水商売ウォッチング番外編
スター管理サービスの常務への回答
背景
私が水商売ウォッチングで書いたスター管理サービスへのコメントについて、そこの常務から直接電話でクレームがあった。ただ、電話で状況や背景を説明し、お互いの主張がどういう意味を持つのかをはっきりさせるのは、会話によるコミュニケーションのスキルが要求される。特にこのようなクレームの場合だと、クレームを付ける側も答える側も、なかなか冷静にいろんなことを頭にいれながら・・・・という訳にはいかない。
ただ、電話が終わってよく考えてみると、常務の主張はある意味典型的な内容を含んでいるので、それについて私がどう考えているのか、私が認識している周囲の状況も考えた上できちんと回答しようと思う。同様のクレームを出そうと思っている方は、まずここを読んでからにしてほしい。こちらが考えていることを誤解していると、多分すれ違いが生じるだろうから。
以下、常務の主張を私が記憶する限り正確に箇条書きで示し、それに対する私なりの回答を書く。利害が対立している以上、合意には達しないかもしれないが、可能な限りこちらの状況説明を試みてみる。電話の性質上、話があちこちに飛ぶのは、まあ仕方のないことである。主張の書き方が正確でないというクレームはもちろん受け付けるが、さらなる誤解を防ぐためにも、次は書面でいただきたい。
電話の内容をこういう形で掲載することには議論があるかもしれないが、クレーム内容の箇条書きで示したように、常務は大学宛にクレームを送ると言っている。大学側がどう対応するかはわからないが、私がどういう主張をしているかをあらかじめはっきりさせておく方が、後の対処がやりやすいのではないかと考えている。当然、このページは学内の誰でも読めるから、クレームへの対処にあたって考慮してもらえる可能性もあるので書いておく。また、電話の内容の公開がプライバシーの侵害にあたるという反論も予想されるが、とりあげた項目についてはプライバシーにあたるような内容ではないと考えているし、そもそも初対面(?)の常務と私の間には保護するべきプライバシーなど存在しないはずだ。
回答
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当社へのコメントを一刻も早く削除してくれ。読んだ客が「水商売ウォッチングで叩かれてた」と言って製品を買ってくれない。こちらはこれで食っていかなければならないから困る。
削除するつもりはない。ただし、私が水商売ウォッチングで叩いているのは、宣伝内容のうち科学的にヘンな主張のみであって、活水器そのものの性能については何も言っていない。例外的に、業者が宣伝で使った試験方法がヘンな場合はそのことを指摘しているだけである。活水器の性能は、水質検査をやって確認するものだ。私がずっとやってきたことは、消費者に対してはトンデモ科学理論は無視して業者の出す検査結果を信用するべきだということを説得し、業者に対してはトンデモ科学理論を付けずに確立された方法で効果を確認しそちらを前面に出して宣伝するべきだという主張である。このスタンスは、御社からのクレームが付く前から公表しているものである。だから、「ここで叩かれたから製品が信用できない」という読まれ方をしたのであれば、それは私が本来行っている主張とは違う読まれ方をしたということで、私の書き方が下手くそだったということだから、その点については責任を感じるからちゃんとフォローする。つまり、御社へのコメントに追加コメントをつけて、水質検査を見て判断するべき製品であることを明記する。
本当に一刻も早く削除しなければならないほど困っているし、弁護士に相談しているということであれば、公開差し止め請求を裁判所を通して行うべきだろう。迷惑行為の差し止めは、判決を待たなくても仮処分だけでできたはずだ。そうなれば、こちらもその旨を明記して一旦取り下げて、公開の是非を法的に争うことにする。
水商売ウォッチングについては、学内外をはじめいろんな人が読んでいる。これを書いている私の信用は、自分で設定した上記のルールを守り続けるということと、書かれている内容や主張の論理的一貫性で培ったものである。内容からいって、企業がクレームをつけてくることは、私も(多分読者も)当然予想している。そして、クレームに対してうやむやに曖昧な対応をするのか、基準をはっきりさせながら対応するのか、私のやり方は読者に常に見られている。ウェブというメディアでは、一旦公表したことを無かったことにするのは不可能だ。私が間違っていればその旨明記し謝罪して取り下げるが、そうでないのに取り下げたら、これまでの読者の信用を失うことになる。常務のクレームよりも、信用を失うことの方が私には怖い。だから、読者を説得できるだけの理由なしに取り下げるつもりはない。法的措置がとられれば、読者に説明し納得してもらえる理由を得ることになる。これが、弁護士を通して法的措置をとってくれと主張したことの意味である。御社に対して強硬姿勢をあえてとるつもりはないが、私は私なりに守るべき信用と言論の自由とがあるのだ。
