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返品

Posted on 8月 7th, 2008 in 未分類 by apj

 今日の話題として、先日amazon.comで注文して届いた、NUMERICAL RECIPES 3rd editionについて書こうと思った。本のページをめくってみたら……なんか最初の方で、妙に白紙が多い。きちんと確認したら、8ページばかり何も印刷されていないページが入っていた。どう見ても印刷ミスなので、amazon.comのヘルプメニューをたどって、交換申し込みをした。バーコードが割り振られるので、書類を印刷して中に入れ、バーコード付きのラベルを貼り付けて、郵便局に持っていった。
 古本を買ってとんでもない状態だったことが1回だけあったが、新品を買って印刷ミスに遭遇したのは今回が初めてである。

締め切られていたのでこちらでコメントを書いてみた

Posted on 8月 3rd, 2008 in 未分類 by apj

 教えて!gooの投稿記事より。

1、ニセ科学とは、どういうものの事を指すのですか?

 科学を装うが、科学でないもの。

2、具体的にニセ科学の例を挙げなさい。

 マイナスイオン、血液型性格診断、水からの伝言、波動転写・測定装置。

3、ニセ科学と宗教は違うものなのですか?

 一般には違う。

4、「3」の同じ物なら、同じ物という理由、違う物なら、違う物という理由を教えてください。

 通常の宗教は、そもそも科学とは別の価値判断の体系であるから、科学ではないし、科学を装ったりもしない。
 団体によっては「宗教上の教義に科学的根拠がある」との主張を行う場合もあるが、どういうわけかそういうことを言い出す宗教団体はまず間違いなくカルトである。

5、これを投稿した作者は、「仮説」が万人に受け入れられたら、それは、「証明された」に等しいから、現在、「ニセ科学」として、糾弾されていても、はやっていた当時、本当であると認められていたら、後でやぁやぁと文句を言うのは、卑怯者のする事だと思っている。その考え方は間違っていると思うか?

 何が言いたいかよくわからないのだが……。科学は後の時代ほど精度が上がるので、昔受け入れられたことが修正されるのは当たり前に起きる。

 ただ単に「昔は受け入れられていたが今では間違いとわかっている科学」であるというだけのものに対して、今の基準を適用して「ニセ科学」と呼んでいるケースは知る限り無い。ただし、「昔は受け入れられていたが今では間違いとわかっている科学」であるにもかかわらず、「今の基準に照らしてこれは正しい」と嘘の主張をすれば、ニセ科学と呼ばれることになる。

 ある仮説があって、十分立証されていないのに「実証済み」と主張すれば、ニセ科学となる。後から、その仮説が正しいとわかった場合、科学の内容に組み入れられるが、「分かっていない段階で嘘をついた」事実についてはは治癒されない。

ムペンバ効果調査中(4):J-CASTニュースの記事

Posted on 8月 2nd, 2008 in 未分類 by apj

 Yahoo経由J-CASTニュースの記事より。

「水よりお湯早く凍る」論争沸騰 日本雪氷学会で本格議論へ
8月1日20時55分配信 J-CASTニュース

 NHKの番組が紹介した「水よりもお湯の方が早く氷になる」実験を巡り、ネット上の議論が盛り上がっている。早大の大槻義彦名誉教授はブログで、水の方が早く凍る実験結果を示し、NHKを再び批判。物理学者らの間でも関心が高まり、日本雪氷学会で研究者らが本格的に議論することになった。

■実験した大槻名誉教授が再びNHK批判

 J-CASTニュースが2008年7月26日付記事で取り上げたNHK「ためしてガッテン」の実験は、その後も真偽を巡ってネット上の議論が沸騰。記事も、同ニュースサイトのアクセス・コメント両ランキングで、現在もベスト10の上位に入る人気になっている。

 コメントを読むと、自ら実験したとの報告がいくつかある。いずれもNHKの実験結果とは異なるものだ。例えば、

  「僕は試してみました。ポットの湯と水をそれぞれ50ccずつ、計4個の同じコップに入れて30分。先に凍り始めたのは水が入った2個のコップでした」(高草山さん)

  「盛り上がっているので実際に自分ちでやってみた!容器を一緒に並べて置いたらやっぱり水のほうが早く凍ったよ!! 2回やったけど同じ」(ぱくさん)

