Feed

昔流行ったラジウム水

Posted on 10月 14th, 2011 in 倉庫 by apj

 世田谷のラジウム夜光塗料のせいで騒動になっているが、前世紀の前半、ラジウムは健康グッズだった。
Quack! Tales of Medical Flaud from the Museum of Questionable Medical Devices より、水関連グッズの宣伝。

 ラジウム水を飲むと健康に良いと思われていたらしい。健康と若さを保つ秘訣、みたいな扱い。
!!$img1!!

 こちらは、ご家庭用ラジウム水サーバー。

!!$img2!!

!!$img3!!

 何か、見た目が、今時のアルカリイオン水サーバーと変わらないんですが。

 もちろん、ラジウムの摂取は、内部被曝による放射線障害の原因になるし、重金属中毒にかかるおそれもある。ラジウムサプリメントでは死人も出ている。名前だけラジウムのブーム便乗詐欺商品の方がむしろ安全で、真面目な業者がしっかりラジウムを入れた場合は「わりと早めに健康に影響する(悪い方に)」グッズだった。

講義メモ:キトサン

Posted on 10月 6th, 2011 in 倉庫 by apj

 47Newsの記事より。

出版社元社長ら5人逮捕 「がんに効く」と宣伝容疑

 「がんに効く」と本で宣伝して健康食品を無許可販売したとして、神奈川県警は6日、薬事法違反の疑いで、東京都新宿区の出版社「現代書林」の元社長武谷紘之容疑者(72)=長野県軽井沢町=と、東京都八王子市の健康食品販売会社「キトサンコーワ」社長国安春子容疑者(65)=八王子市=ら5人を逮捕した。

 逮捕容疑は、5人は共謀して2009~10年に「医師・研究者が認めた私がすすめる『水溶性キトサン』」と題した本を発行し、6カ所に送って未承認医薬品の健康食品「キトサンコーワ」を広告。

2011/10/06 11:58 【共同通信】

 体験談を載せたいわゆる「バイブル本」で宣伝したということらしい。現物を売った側は薬事法違反か……。本の監修者や著者にも網をかけたいところ……と思ったら網かかってました。

 asahi.comより

「がん消えた」本に効能、食品販売容疑 65歳社長逮捕

 医師の証言や患者の体験談を紹介した本で「がんが消えた」などと効能をうたい、健康食品を販売したとして、神奈川県警は6日、健康食品販売会社「キトサンコーワ」(東京都八王子市)社長の国安春子容疑者(65)を薬事法違反(医薬品の無許可販売)などの容疑で逮捕した。

 また、この本を発行した出版社「現代書林」(東京都新宿区)元社長の武谷紘之容疑者(72)や、著者のフリーライター石田義孝容疑者(54)ら計4人も同幇助(ほうじょ)容疑などで逮捕した。

 石田容疑者はおおむね容疑を認め、ほかの4人は否認しているという。

 しかし監修者がどうなったかはこの記事でもわからないなぁ。

【追記2011/10/18】
 asahi.comの記事より

健康食品の本監修した元医師を書類送検 薬事法違反容疑
 「がんが消えた」などと本で効能をうたい、健康食品「キトサンコーワ」を販売したとされる薬事法違反事件で、神奈川県警は18日、本を監修した鹿児島市内の元医師の男(63)を薬事法違反(承認前医薬品の広告)容疑で横浜地検に書類送検し、発表した。

 元医師は「広告や宣伝にあたることは知っていた」と話しているという。

 元医師は今年6月、朝日新聞の取材に、「知人に頼まれて名前を貸しただけで、本の内容は一切知らない」などと否定していた。

 監修者は書類送検になったようです。

【2011/10/28】
 日本経済新聞の記事より。

薬事法違反で社長ら3人起訴 がん効能本巡り横浜地検
2011/10/27 11:24

 横浜地検は26日、未承認医薬品の健康食品を「がんに効く」と本で広告するなどしたとして、薬事法違反の罪で東京都八王子市の健康食品販売会社「キトサンコーワ」社長、国安春子容疑者(65)と東京都新宿区の出版社「現代書林」元社長、武谷紘之容疑者(72)ら3人を起訴。同罪で法人としての両社も起訴した。

 また本を執筆し、薬事法違反容疑で逮捕された千葉県市川市のフリーライターの男性(54)や、本を監修し同法違反容疑で書類送検された鹿児島市の医師(63)ら3人は不起訴にした。〔共同〕

 監修者不起訴ですか。公判維持は難しい?

