特命リサーチX「磁石で二日酔いを防止する」に対するコメントを読んだ方からメールをいただいたので、やりとりを掲載する。戴いたメールは、短かったので、私からの返事のメールの中で全文引用している。だから、これは、私からメールをくださった方への返事の掲載である。なお、改行位置などを適宜変更してある。なお、メールは送った順に全部掲載しているので、向こうから来たメールも全部入っている。戴いたメールの話題につながりが無いし、私がポインタを示した部分などに関する反論も来ないんで、コミュニケーションが成り立ってるのかどうか、よくわかりません。
液体状態で、水のクラスターの大きさを決める方法はありません。 当ウェブページでも書いているように、もともと、松下和弘氏が間違った 知識に基づいて業界誌に広めた話が、一人歩きしたものです。いかにももっともらしい説だったので、あなたが信じるほどにまで 広まってしまいましたが、完璧な誤りです。当初、松下氏は、水クラスターの話を、日本化学会で発表したのですが、それは間違っているとかなり批判されたときいています。それに耳を傾けず無責任に業界誌にもっともらしい話を書いた結果が、今の惨状です。
私の知識と見識ですが、少なくとも、現在出ている主要な論文の情報に 基づいています。科学的に解明、というときは、査読のある論文誌に論文が載って、追試によって認められたということを意味します。液体の状態でクラスターサイズを決めたという論文は、今のところありません。あなたが、「科学的に証明」と主張するのであれば、TV番組 ではなく、論文を示すべきです。そうすれば、そのことをこちらでも紹介します。
分子クラスターを小さくしたと称する製品は多数ありますが、すべて、松下氏の間違った測定法に基づく議論であり、クラスターサイズを測定していないというのが真実です。
気相中に微小な液滴(クラスター)を作って質量分析する実験はすでに行われています。こちらはまともな科学です。しかし、液体の話とは別物です。
TV番組を信じるのはあなたの自由ですが、最近のTV番組の、特に水関係については、まともな番組が非常に少ないです。最近のNHKの ためしてガッテンがまあまともな内容でした。同様の批判を私とは独立に行っている安井氏によると、他はほとんど全滅のようです。 http://plaza13.mbn.or.jp/~yasui_it/DWaterIllusion.htm
それから、去年、特命リサーチの制作会社の人が我々のところに情報収集にみえたことがあって、話をしました。持ってこられた資料は、液体の研究とはほとんど無関係な内容の縦書きの本で、トラコテの水(その水を飲んでいる 集落の人が長寿である、という)でした。もう1つは、5角形の水について書いてある本でした。いずれがありそうな話かと訊かれたので、5角形はいまの所支持する証拠はまったくないが、長寿の水なら寿命を調べて長寿なら確認可能な話ではないかと答えました。そのときの番組制作の方法について、「もし、その長寿の話をちゃんと科学的に調べて、実は水ではなく、例えば長寿の遺伝子だ、という話になったら番組として成立しない。なぜなら、番組をみた視聴者が、そこから先どうしようもないからだ。科学的に、遺伝子とも水とも結論が出ていなければ、水かもしれないという含みを持たせてもウソを言ったことにはならないから、番組として成立する」ということでした。
特命リサーチは、科学的に結論が実は出ていないことであっても、明白なウソになりさえしなければ、番組を作るという方針のようです。これを、 科学的に解明されていると主張するのもまた、あなたの自由ですが・・・。
ディベートをしたいわけではありません。
ディベートとは、あるテーマについて、自分自身の主義主張とは関係なく賛成と反対にわかれて相手を説得するというものです。
証拠は論文だけで十分だと思います。
特許検索については、すでにこちらでも行っています。その結果、「水のクラスター」という、科学的裏付けのない話が、特許として出回っていることがわかりました。
これは、特許は新しいアイデアを保護するものであって、原理が立証されているかどうかはそもそも別ということなのでしょう。一応、科学に基づいたものが多いですが、水クラスターの話は非専門家の研究者がだまされるような話なので、無理からぬことと考えています。
あなたがエンジニアであれば、特許が出てることが、科学的正しさや科学的に解明されたことを意味しないということくらい、ご存じのはずです。
ウソだと思うなら、「特許英雄列伝」
http://www2s.biglobe.ne.jp/~tamsite/TOKKYO.htm
をごらんください。
いずれにしても、肝心の測定法の真偽も確かめずに、特許を申請したり製品を開発して、製品の機能だけならいいのに間違った科学理論を振りまく世の技術者ってのも困ったもんです。
世の中には、まったくの誤解に基づいて宣伝がなされ、製品が開発されるということが起こりうるというのが、「水クラスター」の話の教訓であると考えています。
同様のことは、産業界にはそんなに被害を出さなかったのですが、アメリカで、常温核融合のときに起きました。もう少し古い例ですと、プロの研究者を巻き込んだ「ポリウォーター」ってのもあります。
それから、私は、いろんな水処理に効果がないということを主張した覚えはまったくありません。効果の有無は、まともな2重盲検をやって統計的有意差が出れば真実だという立場です。ただ、その効果を考えるのに、測定手段がそもそもない「水のクラスター」を持ちだすのが間違っていると主張しているだけです。
また、日本で磁気活水器の宣伝を見ても、「水のクラスター」というものが出てくることは、あなたもご存じのはずです。しかし、海外で磁気水についてまとめた文献
http://www.csicop.org/si/9801/powell.html
には、水のクラスターの話は全く出ていません。日本のみで広まっている誤解であることの1つの証拠です。
氷についてですが、氷の何について調べればいいのでしょうか?
