poohさんのところの「対立構図と意識」を読んで、そこからさらに「コミックサイエンスw」を読んで。
水に感謝する云々、マイナスイオン云々、コラーゲン云々などなど枚挙に暇はありませんが、こうして名前がつくと対立構図がはっきりして、喧嘩しやすい状況ができるわけですね。じゃんじゃんやってほしい。
まずこの部分が、さっぱりわからない。水に感謝云々が水伝のことなら、教育現場にオカルトかつ不道徳な内容が道徳を標榜して堂々と持ち込まれたことと、浄水器や活水器のインチキ検査法として使われたことが問題である。マイナスイオンについては、消費者被害を発生させて、行政処分をくらった業者が出ている。筆者のtaraさんが言ってる「喧嘩しやすい状況」てのが想像つかない。喧嘩になる時って、既に現実の被害が発生して、特商法違反だ景表法違反だ金返せ、と法的紛争に突入してたりする。「喧嘩しやすい状況」が、「速やかに提訴して金を返して貰いやすい状況」のことなら、多分、コミックサイエンス云々を持ち出したって実現しない。単に議論しやすい状況というだけの意味しかないなら、別にこれまでだって「喧嘩しづらい状況」でもなかったので、何が良くなるのかがわからない。
人間にとって何が大事かという問題なのです。もちろん、それが詐欺的に使わるのは良くないとは思いますが、霊感商法みたいに、科学的であろうとなかろうと詐欺が発生するのも事実。その線引きって、難しくて誰にもできないと思うよ。
この部分も大雑把すぎて何が言いたいのかがわからない。人間にとって何が価値あることかというのは、そもそも線引きして決めるようなものではない。一方、詐欺のやり方や商材は様々で、その中にニセ科学が使われることもある、という位置づけになっている。
刑法上の詐欺罪の方は構成要件が決まってるし、民事上の詐欺は民96条の適用を考えることになる。どちらもこれまで裁判所で山ほど線引きした例があるので、「難しくて誰にもできない」というのは明白な誤りではないか。霊感商法の方は紀藤先生や山口先生(LINK総合法律事務所)を始め、他にも各地の被害対策の弁護団や弁護士さん達が活発に活動して被害者救済に動いているが、これだって裁判所で線を引くことになるし、引いてきた積み重ねがある。
でも議論って大事だから、コミックサイエンスという俎の上で喧嘩が繰り広げられるのは賛成。
多分、現実の俎がどこかにあるとしたら、その俎のかなりの部分は、きっと裁判所までつながっている。
「コミックサイエンス撲滅宣言」には、次のような一節がある。
しかし、科学者や、そこに近い領域で生活している人たちは、ここで一度立ち止まって考えてみてください。科学者は、事実を前にしたときに、その事実に対して敬虔であるべきだということを知っているはずです。事実を尊重しなくてはいけないことを知っているはずです。科学とは、事実をさまざまな角度から見て、その背後に隠されている真理を理解することのはずです。私たちが、世の中に横行しているコミックサイエンスを黙認、許容することは、捏造、インチキ、擬似科学を受容することと何も変わりはないのです。確かに、「絶対にコラーゲンが肌に良い効果を及ぼさない」とは言い切れないかも知れません。しかし、「ほぼ間違いなく、良い効果は得られない」ことは知っているのです。そのことについて黙っていることは、事実に対する冒涜ではありませんか?そして、それを許容することは、自らの科学者としての存在意義を否定することになりはしませんか?
まさに、私は、自分の研究分野が水・水溶液だったので、水について、ここに書かれたようなことを実行してきた。その結果、逆恨みされるは訴えられるは、こっちからも訴えるは、法的紛争を積み重ねることになった。母校が訴えられた訴訟では、私と私の師匠が独立当事者参加し、磁気活水器は師匠と折半で購入し実験までした。業者の請求は棄却され、判例時報と判例タイムズにも掲載された。
活性水素水に批判的な仕事をした研究者は、頼んだ覚えのない実験器具がいろいろ届くという、刑法上の業務妨害にあたるような嫌がらせをされた。その方には、警察に行って被害届けを出すように言った。
10年やってわかったことは、結局、業者の利益に反することを主張するのなら、嫌がらせで提訴されても和解などせず裁判所で徹底的に争うつもりでやらないといけないのだろうということだった。だから、若い大学院生やポスドクの人達が、私と同種の主張や活動をしたいと言った時に、私は「訴訟を受けとめられるだけの知識と人脈(弁護士とか)と経済的基盤を持つまでは、あまり踏み込んだことは主張するな。主張の仕方も直接業者と争わなくてもよいような形に工夫すべき」と助言してきた。ニセ科学を問題だとして活動してくれる人が増えることは嬉しいが、実行した場合に負うリスクを正しく理解してからでないと、結局、その人が不幸になってしまう。また、訴えられても勝てる範囲で書くというのも、知識や慣れが必要である。実のところ、私が何とかやってこれたのは、師匠の冨永教授の理解が得られたことと、私自身がもともと法律好きであったことが大きかったりする。大抵の場合は、科学者の言うことなどスルーして商品を売る方が利益になるのだけど、中には脅す方に情熱を燃やす人も居たりして、ひっかかった場合はそれなりに時間も金もかかることになる。
上の撲滅宣言の文章は(残りの部分も含めて)、何だか無責任に科学者をたきつけているだけのように見える。実際に実行した場合に科学者が負うリスクを見積もっての発言とは受け取れない。だから、読んでいてあまり気持ちは良くない。軽々しく一派を作る音頭だけとって、集まった科学サイドの人達に十分な説明なしにリスクを負わせる結果になりそうだからだ。
まあ、先に実践(ひょっとして実戦?)して、他の科学者に向かって「どんどんやるべき」と言い出せそうなポジションに居る人が、これまでそういったことを言わなかった理由というものを全く想像してないんだろうな、と。一派を作らなかった理由は既にpoohさんが考察してるけど、もう一つ別の理由としては、紛争に巻き込まれるリスクを考えると軽々しく人を誘えないってのがあるんだよねぇ。自発的に始める人は覚悟済みだろうけど。
【追記】
いざ紛争に入った時に、ニセ科学を問題にする側が争いやすくて勝ちやすい状況を作るというのも必要で、この状況は法律の実務家に届く方法で作らないといけない。このために、神戸の裁判では、単に原告の請求棄却の判決をもらだけじゃんくて、判例時報掲載や判例タイムズ掲載を狙っていた面がある。判例時報の方は、名誉毀損が成立しなかった判断の例として取り扱ってくれたし、判例タイムズの方は裁判所が当事者参加が認める場合の基準について解説してくれた(つまり所属組織に対して訴訟を仕掛けられても裁判所で防衛する道がついた)。これで少しは争いやすい(逆に、ニセだと指摘された側にとっては訴えづらい)状況を作ることに役立ってくれればと思っている。
【追記】
キーワードで検索して販売側よりも上位になったり、大体同じ順位でサイトが出てくるようになると、クレームが来ることが多いような気がする。これまでの経験によると、検索して自社製品の批判の方が先に出る、ということになると、販売側はかなり気になるらしい。だから、例えば「コラーゲン」で検索して、コミックサイエンスのサイトが結果の1ページ目の上位に来ると、コラーゲン関係を売ってるところから営業妨害だというクレームが出てくる可能性が高くなる。そこまで検索の順位を上げられれば活動の成果があったということだし、そのクレームをどうはねのけるかでその後が決まるんじゃないかなぁ。