YOMIURI ONLINEの記事より。
【学力考 いわての危機・上】社員に「引き算」研修
小学3年生用の計算ドリルや高学年用の漢字ドリル。これらの教材を、携帯電話などの関連部品を作る沿岸部のある企業では、新人研修で使っている。もう10年になる。「かけ算九九さえ満足にできない若者がいる」との悲鳴が以前から現場で上がっていたからだ。
「102―69=941」、「107―48=152」。研修の場で、小学校レベルの引き算ができない高卒の新入社員を見て、社長(63)は、あぜんとした。
研修では、できない社員に対し、上司が付きっきりでマスターするまで指導している。この社長は「学校は何をしていたのか。そう思わずにいられない」と、深いため息をつく。
「ゆとり教育」導入以後、全国的な問題となった子どもの学力低下。だが、本県の現状はとりわけ厳しい。
文部科学省が昨年4月に全国の中学生に実施した学力テストで、中3は、数学Aが全国ワースト3、Bが同4位となるなど国数2教科4科目中、国語A以外で全国平均を下回った。数学Aは2007年の全国学力テスト復活後、3年連続でワースト3に低迷する。
高校生はさらに深刻だ。
17日、花巻市内で県内小中高の教諭らが集まって開かれた県教育研究発表会で、昨春実施の大学入試センター試験の平均点が主要13科目中9科目で最下位かワースト2という結果が示された。
加えて、同じ場で、県教委の佐々木修一教育次長は、昨春卒業した東北6県の高校生の高校3年間の全国模試について、英数国3教科合計の平均偏差値がどう推移したか、民間業者が作った県別のデータを紹介した。
1年生の7月時点で、本県は47・1で最下位。5位の県とは1・7ポイントの開きがある。その後一時回復するが2年生の2月から下降し始め、卒業近い3年生の11月時点では45・5。
東北トップの県でも49・3で平均を下回っているが、トップから5位(48・1)まで1・2ポイント差でひしめき合っているのに、5位と本県との差は2・6ポイントもあった。
偏差値は、1ポイント違うと合格が見込める大学の難易度が一段違ってくるとも言われている。2・6ポイントの開きは、あまりにも大きい。
東北の残る5県からも引き離されている岩手の高校生の学力について、ある高校教諭は「『みちのく一人旅』だ」と自嘲(じちょう)気味に話す。
他方、小6は、昨年4月の全国学力テストで、算数、国語の2教科4科目とも全国平均を上回り、国語Aが全国12位、Bが同9位といずれも上位だ。本県の学力低迷は、中学から始まっている。
佐々木次長は「基礎学力は進学だけでなく、生きていくのに必要なもの。まず、中学の学力を何とかしないといけない」と、焦燥感をあらわにする。
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岩手の子どもの学力が危機的な状況になっている。現状と課題を問う。
(2010年2月20日 読売新聞)
続く記事はこれ。
【学力考 いわての危機 中】数学の理解 中3最低
54・4%――。
アンケートで県内の中学3年生が「数学の授業を理解している」と答えた割合だ。昨年4月の全国学力テストの一環で実施され、全国平均は64・9%だった。開きは10ポイントを超す。2007年の全国学力テスト復活以来、本県の中学生は、数学の授業が「わかる」あるいは「どちらかというとわかる」と肯定的に回答した割合が3年連続で全国最低だった。中学3年生のほぼ半分が、よくわからないまま数学の授業に臨んでいる。
このデータは、現場の数学教諭にも衝撃的だった。盛岡市立上田中の佃拓生教諭(40)は、07年秋、全国学力テストの結果が出るのを心待ちにしていた。手応えを感じていたからだ。だが、数学A、Bとも最下位クラスという順位に加え、理解度を尋ねるアンケートも最下位。佃教諭はがく然とした。
全国学力テストの結果を分析すると、正答率が低いグループと高いグループで、四則計算や文字式など小学校や中学1年で学習する基礎、基本を問う問題の正答率に大きな開きがあることがわかった。
そこで、佃教諭は、授業で、分数の割り算なら正解の出し方だけでなく、分数の仕組みも丁寧に説明するようにした。50分の授業中、10分は基礎の確認に充てる。そうすると今度は、授業時間が足りない。佃教諭は、「数学の授業時間は10年前より年に35時間減った。中学でやるべき数学の授業をなかなか進められない」ともどかしそうに話す。
県教委も、中学1年生でのつまずきをなくそうと、08年度、小学6年生と中学1年生向けに「中学校数学準備問題」という問題集を作った。昨年4月末時点の調査では、76%の小中学校が利用し、今後使いたいという回答は9割近かった。
