今月号のパリティは2度おいしい
物理の雑誌の「パリティ」。おいしい話題の1つ目は、「舌触りのよいチョコレートのつくり方」で、レオロジーの話題を紹介している。具体的にどうすべきというところまでは踏み込んでいない。ただ、食感をどうやって物理的に評価するか、ということなら、食品工学の話題だが、これは昔からの「家政学部」が手がけていて、普通の大学の理学部や工学部が関わることの少ないネタである。レオロジー+食品工学で内容を作れれば、「おいしい物理学」ってな、タイトル通りの内容の一般向け講義ができそうな……。
もう一つの話題は、男女共同参画企画で、元お茶の水大教授の伊藤厚子先生が、どうして物理を選んだのかをまとめておられる。高等学校での学力到達度に男女差があったが女子ががんばって挽回した話や、会社に就職しようとしたら当たり前のように男女別賃金が提示されていた話は、今では想像がつかない。大先輩たちのがんばりがあって、一応はあからさまな差をつけられなくて済むようになったのだろう。
このあたりは意識の差もあって、私の数年上の先輩あたりまでは職場で苦労している。給料や待遇で差別はなかったものの「女性の教員が来たからもう秘書は雇わなくていいよね」などと言われて「どうしてそうなるんですか」とやんわり反論して意識を変えてもらう努力をしたり、ということはあって、ストレスになっていたらしい。
女子学生を理系へ、というのは国をあげてやっていて、 「女子中高生理系進路選択支援事業」採択機関の決定についてなんてのもある。楽しそうな企画がたくさんあるし、理系の内容に親しんでもらって敷居を引き下げる効果もありそうだ。ただ、女性が理系を選んだ時のロールモデルに、修士課程くらいまでの女子院生ならともかく、女性の大学教員を持ってくるのはどうかと思う。
大学や独立行政法人の研究機関のポストが圧倒的に少ないし、今後増える見込みもないので、博士号取得者が最終的にどうなるかさっぱりわからない状態である。これは男女差がもはや問題にならないほど厳しい。ポスドクで数年食いつなぐことができても、その先の保証は何もない。ポストの数が少なすぎる上に増える見込みもない(だからなれる可能性自体が非常に少ない)ものや、身分が不安定すぎるものをロールモデルにしても、見抜く力のある人は逆に見切りをつけるだろうし、見抜けず乗せられた人には悲惨な未来が待っている。どちらにしてもあまりいいことがない。
修士くらいまでで企業に就職し、技術者としてそこそこ安定した生活をして、仕事の面でも充実しているような人達をどんどん紹介した方が、女性が理系を選んだときのロールモデルとして望ましいのではないか。博士号をとったひとを紹介するなら、きちんと企業から派遣されて、生活の心配なく取得できたケースを見せる。そういう人達なら(大学教員を探すよりは)数も増えてきてるし、「普通に頑張れば私にもなれる」と思える対象じゃないかなぁ。
いやね、もし「私のキャリアをマネする」と言い出す女子学生がいたら、まず間違いなく「止めとけ」って言うよ、実際。途中で脱落する可能性の方が圧倒的に高い道を、未来のある若者に薦めることなんかできないし。どうしても学位を取りたい人には、「絶対新人として会社の正社員に就職しろ、できれば一部上場あたりの会社」って薦める。ポスドクは増やしてはいるけれど、3年で契約期間が切れて、次はどこで仕事をするか分からず、途中でボスに何かあったらそれだけでいろいろ危うくなるし、何か病気にでもなって療養が必要になったら即アウトだから、「科学技術立国」「人材流動化」の実態は「とんでもない底辺ブルーカラー、不安定雇用の巣窟」なのね。ただ、世の中では少数派の高学歴に属するから、ブルーカラーだとは思われないし思いたくないだけなんだろうけど。だから、「フリーターと紙一重でも人生棒に振ってもいいからやる」というならご自由にどうぞということになる。
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