 ちなみに、J-CASTニュース編集部が社内の冷蔵庫で一度試してみたところ、同様な結果だった。

 NHKを批判した早大の大槻名誉教授は、ブログの7月31日付日記で、「実験やったか?」と多くの批判を受けたと告白。お湯の方が早く凍るムペンバ効果について、「熱力学の基本法則からありえません」としながらも、重い腰を上げて実験に取り組んだことを明らかにした。

 大槻名誉教授は、6区画の製氷皿、ペットボトル、プラスチック製まな板で実験した。冷蔵庫の冷凍室に入れた結果、1区画を除く製氷皿とペットボトルで、お湯より水が先に氷になった。これはコメントと同じ結果だ。お湯と同時だった1区画については、蒸発熱、過冷却など「偶然上の要因」と論じている。

 一方、まな板では、お湯の方が早く氷になったという。しかし、「板の上に広く広がり、極端に蒸発熱が奪われ、また薄いお湯の層は、すぐ下地の板の温度になるため」としている。

 結論として、大槻名誉教授は、「NHKの主張は正しくありませんでした」と断言している。

■複数の条件下ではありうると北大名誉教授

 では、10回以上も予備実験に成功したとするNHKの論拠は何なのか。

 NHK広報部では、「複数の条件で実験を繰り返した上で、高温水の方が早く氷ができ上がることを確認し、番組を制作しました」とだけ説明する。とすると、「複数の条件」以外では、ムペンバ効果が現れないということなのか。

 「ためしてガッテン」の実験を監修した北大低温科学研究所の前野紀一名誉教授は、こう解説する。

  「普通は、お湯が先に凍るということはありません。番組では、そういうことがあると言っているのです。それは、お湯と水などの温度の組み合わせ、容器の形や大きさ、冷凍室の温度、空気の対流といった条件によってです」

 前野名誉教授はそのうえで、まな板ではお湯が早く凍ったとする大槻名誉教授の報告について、それはムペンバ効果が起こることを証明したと指摘した。

  「効果的になるような条件を作って実験をやれば、ムペンバ効果が起こるということです。まな板と同じメカニズムが働くような工夫をすれば、ほかの容器でも起こりえます」

 製氷皿の1区画でお湯と水が同時に凍ったことについても、同様だとする。「冷凍室の真ん中と左右では、空気の温度が違うはずです。また、食品があるかでも条件が違い、空気の動きを調べないと効果を否定できません」。ペットボトルについては、蒸発熱が発生しないので効果はありえないという。

 一方で、前野名誉教授は、家庭で手軽に実験できるのがいい点としながらも、ムペンバ効果そのものの解明はできないという。「コンピューターシミュレーションでも解明できないような難しい現象が、単純な形で現れているからです。物理の専門家はいかに難しい問題であるかをよく知っていて、プロジェクトを組まないと分からないものなのです」。

 そして、東大で9月24~27日に開かれる日本雪氷学会の研究大会で、関心ある研究者を集めて科学的に議論したい考えを明らかにした。

 冷却開始温度のみが異なる場合には、偶然お湯の方が先に凍ることもあるけど、それが50%を超えることはない(論文では47%)要するに、丁半バクチでしかないような話である。
 【この部分訂正】過冷却になった割合を私がうっかり勘違いしたので。確率については、調査中(1)のエントリーで紹介した文献中の引用文献[4]に出ている。が、いずれにしても、確率的な現象である。
 「前野名誉教授はそのうえで、まな板ではお湯が早く凍ったとする大槻名誉教授の報告について、それはムペンバ効果が起こることを証明したと指摘した。」はちょっとおかしい。元のムペンバ君の報告では、薄く拡げた水ではなくて、容器に入ったアイスクリームや水の話だった。表面の影響が無視できなくなるような場合とそうでない場合を一緒くたにするのは乱暴すぎる。また、NHKの実験はあくまでも製氷皿で、板の上にうすく水を拡げるという話ではない。