氷の研究会でしたら、毎年参加していますが、水クラスターの話など全く出てきません。また、水のクラスターと氷がどう結びつくのでしょう?もったい付けずに情報をください。
まあ、一旦広まった誤解ですから、そう簡単に払拭できるものではないですから、いろんなところで宣伝していく必要はあると思っています。おかげさまで、「水のクラスター 伝搬する誤解」は、あまり一般向けではないにも関わらず、アクセス数が伸び続けておりますし、他の雑誌などでも、解説を書くことができました。これからも活動は続けていきます。正しい情報を流すのは、それを知っている者の義務だと考えていますので。
済みませんが、本当に当方のページをごらんになったんでしょうか?
どこか別のページからのリンクではないのでしょうか?当方のサイトは外部のプロバイダを使っていないので、広告の入る余地はありません。
私のメールの最後についている署名のことなら、別に広告でもなんでもないです。
所属先やウェブページのURLを入れるのは、ごく普通に行われていることです。広告ではありません。
どう受け止めるかはあなたの自由ですが・・・・。
「私には、あなたが、科学の研究成果から目を背けて、マスコミのいうことを信じて威張っているカルト技術者にしか見えません」ということだって言えるわけです。
無関係ですよ。
私はどこのドクターが相手でも教授が相手でも、違うと考えたら違うと言っています。現に、九州大農学部の白畑教授の説については「決定的証拠が出るまで判断保留」と言い続けています。マスコミがどういう報道をしようと。
ところで、もし、あなたが東京大学やMITのドクターだったとしたら私のあなたに対する対応はどう変わったとお考えでしょうか?
追試以前に、測定方法が間違っているという主張なんです。
水クラスターをNMRで測定するというのは、そもそも測定できないものを測定しょうとしているということなんです。もとが、測定不能なものなので、追試しても無意味です。これが、測定方法と測定したい量が合っているがAグループとBグループでその結果が違う、というのであれば追試で確認することができます。
ちょっと極端な例ですが、「温度計を持ってきて超能力の強さを測定しました」ってな話があったとして、追試にどんな意味がありますか?
