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ac.jpなのにものすごいことになっている件

Posted on 6月 11th, 2009 in 倉庫 by apj

 東京女子医科大学付属青山自然医療研究所クリニックの治療の方法メニューがニセ科学過ぎる件。

 私はこれまでに、怪しい情報かどうかをある程度判別するには、普通にネット検索したときと、ac.jpドメイン限定でネット検索した時の差を見ろ、と学生に教えてきた。しかし、今学期からは、ac.jpでもダメなものはダメ、と教えないといけないようだ。

 「自然医療と統合医療」では、

自然医療とは、漢方、鍼灸(刺絡を含む)、気功、マイナスイオン治療、音感治療、温熱治療、ホメオパシー、メディカルアロマセラピーなど、西洋医学(一般の病院・診療所等で行う保険の範囲の医療)以外の治療の総称です。同じような内容の言葉としては、代替医療やCAM(相補・代替医療)などがあります。東洋医学も自然医療の中に含まれています。

 「自然医療と統合医療」を見ると、もっと不穏なことが書いてある。

欧米に比べ、残念ながら、研究・臨床・教育の各面で日本の自然医療の普及は遅れています。欧米各国の進んだ状況をご紹介します。

 私は以前から、ウチの学生達に向かって、「特に米国では金持ち以外はまともな医療を受けられないから、代替医療を容認している面がある。日本でも、医療費抑制の目的から、保健医療の制度を潰して、貧乏人は代替医療で我慢せよ、という政策がとられないとも限らない。このとき、政治家や官僚は絶対に”貧乏人は代替医療で我慢せよ”とは言わないはずである。言うと反発されるのがわかっているからだ。そのかわり、代替医療を黙認したり、選択肢の1つとなるような状況を作って、弱者が自分から進んで代替医療を選び取るように仕向けるだろう。弱者は、自分で決めたということで満足するに違いない。今は、厚生労働省はインチキ療法を取り締まる立場だからまだ大丈夫だが、代替医療も積極的に試そう、という方向に流れて取り締まりが甘くなった時が要注意である」と教えてきた。

 日本で自然医療の普及が遅れている、などと脳天気な言葉に騙されてはいけない。代替医療なんか普及しなくたってちっとも構わない。普通の人が支払える値段で、そこそこのまともな医療にアクセスできる状態を維持する方がずっと重要である。

 ac.jp経由で、代替医療容認の方向に引きずられると非常にまずい。

 欧米各国が進んでいるなどというのはとんでもない話で、「弱者が騙されている」の間違いじゃないのか。

 十分な科学的根拠にとぼしいサプリメント等についてまともな評価をしようというのは、やってもよいだろう。他の、専ら患者をリラックスさせるであろう方法を否定するつもりもない。ただ、そのリストに、どう考えてもダメだろうというものが混じっていることが問題である。ダメな例を、「自然医療と統合医療」から抜き書きしておく。※印付きのものが、実際に行われているものらしい。

マイナスイオン療法※
マイナスイオン療法も、症状を抑えるだけの対症療法と違い、自然治癒力を高めて生体自らの力で病気を治す根治療法です。マイナスイオンが多くなると血液は弱アルカリ性になり、その結果、新陳代謝が活発になり、人体に有害な活性酸素を中和して水にします。また、細胞の活性化を促進し、精神を安定させ治癒力を高めます。
※当クリニックには、マイナスイオン発生器を設置しています。

 マイナスイオンの化学的実態もわからないのに、いきなり治療に使おうとすること自体が無理過ぎる。やるなら、マイナスイオンと称する物質の特定と濃度による効果を確認するという基礎研究が先だろう。

ゾーンセラピー※
ゾーンセラピーとは、20世紀初頭、アメリカの医師の研究から発展したもので、足を全身の地図とし、足の各部分を身体の各器官に当てはめ、反射帯(反応ゾーン)を治療することによって、体をよくするという反射療法です。
1930年代にさらに詳細な「足の地図」を作り上げ、「リフレクソロジー」と呼び名を変えました。

 骨相学の亡霊みたいな話だ。東洋医学ではツボは全身に分布しているとされるが、アメリカ人がやると足裏に全部集中するという話になるのか。健康サンダルを履いていればそれで済みそうな……。

ホメオパシー(同毒医療)※
ホメオパシーは、18世紀末にドイツで発祥した医療体系です。自然界に存在する動植物・ミネラルなどを希釈したレメディ(丸薬)を服用することで、いったん刺激を与え自然治癒力を高めて治します。

 質量作用の法則をまるで無視した話に乗っかってどうするのかと。

フラワーエッセンス※
フラワーエッセンスとは、花の持つエネルギー(波動)を水に転写して活性化した花の波動水で、主に飲んで身体に取り入れます。この植物エネルギーは、様々な感情や心の状態や性格のタイプに対応しており、穏やかに心と身体のバランスを取り戻すのを助けます。

 「波動」が登場している時点で終わっている。花の有効成分(化学物質)を利用するのならまだわかるが、意味不明な植物エネルギーって一体?