ムペンバ効果調査中(3):ムペンバ君の報告

Posted on 8月 1st, 2008 in 未分類 by apj

 ムペンバ君が、どのような報告をしたかについて情報を掲載しておく。
 ムペンバ君本人による報告は、
E. B. Mpemba and D. G. Osborne, Phys. Edu. 4(1969) 172-175
・E. B. Mpemba and D. G. Osborne, Phys. Edu. 14(1979) 410-413
の2つがある。が、この2つの内容は、見出しやタイトルが少し違うだけで、内容は全く同じであり、1979年のものは1969年のもののレプリントである。

(報文前半:ムペンバ君による)
 ムペンバ君がやったことは次の通り。
・ミルクを沸かして砂糖を入れて氷らせる(=アイスクリームを作る)操作をしていた時、冷やさずにそのまま(料理用の?)冷凍庫に入れたら、沸かさずに入れた(=ミルクに砂糖を入れて混ぜただけで冷凍庫に入れた)友達(1名)のものより、ムペンバ君のものの方が先に凍っていた。
・50cm3のビーカーに、冷たい水道水と、ボイラーから汲んできた湯を入れ、理科実験室の冷凍庫に入れた。1時間後に見たら、いずれもまだ全体が凍っていなかったが、ボイラーから汲んできた湯の方が、凍っている部分が多かった。
 Osborne先生がムペンバ君の学校に招かれて、科学について講演をするために来たとき、このことについてムペンバ君がOsborne先生に質問をした。
(報文後半:Osborne先生による)
 University College in Dar es Salaamのテクニシャンに、実験をするよう頼んだら、ムペンバ君の主張を裏付ける結果になった。
 そこで、学生と一緒に実験をしてみた。70cm3の水を100cm3のパイレックスビーカー(直径4.5cmくらい)に入れ、家庭用冷蔵庫の冷凍ボックスに入れた。断熱のために、ビーカーの下に、ポリスチレンのフォームを置いた。
(1)冷やしていくと、元々熱かった方が先に凍ってるっぽい。
(2)温度に対して、凍り始める時間をグラフにすると、文献中図1のようになった。
(3)水の表面に油の薄い膜を置くと、凍るのが数時間遅れた。水の熱は表面から奪われていることがわかった。
(4)蒸発による体積減少は僅かであった。蒸発による潜熱の影響は30%以上ではないし、それだけでは温度が高い方が先に凍る原因にはなりそうにない。
(5)液体内部に温度勾配ができた。
(6)溶存した気体の影響は無視した。(低い温度の実験では湯冷ましを使った)

【私が気付いた疑問】
・繰り返し実験した割には、報文中図1のデータ点が6点しか無いのは何故か。その6点で、最初の温度と凍り始めまでの時間を曲線で表しているのは無理が無いか?
・報文中図3では、冷却曲線そのものではなく、冷却開始温度が47℃と70℃のものについて、水の表面温度が近付いていくことを示している。しかし、これではよく分からない。わざわざ差にするよりも、冷却曲線そのものをたくさん重ねた方が、データのばらつきも含めてよくわかるのではないか?
・容器に蓋をしていない上に、家庭用の冷蔵庫なので、温度制御がどうなっているかがわからない。多分、冷蔵庫任せになっていたはず。
・ゴミが入れば結晶の核になる。水の準備のやり方が、報文の記載だけでは不十分なのではないか。蒸留してフィルターを通したあと(必要ならば脱気し)、蓋をした状態で湯煎で加熱するなどして、温度以外の効果が入らないようにして実験しないとまずいのでは。1969年頃にOsborne先生が学生と一緒に遊んだ実験では、どの程度の精度が要求されるか十分認識していなかったのではないか?
・NHKが番組中で出したのは、ムペンバ君の報文の図1のグラフの曲線を編集したものか?