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法的措置をとるような時間はない。なぜそういうことを言うのか?(弁護士に相談していると常務が言ったので、それならば法的措置をとってくれと私が答えたことに対して)
弁護士が出てきたら法的に物事を解決するつもりだと考えるのが普通じゃないのか。弁護士に相談しておいて、法律を基準にして行動するつもりがないという方が私には信じられない。
裁判まで行かなくても、法律家が間に入ってくれれば、どの条文に抵触するかということやこれまでの判例が示され、そこそこ妥当な結論が導けるはずだ。直接電話をしてくるなとは言わないが、次からは弁護士を入れて交渉しにきてほしい。それに、弁護士に任せた方が、常務自ら長電話をする必要がなくなり、常務は商売に専念できると思う。時間を節約して自分の本業を行いたいなら、積極的に弁護士を使う方がいいと思う。もし、御社が法務部門や知財部門を持っているなら、クレームはそちら経由で出してほしい。
後の方でも述べるが、今回の問題は、公開された情報に対する批判を公開することの自由がどこまで認められるのか、ということについて判断することになると思う。表現の自由を規制するときは、恣意的な規制はできず、あくまでも一般原則に従って行うことになる。これは、明らかに法律をどう適用するのかという問題である。私の主張は、「自ら公開した情報の内容(=御社その他企業の宣伝)に対して、事実あるいは相当な根拠のある理由に基づいて公然と批判を行うことは、言論と表現の自由の範囲だ」というものだ。当然、御社の「営業を(行う権利を)妨害しているから止めてほしい」という主張とは真っ向から対立する。権利のぶつかり合いを調整するのがそもそも法の役目である。
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「活性化」という言葉を使ってはいけないのか。
全くかまわない。御社がどういう文句を使って宣伝しようが、それは御社の自由であるし、言論と表現の自由によって当然に保証されている。私はこれまで「活性化」という言葉を使うことを禁止しろなどと主張した覚えは全くない。
仮に、禁止しろと叫んだところで、何の強制力もないし、逆に私が笑われるだけだろう。ただし、使われた文脈によっては、「活性化というのは曖昧な表現だ」とコメントするのは私の自由だ。だから、必要があると思ったらどんどん「活性化」を使えばいい。私は私の判断で、曖昧だと思ったらそうコメントする。後は、読者が判断すればいいことだ。私が変なコメントをしていたら、読者の側で「天羽はモノを知らない奴」と判断して、御社の主張の方を認めるだろう。
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「漏洩磁気整流、磁気光学反射共振回路」について、わからないのだったら何も書くな。技術はちゃんとあるし、あなたが勉強不足なだけだ。「わからない」とわざわざ書かれると読んだ客に疑われて営業が妨害される。
わからないことを素直にわからない、と書いてはいけないというつもりなのか?そうだとしたら納得できない。素直に「わからない」ことを表明するのもまた、言論と表現の自由の範囲だ。私が勉強不足なら、そう書いたことで「学位なんかとっていても何だ何も知らないじゃないか」と私が読者に笑われるだけで、別に御社にとって不利益はないはずだ。むしろ、「あんなモノを知らない奴にイチャモンを付けられて、御社もお気の毒に」と客に同情されるのではないか?
第一、技術が無いなどとはどこにも書いてないし、思ってもいない。私がここで「わからない」と書いたとしても、それが商売の邪魔になると言われるのは、言いがかりとしか思えない。客がこのページを読んでいて、御社がセールスに行った折、「あそこでわからないと書かれていた」と言われたら、そのときちゃんと客に説明すればいいだけではないか。その技術について、一般人にわかるように(企業秘密に抵触しない範囲で)パンフレットに書けばいい。その内容が良ければ、客は私がウェブ上で書いたコメントよりも、御社のパンフレットを信用するはずだ。
まさか、客に説明するのが面倒くさいという訳じゃないですよね。商売でやってるんだし。
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あなたは遠赤外線についてどれだけのことを知っているのか?