オーラソーマ(カラーセラピー)
ハーブやエッセンシャルオイルなどを原料とした102種類の様々な色のボトルから4本を順番に選び、専門知識と高いリーディグ能力をもつプラクティショナー(治療者)によって、その人に適した解釈(本来の魂の目的・今後の人生の方向性・課題など)をしてもらいます。魂のセラピーであって、体への直接的治療を目的とはしません。体に塗ったり眺めたりすることで、精神的リラクゼーションが得られるとともに、魂のレベルまで深く癒されます。

 他のセラピーはリラックスさせる効果くらいはありそうだが、「本来の魂の目的・今後の人生の方向性・課題」は、病院で決めてもらうことじゃないだろう。ってか、やってないとはいえ、これって「療法」なのか?

水療法※
広義の水療法には、�電解還元水・イオン水の飲用・塗布、�各種名水等の飲用、�波動水の飲用、�温泉、腰浴、サウナ、シャワー、プール、足浴、浣腸などが含まれます。

 「波動水」はダメだろう。というか、消費者被害の片棒をac.jpが担いで一体どうするのか。

健康関連器具・グッズ
快眠のための枕、電磁波防止グッズ、マイナスイオン発生器、入浴剤、マッサージ機・腹筋マシン・金魚運動マシン・健康サンダル・トルマリン・磁気ネックレス・ツボ押し棒・関連書籍など、広くは予防・健康を意識して購入したもの全般が含まれます。

 健康増進法にひかかるような「バイブル本」も含まれる罠。一応、アドバイスはしているらしいし、まともなアドバイスをしてくれるならいいんだけど、他の診療メニューに堂々とニセ科学が入り込んでいるようでは、不安を払拭できない。

 代替医療について解説しておかなければならないから怪しいものまで入れたのであって、実際にはこれ以外のまともなものしかやってないのでは?という淡い期待は見事に打ち砕かれた

【当クリニックで対応可能な自然治療】
漢方、鍼灸(刺路を含む)、気功健康食品・サプリメント(※1)、マイナスイオン治療、音感治療、ホメオパシー、メディカルアロマセラピー(※2)、ロルフィングなど

 どうも、説明で列挙した治療を実際にやっているらしい。

 「自然医療をこんなときに」を見ると、

全て自費診療で行うため、お1人ずつに十分時間をとって、ゆっくりとご相談に応じることが可能です。

ということで、当然のことながら自由診療である。つまりは、西洋医学の治療でものたりない金持ちをターゲットに、さらに代替医療で儲けようということか。
 金持ち以外はお呼びでないなら、このクリニックが直接の原因で貧乏人が損をすることは無いだろう。ただ、既にニセ科学だとはっきりしていて、他の民間企業が消費者被害を発生させているような商材をリストに加えることで、大学のお墨付きを与えたり、予想しない場所で宣伝に使われたりすることになったら、よろしくない結果になる。
 病気とはいえないが不具合の自覚症状はある、というケースの相談場所が少ないことは確かだし、そのニーズをくみ取るのはかまわないが、インチキまでセットにして広めなくたっていいのに。

提訴を装った詐欺に注意

Posted on 6月 11th, 2009 in 倉庫 by apj

 悪マニさんのところで知ったので、こちらでもネタとして取り上げる。
 以下のような文面の葉書が出回っているらしい。

内容確認通知書

契約会社に対し貴方が行った、料金の未払い或いは契約不
履行に対し、契約会社が貴方に対し訴状を管轄簡易裁判所
に申請した事をこの通知書にてお知らせ致します。

当センター職員にて契約会社、訴訟内容等につきましては
お調べ致します。
私どもは原告側からの最終通知、並びに被告人と訴訟内容
を確認する機関の為、個人情報保護法に基づき通知書本人
様のご連絡をお願い致します。

