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論文博士廃止

Posted on 4月 17th, 2005 in 倉庫 by apj

理科教育MLver.2への投稿で知ったのだけど。
論文だけで博士、駄目 大学院重視で一致 [ 04月14日 07時44分 ]より。

中央教育審議会の大学院部会は14日までに、企業や公的な研究所で業績を挙げた社会人が、論文などの審査を基に博士の学位を得る「論文博士」制度を廃止し、大学院のカリキュラム修了者を対象に与える「課程博士」制度に一本化する方向で一致した。
 論文博士については「学位のため研究を狭い分野に限定してしまう恐れがある」「日本独自の制度で国際的な通用性に欠ける」などの批判があった。
 文部科学省は論文博士を認めている省令を改正、博士号取得を目指す社会人に対しては大学院に短期間在学する「博士課程短期在学コース」の創設なども検討している。

 私は、課程博士と論文博士の両方で学位を取ったのだが、理学・工学系に限って言えば、論文博士の方が審査基準が厳しいように思う。論文博士の場合は、すでに出した成果を見て、研究者として独り立ち可能と判断されるともらえると思ってよい。ところが、課程博士の場合は審査が甘くて、投稿論文が無かったり、日本語の論文誌で査読の甘いところに1報とかでも学位がとれることがある。これは、構造的な問題で、大学院を作った以上、定員を満たしてかつ学位を出さなければならないという、事実上の縛りがあるので、大学の都合で甘くなっている。
 一方、論文博士の問題点としては、本人が実際にやったことでなくても審査に通ることがある、ということだろう。審査を受けるに際して必要な投稿論文の目安は5報前後なのだけど、企業からの場合、グループのヘッドが部下の研究をまとめて取得ということが可能である。また、修士卒や博士取得見込みで助手になったあと論文審査で取得する場合、研究の指導は教授で助手は現場監督をしただけで、学生や院生のデータで論文を書いて論文博士を申請することもできる。いずれの場合も、論文の共著者の「同意承諾書」(共著者に対し、その論文の内容を学位論文の内容と認めるという書類に署名させる)が必要だが、上司に求められて断る部下は居ないし、助手に求められて断る学生・院生もまず居ないだろう。
 大学院後期課程を終わっても学位が取れず、その後論文審査でとる人が36%だそうだが、論文博士を廃止した場合、このルートがつぶれる可能性がある。多くの大学で、課程博士の単位取得退学後何年かは、在籍していた研究科で論文審査を受けられるという制度にしているが、これが内規だけでできるのかは、私もまだ知らない。ただ、このルートを潰した場合、現在後から取得している36%に在学中に学位を取らせるために、課程博士の学内審査基準が今よりもっと甘くなって、さらに学位取得者の研究能力に対する信頼性が大幅低下というオチが待ってそうな気がする。
 また、オーバードクターが問題になっている現在、修士あるいは博士中退で助手→仕事をしながら学位取得、というルートを潰すのは、政策的には「矛盾」していない。文部科学省は博士取得者を増やす政策をとっているから、博士の就職先をちょっとでも増やす方向に舵を切るのはむしろ当たり前のことではないか。助手採用の時に、「すでに研究の方向が固まってる人なんかいらない」と公言するセンセイも居るわけで、そういうワガママを言う余地を無くす意味もあるんじゃないか。
 実際のところ、教育について言えば、課程博士の方が手厚いといえば手厚い。しかし、手厚い=手取り足取り指導する、となる場合もあり、そういう人は学位を取っても大して使えないことは確かである。また、研究はある程度絞って狭く深くやらないと論文に結びつかないから、論文博士でも課程博士でも、この点については差がないと思う。
 研究室への予算配分は、所属している卒研生、博士前期、博士後期の学生の数によって差がついている。当然、上にいくほど一人あたりの単価が高い。だから、博士が欲しけりゃ在学しろという制度にした場合、入学金と授業料で大学はウマー、研究室も予算が増えてウマー、というのが見込まれる。既に、北大は、博士前期2年間は授業料タダを打ち出しているが、財源は学外に求めるということを謳っている。
 大学院重点化だって、元々は、文系の留学生が学位を事実上取れないのは困ると言う話から出てきていた筈である。そこに、東大のホンネ
 東大だけ大学院重点化→大学の差別化&予算増でウマー
が乗っかったらしいが、これを他の大学が指をくわえて見過ごす訳もなく、
  重点化の動きが他の国立大学にバレる→取り残されたら大差がつくと
  思った国立大が我も我もと重点化→東大は高学力を背景に院定員大幅増
  で対抗、私学も大学院設置に走る→大学院生全国的に激増で学力低下の一途
が現実には進行し、重点化で助手ポスト激減のうえポスドクが増えて、未曾有の就職難の状況を作り出した。当の東大はというと、今頃になって院に優秀な学生が来ないと嘆いている(今年の3月上旬の日経新聞に出ていた)。
 お役所としては、一般に「問題が発生してからでないと予算がとれない」ので、ポスドク問題を作ってから対策費用を獲得するという手順が最初から織り込み済みだったようで。それでも、身分不安定な人材を大量に養成するために税金を使う政策をとるのはどうかと思うが。

