事象の地平線が移転する直接の原因となった。私が昨年6月から巻き込まれていたキャンパスハラスメントの件。差し支えない範囲で整理しておくと、
・学生→私 のハラスメント申し出
(私によるハラスメントが行われた、として学生が大学に対して申し立てたもの)
・私→学生、私→学科教員、のハラスメント申し出
(学生および教員によるハラスメントが私に対して行われた、として、私が大学に申し立てたもの)
の合計3つが同時に学内委員会の処理にかかることになった。私と対学生の分を分離して調査されたために先に結論が出て、私と学科教員の分はまだ報告書が確定していない。
対学生との関係では、大学の判断は、ハラスメントと判断できる行為がなかったというものになった。学内調停は不調に終わり(不調の原因は、私→教員の申し出の内容とも関係している)、後は裁判所でででもそれ以外の学外ででも当事者で問題解決するしかないということになった。
そこで、大学の持っている、本件処理の情報を入手したいと考え、本件処理の関連文書全てを対象として、通常の情報公開法による開示請求と、教員と勤務先大学という関係を踏まえて保有個人情報の開示請求手続を行った。
数日前に結論が出た。通常の情報公開手続では、文書は開示されなかった。そのかわり、保有個人情報の開示請求では、関連文書のうち相手方(学生)に対する調査の部分が墨塗りとなったものが開示された。
ハラスメント申し出の処理そのものには守秘義務が課されるため、公式には誰と誰の間で相談があったかを外部には開示しないため、一般の開示請求では、人を特定すると出てこない。
しかし、ハラスメントの申し出がどう処理されたかということには、私の個人情報に該当するものが含まれるため、当事者として開示請求をかけると、その分だけは開示してもらえる。
ただ、今回のようなケースでは、守秘義務を課されること自体が、救済の道を閉ざす方向にしか働かないということもわかった。
今回、相手方(学生)は、匿名掲示板などで本件ハラスメントの話題とともに私の悪口を書きまくっている。さらに、学内調停中の段階で特に守秘義務について注意喚起されていた状態で、本件ハラスメントの話題を、訴訟掲示板やこのblogにわざわざ書き込みにきて、私に守秘義務違反をさせる結果をもたらそうとした(まあ、即削除してアクセス禁止にしたが)。
一方当事者がネット上で相手方を誹謗中傷すれば、公然性があるので、名誉毀損や侮辱で、刑事または民事の責任を追及し得ることになる。学外での社会的評価の変動への対処は、最初から学外でやるしかなく、学内手続で収めようというのはそもそも不可能である。ところが、法的措置をとるには、相手のやったことをある程度は詳しく述べねばならず、守秘義務のためにそれが妨げられると、救済のための手続に支障を来す。また、名誉毀損の場合は、反論を公然と述べることで、対抗言論によって名誉の回復を図るかわりに訴訟はしない、という、より穏当な解決策も考えられるところ、守秘義務のためにそれができないとなると、訴訟以外に救済の道が無くなってしまう。
さてどうしたものか、というのが今思案していることである。
大学が守秘義務を課し続けると、法的手段をとった場合、いつ守秘義務違反で勤務先に後ろから撃たれるかを気にしながら手続をすることになりそうな気が。それなら、当事者の対立が激化して学外で存分に攻撃防御する以外に手がなくなっている状態で大学が守秘義務を課す意味が無いだろうといったことを主張して、守秘義務を外せと言ってみたいが、そういう形での紛争なんてこれまでにあったっけか、とか……。
今回は、大学相手に争う必要は無さそうだが、墨塗りのパターンを見ていると、これがもしもっと悪質なでっち上げだった場合、相手が何をやって他人を陥れようとしたかを立証するのが難しくなるかもしれない。相手が同じ手で情報開示をかけた結果を出してくれば、2つを突き合わせて報告書の復元完了、となるのだが……。
せっかくこういう案件にぶち当たったのだから、今後のこともあるし、どういうパターンがあり得るか考えておきたいなぁ。
ちょっと参考になりそうな手持ちの本でも読み返して……と思ったら、「名誉・プライバシー保護関係訴訟法」は品切中でえらい価格に(大汗)。昔買っておいて良かった……。
【追記】
類似のでっち上げというか、言いがかりに近い形でハラスメントの加害者にされた教員がどう闘うか、ということの参考例として、いろいろやったことを可能な限り公開していくつもりで書いているのだけど。
情報公開法を使った結論は、不開示の理由として、
独立行政法人等の情報の公開に関する法律第8条の規定により本件開示請求に係る法人文書の存否について論じることなく、請求を拒否します。
とあった。8条がどうなっているかというと、
(法人文書の存否に関する情報)
第八条 開示請求に対し、当該開示請求に係る法人文書が存在しているか否かを答えるだけで、不開示情報を開示することとなるときは、独立行政法人等は、当該法人文書の存否を明らかにしないで、当該開示請求を拒否することができる。
であるので、ハラスメントの申し立てがあったこと自体が不開示情報ということらしい。これについては、私の開示請求のかけかたが個人を特定する形だったので、当然といえば当然である。別のやり方で近日中に試してみて、きちんと運用されていることをチェックするつもりである。 ところで、開示請求をかけたのが平成20年10月28日、決定通知書が出た日付が平成20年11月28日。ところが、本部の事務が私にこの決定を手渡したのが、平成21年1月29日であった。こんな間延びした手続きをやっていることの方が問題である。異議申し立てをしづらくするためにわざとに延ばしたのかと思ってしまう。まあ、本気で争えば、書類の日付は先でも知らされたのが後で、日付を基準にして考えたのでは異議申し立てのしようがなかった、とやることになるのだろうけれど。しばらく、情報公開関係の手続きをやってないので、最新のテキストやら判例やらを早々に調べて、穴が無いか検討することにする。
保有個人情報の開示の方が、むしろかなり変なことになっている。
開示しない部分及び一部を開示しない理由
1 次の事項については、独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「法」という。)第14条第2号の理由により不開示とします。
開示請求者開示請求者以外の個人名、役職名、ブログ掲載文書など。
2 次の事項については、法第14条第4号および第5号ハの規定により不開示とします。
関係請求者以外の調査委員会記録、相談内容など。
相手方の相談内容や個人名の不開示はわかるとしても、ブログ掲載文書ってのは……。普通のブログならネット上で全世界に向けて公開済み(下手すりゃ魚拓がとられたりwebarchiveに入ったりしている)のはずだが、そんな情報が、個人情報保護を理由に大学からは出せないという、かなり変なことになっている。また、今回、個人情報をblogコメント欄に書いたのは相手方で、相手方本人の個人情報が書かれた。本人が公開を意図して書いた本人の個人情報を、大学がしゃしゃり出て不開示にするというのもやっぱり変な話である。
この開示のパターンを見て少し考え込んでいる。
仮にでっち上げが成功し、大学の調査委員会をだまくらかして教員処分にこぎつけたとして、やられた教員が反撃しようと思っても、事前に調査委員会の記録を取り寄せることはこの手続きでは不可能ということになる。ただ、委員会の結論部分は開示されているので、判断を不服として争う場合、「そういう判断がなされた」という証拠であれば出せることになる。
民事なら訴えてから当事者照会や弁護士照会をかけるという手もあるが……。第三者に説明できて、あとからひっくり返されないだけの情報を先に確保しないと、戦略が定まらないと思うのだけど、なかなかいくつもハードルがあるなぁ。