御連絡なき場合、管轄裁判所から訴訟の日程を決定する、
呼出状送達後、出廷となります。
尚、裁判所からの重なる通達を無視し続けますと原告側の言
い分通りの判決が下り、執行官立会いのもと、財産の差し押さ
え等をされる事がありますので十分に御注意ください。

※企業間で個人情報をやり取りし、悪用するケースもござい
ますので、至急御連絡ください。
※この通知は金銭の請求ではございません。

登録番号 (○) ○○××△△ 平成21年

NPO法人 国民消費相談センター
9時~17時30分
〒104-0061
東京都中央区銀座1-18-16
03-5649-9071

 もちろんこれは詐欺で、国民生活センターとも消費生活センターとも何の関係もない。
 こんなものが出回っているということは、これを信じてひかかる人が世の中には居るということだろう。しかし、少々の知識があれば、この葉書がいかにヘンテコかがわかって、お茶を吹く結果になるので、具体的に説明しておく。

  民事訴訟の開始は、
(1)原告が管轄の裁判所に訴状を提出
(2)内容に不備がなければ、裁判所が、期日を決めて被告に特別送達。
である。つまり、訴状が被告に送達されるまで、(代理人弁護士を含む)原告と被告と裁判所以外の誰かが関わることなど無い。そもそも、裁判所や原告本人以外から、訴状がどうなっているかの連絡が来ること自体が有り得ない。

 訴状は申請するものじゃなくて提出するもの。基本的な用語を間違えるなと。
 訴状に不備があれば、補正するように言わるし、従わなければ却下となる。却下されれば訴訟は始まらない。訴状の審査は裁判官の仕事、窓口で教えてくれるのは担当の書記官だったりするが、この内容が裁判所の外に漏れることはない。

 裁判所に訴状を「申請」し、それが関係ない第三者に知られているという設定自体、少なくとも日本の裁判制度の話でないことは確か。

 また、訴状の内容やら相手方については、訴状が送達されてくればはっきりするわけで、事前に誰かを通して調べてもらったって何の役にも立たない。訴状と証拠書類の実物を見ないことには答弁書も書けないし、弁護士に相談もできない。要約だけ先に知るメリットは何一つ無い。

 原告側の最終通知に至っては、一体どういう設定なのかと(笑)。最終通知も何も、裁判所にあるか、裁判所から送達途中の訴状について、誰か他の人が内容を知ることなんか不可能である。だから、原告:提訴と同時に記者会見、被告:「訴状を見ていないのでコメントできない」が繰り返されるわけだ。

 つまり、この葉書の、連絡を寄越せというお願いに至るまでの話は全部嘘である。

 大体、普通はこんな面倒な手順は踏まないはず。普通の原告は、提訴するぞといった内容証明の1通でも送って様子見した後は、訴状を提出しているものだ。相手が悪徳なら、内容証明を送るなどという効力もない無駄なことはしないで、とっとと訴えた方が手っ取り早い。そこに、関係のない自称NPO法人が絡める余地なんかあるわけがない。

 嫌がらせにせよ詐欺にせよ、本当に訴状が提出されているのならば、訴状が裁判所から送達されるのを待って対応すれば十分間に合う(「特別送達」というものでやってくる)。この葉書は、どう見ても架空提訴に架空NPOだから、きっと、脳内訴状しかなく、実際に訴状が届くことは無いと思われる。

 この手の葉書を受け取ったら、近くの消費生活センター(本物)や、警察に届けて、周辺住民や悪徳業者に名簿が渡ってしまっている人達への注意を喚起するために使って貰うと良いだろう。

【追記】ニセNPO法人は内閣府が晒してくれているので、内閣府に連絡するのも1つの手かと。

水からの伝言:ツッコミのレイヤーを変えてみる

Posted on 6月 10th, 2009 in 倉庫 by apj

 poohさんのところにコメントしているうちに頭が暴走したので書いてみる。水からの伝言へのかなり乱暴な反論。

「オマエの体の中の水の結晶が”ありがとう”できれいになったと言うんなら、今すぐここでそれを確認して私に見せてみろ。試験管の中で効果があったって、実際には効かなかった薬なんかこれまでに山程あるんだ。水伝だって確認は試験管の中(ってかシャーレの中)だけの話だろ?だったらちゃんと人体で確認してみろ。すぐやれ。さっさとやれ。最低でも”ありがとう”を言われた後で血ぃ抜いてシャーレで凍らせて確認する、くらいのことはしてからでないと、そんな話誰が受け入れるか。人の体の7割が水だとか、その水をキレイにするとか言うんだったら、結果を人体の内部の水でちゃんと見たんだろうな?それとも、人の体では見てもいないのにホラ吹いとるだけか?ご飯に声かけてカビるかどうかなんてどうでもいい実験で誤魔化すんじゃない。人に効果がある、言うんやったら、ちゃんと最後まで人体実験して確認せんかいゴルァ!」