日弁連より原発事故被災者の方へ

Posted on 9月 16th, 2011 in 倉庫 by apj

 原発事故被災者の方への損害賠償支払について、東電が書類を作って送っているようですが、法的には(それ以外にも)問題のある書類です。早く支払ってもらいたい気持ちはわかりますが、どうか、素人判断で安易に記入しないでください。
 日弁連の会長から声明が出ています。

http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2011/110916.html

 既に、森まさこ参議院議員も違法である部分があると指摘したようです。今後いろいろな対応が行われる可能性もあります。

 日弁連による被害者支援情報です。

http://www.nichibenren.or.jp/activity/human/higashinihon_daishinsai.html#adr

 なかほどの、「原子力損害賠償紛争解決センターについて」を見てください。

上記の東京電力への直接請求以外に、9月1日から「原子力損害賠償紛争解決センター」という第三者機関が申立て受付を開始しています。ここでは、公正・中立な立場の仲介委員(弁護士)が東京電力と被害者の間に入り、和解の仲介を行います。

 もっと親切で、かつ、東電に都合のよい条件をのまされたりしないで済む手続き方法があるということです!

実名匿名論争ではなく、送達可能性に一本化しては

Posted on 9月 6th, 2011 in 倉庫 by apj

 ツイッターで発言した話題に関連するのだけど、ネット上の発言については、そろそろ「実名・匿名」論争はやめて、「(訴状の)送達可能性」の議論に一本化した方が良いのではないかという提案(法律用語に「送達可能性」というのは無いので、ここで使っても大丈夫だろう)。

 ネット上の実名匿名論争は昔からあって、実名だから信頼できるとは限らないとか逆にひどい発言も出てくるといった指摘も行われてきた。また、誰が発言したかではなく内容で判断、という基準も立てうる。一方で、新聞記事でも全てが署名入りではないということもある。実名っぽいペンネームはどうなんだといった話もある。これまでいろいろな論争を見てきたけど、同じ事の繰り返しで、実名か匿名のどちらが是か、という問いの立て方では議論が収束することは無いのではないか。

 実名と匿名の最大の違いは、相手の発言によって権利侵害された場合にいかに低いハードルで法的措置をとれるか、という部分にある。

 相手がマスコミなら、出所のはっきりしない情報に基づく筆者不明の記事でも、公開されて権利侵害が生じた時点で、公開した人(つまり会社)を訴えて損害を金銭に換えて請求する、というのが最終的な問題解決の手段となる。新聞社や出版社なら代表取締役を宛名にして訴状を書けばいいし、もし、書いた人までわかっているなら、その人も被告に加えることができるだろう。この場合は、ただちに、内容が権利侵害か否か、侵害してるとすれば損害はいくらか、という「内容の審理」に入ることができる。しかも、名誉毀損等の不法行為を理由として提訴する場合、管轄の裁判所は原告の住所地で良いことになっているので、遠く離れた相手であっても住居に近い裁判所で審理してもらうことができる。
 これが、ネットの匿名が相手だとどうなるか。
 相手のIPアドレスがわかっているなら、プロバイダを特定した後、発信者情報開示請求の訴えを起こし、相手を特定した後で、「内容の審理」のために訴えることになる。ただ、相手のIPアドレスが分かっているというのは、被害者が管理する掲示板やブログのコメントなどに直接書き込まれたという、むしろ幸運な場合である。
 プロバイダとは直接関係のない掲示板に書き込まれた場合は、掲示板管理者に書き込んだ人のIPアドレスの開示を求め、IPからプロバイダを突き止め、プロバイダを訴え、書いた人を訴える、と、余分な手間がさらに増える。
 書き込みが匿名串からのものであった場合、掲示板から向こうがたどれない場合もある。また、手順を踏んでいる間にプロバイダのログの保存期間を過ぎてしまったら、開示せよの判決をもらったとしても開示が不可能ということも起こりうる。そうすると、そこから先の追跡が不可能になる。そうならないようにするには、プロバイダがわかり次第、ログを消すな、という仮処分の申請を裁判所に突っ込んでおくしかないが、それでも確実とはいえない。
 しかも、相手がプロバイダで発信者情報開示請求、となると、不法行為ではないので、被告の住所地つまりプロバイダの本店所在地(登記上の)の裁判所で訴えることになる。プロバイダが東京で被害者が地方在住だと、往復の旅費と時間の負担だけでもかなり増えることになる。こんなことになったら、地方在住の素人にとっては、東京という見知らぬ土地で頼りになる弁護士を見つけることも容易ではないし、みつけたとしてもその分だけ余分に費用がかかる。

