景品表示法4条に関する運用指針。特に、4条2項に書かれた「合理的な根拠」の判断基準を引用しておく。
1 基本的な考え方
商品・サービスの効果,性能の著しい優良性を示す表示は,一般消費者に対して強い訴求力を有し,顧客誘引効果が高いものであることから,そのような表示を行う事業者は,当該表示内容を裏付ける合理的な根拠をあらかじめ有しているべきである。
このような観点から,公正取引委員会が事業者に対し,商品・サービスの効果,性能に関する表示について,景品表示法第4条第1項第1号違反に該当する表示か否か判断するために必要があると認めて,当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めた場合に,当該事業者から提出された資料(以下「提出資料」という。)が当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものであると認められるためには,次の二つの要件を満たす必要がある。
(1) 提出資料が客観的に実証された内容のものであること
(2) 表示された効果,性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること
なお,商品の効果,性能に関する表示は,当該商品の製造業者から得た,商品について効果,性能があるとの情報を基に販売カタログや店舗内表示などにより,販売業者が自ら行うこともある。この場合,販売業者が自ら実証試験・調査等を行うことが常に求められるものではなく,製造業者等が行った実証試験・調査等に係るデータ等が存在するかどうか及びその試験方法・結果の客観性等の確認を販売業者が自ら行ったことを示す書面等を当該表示の裏付けとなる根拠として提出することも可能である。
2 提出資料が客観的に実証された内容のものであること
提出資料は,表示された具体的な効果,性能が事実であることを説明できるものでなければならず,そのためには,客観的に実証された内容のものである必要がある。
客観的に実証された内容のものとは,次のいずれかに該当するものである。
(1) 試験・調査によって得られた結果
(2) 専門家,専門家団体若しくは専門機関の見解又は学術文献
(1) 試験・調査によって得られた結果
ア 試験・調査によって得られた結果を表示の裏付けとなる根拠として提出する場合,当該試験・調査の方法は,表示された商品・サービスの効果,性能に関連する学術界又は産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法によって実施する必要がある。
<例>
日用雑貨品の抗菌効果試験について,JIS(日本工業規格)に規定する試験方法によって実施したもの。
自動車の燃費効率試験の実施方法について,10・15モード法によって実施したもの。
繊維製品の防炎性能試験について,消防法に基づき指定を受けた検査機関によって実施したもの。
イ 学術界又は産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法が存在しない場合には,当該試験・調査は,社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法で実施する必要がある。
社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法が具体的にどのようなものかについては,表示の内容,商品・サービスの特性,関連分野の専門家が妥当と判断するか否か等を総合的に勘案して判断する。
ウ 試験・調査を行った機関が商品・サービスの効果,性能に関する表示を行った事業者とは関係のない第三者(例えば,国公立の試験研究機関等の公的機関,中立的な立場で調査,研究を行う民間機関等)である場合には,一般的に,その試験・調査は,客観的なものであると考えられるが,上記ア又はイの方法で実施されている限り,当該事業者(その関係機関を含む。)が行った試験・調査であっても,当該表示の裏付けとなる根拠として提出することも可能である。
エ なお,一部の商品・サービスの効果,性能に関する表示には,消費者の体験談やモニターの意見等を表示の裏付けとなる根拠にしているとみられるものもあるが,これら消費者の体験談やモニターの意見等の実例を収集した調査結果を表示の裏付けとなる根拠として提出する場合には,無作為抽出法で相当数のサンプルを選定し,作為が生じないように考慮して行うなど,統計的に客観性が十分に確保されている必要がある。
<例>
自社の従業員又はその家族等,販売する商品・サービスに利害関係を有するものの体験談を収集して行う調査は,サンプルの抽出過程において作為的な要素を含んでおり,自社に都合の良い結果となりがちであることから,統計的に客観性が確保されたものとはいえず,客観的に実証されたものとは認められない。
積極的に体験談を送付してくる利用者は,一般に,商品・サービスの効果,性能に著しく心理的な感銘を受けていることが予想され,その意見は,主観的なものとなりがちなところ,体験談を送付しなかった利用者の意見を調査することなく,一部の利用者から寄せられた体験談のみをサンプル母体とする調査は,無作為なサンプル抽出がなされた統計的に客観性が確保されたものとはいえず,客観的に実証されたものとは認められない。