また、小学校から、子どもたちに自分で知る喜びを知ってもらうため、積極的に辞書を活用し始めたところもある。陸前高田市立長部小は、昨年4月から、全児童95人に国語辞典を配り、全教科の授業中、わからない言葉を調べてもらうようにした。同校は読書も呼びかける。
授業内容の理解が進まない原因を県教委は、どうみているのか。佐々木修一教育次長は、「前回習ったことと、その日学んだことの確認は基本中の基本。だが、恥ずかしながら、できていない場合が多い」と授業の進め方に問題があると率直に認める。
(2010年2月23日 読売新聞)
その次がこれ。
【学力考 いわての危機】〈下〉家では「ながら勉強」
大船渡市に住む中学1年生のタカシ君(12)(仮名)は、学校が休みの土曜夜、自宅の勉強部屋にあるこたつでノートを広げた。兄(15)の勉強机もあるが、テレビが目の前のこたつが指定席だ。
テレビからは、お笑いタレントの大きな声が響き、机の上には読みかけの漫画本。視線はテレビとノートを行ったり来たりする。1日約30分勉強するというタカシ君は「いつもこんな感じ」と屈託ない。家族からとがめられることもあまりないという。
「ながら勉強」が、ごく普通になっている。昨年8月に全国学力テストに併せて実施された学習状況のアンケートで裏付けられた。「テレビを見ながら家庭学習をしていた」と答えたのは、「ときどき」も含め、県内の小学6年生で76・9%に上る。高校受験を控えた中学3年生でさえ、半数を超す57・4%だった。
家庭学習の時間も短い。中学3年生の1日あたりの家庭学習時間(平日)は、「1時間未満」の合計が、ほぼ2人に1人の46・9%で、全国平均の34・6%を大きく上回る。県内の小学6年生が34・3%にとどまるということは、中学に入ると家庭学習がおろそかになる子どもが100人のうち12人も増える計算だ。
では、質はどうか。
「自主ノート」や「自学ノート」と呼ばれる手法が、家庭学習で中心的な役割を果たしてきた。教諭は「2ページ分」などと分量を指示する程度で、科目や内容は原則自由だ。自主的な勉強習慣を身につけさせようと20年ほど前から広がり始め、教科担任が課題を指定する宿題に取って代わった。
ところが、県南部の中学校の数学教諭(45)は「自主ノートで数学をやってくる生徒は、ほとんどいません」と明かす。ノートに同じ漢字の書き取りを繰り返すだけ、という生徒も少なくないという。
実際、県立総合教育センターが昨年11月に実施した調査では、県内中学の教科担任の63・6%が、自主ノートの学習効果に疑問を感じていた。
こうした現状から、県教委は、宿題に再び目を向け始めている。北上市立和賀東中では09年度から各教科できめ細かに宿題を出し、生徒の取り組みを4段階で評価している。すると、授業で積極的に質問する生徒が増えてきたという。
8年前に全国で本格導入された「ゆとり教育」の目的の一つも、自主性を育むことだった。しかし、学習塾「M進」盛岡本校の高橋栄一講師(35)は、「最近の生徒は、自分から学ぶ姿勢に乏しい」と分析する。
「自主」や「ゆとり」という言葉は耳には心地良く響く。でも、その裏側で、見落としてきたものはなかったか。基礎学力の低迷という厳しい現実は、学校と家庭に自らを見つめ直すよう迫っている。
(この連載は、中島幸平、吉田拓矢、工藤武人が担当しました)
(2010年2月24日 読売新聞)
一部の進学校を除いて、学校、特に小・中・高が何をしてきたかは、はっきりしている。成績に関する「粉飾決算」をしていたの一言に尽きる。学習内容がマスターできていない生徒を進級させ卒業させて続けてきた。何も岩手に限った話ではない。
まともな学力試験を課す大学に進学する人達は勉強する機会があるから学力を向上させるチャンスがあるのだろうけど(それでも大学全入とAO入試の横行で危なくなっている)、粉飾決算成績判定&受験勉強の機会無し、なら、学力がどうなるかは誰にだって想像がつく。四則演算の補修を会社でしたくないというのなら、受験勉強を通過した大学生を雇うしかない。あるいは、高卒の入社試験に小学生レベルの算数の問題を課して選別するか、どちらかだろう。会社で無理にフォローしようとせず、出来の悪いのは試験で落として突っ返す方針でいった方が、教育現場に対して「何が問題か」をきっちり突きつけることができるはずである。小学校で学ぶべき事は小学校が責任を持って、習得するまでやらせなくちゃいけない。習得してない人を卒業させた結果、その次の学校が尻ぬぐいする羽目になるとうというのは間違っている。中学、高校についても同様。
また、数学が出来なきゃ就職できない、というメッセージを伝えることも大事なんじゃないかなぁ。数学は社会では役立たない、といった間違った偏見をただすためにも。