 つまり、ネットの匿名発言の問題点は、匿名の情報発信によって被害が発生した場合に「内容の審理」に入るまでに被害者が払わなければならない手間とコストが、相手がマスコミ等の場合に比べて著しく高い、ということにある。このことが、事実上、救済の道を多くの場合において閉ざしているように思う。匿名の影にかくれて、などと言うと、匿名でもまともな発言があるし実名でもアレな発言がある、と反論されてしまう。しかし、発言姿勢を問題にするのではなく、権利侵害が起きた後の手間の話に限ってしまえば、「加害者特定までのハードルに大きな差があって匿名さんが不当にこの差を利用する結果になっている」のは、訴訟制度が作り出している事実であって例外はない。

 三浦 和義「弁護士いらず 本人訴訟必勝マニュアル」という本には、マスコミ相手の名誉毀損訴訟がたくさん書かれている。これも、相手がマスコミだから訴状の数を撃てたのであって、相手がネットの匿名さんだったら、これだけの数の訴訟をするのは無理だったのではないだろうか。

 実名匿名論争を繰り返すのではなくて、訴状の送達の難易度を、相手がマスコミであった場合と同程度にネット上の匿名さんに対しても引き下げる仕組みをどうやって作るか、ということを考えた方が良いのではないか。私にも具体的な案は直ぐには思いつかないが、このことに絞れば、考えてくれる法律家が居るのではないかと期待している。

追記;
 少し考えたのだけど、手続き上の手間という観点で見た場合、実名と匿名の区分けは、日常生活における区分けと異なっていると考えると整理しやすいのではないか。

 日常生活でいうところの実名を、まず「強い実名」と「弱い実名」に分けることにする。
 「強い実名」とは、実名さんによって権利を侵害された場合、他の訴訟と変わらない手間で「内容の審理」に入れるものをいう。たとえば、マスコミは全てここに入るだろう。匿名記者による記事でも、法的責任を負う相手がはっきりしている場合はここに入れることになる。
 「弱い実名」は、情報発信自体は実社会における実名あるいは実社会で認められているペンネームで行われているが、法的責任の追求に際して、プロバイダに対する発信者情報開示請求が必要となりうるものをいう。本名を名乗っていても、本人だけが編集できるサイトならともかく、他所の掲示板への書き込みだと、他人がなりすましている場合もあるし、書いたことについて本人が嘘をついたりしらを切ったりすることもある。そうすると、IP→開示請求→本人特定、の証拠をつきつけないと、「内容の審理」がはじまらない。また、そうしない限り送達先住所がわからない場合もある。本名で情報発信した場合、強い実名になるか弱い実名になるかは、どこのサイトに書き込んだかにも依存する。
 「匿名」は日常生活でいう匿名と同じとしてよいだろう。実生活では使わないハンドル名もここに含まれる。