広い地域で販売する商品につき,一部の地域において少数のモニターを選定して行った統計調査は,サンプル数が十分でなく,統計的に客観性が確保されたものとはいえず,客観的に実証されたものとは認められない。
※ どの程度のサンプル数であれば統計的に客観性が確保されたものといえるかについては,商品・サービス又は表示された効果,性能の特性,表示の影響の範囲及び程度によって異なるため,これらの事項を勘案して個別事案ごとに判断することとなるが,少なくとも,学問上又は表示された効果,性能に関連する専門分野において,客観的な実証に耐える程度のものである必要がある。
(2) 専門家,専門家団体若しくは専門機関の見解又は学術文献
ア 当該商品・サービス又は表示された効果,性能に関連する分野を専門として実務,研究,調査等を行う専門家,専門家団体又は専門機関(以下「専門家等」という。)による見解又は学術文献を表示の裏付けとなる根拠として提出する場合,その見解又は学術文献は,次のいずれかであれば,客観的に実証されたものと認められる。
(1) 専門家等が,専門的知見に基づいて当該商品・サービスの表示された効果,性能について客観的に評価した見解又は学術文献であって,当該専門分野において一般的に認められているもの
(2) 専門家等が,当該商品・サービスとは関わりなく,表示された効果,性能について客観的に評価した見解又は学術文献であって,当該専門分野において一般的に認められているもの
イ 特定の専門家等による特異な見解である場合,又は画期的な効果,性能等,新しい分野であって専門家等が存在しない場合等当該商品・サービス又は表示された効果,性能に関連する専門分野において一般的には認められていない場合には,その専門家等の見解又は学術文献は客観的に実証されたものとは認められない。
この場合,事業者は前記(1)の試験・調査によって,表示された効果,性能を客観的に実証する必要がある。
ウ 生薬の効果など,試験・調査によっては表示された効果,性能を客観的に実証することは困難であるが,古来からの言い伝え等,長期に亘る多数の人々の経験則によって効果,性能の存在が一般的に認められているものがあるが,このような経験則を表示の裏付けとなる根拠として提出する場合においても,専門家等の見解又は学術文献によってその存在が確認されている必要がある。
3 表示された効果,性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること
提出資料が表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものであると認められるためには,前記のように,提出資料が,それ自体として客観的に実証された内容のものであることに加え,表示された効果,性能が提出資料によって実証された内容と適切に対応していなければならない。
したがって,次の例のとおり,提出資料自体は客観的に実証された内容のものであっても,表示された効果,性能が提出資料によって実証された内容と適切に対応していなければ,当該資料は,当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものとは認められない。
なお,ここで表示された効果,性能とは,文章,写真,試験結果等から引用された数値,イメージ図,消費者の体験談等を含めた表示全体から一般消費者が認識する効果,性能であることに留意する必要がある。
<例1>
家屋内の害虫を有効に駆除すると表示する家庭用害虫駆除器について,事業者から,公的機関が実施した試験結果が提出された。
しかしながら,当該試験結果は,試験用のアクリルケース内において,当該機器によって発生した電磁波が,害虫に対して一時的に回避行動を取らせることを確認したものにすぎず,人の通常の居住環境における実用的な害虫駆除効果があることを実証するものではなかった。
したがって,上記の表示された効果,性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応しているとはいえず,当該提出資料は表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものとは認められない。
<例2>
あらゆる種類のエンジンオイルに対して10%の燃費向上が期待できると表示する自動車エンジンオイル添加剤について,事業者から,民間の研究機関が実施した試験結果が提出された。
しかしながら,その試験結果は,特定の高性能エンジンオイルについて燃費が10%向上することを確認したものにすぎず,一般的な品質のエンジンオイルについて同様の効果が得られることを実証するものではなかった。
したがって,上記の表示された効果,性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応しているとはいえず,当該提出資料は表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものとは認められない。
<例3>
99%の紫外線をカットすると表示する紫外線遮断素材を使用した衣料について,事業者から,当該化学繊維の紫外線遮断効果についての学術文献が提出された。