ですから、その典型例として「水クラスター」の話が間違っているわけで。ホントにおっしゃるとおり、世の中が完璧(ってどんな?)なら、こんなヘンな話が流通することは無かったでしょうよ。
とりあえず、水クラスターの話にフレミングの左手の法則は無関係では。
ボーアに例えられるなら物理屋としては光栄ですが、あいにく私はそんな大物じゃないですよ(笑)。
それで、氷を調べろという話は一体何でしょう?論文でなくて本や解説記事であっても、私は可能な限り探しますからお教え下さい。
これはその通りだと思います。
ただ、完璧なものになるというのはちょっと行き過ぎな気がします。
物理法則はすべて近似である、というのが私が常々思っていることです。この場合の「近似」は、測定誤差をうまく処理して真の値を考える、という意味ではないです、念のため。
できるだけたくさんの現象を説明する法則がさしあたり正しいとされるが、研究が進むに従って、その法則では説明できない現象が見つかって、法則がより一般的なものに書き換えられる。説明できない現象がたくさんある法則は誤りとして捨てられるか、より一般的な法則の一部として取り込まれる形で残る。この意味で法則は(自然の)近似だということです。
「法則」を「理論」と置き換えてもかまわないです。
特殊相対論がニュートン力学を含む形で作られた時は取り込まれ型でしたが、化学分野の燃焼のフロギストン説は捨てられました。
思い切った理論的予測が成功することもたまにはありますが、そういうのは科学の歴史を見てもめずらしいことなので、歴史に残るできごとになりますね。
直前のメールでおっしゃったように、確かに世の中に完璧なものなどありません。科学研究の現場でいろんなことをやっていても、勘違いや思いこみや間違いは結構あります。それを訂正する手続きが、学会発表や同僚研究者の前でのピア・レビュー、査読付き雑誌への投稿と審査なんです。
明らかな勘違いや思いこみによる間違いは、この段階でフィルターされ、情報が足りない場合は補足するように指示されます。この手続きが、最低限追試に値する研究内容を公表することを保証しているのです。それでも完璧ではないですが、やらないよりはかなりいいはずです。
松下氏の水クラスターの話は、上記の正式な科学の手続きを経ていないし、NMRで測定できる話はまったく認められてもいなのです。白畑教授の活性水素説は、作業仮説として論文発表がなされましたが、その直後から「論文で実証された」というフレコミで宣伝に使われました。どちらも健全な科学の姿とは言い難いと思います。
その結果、某大手企業では、浄水器の開発をするのにNMRの装置に数億円を投じた結果、後で役に立たないと判明して、喜んだのはマシンタイムをもらいにきた近くの大学の先生だったということが起きています。白畑教授の方は、一般消費者を巻き込みつつあります。
一般に研究成果を知識として流通させるのなら、正式の科学の手続きを踏んだものだけにすればいいのでは、というのが私の意見です。「効果のある製品」の流通は、効果の確認がちゃんとできていればそれで足りると考えます。製品の流通と知識の流通は、重なる部分もあるでしょうが、一致する必要はないです。
私が問題にしているのは、「効果のある製品」を流通させるのと同時に科学の正式の手続きを経ていない知識をさも実証されたかのごとくに抱き合わせで流通させる、ということです。
見たことはないです。極低温の経験はありません。
読み返してみて、ちょっと説明不足だったので補足しておきます。
水には、同族の液体とくらべて著しく沸点・融点が高い、という性質があります。これは、水分子間の水素結合が強いために、他の液体より加熱しないと分子間の結合を切って気体にできないことによると理解されています。
もし、クラスターの小さい水、すなわち水分子間の水素結合がばらばらか、あるいはかなり切れた水を作ったとすると、もはや水本来の沸点や融点ではあり得ないのです。巷の宣伝の絵ほどに切れたとすると十℃から数十℃にわたって、沸点と融点が下がるはずです。
また、密度や熱容量も大きく変わるはずですし、静的誘電率(室温で約80)も、半分程度にはなるはずです。
私に限らず、液体の研究者がクラスター微細化の話をまったく認めない理由は、もし微細化が起きたらほぼ確実に変わるはずの、多数のマクロ量について、それぞれ矛盾無く適当なだけの変化が起きたという報告が無いからなのです。
もし、ある装置を通した水がメタノール並みの沸点になり、誘電率も50位になってしまった、ということが起きたなら、真っ先に水素結合が切れた状態の水が実現したのではないかという仮説を立てて、他の物理量についても矛盾しないか調べることになります。
これを最初に書いておけば、カルトと言われることも無かったかも。
いずれにしても理由を示すのが遅くなりすぎました。どうもすみません。
まともな報告どころか、大峰さんご本人から何回かこの話の発表をきいています。
また、私の論文でも、大峰さんのちょっと前の計算結果を引用して議論をしています。