 さて、中教審の狙いが本当はどこにあるのか、すぐには読めない。が、論文博士が海外の制度と違うというなら、課程博士の方は海外と同じにやってるのかということも問題にすべきじゃないかと思うんだけど。院生の待遇面も、審査のレベルも、教育内容も含めてだけど。

やっぱりUSBは遅い/マイナスイオン2悪に?

Posted on 4月 16th, 2005 in 倉庫 by apj

 やっとバックアップが終わった……と思ったら私の操作ミスで、Mac OS 拡張フォーマットにしていなかったので、上書きコピーできないファイルが出てきてしまった。仕方がないのでフォーマットして、絶対必要な文書関係のバックアップをまとめて終わらせた。
 弁当箱ほどのHDDを回収して戻って、家でメールフォルダのコピーをしたんだけど、やっぱり遅い。FireWire接続の方が速度は出る。ファイルが大きくなると差が歴然というか。

 ところで、妙なメールを受け取った。マイナスイオン批判をしていたら、安井至氏に「マイナスイオン非科学派3悪」と呼ばれたうちの一人、堀口昇氏が逃亡中(激謎)だそうな。以前堀口氏と関係があったが金銭的な損害を被ったと主張する方からのたれ込み。それによると、どうも、宗教団体のようなものを作ったりもしているらしい。読みながら、被害にあったと主張しつつオマエは堀口氏の追っかけでもしとるんかと思ったわけだが。
 まあ、私のところに言ってこられても、疑似科学批判ならやるけど金銭的被害だの捜査だのといった話はどうにもならないし、この先、カルトの被害発生の可能性があるなら相談先は紀藤弁護士のところだろうということで、その手のネタはウチじゃなくて弁護士に相談しろと、まあそういう返事を書き送った。

エアガン

Posted on 4月 15th, 2005 in 倉庫 by apj

ヤフー見てたらこんなのが。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050415-00000003-nara-l29

職員室でエアガン試射-教頭が夜間に【天理西中】
天理市二階堂上ノ庄町の市立西中学校(奥西真一校長、536人)で、教頭が不審者対策の目的で電動エアガンを購入、職員室で「試射」していたことが、14日までに分かった。同校は「学校にふさわしいかどうか問題」としながらも、警備用品の一つとして導入を検討している。市教委には報告していない。
(奈良新聞) – 4月15日10時55分更新

 何でこんなこといちいち記事にしてるんかと。
ちょっと前にも書いたが、私なんざ、ゴキブリ対策にエアガンを机の中に隠してるんでねぇ。効果の程は既に実証済みなんだが。

 いやまあ、前に居候してたお茶の水女子大に巣くってるゴキブリの動きが妙にスローモーで、ゴキブリにあるまじきのどかさを醸し出しているというのも別の意味で問題だが。大体、某教員はゴキブリ苦手で、あるとき机の引き出しを開けたらゴキブリが居たので、そのままにして自分が部屋を立ち去ったと言ってたし。追いかけ回さないからゴキブリの方も逃げ足が鈍ってるのではないのかと。

