硫化水素
「2訂版 実践NBC災害消防活動 災害事例に見る活動の実際」編集/全国消防協会、編集協力/東京消防庁(財団法人全国消防協会)978-4-8090-2233-3を最近買った。硫化水素自殺が相次いでいるし、巻き添えにならない安全確保の方法が何かあるか知りたくて読んでみたのだが、確実な対策は無さそうである。
事例20が硫化水素による自殺例。家族からの通報があり、その内容から硫化水素発生が把握できたケース。
発生したガスの種別を早期に特定できたため、進入隊員数の限定が可能となった。また、医師同乗での活動となったため、現場での観察をより正確に行うことができた。反面、家族が居室内で活動していたとはいえ、ガス濃度の検知及び空気呼吸器等をつけずに居室内での活動を行ったのは不用意な行為であった。ガス検知器を用いてガス濃度を検知する作業を行い、しっかりとした現場の安全性を確認することが必要であり、安全が確認されなければ、空気呼吸器などを着装して進入することが必要である。また、本事案で使用された薬品は量販店などで簡単に手に入れることができ、今回は自損を目的として使用されたが、テロを目的として密室内(映画館、電車、バス等)で使用されれば、そこにいる人々へ甚大な被害が及ぶ可能性がある。
さらに解説を読むと、
(1)硫化水素ガスの人体毒性の特徴
硫化水素ガスは、硫黄温泉で感じるような特徴的な臭気を持っており測定器に反応しない極めて低濃度のガスでも人の臭覚で確認できる。
硫化水素の肺への吸入による影響は非常に早く、高濃度ガスを吸い込むと瞬間的に意識を消失するため、「ノックダウン」と呼ばれる。
(2)消防隊員の装備
所見にもあるように空気呼吸器は必須。皮膚からの吸収もあるので化学防護服の着装も要するが、緊急に救助する必要がある場合は、着装しなくとも影響は少ない。
至近で巻き添えをくったら助からないということか……。空気呼吸器を使う以外、近づく方法は無いということらしい。消防庁の情報で、特別な装備無しに安全を確保する方法が無いのであれば、とにかく安全な場所(ガスが充分拡散して薄くなる場所)まで逃げるしかなさそうである(何かうまい方法があれば掲載されているであろう本なので……)。
この本は、他の薬品の流出事故や火災の例が沢山出ていて、読むと参考になる。事故例というのは、薬品を扱う人が気を付けなければならない具体的な例でもあるので。
本の30ページにはバイオセーフティーレベルの表があるが、私は最近まで分類が変わったことを知らなかった(バイオを離れてかなり経つ)から、変更後を知ることができた。
酸よりもアルカリの方が厄介という話は、具体的には、
アルカリを使って除染技術の訓練を行うと、薬品を塗った部分を1時間以上洗っても、汚染検査を行うとpH試験紙が青変する。酸は皮膚表面を凝固させるが、アルカリは皮膚組織のタンパク質を誘拐し損傷が深部に達する。(146ページ)
ということ。冷やす必要はない(むしろ低体温になる方が問題)から、温水で洗いまくるしかない。
事故発生が、化学工場や大学の実験室だったり、薬品を運んでいた車が交通事故を起こした(運送関係)、タンクなど密閉した設備での作業等の時、といったものは、まあありそうな話である。身近なところでは、一般の飲食店などでCO中毒発生とか、冷蔵庫やクーラーの冷却剤が漏れて気化したとか、普段の生活でも遭遇しそうな事例である。意外だったのは、工事していたら地面の中から黄リンが出てきて激しく燃えたとか、なぜか水酸化セシウムが埋まっていたという事例。変なものが埋まってることがあるんだなぁ……ってか誰だ埋めたのは。
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