XCodeでIgor XOPのコンパイルまとめ

Posted on 7月 30th, 2008 in 未分類 by apj

 前にも書いたがもう一度自分用メモとしてまとめておく。Igor ProのXOP Toolkitを使って、ディレクトリの好きな場所でXOP製作作業をするための変更。XCodeはバージョン3.0。
1)XOP Toolkitの中のサンプルを、自分用作業場所にコピー。
2)XCodeで開く。
3)プロジェクトの情報を開く
4)ヘッダ検索パスを、(XOPツールキットを置いているディレクトリ)/XOP Toolkit 5/IgorXOPs5/XOPSupportに設定
5)ライブラリ検索パスを、(XOPツールキットを置いているディレクトリ)/XOP Toolkit 5/IgorXOPs5/XOPSupport/Xcodeに設定
 ※4)と5)の設定は、値をいれるところをダブルクリックしてウィンドウが開いたら、該当するフォルダをファインダーで見ながらドラッグ&ドロップすると、文字列で入る。直接キーボード入力の必要はない。
6)プロジェクトファイルから、External Frameworks and Librariesを選び、一旦libXOPSupport.aを削除し、もう一度追加する(パスは設定してあるはずなんだけど、これをやらないとうまく認識されないっぽい)。
 まあ、サンプルをコピーしてきて動かそうという時にはこれで十分。

 新規にプロジェクトを作る時の注意。マニュアル通りなんだけど、うっかり、グループとファイルの一番上に出ている青い書類アイコンをクリックして設定を始めると、後の方でマニュアルと違っていて迷うことになる。オプションの設定は全部、「ターゲット」の下の、これから作るXFUNCの名前を選択した状態で、コマンド+マウスボタンで、「情報を見る」で出てくるウィンドウを使って行う。
 マニュアルは英語だがXCodeが日本語なので、設定項目の対応表を作るとこんな感じ。
・Architectures アーキテクチャ
・Header Search Paths ヘッダ検索パス (XOP Toolkitのヘッダの在処を入れる)
・Library Search Paths ライブラリ検索パス (XOP ToolkitのlibXOPSupport.aの在処を入れる)
・Exported Synbols File 書き出されたシンボルファイル (サンプルの、Exports.expをコピーしたものを追加したあと、キーボードから./Exports.expと入力)
・ZeroLink ゼロリンク(XCode 2.xのみ)
・Wrapper Extension ラッパーの拡張子
・Warn About Deprecated Functions 推奨されない関数についての警告
・OTER_REZ_FLAGS ほかのRezフラグ (マニュアルの通りに-i ../../XOPSupport -d TARGET_RT_MAC_MACHOと入力。ToolKitや自分のプロジェクトの置き場所に関わらずこの通りに入力しないとエラーが出る)
・「プロパティ」タブからの入力は、日本語では、それぞれ、識別子(Identifier)、タイプ(Type)、クリエータ(Creator)、となっている。うっかり、青色書類アイコンをダブルクリックして入力していると、「プロパティ」タブが出ないから、このへんで詰まる。

teleport

Posted on 7月 30th, 2008 in 未分類 by apj

 1つのキーボードとマウスで複数のMacを使えるようにするteleportってソフトがある。使ったことはないけど、必要になったときにソフトの名前が思い出せないことが多々あるので、一応自分用メモ。

債務不存在確認は終了

Posted on 7月 29th, 2008 in 未分類 by apj

 途中でblog移転というアクシデントがあったが、マグローブの耐久性について議論していた部分については、削除義務無しで終わった。平成20年7月18日付けで判決が出た。

主文
1 別紙1,2のウェブログの書込み中、赤線で囲まれた部分について、原告がこれを削除する義務が存在しないことを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

で、この件については終了。削除要求をお茶大や山形大に出してきたわりには、本気で内容について立証する気が無かったらしい。

 後は、神戸の尋問準備や、東京の進行に集中するつもり。

 なお、詳しくは書けないのだが、blog移転のゴタゴタが実はまだ続いているため、明日は山形市内の弁護士に、ちょいと相談しに行ってくる。これが一段落しないと、このblogのコメント承認制の解除もままならない。

誤解されたので書いておく

Posted on 7月 27th, 2008 in 未分類 by apj

 逝きし世の面影さんのところで、私が書いたエントリーが誤解されたらしく、『ムペンバ効果』科学に未検証はあっても、未解明は無い、というエントリーがあがったので指摘しておく。