 手続き上の手間を考えた場合、日常生活でいうところの実名・匿名の線引きではなくて、強い実名と、弱い実名・匿名、で線引きする方が、現状の実態には合っている。こう考えると、日常生活の意味での実名匿名の区別というのは、ネットではあまり重要ではないし、線を引くのもそこではなくなってくる。むしろ、「実名(ネット)」=強い実名、「匿名(ネット)」=弱い実名・匿名、の方がすっきりする。被害者救済の制度設計の内容として、「匿名(ネット)」への送達可能性のハードルを、「強い実名」並みに下げるということが実現すれば、実用上はそれで十分なのではないか。

血液型性格診断(講義資料)

Posted on 8月 22nd, 2011 in 倉庫 by apj

 asahi.comより

科学的根拠ないのに…シューカツで企業が血液型質問
 シューカツで血液型を聞かれたらどうする? 就職活動で不況と東日本大震災のダブルパンチにあえぐ学生が悩んでいる。専門家は血液型による性格判断に科学的根拠はなく、面接で聞くことは差別につながりかねないと警告している。

 中部地方の女子学生(21)は面接で血液型を聞かれて戸惑った。B型だが、かつて「マイペースで就活に不利な血液型だ」と言われ、気にかかっていたからだ。正直に答えたが、その会社は落ちた。

 筆記も不調だったので、血液型が原因でないとは思う。しかし、被災地での態度が問題となり、7月に辞任した松本龍・前復興担当大臣が「B型だから」と言い訳していたのを見て、「B型の印象が悪くなる」とため息が出た。

 男子大学院生(24)はメーカー系の面接で「君はA型ですか」と聞かれた。まじめな性格と言いたいのだろうと解釈し、「はい」と答えた。「当たったからいいが、もし違ったら対応に困ったと思う」という。

 エントリーシートに記入させる企業もある。東日本にあるサービス業の採用担当者は「あくまで参考程度の質問」「特定の血液型を排除しているわけではない」としたうえで、「入社後に細かい作業をする部署もあるので、配置を考える上でも血液型を把握しておきたい」と説明する。

 一方、ニセ科学に詳しい菊池誠・大阪大サイバーメディアセンター教授(物理学)は「いまだにそんな会社があるんですねえ」とあきれる。菊池教授によると、性格と血液型の関連性は見つかっておらず、「現代の迷信」という。「そもそも、自分の努力で変えられないことを就職の面接で聞くのはおかしい。企業側に自覚がなさすぎる」

 日本労働弁護団の常任幹事を務める中野麻美弁護士は「仕事への適応能力をみる採用の場で、職務との関連性がない血液型の情報を求めるのは不合理だ。プライバシーを侵害し、いわれのない差別にあたるおそれがある」と話している。(岩波精)

 自分は遊びとわかってるからいい、と放置して、社会に蔓延すると、不利益を受けるという例。いずれ講義で紹介の予定。

「上から目線」ということの無意味さ

Posted on 7月 23rd, 2011 in 倉庫 by apj

 以前にも書いたかもしれないが、「上から目線」ということの言い方について。ツイッターのTLで出てきたので少し考えてみた。

 AがBに対して「上から目線」と評した場合のことを考える。

前提1:「上から目線」と言う言葉は、Aが勝手に「上下」を何らかの基準で設定し、その基準によればBが上、と判断したから出てきた言葉である。
(1)Aが「下」であるとA自身が思っている場合
 Aは、誰が頼んだわけでもないのに勝手に「下」に居ると自分で思っている、あるいは実際に「下」に居る。つまり「私は私の設定した基準で下に居ます」と自ら表明する以上の意味がない。
(2)Aが想定する別の誰か(たとえばC)が「下」に居るとAが考えている場合
 話に登場もしていないどころか、そもそも存在するかどうかわからない「下」にいるCを想定して発言することの意味がわからない。というかはっきり言って無意味。
(3)第三者からみてBが上になるに違いない、という意味である場合
 第三者から見ればAは「下」なのにA自身はそのことに全く気づいていない、あるいはそれを認めるつもりもないとの表明である。つまりAはただのバカ。

前提1が成り立たない場合
 Aは自分で「上下」を設定していないにもかかわらず「上から目線」と言ったことになる。何が言いたいのかがわからない。「上から目線」という表現自体が比喩として適切ではなかったことになる。

 考えつく限り場合分けしてみたが、「上から目線」というのは、言った側がバカにされる効果があるだけで、それ以外に何の意味もなさそうである。

週末所用で工学部に行ったら……

Posted on 7月 5th, 2011 in 倉庫 by apj

 週末、某仕事のため米沢の工学部に出張したら、事務の入ってる建物入り口にこんなものが。

!!$img1!!