 いや実際、人体の水をまんま氷にしたら、結晶の形以前にその人は凍死してるはず。すると、凍死した遺体を切って中をあけて、体内の水分が凍った表面にどういう形の結晶ができるか観察するという、何かのホラー映画みたいな光景が展開することになる。どう考えても殺人と死体損壊のコンボになりそう。もうちょっと穏やかに採血してシャーレで凍結というのをやることにしても、みだりに他人から採血したら傷害罪か、医療行為とみなされたりしてやっぱりひかかるという……。

 「水からの伝言」の、江本の主張に沿った意味での本当の確認実験はホラーかスプラッタになる上、刑法に引っ掛かりそう。

 こう考えると、水伝はインチキ健康食品以下の立証しかしていないことになるなぁ。インチキ健康食品だって、(ぜんぜん効果がないか、逆に危険だったりするけど)それでも一応は人で試してるし、体験談が出てきたりするわけで。水伝はそのレベルですらない。
 もし、江本氏が、”ありがとう”を聞いた後で、せっせと自分の血を自分で採血して、シャーレに入れて凍らせて結晶を観察するというところまでやるのなら、根性だけは認めてもいいかもしれない。あくまでも「根性」だけ。ポエムとか何とかいって逃げてる間はそれもダメだろう。

ココログニュースの水素水の記事

Posted on 6月 8th, 2009 in 倉庫 by apj

 ココログニュースに水素水の記事が出た。

水素水がトレンドに!?
– 2009.06.08 11:00 コメント(3)
とあるウェブサイトに水素を添加した水やサプリメントがトレンドになっているという記事が掲載された。しかし、ネット上には水素水の健康効果に否定的な情報が多数存在しており、ブームになるとすれば社会的な影響が広がりそうだ。

記事が掲載されたのは『COBS ONLINE』。6月2日付けで同サイトに掲載された「酸素の次は水素?–水&サプリメントの新トレンド」という記事には、「一部の医療現場では水素を添加した水やサプリメントが活用されている」「アスリートの疲労回復にも、水素が注目されてきている」とあり、「『酸素』に次ぐ新しいトレンドが、『水素』となるかもしれない」といっている。

しかし、Googleで「水素水」を検索すると、他のキーワード欄(検索数の多い複合ワード)には「インチキ」「詐欺」「ニセ科学」の文字。多くのネットユーザーが水素水の効果に疑問をもっていることは間違いなさそうだ。

また、ウェブサイト『水商売ウォッチング』では水素ガスを使った実験について「細胞培養と消化管経由の物質の吸収は別の話である。従って、細胞培養の結果から『水素水を飲んだら云々』という結論を導き出すことはできない。」などといい、いわゆる“水素水”を飲むことによる健康効果に疑問を示している。

同サイトを運営するY.Amoさんによれば、このような商品に出くわしたときには「血中水素ガス濃度の値がどうなっているかまず確認」したほうがよいとのこと。闇雲に水素水の健康効果を信じることのないように気をつけてもらいたい。

(秋井貴彦)

 このあたりの情報はまだ錯綜しているので、考え方の指針をまとめておく。

 まず、水素水の飲用については、太田教授の話では『水素水の動物実験結果発表は1年遅らせて、2008年6月(認知機能低下抑制効果)、12月(動脈硬化抑制)、2009年1月(抗がん剤の副作用軽減効果)に発表しました。』とあり、動物実験では、一定の効果が見つかっているらしい。これらについては、論文の有無の確認が必要である(「発表」だけだと、学会発表なのか論文なのかがよくわからない)。

