平成19年(ワ)第140号 損害賠償請求事件:判決

裁判記録を公開します。○に数字はそのままでは文字化けするので、1),2)などに変更した。


平成19年6月29日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成19年(ワ)第140号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成19年5月10日

判決

山形市■■■■■■■■■■■■
原告 天羽優子
岐阜県■■■■■■■■■■■■
被告 日下部 ■■

主文

1 被告は、原告に対し、20万円及びこれに対する平成19年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを15分し、その1を被告の負担とし、その14を原告の負担とする。

事実及び理由

第1 原告は, 「被告は,原告に対し, 300 万円及びこれに対する平成19 年4月13 日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」との判決を求め,請求の原因として,別紙訴状写し「請求の原因」記載のとおり述べた。その骨子は,山形大学助教授であり,またお茶の水女子大学内において自己の大学院修士課程での指導教官(お茶の水女子大学教授であり,現在は原告と共同研究を行うなどしている。以下単に「元指導教官」 という。)に係るウェブサイトを製作・運営している原告と当時別のウェブサイトを運営していた被告との間で,被告が原告に対して相互リンク(二つの異なるウェブサイト上で,互いのサイトにクリック一つでアクセスできるように,相互にアクセス先のアドレスやタイトル等をウェブページ上に貼り付けること)の依頼をしたこを通じた意見交換をしていたところ,双方の意見に対立が生じ,その際に被告が,1)原告の名誉を毀損する内容を記載したウェブページを公開するともに原告が違法行為等を行った旨の虚偽の内容を記載した電子メールをお茶の水女子大学ホームページ運営委員会に対し送信したこと(名誉毀損) ,2)原告運営に係るウェブサイト内の電子掲示板に原告を誹誘・中傷する内容の投稿を多数回行い同電子掲示板の正常な運営を妨害したこと(業務妨害),3)原告に対する性的嫌がらせ等を内容とする電子メールを送信したり,元指導教官あて原告に対する不当な金銭請求を内容とする書面の送付を行うなどしたこと(嫌がらせ行為)により,原告に精神的損害が生じたとして,原告が被告に対し,前記1)ないし3)の被告の一連の不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)請求として300万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合に基づく遅延損害金の支払を求めるものである。

第2 被告は,本件口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その他の準備書面を提出しないことから,請求原因事実を明らかに争わないものと認め,これを自白したものとみなす。

第3 原告の慰謝料請求の基礎となる事実については前記第2のとおり擬制自白が成立するが,同事実を前提として,原告主張に係る名誉毀損が成立する範囲及び慰謝料額の算定については当裁判所の判断に委ねられているので,以下これらについて検討する。

1 名誉毀損の成立する範囲について
原告が被告による名誉毀損行為として主張する事実は,別紙「被告による表現行為等一覧表」のとおりである。ここで,まず,原告がインターネット上に自己の意見を表明することのできるウェブサイトを運営しており,実際に同ウェブサイト内において被告とのやりとりの概要及びそれに対する自己の評価の一部を公開していることからすれば,原告主張に係る被告による表現行為等のうち一定の範囲のものについては,原告において自己の社会的評価を低下する危険を減殺する手段を既に講じていたものと認められ原告主張に係る被告の表現行為等のすべてが原告の社会的評価を低下させるものとは認められない。しかしながら他方で,それでもなお,被告による表現行為等のうち,同一覧表中の各下線部分の記載については,原告の社会的評価を低下させる表現として原告に対する名誉毀損が成立するものと認められる。
なお,これらのうち,被告がお茶の水女子大学ホームページ運営委員会に対して電子メールを送信したものについては特定かつ少数人に対してされたものとして公然性の観点から名誉毀損の成否が一応問題となり得るが,特に読者を限定としない形で私立大学内の委員会組織あてに送られた電子メールの内容は,他者に伝播する可能性は十分に存すると認められることから,名誉毀損が成立するものと認められる。

2 被告の行為による慰謝料について
前記第1 の1)ないし3)に係る被告による一連の不法行為(ただし同1)に係る名誉毀損行為については前記1 において当裁判所が名誉毀損が成立するものと認めた範囲に限る。)によって原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料額は,1)名誉毀損行為については,公開されたウェブページ及びお茶の水女子大学ホームページ運営委員会あてに送信された文書の内容,原告の社会的地位及び業務内容,名誉毀損行為のされた回数,期間等,2)業務妨害行為については,電子掲示板への投稿内容,回数,期間等,3)嫌がらせ行為については,原告に送信された電子メール及び元指導教官あてに送付された書面の内容等の各事情に加え,これらの不法行為に至った経緯,特,電子メールを通じ原被告問で意見の対立が生じた際に,原告が,自己の運営するウェブサイト上に「すごいページから相互リンク依頼が…」と題するウェブページを設けた上,被告の製作したウェブページの技術上の問題点,被告とのやりりの概要及びそれに対する自己の評価を公開したことを切っ掛けとして,被告によるこれらの行為がされたものであることを併せ考慮すると,20万円をもって相当と認める。

第4 以上の次第であるから,原告の請求は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償として20万円及びこれに対する被告への訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成1 9 年4 月1 3 日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その限度でこれを認容することとし,主文のとおり判決する。

山形地方裁判所民事部
裁判官光岡弘

 

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