HDDがクラッシュした……

Posted on 4月 14th, 2005 in 倉庫 by apj

 バックアップ用に持ち歩いてたヤノの40GBポータブルHDDがご臨終となりました。職場でファイルをコピーして、さて家のPowerBookにコピー、と思ったら、電源を入れても全く動かないという……。急いで後継のを探して注文したが、数日は不便だ。年度末の予算で買った縦置きの新品HDDがあることはあるから、注文したのが届くまでの間、力任せに担いで通勤するしかないか。
 一番持ち歩いていたし、家と職場の両方で書き込み・読み出ししてたから、まあ仕方がないのかなあ。過酷な使い方っちゃー使い方だったし。

 東京に居れば、通勤途中でビックピーカンに寄るんだけど、山形じゃ望み薄。仕方ないので価格コム見て一番安い店から通販で買うことにした。県庁所在地のくせに、ビックカメラもさくらやもヤマギワもソフマップもラオックスも無いなんて詐欺だよな、まったく>山形市。

学生実験用新ネタ

Posted on 4月 13th, 2005 in 倉庫 by apj

 物理化学の学生実験が始まったので、昨日はガイダンス、今日は実験室の器具だしとか実験道具の整備を、TA(ティーチングアシスタント)の院生達とやっていた。
 実験項目にUV・可視吸収スペクトルの測定というのがあるのだが、これの作業量が少なくて、いつも初日で早々と終わってしまう。もうちょっと追加できないか……と考えて、タイムリーなネタとして、お茶の色のpH依存性を測定してみることにした。
 これまで、さんざん、「電解還元水でお茶の色が濃くなる」と宣伝され、それが摩訶不思議でかつ何かすごくいいことのように思われているようなのだが、実は色素のpH依存で説明が付く話である。で、一般の方々には、重曹水で同じコトをしたらどうかとか、一般に色素の色はpH依存するとか、言いまくってきたのだが、今度は学生をダシにしてちゃんと測定してみることにした。
 本日実験をしてみたら見事に出ました。使ったのはキリンの「生茶」。何もしないと(つまり私達が飲んでいるものは)pH6.4。広域緩衝液でpH3, pH7, pH12のものを調整し、それぞれの緩衝液でお茶を2倍に希釈し、可視吸収スペクトルを測定した、というのが実験内容なのだけど、pH12のものは、濃度が2分の1になったにもかかわらず、何もしていないお茶より吸収が大きいと出た。見た目の色も濃くなっていた。ということで、お茶の色が変わるのは電解水の不思議な効果でも何でもなく、普通にpHを振れば再現できるということが確認できた。
 あとは、学生向けの実験の手引きを作るのと、本日の実験のサマリーをウェブに出す仕事が残っている。まあ、これで、ウチの学科の卒業生は、電解水の変な宣伝にはひかからなくなってくれるだろうと期待したい。

どういう種類のネタなんだか

Posted on 4月 12th, 2005 in 倉庫 by apj

元ネタはこの記事。正直、どこをどう突っ込んでいいか迷うのだが。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050412-00000480-jij-soci

中国の国有商業銀行「中国銀行」横浜支店が入居するビルに、遊戯用のBB弾とみられる金属球が撃ち込まれた事件で、在京の中国大使館は12日、「何者かに銃撃され、ビルで働いている中国側要員は身の危険を感じた。これは一種のテロ行為だ」とする報道官談話を発表した。

BB弾なんてゴキブリ退治用のエアガンで使ってるわけだが。それに、日本じゃ普通にサバイバルゲームで使われてるのに、身の危険って一体何の冗談かと。まあ、中国的には投石はかまわないがBB弾はダメと、そういうことですか?だったらそんな「高級な飛び道具」使うのはやめて、次から石にすれば話が早そうだけど。
 軍隊持ってる国が何言ってんだか。そのうち、水鉄砲で水かけられただけでテロだって言い出しかねないな中国は。久しぶりに爽快に笑わせてくれた。

 ただねぇ、金属製のBB弾なんて見たことがないなあ。本当は何が打ち込まれたんだろ。違法改造のエアガンなのか、強力なゴムパチンコを使ったとか……。本物だったらとっとと警察がそう発表してるはずだしなぁ。