 次に、動物実験でみられた効果がヒトでみられるかどうかは別問題である。

 動物実験だと、特定の病気を発症するように遺伝子操作したマウスやラットを使っていたりする。つまり、最初から病気の動物で効果を調べる。すると、既に認知機能に障害があるとか、動脈硬化を起こしているとか、抗がん剤を使っているという状態で効果があるということと、健康な動物に対して水素水を与えることに意味があるかどうかとは別ということになる。このあたりは、ヒトの場合でも同じである。だから、仮に、動物実験通りのことがヒトで確認された場合でも、それは、あくまでも「病気の人に治療法として使うと意味がある」のであって、健康な人が水素水を摂取しても何の意味もないかもしれない。

 健康な人も何らかの健康法の一環として水素水を摂取すべし、という結論を出すためには、水素水を飲み始めの時点で健康な人が、その後どのような病気になるか、対照群と比べてどうか、といったことを長期にわたって追跡調査し、病気の発生に違いがあることを見つけなければならない。そういった調査の結果が無い間は、何とも言えない。病気の人に効果があっても、健康な人のその後の病気の予防等に影響しないのであれば、治療法として使うならともかく、普通の人(医療関係者でもなければ、水素水治療対象でもない人)がわざわざ金を出して使う必要は無いことになる。
 調査のエンドポイントが何であるかを問題にしなければならない。

 いずれにしても、前向きコホート調査というのは、数年とか十年とかかかる調査なので、特定の病気の治療法として使えるなら先にそちらを確立してもらい、健康な人にとっても必要かどうかはゆっくり調査して結論が出てから、消費者が動けば良いという話である。慌てて飛びつく必要は無い。

本買い

Posted on 6月 7th, 2009 in 倉庫 by apj

 折角上京したのでジュンク堂に立ち寄ってから戻る。

・別冊NBL No.126 債権法改正の基本方針
・15-MINUTE ARABIC (CDと本のセット)
・対訳 カエサル「ガリア戦記」第1巻 (ラテン語ー日本語の対訳、注釈付き)
購入。

 別冊NBLは、さすがに山形の本屋の店頭じゃ見かけない。語学関係も、メジャーどころは入るけど、マイナーなヤツは全滅に近い。

トンデモ本大賞

Posted on 6月 6th, 2009 in 倉庫 by apj

 トンデモ本大賞に出席。
 購入物品は、同人誌の「大宗教学」バックナンバー含めて1冊ずつ、楽工社の「フリーメーソン完全ガイド上・下」、昨年上映された「山本ひろし物語」DVD。会長の同人誌は売り切れで買い損ねた。

 まーでも今回の最大の収穫は、鳥取のマイミクさんと、前日の迎撃オフで第三種接近遭遇できたことかな。昔読んだ「東京レスキュー」(少年チャンピオンコミックス)、品切れ絶版でなかなか発見できなかったのだけど、見事にマイミクさんのお店(古本屋)に入荷したところをゲットしたという……。

微妙な本

Posted on 6月 4th, 2009 in 倉庫 by apj

 「不思議な水の物語 トンネル光子と調律水 上」(鈴木俊行著 海鳴社)というのを生協店頭で見つけた。
新手の水商売ネタかと思ったのだが、見てみるとどうも様子が違う。

 著者たちが実際にやったことは、海洋深層水をそのまま使うとうまくいかない→混ぜて使うと良さそう→ほどよい混合方法を見いだした、ということらしい。
 ところが、これを「常識外れの結果」と受け止め、理由を説明するために四苦八苦した……のは仕方ないとしても、四苦八苦の挙げ句場の理論に突っ込んだ。さすがにこれをノンフィクションとして書くと関係者に迷惑がかかるということで、この本は小説の体裁で書かれており、フィクションであることが明記されている。
 この本の設定では、

 すなわち、液体である水分子は電気的な偏りである電気双極子を形成して自由な回転運動を行っているが、生命体を構成する細胞膜や細胞質内の物質それぞれの表面は、電気的にプラスの電荷を帯びているために水分子の電気双極子は整列をなす結合水の凝集体となって電磁場を形成する。この時、自発的対称性の破れにより南部-ゴールドストーン量子がゲージ対称性により電磁場のベクトルポテンシャルの中に取り込まれるが、電磁場は南部-ゴールドストーン量子を取り込むことにより光子が有限の質量を持つ準粒子のコヒーレントのトンネル光子よりなるボーズ凝集体が生まれる。
 このトンネル光子凝集体は、自発的対称性の破れを引き起こす原因とあった生命体の死後(生体分子の電気双極子の焼失)もそのまま維持され存在し続ける。これが前期の生物由来の微細な死骸片やタンパク質、栄養塩にまとわりついているトンネル光子凝集体である。
 しかしこれらのトンネル光子凝集体はばらばらに存在しているために連成していない。エネルギーの高いトンネル光子凝集体を含む水を少量海水に添加することで、前記のばらばらな生物死骸由来のトンネル光子凝集体の連成を長時間に渡って促すため、栄養塩の濃度の高い深層水が貧栄養の表層海域へ流動が促進されることになる。また、深層の低水温の表層への伝導も促される。