『過冷却水とムペンバ効果』ただし下記の記事では氷点下でも凍らない不思議な現象『過冷却』をムベンバ効果として紹介している。
http://www.cml-office.org/archive/121683743476.html
有る一定の条件下では過冷却水が出来易いので『温度の高かった水が凍る』時に『温度の低かった水か過冷却水として凍らない』状態が存在するとしています。
過冷却水は、特定の条件下で静かに冷やせば0度以下でも凍らず水として存在する不思議な現象ですが、過冷却水は衝撃などで瞬間的に凍ります。
この現象をムペンバ効果と書いて有りますが、確かに再現は難しいでしょうね。
『確率的にしか起きない上に、繰り返し精密な実験が必要なので、演示実験の材料としては不適と考える。』
普通の家庭の冷蔵庫での再現性が極めて低そうです。
『水の冷却過程の研究には役だっても、家庭での実用性は無いに等しいわけで、水の相転移や過冷却状態に興味のある研究者や技術者以外の一般の人に、ためしてガッテンのような番組で紹介するような話ではなかったのではないか』
NHKの放送でのムペンバ効果は家庭用冷蔵庫での氷を作る裏技の話で、この記事の実験室で過冷却水を作るムペンバ効果の話は、科学実験としても別物です。
名前が一緒ですが全く何の関係も無い、同姓同名の別人の話の様な、まったく別の話をしていますね。

 まず、過冷却をムペンバ効果として紹介した事実は無い。
 過冷却が起きてから凍るまでの時間のばらつきが大きいことが原因で、ムペンバ効果と称する現象が起きてしまうことがある、と指摘したのみである。過冷却水が衝撃で瞬間的に凍ることは事実だが、瞬間的に凍ると熱が放出されて温度が上がるため、十分低温でかつ過冷却という状態を作らない限り、水の一部しか凍らない。その後は、氷が徐々に成長して、全体に凍っていくということになる。
 「氷点下でも凍らない不思議な現象」とあるが、実は不思議でも何でもない。水以外の物質でも液体を冷却していけば過冷却状態は簡単に実現するし、結晶ができはじめて固体と液体の共存相になると、全体が結晶になるまでは物質に固有の温度が保たれた状態になる。ナフタレンでも起きるし、ベンゼンでも起きる。極めてありふれた現象で、高校の化学の教科書にも出ている。ただし、結晶ができはじめるまでの時間のばらつきの大きさまでは出ていない。
 「名前が一緒ですが全く何の関係も無い、同姓同名の別人の話の様な、まったく別の話をしていますね。」というのは、明らかに、私が書いた内容に対する誤解であろう。全く何の関係もない、というわけではない。私が紹介したのは、ムペンバ効果と呼ばれる現象が観測される理由の1つを実験的に出したという論文なので、考えるためのとっかかりとしては使えるはずのものである。また、一般家庭の冷凍庫で実験している限り、条件がばらつきすぎてムペンバ効果の説明も再現もまともにはできないわけで、論文の方は「全く別の話」ではなく「精度を上げた話」になる。裏技の理由になったムペンバ効果がなぜ観測されるかを、過冷却というありふれた自然現象の振る舞いに関連づけて説明できるということである。

・いろんな理由でお湯の方が先に凍るという現象は実際に起こりうる
・精密に実験すれば過冷却になってから凍るまでの時間のばらつきによることがわかる
・素人実験では精密さに欠けるため、お湯が先に凍った場合に何が原因か突き止めるのは困難
・精密実験でも素人実験でもお湯が先に凍るのは100%ではない(論文の条件では47%くらいだが、条件によって変動するはず)
・たまたまお湯が先に凍ったことをムペンバ効果と呼んでいる
 
という状態だろうというのが私の書いた内容である。
 裏技として使うためにテレビで紹介するのなら、素人の誰がやっても9割方成功するようでないと使い物にならない。当のNHKが、裏技として使える程の精度での再現実験をできていないわけで、視聴者に紹介するのは不適切だろう。
 昨日、NHKの放送内容をチェックする機会があって、このリストに、