電磁波と戦うセレウスサボテン

Posted on 4月 11th, 2005 in 倉庫 by apj

livedoorデパートの商品より。電磁波と戦うセレウスサボテン
ふれこみは、

電磁波はテレビ・パソコン・携帯電話など身近な物から発生します
人間でも電磁波の影響で頭痛や体調不良を訴えることがあるのに
なんとこのサボテンは電磁波を吸収しちゃいます。
モコモコとした形でインテリアとしてもかわいい、この「電磁波と戦うサボテン」
是非PCなどの横に置いて応援しましょう。

だそうだが、サボテンを覆っている筒みたいなもの、金属光沢してます。金属を蒸着してあるのか、アルミか何か貼ってあるのか。金属は電磁波を反射したり吸収したりするから、外からやってきた電磁波は金属で覆われた中には入らない。携帯電話をアルミホイルで覆うと通話できなくなるのと同じ理由。まあ、筒の前面が開いているから、そっちからの電磁波は届くだろうけど。それにしても、このサボテン、どっちかというと電磁波から遮蔽されてることになっていて、ちっとも電磁波と戦ってない。ってぇか、筒の中に潜んでる時点で戦う気ナッシングだよな。

※もちろん、「電磁波と戦う」自体に科学的根拠は皆無の上、サボテンには可視光という電磁波が絶対必要。

戦闘機の大きさがよくわからんので

Posted on 4月 10th, 2005 in 倉庫 by apj

 最近いろんな本を読んでると戦闘機の話が出てくるんだが、相対的な大きさがわからんので、72分の1スケールモデルをいくつか買ってきた。
・SR-71A(韓国製)
・F-22
・AV-8B
・F-15C/J
・F-117
 大体の大きさと形の比較をしたかっただけなんで、塗装までばっちりする気はないし、とりあえず操縦席まわりのデカールだけ貼って、組むだけにして並べておくか。

IE5.x(Mac)でうまく表示できない

Posted on 4月 9th, 2005 in 倉庫 by apj

 このblogだけど、IE5.x(Mac)ではうまく表示できない。blockquoteタグが終了した直後から、本文が1列で縦にずっと表示されてしまう。PHPが生成したhtmlを見ても、特に壊れた所はない。xhtmlとして書かれているのを解釈し損ねているのか、CSSの適用で何かおかしなことになっているのか。Safari, Mozilla, FireFoxでは問題ない。OperaとOmnuWebでも正常表示であることを確認した。

 なお、これはpplog2を設置する人向けの情報だが、更新&管理はSafariよりFireFoxを使う方がよい。safariから、更新のためにウェブのフォームに日本語入力をしようとすると、異常にレスポンスが悪くなる。編集画面では動画の表情アイコンを入れられるようになり、別のフォームから選ぶ方式なのだが、どうも、そのせいかもしれない(画像の数が200個くらいと多数)。以前、設定ミスでアイコン画像が出ないことがあったが、そのときは日本語入力が重くなかったので。

法の不備が親子間の殺人を助長する?

Posted on 4月 8th, 2005 in 倉庫 by apj

 最近、成年以上の子供と親(高齢にさしかかっていることもしばしば)の間で起きる殺人のニュースを見ることが多い。それで、ふと思ったことがある。それなりに年齢の上がった親子間の場合、実は、殺人というのは倫理的にはともかく論理的に正しい解決策なのかもしれない、しかも、日本の法制度上そうなっているのではないか、ということだ。
 時代劇では、放蕩息子を親が勘当するというのが出てくる。勘当は親子間の関係を切ること、つまり、「親の財産を子が相続することもなく、子の財産を親が相続することもなく、お互いの扶養義務もない状態」であるとしよう。今の日本で法的根拠の元にこれを実現するには、実は、殺人以外に手段がない。

 親族の法的意味を考えると、民法では、1)親族に請求・申立てを認める場合(後見開始など)、2)親族であることが欠格事由となる場合(近親婚の禁止など)がある。これ以外に、民訴と刑訴(裁判官の除斥理由)、刑法(親族間の犯罪に関して)にも出てくる。
 親子同志で殺人が起きるほど関係がこじれている場合には、情緒的な部分を取り除くと、とどのつまりは扶養義務と財産相続と近親婚の禁止位しか残らない。
 まず、民法では、