となっている。
 深層水が期待した効果をもたらさなかったのなら、海洋生物学者とか生化学者を連れてきて理由を尋ねれば良かったのに、どういうわけか場の理論屋さんのところに相談に行ってしまい、相談された場の理論屋さんは、その問いは生物屋さんの方が適切だというアドバイスをせずに、大まじめに場の理論の枠組みで何とかしようというストーリーを拵え上げたということらしい。

 科学としてはトンチンカンな方向に突っ込んでいるようにしか見えないが、SF設定だと言い張るのならそれはそれで有りだろう。ただ、その場合は、SFとして、この設定をどこまで作品に活かしているかの方を問題にすることになる。

 さて、どう読んだものやら……。

ハラスメントの誤用

Posted on 6月 2nd, 2009 in 倉庫 by apj

 引き続き集団強姦事件の記事より。

「教育的配慮」…集団準強姦の重大性とズレ、京都教育大学長が会見
2009.6.1 22:28

 男子学生6人の逮捕を受け、京都教育大学の寺田光世学長(67)らが1日、学内で記者会見。寺田学長は「教育が至らなかった」として謝罪する一方、事件について「学内の調査では公然わいせつと認識していた」と述べたほか、処分後も公表しなかったことについて「教育的配慮を優先し、正確な情報を得てから公表すべきと判断した。間違った対応はしていない」と正当性を主張するなど、事件の重大性とのズレを露呈した。
 同大学によると、被害を受けた女子学生は、今年3月3日に教員に相談。大学側は同6日に「ハラスメント防止委員会」を設立し、教員らが、被害学生や逮捕された6人などに対して聞き取り調査を行った。
 ところが、大学側は24日、被害学生の保護者に対し「公共の場所で性的なことをした公然わいせつは6人とも認めたが、同意があったのか、無理矢理だったのか、細かいところは判断できない」とし、「警察に告訴するかどうかを考えてください」と話したという。その後、31日付で6人を無期限停学処分とした。
 会見で寺田学長は「大学は捜査機関ではないので、細かい事実を追及するのには限界があった。(大学として)警察に早期に相談しなかったのは、内密に事実確認を行うことを優先したため」と釈明した。
 学内ではこの事件についてすでにうわさになっていたという。体育会クラブ所属4年の男子学生(21)は「事件のことは聞いていたし、公表しなかったのはおかしい。新学期になって顧問から、コンパでは飲酒を控えろと言われた」と話した。

 この事件に対して「ハラスメント防止委員会」で扱おうとしている時点で、大学の判断力の方がもう終わっているんじゃないかな。起きていた事件は「ハラスメント」ではなくて、れっきとした「犯罪」なのだから。
 ハラスメントとして扱う問題とは、例えば、「職場のあちこちに堂々とヌードポスターやカレンダーがあって女性社員が不快」のように、掲示物自体はわいせつ物陳列罪になるほどのものではない(違法性がない)が、不適切な場所に掲示されていて、それだけで権利侵害で訴えるハードルも越せてないけど、職場のパフォーマンスに影響する、みたいな、法的措置まで到達しないようなものだろう。こういう行為が、一定期間一定回数繰り返される場合に、ハラスメントである、とすることになる。
 一方、刑法に引っ掛かるような行為や、民事上の不法行為は、繰り返し無しで、1回の行為でも成り立ってしまう(不法行為の場合は繰り返しによって損害賠償請求のハードルを合わせ技で越えるということはあり得るが)。その違いがわからない人達が、ハラスメント処理で問題を扱いきれると思っていること自体、制度の運用能力がないと考えるしかない。

【追記】
 素人判断せずに弁護士を呼んで相談していれば、準強姦と公然わいせつを間違える、などということは起きなかったのではないか。いまどきの大学なら、事業所の規模からいって、顧問弁護士をしっかり活用し法務部門も内部で持たないと、コンプライアンスの問題が解決できず、組織として回らないのではなかろうか。