 近づいてみると、ビニール袋に入れた個人線量計が、ガラス窓にテープで留められていた。

!!$img2!!

 使われていたのはこの機種。

!!$img3!!

 その場所にずーっと立ってたらどれだけ被曝するかを見る、という意味では、個人線量計をぶら下げておくのもアリなんだろうけど、もうちょっと立派なモニタリングポストを期待していたので拍子抜けした。

むしろいい教材になりそう

Posted on 6月 26th, 2011 in 倉庫 by apj

 産経新聞に続報が来ました

記者も感激! さいたま市の80歳男性が発明した「夢のエネルギー製造装置」に迫る
2011.6.26 12:00

 東日本大震災に伴う福島第1原発事故は、国民に従来のエネルギー政策の見直しを迫っている。直接の被災地ではない埼玉県でも、計画停電が行われたり、自治体がこぞって節電を呼びかけたりしており、電力危機と無関係ではいられない。7月の県知事選でもエネルギー政策のあり方が大きな争点になりそうだ。そんな中、さいたま市在住の男性が水と重力と浮力のみを駆使して電気を発生させる装置を発明し、特許を取ったという情報を得た。太陽光や風力などエコ発電なら現在でもあるが、もし本当なら、時間や天候にも左右されない“究極の自然エネルギー”ではないか。破壊された原子力発電所から飛んだ放射能に怯える日本人にとっての救世主になりうるかもしれない。(安岡一成)

 高校の時は数学や理科が苦手で文系に進んだ私。今回の取材には基礎的な知識が不足しているかもしれないと、以前に取材で知り合った都内の某大学理学部物理学科2年で力学や電磁力などを学ぶA君(20)に同行してもらった。

 今月15日、訪れたのはさいたま市浦和区の閑静な住宅街の中にある豪邸。装置を発明したという会社役員、阿久津一郎さん(80)が出迎えてくれた。リビングルームの壁には、平成22年10月15日付で岩井良行・特許庁長官のサインが入った特許証が額に入れて飾られていた。発明の名称は「球体循環装置」と書いてある。特許を取ったのは確かなようだ。

 でも、「球体循環装置」って一体何だろう…。2人はこう思いをめぐらせながら、強面の阿久津さんにちょっとビビりつつ、装置のある庭に案内してもらった。

 庭にあったのは、高さ2メートルほどのアクリルパイプが3本、容積約10リットルのアクリル製の箱に取り付けられた装置だ。写真とイラストを参照してほしい。左から、歯車と弁が2ついたもの、弁が4つついたもの、何もついていないものの3本だ。それぞれ、「落下管」、「上昇管」「蓄水管」と呼び、蓄水管と上昇管の上部には注水タンクが、落下管の歯車には自転車用くらいのライトがついている。

 「じゃ、始めるよ」

 阿久津さんの合図で、装置に水が注ぎ込まれた。分かりやすいように、水には入浴剤で黄緑色をつけている。まず、落下管の下の方にあるコックを閉め、箱と蓄水管、上昇管は水で満たす。この後、コックを開放すると、落下管には水は入ってこない。タンクからは一定量の水が注入され、箱に取り付けられた栓から放出されている。上昇管と落下管は上部でつながっている。

 ここで阿久津さんはパチンコ玉を中に入れた卓球に使うピンポン球を取り出した。重さは約23グラム。水に入れると、当然、浮力で水面に浮かぶ。阿久津さんはおもむろに落下管の歯車の上にある挿入口から、ピンポン球を20個、次々と投入した。