第八百七十七条  直系血族及び兄弟姉妹は、互に扶養をする義務がある。

と定めている。ただしこれは倫理規定であって、「扶養せよ」という判決をもらっても強制執行はできない。
 次に、相続について。親子であれば、どちらか一方が財産を残して死んだ場合、相続権が発生する。

第八百八十二条  相続は、死亡によつて開始する。

となっている。相続の放棄は可能である。

第九百十五条  相続人は、自己のために相続の開始があつたことを知つた時から三箇月以内に、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。但し、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によつて、家庭裁判所において、これを伸長することができる。

 重要なことは、相続をあらかじめ放棄することができない、ということである。権利の発生現が被相続人の死亡だから、被相続人が生きている間は権利が発生せず、存在しない権利を放棄することは法律上できない。
 人間の心は変わりやすいし、第一人間の行動は元々信用ならないものだから、相続人が相続を放棄するかどうかは、その場になるまでわからない。遺言状で財産を渡さないと書いても、遺留分だけはどうにもならない。あらかじめ、お互いに相続をしないことを法的に確定させることは、日本の民法ではできない。
 つまり、親子の間でどれほどお互いがイヤになっても、扶養と相続をあらかじめ解消し、勘当なり離縁なりをすることが、今の民法ではできないということである。
 ここでもし、親子のうち一方がもう一方を殺害すれば、扶養と相続を一気に解消することができる。民法では、殺人は相続の欠格事由である。

第八百九十一条  左に掲げる者は、相続人となることができない。
一  故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位に在る者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者

 例えば、子が親を殺した場合、民法の規定に従って、親の財産を相続する権利を失う。親が既に死んでいれば、子がその後に死んだ場合、子の財産を親が相続することはない。同時に、既に死んだ者に対する扶養というのは物理的にあり得ないから、子は親の扶養からも解放されるし、逆も同様である。親だけではなく、兄弟姉妹とも縁切りしたいと思った場合、親兄弟姉妹皆殺しを実行することになる。ほとんど、横溝正史の小説のような世界が展開することになってしまう。しかし、どんなにがんばって猟奇大量殺人事件を起こしても、殺人を実行した子供にさらに子供が居た場合(つまり殺された親の孫)には、(しつこく)代襲相続が発生する。大量殺人をやっても完全に切ることができないという、ある意味非人間的な関係が、日本の民法が定める親子関係なのである。ここまで抜き差しならない関係を個人に強制してしまうのは、法の不備ではないかと思う。
 なお、戸籍制度には、分籍というのがあるが、分籍したところで親子の財産・扶養の関係は存続してしまうから使えない、

 成年を過ぎた親子間の殺人事件は、どうやっても親子関係を解消できないという閉塞感が当事者を追いつめたことが、原因の一つになっているのではないだろうか。殺人に着手したときに冷静に民法の条文を思い出す人はほとんど居ないだろうが、それでも、親子というのは殺し合いでもしない限り解消できない関係だということは、みんな何となく肌で感じて知っているのではないか。

 顔も見たくない関係も断ちたいというところまで関係が悪化した場合、法的に親子関係を解消できなければ、殺意が生じるのは充分あり得ることではないか。もし、家庭裁判所を通してムニャムニャ、という面倒な方法であっても、お互いが生きている状態で親子の関係を完全に解消する道があれば、殺人よりはこちらを選ぶ人がそれなりに居るのではないかと思う(もちろん、世の中には、制度とは無関係に殺人を優先する奴も少数は居るだろうが)。また、「もうどうにもなりません」と相談された周囲の人だって、当事者が完全に思い詰める前に、離縁する方法がある、とアドバイスできるようになるはずである。

 親子でいがみ合って殺し合いをするよりは、そこまで行かないうちに法的に関係を解消できる制度を作った方が良いのではないだろうか。殺人よりは、「勘当」「離縁」の方が圧倒的に世の中には受け入れられやすいだろう。近親婚かどうかのチェックは、戸籍をたどることにすれば簡単にできるはずである。