・たまたま起きるに過ぎない現象をNHKは裏技として紹介した

が追加が必要だという結論になった。

ムペンバ効果調査中(2):「ためしてガッテン」でどう扱われていたか

Posted on 7月 27th, 2008 in 未分類 by apj

 blogを見た知りあいの方が、録画した「ためしてガッテン」を見る機会を設けて下さったので、「ためしてガッテン」の内容を確認してみた。

 見た限り、ムペンバ効果以外の部分には問題は無いし、理科の演示実験としても面白いものであった。番組冒頭のチンダル像の映像がなかなか面白い。

 では、ムペンバ効果がどう紹介されたか。

 番組冒頭で、「さらに、一刻も早く氷を作りたい、そんなあなたに朗報が!!」と強調した後、前野さん登場。「日本ではほとんどこの現象、紹介されていませんので」のあと、論文のコピーを積み重ねるシーンが入り、「それは世界中の科学者を驚愕させた大発見」とナレーションが続く。
 この内容が紹介されるのは、番組後半になってからである。
 最初に、「速く氷を作るには、製氷皿に水を入れるかお湯を入れるか?」と問いかけて、スタジオに、ヤカンの湯とペットボトルの水を出している。
 その後、「世界が凍った大実験」「科学の世界で謎とされる現象」として、ムペンバ君の経験が紹介される。アイスクリームの素を冷まさないで冷凍庫にいれたら先に凍ったという内容である。
 その後、温度計を入れたビーカーを並べて凍らせるVTRが出る。が、元の温度を表示するところで、逆回しビデオが速すぎて、温度変化の方も早送りされてしまい、どういう変化をしたかがはっきりしない。何回やったうちの成功例かもわからない。
 NHKが再現実験をしたと称しているのは、別のドラマ仕立ての実験。-20℃度の部屋で男女が言い争いをしていて、女性が男性に、カップに入った水をかけると水がちゃんと男性のところまでとどいてかかるが、熱いお湯をカップに入れてかけると、大量の湯気とともに細かい粒になって下に落ちてしまう。
 その後、スタジオでは、20℃以下の水は凍るまでにかかる時間が、温度が下がるとともに短くなるが、20℃以上の水では温度が高くなるほど凍るまでにかかる時間が短くなる、というグラフが出された。また、繰り返し実験では、製氷皿にお湯を入れた場合、冷凍庫の温度は1℃か2℃上がるが速やかに元に戻る、と紹介された。
 終了の時のコメントでも、「熱湯が先に氷になるのでウチでもやってみたい」というものが出ていた。

 引っ掛かったところを書いておく。
 番組中で、透明な氷ができるかどうかを検討している場面で、家庭用冷凍庫の温度が-20℃と紹介されていた。実際には、制御や霜取りに伴う温度変動があるので、常に一定ではないし、どの程度安定するかは冷蔵庫によって異なる。食品の保存という点では、大体-20℃と思っても大丈夫だろうが、精密な実験ということになると、温度変動の影響がどう入るかわからず、ちょっと心許ない。
 ムペンバ君の経験とその後の実験については、番組の紹介では、条件がはっきりしない。こちらは、Physics Educationの内容を確認してからでないと何とも言えない。モノがアイスクリームだと、どれだけ泡立てたかとか、ちゃんと他のグループと同じ組成になってたかあたりから見ないと何とも言えない。冷凍庫のどの場所に置いたかによっても違ってきそうではあるが……。
 ビーカーを並べて凍らせるVTRでは、何例やったうちの何例が成功したのかがわからない。偶然、お湯だった方が先に凍ることもある上、時間の経過がわからないので、あのビデオだけでは何とも言えない。
 ドラマ仕立ての実験は……見てるものが違うのではないか。お湯の方が先に凍るというよりも、お湯の方が細かい粒になりやすいという現象を捉えているように見える。ビデオだけでは何とも言えないのだが、大量の湯気が出る勢いでまず細かい粒ができ、急速に冷えたことで凍っているのではないか。水の熱容量を考えると、細かい粒になった方が速く凍ることになる。お湯の方が粘性は下がっているので、ばらまいた時に飛び散りやすくはなっているはずだが、それだけなのか? -20℃の部屋に湯をばらまいた時に細かくなる理由については、私も、まだ、何が起きているかを確定させる実験を思いつかない。
 冷凍庫の温度が下がるかどうかの繰り返し実験をしたのであれば、ムペンバ効果を確認できるチャンスは何回もあったはずだが、そのことには全く触れていない。また、スタジオで見せたように、ヤカンで湯を沸かして……だと、不純物の入り具合が違ったり、核になる細かいチリの入り具合も違ってくるので、チリの状態を同じにすれば冷たい水から冷やしても普通に速やかに氷ができやすい、ということもありそうなオチである。
 スタジオに出された、凍るまでにかかる時間のグラフの出所がよくわからない。physicsworld.comの記事からかと思ったが、あの形にはならない。編集したのだろうか?