 落下した球は歯車を回して箱に落ちる。箱に取り付けた誘導板の働きで、球はダイレクトに上昇管に入った後、そのまま浮力で上にあがっていく。4つの逆止弁を経て球は水面にたまっていく。すると、球は上にたまった球を下から押し出していく。押し出された球は、そのまま落下管に入り、2つの弁を経て歯車に衝突、歯車を回して再び箱に入る。入った球はまた上昇管に吸い込まれ、上がっていく…。

 ガタン、と球が歯車に当たる音が一定間隔で繰り返される。上昇する球は、中に入っているパチンコ玉のため小さく震えている。20個の球が滞りなく同じ動きを繰り返している。

 装置に水を出し入れするのは水位を保つためで、その量は球20個の体積分の水という。弁をつけているのも同様に水位を保つため。1つの球が循環するのは約3分で、回った歯車は電力を生み、ライトは微弱ながらも、確かに灯っているのだ!

 「すげえ…」

 息をのんで球の動きを見ている私たち。時間を忘れたように眺めていたら、阿久津さんが不敵に微笑みかけてきた。手には5キロの鉄アレイを2個持っている。何をするのだろう、と思っていると、水を張った桶の中に、直径50センチほどのプラスチック製の半球を浮かべ、その中に鉄アレイを入れてみたら、半球がまだ浮いているのを見せてくれた。

 「浮力って結構すごいでしょ? あの装置はピンポン球だけど、球をこれくらい大きくて重さのあるものに変えて、装置も大きくしたらもっと大きな電力が得られるよ」

 A君に計算してもらったところ、この装置で生み出される電力は1ワットにも満たないという。しかし、装置をもっと大きくして球の大きさを変えると、理論上、電力はそれに比例して大きくなるそうだ。この後、装置は時おり球が詰まるくらいで、管をたたいてやればまた復活していた。

 球の動きに美しさを感じてまたじっと見ていると、「おかあさーん、あれなーに?」と庭の外から指をさす子供の声でふと我に返った。この装置にキャラクターの絵を描いて遊園地に置いておくだけで、からくり時計のように子供にとっては楽しめるものになるかもしれない。

 A君は「これ、高校2年生くらいの物理の学力があれば理解できる仕組みですよ。でもそんな簡単な知識でこんなこと思いつくなんて」と感心しきりのようだった。

 それにしてもなぜこんなものを思いついたのか、阿久津さんに尋ねてみた。

 「東京に行くと高いビルがあるでしょ。あれを眺めながらね、あのてっぺんから物を落とすとすごいエネルギーになると考えたんだ」

 阿久津さんはドクター中松氏と違って発明を本職としているわけではない。ただ以前から環境問題には深い関心があり、石油を使う火力発電にしても、危険と紙一重の原子力発電にしても、いずれはこれらに頼らない発電方法を開発しなければならないと感じていたという。

 物を落とせば確かにエネルギーは生まれる。しかし、落としたものをどうやって持ち上げるか。それに悩む日々だった。ある日、練習用の水に浮くゴルフボールを手にしたとき、ひらめいた。

 「これだ。浮力だ。水を張ったパイプの中ならそれが可能だ」

 その後、装置を作ってくれる工場を探し、700~800万円を投じ、2年半の試行錯誤の末、開発に成功。「アクツ・エコ・サイクル」と命名した。

 昨年10月には特許を取得。「誰も同じような装置を考えた前例がないと国が認めてくれたときは飛び上がりそうなくらい嬉しかったよ」と振り返る。現在、米国や欧州などにも出願中だ。

 「この装置をね、たとえば店舗に設置したら雨水を使ってネオン用の電力に使える。山の中ではわき水を使って、登山道の灯りになるでしょ」と阿久津さん。「この装置をすべての送電鉄塔やビルを発電所に設置すれば将来、原子力発電はいらなくなるよ」と話していた。

 ピンポン球がともした小さな灯りが、大きな光となって私たちを照らしてくれる日が来るのだろうか。原発関連の暗いニュースばかりの中、少しだけ希望が見えた気がした。

!!$img1!!