水のシミュレーション結果をビデオにしたもの(水分子が実際に動く)も持っています。それを見ていると、水分子は水素結合を2つ持つので、酸素側に別の水が2つ水素を向けており、反対側の水素はまた違う水の酸素につながる感じで3次元的にネットワーク構造になっています。その構造が熱揺らぎでできたり壊れたりして、大体元の形が保たれるのは1ps程度です。これ以下の時間なら、一応水素結合があるので水分子はそんなに自由に動けず、その場所で揺らぐので、隣との水素結合ができたり切れたりしています。たまに、一度に沢山の水素結合がたまたま切れると水分子20個から30個の配置が一気にがさっと変わる、という感じです。
ネットワーク的なので、揺らいでいますから、4配位のところや3配位のところや、つながりそこねた水も同時に存在します。
この結果ですが、水分子数十個が動く時間スケールが水の誘電緩和のピーク周波数に、個別の水素結合の生成消滅が、私がやってるラマン散乱の最低振動数モードの時間スケールにほぼ一致するので、それなりに水の運動を追っかけているだろうと評価しています。
なので、大峰さんの室温の水の計算結果を見る限り、巷で宣伝されているようなクラスターの話は、逆に出てきようがないはずです。
水素結合の平均存在量は、温度と圧力に依存して変わります。室温1気圧で使う浄水器や活水器では変えようがないのです。だから、我々も、高温高圧で水素結合の量を減らしたときに、スペクトルの何が変わるかを知りたいと思って実験準備をするわけで・・・。宣伝通りにそのへんの活水器でクラスターが微小化できる(=水素結合を減らせる)なら、高価な圧力セルなんか必要ないんですわ。
プロトン移動については、水でも氷でも起きる話で、古くから研究されています。
超臨界水については、まだ実験をしたことが無いのですが、気体と液体の区別がつかない状態で、高温高圧のため本来の水素結合ができなくて、水分子は室温のときとは異なりネットワーク的でない運動をするだろうということや、分子の存在位置の揺らぎがかなり大きいのではないかということが、計算で予測されています。つまり、密度が大きく違う場所が確率的に生じるということです。反応性が高いのは実験からわかっていますから、大峰さんの仕事は、それを計算で再現したということでしょう。反応がからむので単純なMD計算だけでは済まないはずですが、そっちは専門じゃないので・・・。
超臨界状態は高温高圧なので、水素結合が壊れても別に不思議はありません。
水が氷になる話ですが、現実の水は温度を下げるとあっさりIceIhの構造をとるのに、計算機シミュレーション(MD)の水は、温度を下げても素直に氷にならないということで、相当いろいろ調べたはずです。
#学生にテーマを振ったけどやってもなかなか氷にならなくて、かわりに
#学生の顔が凍った、って言ってたな、確か。
ここで出てくる「クラスター」は、計算機内に作った水のある範囲をとって、ポテンシャル構造を見るということなんでしょう。
計算機の中でなら、水分子のある瞬間の位置と速度が全部出ますからこの配置に関与した水を計算対象のクラスターと定義する、ということはできちゃうわけでして・・・・。それでも、それが個別にばらばらに粒状に水の中に存在するというものではないでしょうよ。最初の計算で出たようなネットワーク構造の中に生じるという形でないと、今度は他の物理量と整合性がとれなくなると思うんですが、詳細はまた今度会ったときにでもきいてみます。
アモルファス氷は、水の第二臨界点仮説(言い出しっぺは無機材研の三島さんとStanley,相転移と臨界現象って本書いたスタンレーです)との関連もあって活発に研究が進んでいます。お茶大でも修士の学生がラマンを測定しました。修士論文を公開していますし、Chem.
Phys. Lett.にも論文を出しました。高圧下で氷をつくると、氷の結晶構造をとらずに非晶質の氷になります。温度によって密度が変わるという相転移をします。
第二臨界点の話は、まだ決定打となる実験がないので仮説に止まっており賛否両論があります。O. Mishimaでnatureを探せば論文が出てます。
クラスレートについては、エネルギー資源との関係でメタンハイドレートの構造や性質の研究が進んでいます。その他のクラスレートもいくつか作って実験がなされています。ウチでも、THF(テトラヒドロフラン)のクラスレートを作って院生が測定しています。
MD計算の場合は、分子間の2体、3体のポテンシャルを決めて、多数の水分子について運動方程式を解き、分子の動径分布関数や速度相関関数を出します。ポテンシャルをどう決めるかで結果が変わってきます。代表的な決め方として、ST2、TIP4Pなどがあります。これまで、マクロ量や速度相関(光散乱・吸収分光に関連)、動径分布関数(X線・中性子散乱に関連)を、そこそこ実験結果に合うように再現するまでに至っています。
