池田信夫による脅迫メール(笑)があった。その後池田信夫によってなされた私に対する中傷について、私は、削除せよとも謝罪せよとも、一切要求していない。訴えるぞとも言ってないし、そのつもりもない。向こうが提訴してこない限りは。
 もっと他にも、私に対する人格攻撃を含めていろいろ書いている人は居るが、個別具体的に反論することはあっても、削除しなければ提訴する、などと相手に伝えたことは一度もない。もちろんそんな気もない。
 実際、訴訟で言論を封じるという動きに対抗するために中西応援団の事務局を手弁当でやっていた。訴訟で表現を封じるというのは、私が最も嫌うことであり、他人に対してそれを行うことはない。

 まとめると、
○ネット上の言論については、何かあっても、法的措置ではなく対抗言論で解決すべきだというのが私のポリシーである。
○言論以上のことをやれば、状況によっては提訴があり得る(金を要求するとか、業務妨害にあたるような荒らし行為や嫌がらせをやるなど。所属組織を通して圧力をかけようとすることも該当する。あるいは、明らかに個人のプライバシーである情報を晒す、など)。
○別の理由で既に法的紛争に入った相手については別扱い。別訴が事実上の攻撃の手段になる場合があるので。
○本当に提訴の予告をする場合は、手続きを踏んだ上で相手を特定し、請求内容を明示して内容証明で行う。メールやらblogやらで、気軽に訴えてやるなどと書くことはない。いざ紛争に入った時に「脅迫された」などという主張を相手に許さないためである。

 提訴だと言って他人を脅したなどと言われても、さっぱり身に覚えがないというのが正直なところ。