 番組の紹介のされ方だと、ムペンバ効果が必ず起きるかのような印象を与えるものになっている。早く氷を作ろうとして、お湯を冷凍庫に入れる人が出てきても不思議ではない。
 また、お湯を入れた時の方が確実に電力は要するのだが、このことを番組中で指摘しなかったのはまずいだろう。

 謎なのは、番組でも論文のコピーらしきものがいろいろ出ていたことで、arXiv.orgの印刷物らしきものも出ていたことである。Jengの論文は関連文献のまとめだし、Katzの論文はモデルの提案である。どちらも、ムペンバ効果が起きる証拠を実験的に確定させたものではない。この手のあやふやな話は、実験で確実に観測できる条件を確定させるところから始めないと、危なくて仕方がない。理論的なモデルは、精度の悪い実験に対しても作りうる。だから、今回、私が最初に探したのは、実験で何をどこまで確定させているかということがわかるような、実験の論文だった。つまり、理論の論文はとりあえず棚上げ(=あることだけ確認するが内容には重きを置かない)していた。普通に調べれば、最新のPhysica Aにたどり着かなくても、ちょっと前のAm. J. Phys.にはたどり着くだろう。実験の論文のみに注目すれば、確率的な現象だと主張しているものがあるはず(前のエントリーで紹介した文献中のリファレンス[4])なので、きちんと読んでいれば、百発百中再現する現象だという話にはならないはずである。
 ムペンバ効果については、もともと簡単な話ではないので、簡単な形で演示実験できると思ってしまった製作スタッフの見込み違いということではないか。視聴者のメディアリテラシーの問題というよりも、番組製作スタッフが、ためしてガッテンのようなやり方で扱いきれる現象かどうかを見切れなかったという問題ではないか。

 「科学の世界での謎」が、「現象を説明できる理論が無いだけで現象を観測する方法は確立している」という意味なのか、「現象を再現性良く起こすこと自体ができず、時々しか観測できないからまだ謎」という意味なのかで話は随分違ってくる。前者であれば、理屈はともかく手段としては使えるが、後者であれば手段にすらならない。再現性があるからといってそれだけで安心はできず、「再現性はあるが実は別の影響が再現性良く紛れ込んでいた」ということもあるので、実験の精度も問題になる。現状が一体どれであるのかを、番組製作スタッフが十分認識できていなかったように見える。

 本筋とは関係無いが、久しぶりにテレビ番組を見た感想。情報伝達がえらく冗長で気になったし、見ていていらいらした。単位時間あたりに得られる情報で比較すると、テレビはえらく間延びしていることを実感した。本やネットは速読や拾い読みができるけど、テレビを短縮するのはちょっと難しい。

アウトライン機能のあるワープロについて

Posted on 7月 26th, 2008 in 未分類 by apj

 TeXファイル入力に使える、アウトライン機能を持ったワープロについてまとめる。

 イチ押しはMellel。自動タイトルをどんな形にでも設定できて非常に便利かつ強力である。ワープロとしての機能も十分なので、TeX無しの普段の作業にも使える。TeX入力をするときは、自動タイトルを名前のみ入れ、わかりやすくするためにフォントの色や形を変えるだけの設定にしておく。自動タイトルの最初は%で始まる名前(%texの設定、とか)とつけ、その章には\documentclassから\begin{document}のあたりまでの定型の内容を書き込んでおく。その次からの章立てが実際の内容で、タイトルに\chapter{}、\section{}などと入れて、適宜名前も入れる。アウトラインを見ながら、該当する章や節をクリックすると、文書上でその場所に飛ぶ。章立ての最後の章は\end{document}だけを書いたものにする。その前にbibliographyなどが必要なら、別の章として作り、この場合も章の名前はコメントになるように%で始めるなどしておく。全部書き終えたら、プレーンテキストで書き出すと、UTF-8のファイルができるので、これをコンパイルする。
 章は自由に定義できるし、図や表のセクションを別に作ることもできる。もちろん、pdfや画像を貼り付けておいて見ることもできるので、必要な資料をまとめることも可能である。ただ、データベースではないので(当然)、資料スクラップを本格的にやるなら、先日紹介したCircus PointのNotebookか、Devonthinkを使う方が便利である。