 やはり、装置そのものは上の水槽の水の位置エネルギーで動くものです。効率のよい発電に結びつくとは思えない(発電目的なら水槽の下に発電機を置く方がいい)のですが、メカ自体は見応えがあるので、展示すると面白いかもしれません。
 むしろ、単に発電機を置いただけのものと、発電の効率を比較するとかすれば、熱力学の法則について教えるための科学館むけの展示になるかも。

 まあ、何に数百万投じようが個人の道楽なら他人がとやかく言うことではないし、それをネタに投資家から資金を集めようってわけでもなさそうだし、ご本人も善意からやってるようですし、ほほえましいケースではありますね。
 ただ、それを「エネルギー製造装置」だと信じ込んで報道してしまう記者はどうかと思いますが。産経新聞は記者を採用するときに、基礎的な理科と数学の学力試験くらいはやった方がいいと思います。

学位論文と投稿論文の内容公開を望みます

Posted on 6月 25th, 2011 in 倉庫 by apj

 高嶋開発工学総合研究所に、面白い警告が出たので、こちらでコメントしてみます。

警告
高嶋康豪博士に対する誹謗中傷について

 高嶋康豪博士の博士号に対して、誹謗中傷があり、「ケンジントン大学がハワイ州政府から閉鎖命令を受けているので、博士号自体疑問だ」と言うようなブログを掲載している人間がおりますが、1、名誉棄損 2、信用棄損 3、業務妨害 の刑事事件及び民事事件の様相を呈しているので、法的処置の警告を致します。

1、高嶋博士の博士号は、1980年代のレーガン大統領時代に、優秀な学術を顕彰する機関として、米国の国際学士院の協会の著名な大学の博士達によって設立された博士号及び終身名誉博士号の評議委員会により推薦授与する事が有りました。当時、ハワイ大学のホシノ学長が来日の際、高嶋博士の学術をアメリカに紹介し、評議委員会にて審議され、生命工学と環境工学の優秀な学術として世界で初めての環境微生物学博士号(Doctor of Environment Biology)の授与が決定し、1995年に授与されました。
  その時の評議委員会メンバーは、ヘンリー・L・N・アンダーソン ロサンゼルス市立大学総長を代表とする数十名のメンバーからの授与でした。
  高嶋博士が直接授与式に出席し、博士号の認証状の授与を受けています。

2、尚、終身名誉博士号を1996年に国際学士院協会より授与され、国際学士院協会からの招聘により、授与式に際し、アメリカにて基調講演を行い授与式が行われました。その時の出席者は、ロサンゼルス市立大学学長、リンカーン大学学長、ニューヨーク市立大学学長他十数名の学長が出席し、高嶋博士が記念基調講演を行い、終身名誉博士号の授与式があり、リンカーン大学の学長から授与されました。その時の状況は、ビデオに収録され、公式に発表されています。

  以上のように高嶋博士の博士号の認証は公式に行われたものですので、誹謗中傷によって、博士の名誉・信用を棄損するものに対しては、本名の開示を求めると共に上記のとおり、法的処置の警告を致します。

 高嶋博士は、「環境微生物学博士号」を取得されたそうですから、理工系の博士号取得者の範疇に入ります。この場合、学位授与機関を云々しなくても、理工系の博士号取得者にふさわしい業績があるかどうかをチェックする方が、より本当の姿を知ることができます。

 理工系においては、博士号の取得者が当然備えているものとして、次の2つがあります。
(1)博士論文
 学位申請のために書かれるもの。いわゆる学位論文です。これを提出して内容の審査を受けることになります。
(2)博士論文に関連した投稿論文
 英文で、学術雑誌に投稿され、レフェリーの審査を経て掲載されたもの。何報以上がアクセプトであること、といったものが学位審査の条件になっていることもあります。

