ちょっと調査しないといけないネタになってきつつあるのでメモ代わりに書いておく。
JUN-Kさんのblogのエントリ「時代はプラチナ微粒子らしい」に関連して。
今度は、東大の宮本教授がやってる産学連携発の水商売が出てきた。「活性酸素を消去する」というふれこみの水は、九州大の白畑教授が「活性水素水」の宣伝に登場し、それが、実際の実験と宣伝内容にギャップがある状態が続いている。宮本教授の説は、抗酸化作用の原因物質は活性水素ではなく、白金ナノ粒子だろうというもので、白畑教授の説とは異なる。研究の展開が、白金ナノ粒子の薬理作用を動物実験で調べるというまっとうなものだったので、今後薬剤としての展開があるかと思ったら、手っ取り早く健康飲料に参入してきた。
以前、宮本教授が立ち上げたのは、株式会社シーテックというベンチャー企業で、私も企業を立ち上げた人と懇親会で同席したことがある。それが、今度はアプト株式会社に営業譲渡されたらしい。まあ、ベンチャー企業をそのまま中堅から大企業に発展させるよりは、早々と売り払って創業者利益を手にするというビジネスのやり方もあるから、今回はそっちなのかな、と思ったり。
例によって大事なことは、実際の実験と宣伝内容のギャップを確認してから判断すべきということである。私が話を聞いた時点では、宮本教授の実験は、脳梗塞や筋萎縮性側索硬化症のマウスかラットだかに白金ナノ粒子を投与して、症状の改善あるいは病気の進行を遅らせることができたというものであった。それが活性酸素除去機能によるだろうというのが、実験結果の説明であった。ここまでは通常の科学である。
しかし、治療薬に使えるものを薄めて健康飲料に使っていいか、というとそれは全くの別問題である。抗ガン剤をうんと薄めて癌予防に使おう、などと主張したら、「それ何てホメオパシー?」と突っ込まれるだけだろう。最近、あっちの掲示板で話題になっているのだが、プラチナの量は4μg/lは4ppb程度ということだ。宣伝では、東大教授の研究成果を使っているということが前面に出されているようだが、教授の肩書きも大学の名前も、宣伝の内容の科学的正しさを担保しないことは、これまでに経験してきたことである。この話題のチェックポイントは以下の通りである。
○宮本教授の実験(一部の疾患に効果あり)の実験条件と、一般向けの水で主張していることのギャップの確認
・単位体重あたりの投与量と投与期間を、実験動物と水を飲むヒトで比較。どの程度近いか、あるいはかけ離れた話なのか?これが、宣伝内容とどうつながるのか、どの程度離れているのか。
・活性酸素を消去するのが本当にいいことであるのか?感染症の時は、体内で活性酸素を作ることで殺菌しているのだから、むやみに活性酸素の効果を減らしていいものではない。このことはきちんと検討されているか?もし本当に目立った消去効果があるなら、風邪ひいたら飲むなとか、おなかを壊したら飲むな、といった注意書きがなされるはずだが……?
・半減期が書いてあるが、ナノ粒子は体内でどう移動するのか?移動しないところで効果は発揮されないわけで……。
○ナノ粒子の安全性の確認
・金属イオンと、目に見えるようなサイズの金属箔と金属ナノ粒子とでは作用が異なる。この区別は正しくなされているか?
・炭素系のナノ粒子(カーボンナノチューブなど)は安全性の確認をする研究プロジェクトが産総研できようとしているところだが、金属ナノ粒子は手つかずのはず。どこまでやったのか?ナノサイズであることそのものが原因の副作用というのもあり得るし、安全性の基準はナノについては別扱いでこれからの研究待ちのはずだが?
・体内での蓄積の有無の確認と測定方法。物質の量に対して測定法は妥当か?
・蓄積の有無や動態は、ヒトで確認されているか?
・医薬部外品の申請基準で、ナノ粒子はどう扱われているか?ナノ粒子というのはいわば新物質と考えるべきであり、規制が追いついていない可能性もあるのだが……。産総研の状況を見ると、厚生労働省が手を打っているかどうかがちょっと不安である。
いずれにしても、論文と宣伝内容を付き合わせてみる必要がある。「宮本教授の研究自体は普通の科学で、そこから思いついた製品であることも本当だが、ふれこみの内容と研究内容が直接結びつかない」なんてことになってないか、チェックしないといけない。学生向けの演習問題としては使えそうなネタだが。