 ちょっと特殊用途だが、StoryMillというエディタが、TeXソース吐き出し目的ではそれなりに使える。特殊用途だというのは、小説やシナリオ書きに特化しているということ。TeXで、\sectionとして管理すべき内容が全部Sceneという使い方をすることになる。他に、人物やら場所やらの詳細を書いておけるようになっているが、一般の文書作成ではとりあえず無視。左側の一覧のトップがChaptersなので、その中に新しくchapterを追加し、%で始まる名前を付け、中に、\documentclassから\begin{document}までを書いておく。もう1つchapterを追加し、\end{document}のみを書くところは、Mellelの時と同じ。本文のために、適宜chapterを追加し、\chapter{}と名前を付ける。文書形式がbookではなくarticleの場合は、名前のかわりに%を入れても良いし、\section{}と名前を振っても良いだろう。chapterの中には直接文章を打ち込めるので、TeXソースを入れてもよい。小説用のSceneを流用するには、Scenesをクリックして新しいSceneを追加し、適当に名前を付けた後、sceneのtextに(注意:noteではない方を選んでおく)、\section{}と書いて、TeXソースを入力する。scene編集画面の右の方に、chapters:とあるので、含ませたい章を選んでおく。sceneごとの並べ替えはできるが、Mellelのように、自動タイトルの段を変更したり、下の段で並べ替えたりということはできない。並べ替えを考えるなら、一番内側の段(subsubsectionあたり?)を単位として、sceneに入れるしかない。入力が終わると、FileメニューからExportを選ぶ。Exportスタイルはいろいろ定義できるので、TeX用のエクスポートとして、

$chapters_view$
%name%
%aggregateText%

という内容を作って保存しておく。これを選んで、exportウィンドウの下のメニューから、plain text exporterを選んで、テキストファイルとして保存すると、コンパイル可能なtexファイルになる。
 Researchという項目があって、そこに資料の画像やpdfファイルを一緒に入れておけるので、作業には便利である。しかし、もともと小説やシナリオ以外の目的に使うことは想定されていないので、本文中に画像を張り込んだり箇条書きをしたりといったことはできるが、表は作れないし、こみ入ったレイアウトもできない。

 もう少し汎用のワープロに近いのが、Scrivener。こちらは、カードに内容を書いて並べ替えるという作業のメタファーで文章製作作業をする。普通に開くとトップがカードデッキなので、その直下に、まず%で始まる名前を付けたカードを作って、\documentclassから\begin{document}までを記載し、別のカードに%で始まる名前を付けて\end{document}を書いておく。Documentメニューからnew folderを選ぶと、左側のメニューにフォルダができる。これに、\chapter{}のような名前を付ける。folderには複数のカードを追加できるので、適宜追加し、カードの名前を\section{}などとしておく。このソフトは、カードに別のカードを含ませることができるから、階層構造を簡単に作れる。その場合、カードの名前は適宜\subsection{}などとしておく。それぞれのカードに内容を入力したら、ファイルメニューからcompileを選ぶ。Contentタブでは、include allをクリックし全てのカードやフォルダを選択し、Pg Break beforeやKeep Formatはチェックしない。Contentは、Marked for inclusionを選び、Document Elementでは、TitlesとTextを全てチェックし、それ以外を外す。Text Optionsタブでは、Single Newlineを選び、Manusucriptでは、Disable auto-numberingのみをチェックする。他の項目はチェックせず、ヘッダやフッタは、No header/footer を選んでおく。Foemattingタブは、plain textでは関係がなさそうだが、一応、Do not indent titlesにチェックを入れておく。Export FormatでPlain Textを選んでExportをクリックすると、コンパイル可能なtexファイルができる。MultiMarkDown->LaTeXというのもあるが、最初からTeXソースで入力するとあまりうまくいかないようである。凝ったパッケージを使わないのなら使えるかもしれないが……。
 こちらも、Researchという項目があり、資料をまとめて入れておけるようになっている。