しかし、私がウェブページのラマン散乱のところで書いたように、第一原理計算で水が4℃で密度最大になることが、まだ再現できないのです。パラメータをいろいろ変えて密度の異常を出せるところまではできています。現実の水はn体の相互作用が存在しうるのですが、計算ではまだせいぜい3体の相互作用しか入れられなかったり、その他、まだ水の状態を完全に計算に突っ込めていないということだと考えています。
こういう現実があるのに、日本のメーカーが「フィルター通して単分子水を作りました」なんて宣伝をするから「おいこらちょっと待てぇー」って思うわけでして。
食品製造設備開発をやっておられて、「水がくたびれている」と考えておられるようですが、精製した水はどれもみんな同じ物理・化学的性質を持つはずです。環境汚染その他の理由で、我々が通常使う水に、あまりよろしくない不純物が増えているということですよね。それなら、いろんな不純物のうち、特によくないものを確実に定量する方法を使って水を評価するとか、そういう方法を開発するとか、効率よく有害物質を除去する方法を開発するなどした方が、結局いい製品に結びつくと思いますよ。
クラスター微細化で水が良くなるという誤解のもとに、微細化する方法や(測定法がないのに)クラスターサイズを測ったと信じて誤った実験をしたのでは、いつまでも本当に必要な実験や水処理に到達しないと思われるんで、消費者としても困ります。
今回のやりとりで、だいぶいろいろ書いてまとめることになったんでウェブでまとめて公開します。
精製された水、とちゃんと書いたはずです。精製された、といったときにはフィルターで濾過してイオン交換して蒸留する、というあたりを考えています。ミリQのように、フィルターのみで不純物を無くしたものでもかなり品質は安定します。
同じ条件(温度、圧力)であることをを前提として、物性が同じとは、例えば、密度、熱容量、誘電率、融点、沸点、などのマクロ量や、動径分布関数、赤外、ラマンなどの分光実験の結果が同じになることをいいます。測定誤差の範囲で同じ、ということです。
同位体存在比は、多少のばらつきがありますが、水の場合はもともと量が少ないので、ほとんど軽水の測定結果には影響してきません。
同位体水は同位体水で、軽水と同様の熱力学量その他についても測定結果があります。精製された重水の測定をすると、当然軽水と結果は異なります。密度が最大になる温度も違います。しかし、密度最大の温度で、熱力学量をスケーリングしてやると、軽水と重水で振る舞いが重なるという報告があります。ですから、物理としては同じものではないかと考えられます。
酸素の同位体と水素の同位体4通りについて、ラマンを測定したって論文を私も書いています。結果は、中性子散乱の結果と矛盾しないということでまとまりました。振動分光をやると、原子の質量の違いの分だけ振動数がちゃんとずれますよ。
水道水は、我々の立場では水溶液です。温泉水や川の源泉の水も、水溶液と考えるべきです。ミネラルなどが入っていますから。それでも、成分を一致させればその範囲で水溶液としての性質は同じになるはずです。
成分が一致しているのに性質が違う水溶液ができた、という報告は今のところありません。
膨大な検証が必要、とのことですが、別に検証そのものを目的とした実験でなくても、いろんな種類の水溶液は世界中でみんな作って実験をしています。もし、成分が同じで性質の何かが違う水溶液ができたらその影響は、かならず実験結果のどこかに異常となってあらわれるはずなんです。今のところそういう報告がないから、成分と条件(温度、圧力など)が決まれば性質が決まる、ということは、精度良く成り立っていると考えてもかまわないでしょう。成分もろくに押さえずに「この水は特別」と言い張る宣伝なんかより、よっぽど精密に検証されているはずですね。
ちなみに、膨大な文献資料に直接あたらなくてもいいように、そういう結果をまとめた「化学便覧」「CRC Handbook」といった定数表が出ているので、これを使うことがほとんどです。CRCの方は時々改訂されています。
定数表の値が本当か?ということですが、この定数表を使って試料の調整その他をするわけだから、間違いがあれば、実験のどこかに食い違いが出て、気がつくでしょうね。まあ、皆さんが自分の研究でCRCを使っていて、必要なら元論文まで追っかけてるわけだから、毎日世界中で検証され続けている定数表、と言えなくもないです。1、2年に一度改訂されますし。また、すでに膨大な文献で確認されたことをダイジェストして体系的にまとめたものが教科書や参考書なんで、これで間に合うことも多いですね。逆に、教科書を書き換えるには決定的な証拠が必要になります。
羊水に重水が多いという話の元文献は何でしょうか?
これが事実なら、水輸送するチャンネルに重水と軽水を分ける機能がある、ということがあり得るんで、それはそれで別の意味で面白いです。生体材料で重水の濃度を上げられるなら、結構な応用分野が広がっていると思います。水チャンネル(膜蛋白質)にそういう機能があるという話は、私は知らなかったし、生化学の教科書でも見たことがないです。ぜひ教えてください。
それでも水は別に特別な水ではなく、単に重水を含んだ水の水溶液に過ぎないでしょうけども。