「教育的配慮」の暴走例

Posted on 6月 1st, 2009 in 倉庫 by apj

 毎日.jpの記事より。

集団準強姦:京都教育大、通報せず

 京都市内の居酒屋で今年2月、酒に酔った女性に集団で性的暴行を加えたとして、学生6人が集団準強姦(ごうかん)容疑で逮捕された京都教育大は、被害者の母親の相談を受けた後も京都府警へ通報せずに調査を進め、関係者を内々に処分していた。親告罪ではない上、口裏合わせなどの恐れもあっただけに、捜査関係者は「なぜ、すぐに通報しなかったのか」と憤っている。

 女子学生の母親から3月3日に相談を受けた大学は6人を無期限の停学処分とし、見ていたのに止めなかったとして数人を訓告にした。うち1人は卒業している。府警が母親からの通報で事件を知ったのは同27日だった。

 寺田光世学長は1日、京都市伏見区の大学で謝罪会見した。6人を処分しながら非公表にした理由を「学生に対する教育的配慮」とし、「捜査を混乱させるから」とも述べた。

 大学によると、コンパ終了後、女子学生に4人が性的行為をし、残り2人もわいせつ行為に及んだという。

 だが、学内調査結果の詳細については「教育的配慮」を連発して説明を拒否。調査結果を府警に伝えていない理由についても「被害者の立場を考慮した」などと強調し、「教育的配慮」を約20回も繰り返した。【朝日弘行、古屋敷尚子】

 「教育的配慮」を持ち出せば、親告罪でない犯罪まで内部で何とかなるとでも思ったのだろうか。判断基準が世間から乖離しているとしか思えない。3月3日に相談があった段階で、まずは通報するのが普通(というか市民の義務)だろう。
 親告罪でもない犯罪をやっても、内部処理でうやむやにできるという経験をさせる事の方が、教育的にみて問題だろう。
 で、知ってて黙ってたってことは……大学ぐるみで

(犯人蔵匿等)
第百三条  罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。

に引っ掛かるんじゃないのか。「蔵匿」の方は隠れ家を提供してかくまう行為で、「隠避」の方は、蔵匿以外の「官憲による発見・逮捕を免れしめるべき一切の行為」(刑法各論講義、大谷實)なんだけど。

サイエンスセミナーの課題

Posted on 5月 29th, 2009 in 倉庫 by apj

 持ち回りでやっていて、外部にも公開している「サイエンスセミナー」という科目があって本日担当。学生は、卒業までに所定の回数出席して点数を溜めると単位がもらえるしくみ。ということは、4年以上経てば一応一巡するから同じネタをやってもよいが、4年以内に担当する場合は別のネタをやらないといけないことになる。
 最初に当たった時は、ニセ科学ネタだったので、今日は真面目に水の基礎的な話。高校生の方や一般の方も30人くらいは聴講に来るので、解説の間に初歩的な理科の知識を補ったスライドを作って、普段よりゆっくり説明することにした。

 試験問題も、講義時間の90分のうちに配って解答してもらうことになっているので、講義に関連していてかつ簡単な問題でなければならない。
 今回は、講義の最後の方で、水の赤外吸収スペクトルを見せて、ν2と、ν1、ν3(この2つは多少異なるが、計算を簡単にするため同じ振動数で見積もることにした)を与えておいて、倍音との結合音の適切な組みあわせの波長を求めて、結果が赤色可視光になることを配付資料の可視光の色刷りスペクトルの図で確認する、というのをやった。つまり、水が青い理由を、ごく簡単な計算で見積もって議論する、というものである。20分弱でささっとできて、講義の感想も書いて貰って、ということなので、このネタを使ってみた。

 ほとんどの人が正解で、議論の説明が怪しいのが少しあったけど、水が青い理由をスペクトルと簡単な計算で確認というのを珍しがってくれた人もいたので、まずまずかなぁ。
 日常目にするものを簡単な計算で確認できるようなネタは、もっといろいろストックしておいた方がいいかもしれない。

【追記】
 そういえば、ストライヤーの生化学だったかで、植物が一日に伸びる長さを示しておいて、その長さ分のセルロースを作るのに、糖のユニットをいくつ繋がなければならないか、といった問題があったような。言われてみればそうなんだけど、最初に見た時は目から鱗だった。版がだいぶ変わっているはずだが、今でも出てるかな。