しかしながら,当該学術文献は,当該紫外線遮断素材が紫外線を50%遮断することを確認したものにすぎず,紫外線を99%遮断することまで実証するものではなかった。
したがって,上記の表示された効果,性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応しているとはいえず,当該提出資料は表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものとは認められない。
<例4>
「食べるだけで1か月に5kg痩せます」との見出しに加え,「○○大学△△医学博士の試験で効果は実証済み」との専門家による評価があることを表示することにより,表示全体として,食べるだけで1か月に5kgの減量効果が期待できるとの認識を一般消費者に与えるダイエット食品について,事業者から,美容痩身に関する専門家の見解が提出された。
しかしながら,当該専門家の見解は,当該食品に含まれる主成分の含有量,一般的な摂取方法及び適度の運動によって脂肪燃焼を促進する効果が期待できることについて確認したものにすぎず,食べるだけで1か月に5kgの減量効果が得られることを実証するものではなかった。
したがって,表示全体として,食べるだけで1か月に5kgの減量効果が期待できるとの認識を一般消費者に与える表示と,提出資料によって実証された内容が適切に対応しているとはいえず,当該提出資料は表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものとは認められない。
当たり前のことだが、「ユーザーの声」を集めただけでは合理的根拠と認められることはない。マルチ商法の場合だと、ダウンの人々の意見は利害関係者の意見とみなされるだろう。
研究費を出して専門家に研究を依頼したとしても、その人が一般に認められていない見解を出した場合は合理的根拠といえないと判断される。従って、トンデモに走る学者に運良く仕事を頼んで、研究をしてもらったとしても、4条2項の適用を免れることはできない。
ちょっと前に、ニセ科学の定義と判定について考えるというエントリを出して、「科学を装う」の方は「通常人の常識で見ると科学(あるいは科学的根拠がある)と誤認することがある」という基準になるだろうと書いた。
「科学でない」の判定は、「専門家が合意している内容に沿って実験し結果を合理的に説明することができない」ということになる。この場合の「専門家」は、特定の誰それ先生ではなく、蓄積された科学的知識に沿ってものごとを判断してくれる人、というものになる。
他人に物を売る時には「主観や心情に基づいて購入の根拠となる効果を示す」という情報伝達のあり方を法は禁止していると考えて良い。消費者の側が「主観や心情に基づいて購入」するのは買う側の自由だが、その「主観や心情」を他人に伝えることで他人の購入の意思決定に影響を及ぼす場合には、合理的根拠を示す形にまで各自で手間暇かけて作り直さないといけない。
【追記】
ある言説が、科学を装うが科学でないという「ニセ科学」の定義にあてはまるかどうかについては、定義の構成自体を法解釈技術的構成にしないとうまく運用できないのではないかというのが私の問題意識である。では、実際の法解釈の方がどんなことを具体的に定めているのかということの一例が、景表法4条2項のガイドラインだったりする。
力関係でもなくその日の気分でもなく個人的な好き嫌いでもなく、意思疎通するための合理的な基盤のうち、自然観察に関するものが科学であるし、規範に関するものがおそらく法ということになるのだろう。これらは質の違ったコモンセンスということになるのだろう。個人的な好みや主観以上のものを何も含まない言説でもって他人と意思疎通するのは無理がある。
「論文が無いとダメ」などと言うと「それは科学者の論理だから押しつけるな」という反発を喰らうことがあるのだけど、既に法がその基準を採用していることも考慮しないとまずい。法に無知でも免責はされないから、「科学者の(ローカルな)論理(だから嫌なら受け入れなくても良い)」だと思い込んだまま行動すると、予想しないところで違法なことをやってしまう可能性もある。これは、気を付けてほしいところである。
なお、「ある言説をニセ科学であると判定し批判すること」≠「ニセ科学批判」である。「ニセ科学」であると判定する部分の作り方は、既に前のエントリで書いた通りである。ところが批判の方は、個別の言説ごとに内容に応じて行うわけで、ひとくくりにはできない。適用する科学の成果も個別に違った物になる。だから、批判活動に対して「ニセ科学批判」と呼んで、何かを特定した気分になったとしても、実は何一つ中身を特定できていない。「ニセ科学批判批判」は、そもそも内容を特定することができていない「ニセ科学批判」なるものを批判しようとしているから、言葉遊びの域を出ず、内容が無いのは当たり前である。
「ニセ科学」の判定の基準を作るとしたら、ある程度抽象的にならざるを得ない。じゃあ、抽象的といっても実際にどうするのか?となったときの参考になるとしたら、例えば景表法のガイドラインのような決め方ではないか。いくら抽象的にやるといっても、個別の例にあてはめ可能な形にしておかないと、空虚なものになるだけで終わってしまいそうである。