 日本の大学でもアメリカの大学でも、1980年代よりもっと以前から、博士号取得者にこの2つがあるのが当たり前です。
これ無しに博士号の認定が行われたのであれば、認定機関の性質を問わず、いかなる権威者が認定したとしても、その博士号は誰が見てもインチキと言って良いでしょう。逆に、この2つが備わっていれば、認定機関を云々するまでもなく、妥当な審査が行われたという強力な証拠となります。

 ですから、高嶋博士の博士号の内容がどのようなものかを評価するには、認定機関がどうこうという話ではなくて、上記2つの論文を見れば十分なのです。世の中、お手盛りの怪しい論文誌も無いわけではありませんから、まともな学術雑誌に通る内容であることを示すには、投稿論文リストを出すのが一番手っ取り早い方法です。環境微生物学の分野でそれなりの名の知られた雑誌にすでに論文が通っているという証拠を出しさえすれば、学位認定機関が怪しいなどという中傷は、すべて突き崩すことができます。

 名誉毀損で訴えるぞと脅すよりも、博士論文と投稿論文別刷りのpdfファイルを公開した方が、おかしな批判を押さえる効果はずっと大きいのです。しかし、不思議なことに、警告文の中には、博士学位論文のタイトルも、代表的な投稿論文も書かれていません。これでは、研究の実体があるかどうかを誰もチェックできませんから、逆に疑われても仕方ありません。高嶋博士の学位の実体を明らかにする方法があるのに、その方法をとらず、警告文だけ出すというのは、一体何故なんでしょうか。わざわざ自分から怪しく見せることも無いだろうにと思います。ぜひ、ウェブサイトで上記2つを公開し、誰でも読めるようにしていただきたいですね。むしろ、高嶋博士の研究成果を世に示すチャンスですから、ぜひ前向きにご検討いただければと思います。

 アメリカでとられた学位であれば、博士論文は英文で書かれているのでしょう。投稿論文についても、英文以外のものは、理工系の世界では業績としては重視されません。世界中で読まれてチェックされ引用されるというわけにはいかないからです。幸いなことに、英文を読みこなせる日本人は多数おりますから、読まれないという心配はありません。

【追記2011/96/26】
 少し文章を手直ししました。

 考えようによっては、警告文の通りに名誉毀損で訴えてもらうのも一興かもしれません。もちろん、誹謗中傷や悪口を書くと負けるので、それは控えておくのが前提です。仮に訴えられたとして、「論文内容が提示されないままの学位に疑問があるというのは意見論評の範囲」と主張し、「その意見が真実に基づいておらず名誉が傷ついたというのであれば、博士学位論文と投稿論文を証拠として提出してください」と求釈明してやれば、真実が明らかになりそうです。

なぜガイガーカウンターの知名度が高いのか、のメモ

Posted on 6月 25th, 2011 in 倉庫 by apj

ついったーでつぶやきつつ、教えていただいた情報をメモ。

フィクション

・ゴジラ で登場した(「ゴジラ映画とガイガーカウンター」)。
・ウルトラマンにもあったかも。
 「ウルトラマン第2話でバルタン星人に会いに行くときにイデ隊員が持ってたから。」という情報提供あり。
 「ウルトラマンシリーズでガイガーカウンターが出そうなのは、レッドキング+水爆って回ですかねぇ。初代ウルトラマン「第25話 怪彗星ツイフォン」」という情報提供あり(←要確認)。
・少年ジャンプ連載の「飛ぶ教室」に登場。
・マッドマックス3(ここに情報
・ルパン三世(時計がガイガーカウンター、のシーンがある)

ノンフィクション?

・西原理恵子の鳥頭紀行

実際の事件

・ビキニと第五福竜丸ときの汚染検査(←当時の報道内容を見る必要あり。ガイガーて連呼されてたのか?とか)
 第五福竜丸被爆事故
 「風評被害」という本で福竜丸事件がとりあげられた。
・JCOの臨界事故の時にはすでにガイガーが放射線検出器の総称になってた(これとか

 一方、
シンチレーションカウンターの歴史
堀場のシンチ開発の歴史