電話があったとき、まさに私は同じ部屋の実験台の上で遠赤外線(THz電磁波)を発生させていたところだった。遠赤外線は、感度よく検出できる検出器がないので、実験では苦労している。赤外線のビュアーならあるが、遠赤外線のビュアーはないので、飛んでる光を見ながら光学系の配置をするわけにはいかないのだ。
歴史的にみても、遠赤外線については研究がなかなか進んでいない。効率のよい光源と効率のよい検出器がなかなか開発されなかったからだ。
「遠赤外線」が商品宣伝のキーワードとしていろんな分野で使われているが、赤外線の効果と分離して、遠赤外線による選択的な効果を確認した例はないはずである。繊維製品などの評価でサーモグラフ写真が出ていたので問い合わせてみたら、赤外と込みで測定しているということだった。確かに、暖かい繊維製品が作られていることは事実だが、それに伴って「遠赤外線」が物理的実体と乖離した一種の流行語となっている面もあるのではないか。
簡単に遠赤外線を選択的に観測できるビュアーや方法があるなら、情報を出し惜しみせずに教えてほしい。我々は金を払って購入する。遠赤外線測定のための光学系を作るのがずっと楽になって、幸せになれるだろう。
遠赤外線がどういう効果を持つか調べるには、まず遠赤外線を放射し、調べたい物質の反射・吸収係数を測定する必要がある。もし、吸収が起きなければ、当てた遠赤外線は素通りするから何の効果もないことがわかる。吸収があれば、その波長依存性から、具体的に物質のどういう運動によって吸収が起きているのかを調べていくことになる。水については、この測定は特に難しく、世界中で研究者がその時代の技術を投入して、やっとラジオ波から遠赤外線領域に至るまでの水の誘電率(電磁波の吸収に寄与する)を測定することができた。この結果は、Water:A
dielectric referenceというレビューにまとめられている。測定が難しいから、遠赤外領域については、水溶液ならどうなるかとか、不純物が入った場合にどうなるか、といった測定はまだほとんどないのが現状である。最近になって、フェムト秒レーザーとアンテナを用いた発生・検出法や、半導体とレーザーを用いた発生・検出法や、加速器を用いた発生方法などが開発されたので、この領域の研究はこれからはもう少し進むことが期待される。去年の阪大産研の研究会は、まさにこのテーマで行われ、私も遠赤外線領域の電磁波利用について話をした。だから、戴いた問いはそっくり御社にお返ししたい。御社はいったいどれだけの測定結果に基づいて、「遠赤外線の効果である」という結論に至ったのか?こういう問いを投げかけるのであれば、遠赤外線領域の測定をするために世界中の科学者が長期にわたってどれだけの努力をしてきたかということについても、少しは思いをはせてほしい。
ともかく、遠赤外線について、例えば水とどういう相互作用をするかということについては、私は、これから実験して論文にしていく予定なので、現段階ではまだよくわからないというのが答えになる。
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遠赤外線は、普通にまわりから出ているのを知って書いているのか?
当然知っている。黒体輻射の話だ。ある温度の物体は、赤外線も遠赤外線も放射している。ただし、放射と同時に吸収もしていて、温度が一定の物体が接触しているような場合は、どちらがどちらに遠赤外線を浴びせるという関係にはない。
我々が実験で試料の温度変化を行うことはよくある。実験結果の温度依存性からいろんな性質がわかるが、温度の効果ではなく、特に遠赤外線の効果で結果を説明しなければならないことはほとんどない。いろんな物理的変化や化学反応を説明するのに、遠赤外線の効果で説明しないと説明がつかないような現象は出てこないし、教科書を見ても、温度の効果は議論されていてもそれが遠赤外線の効果だとは書いていない。要するに、普通に熱平衡状態になっていれば、遠赤外線の効果をあえて考慮する必要はないし、それでちゃんと実験結果を説明できている。
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あなたは宇宙とかそういうことを全部科学的に説明できるようになった上で書いているのか?
この問いの裏には、科学に対する誤解が含まれているように思う。
まず、自然現象の解明は素粒子レベルから物理法則を解明していけば全部できるはず、ということを考えた人は過去にもいたし、そういう考え方は物理学帝国主義とも呼ばれた。さすがにイマドキこう考えている人は、私の周りの物理屋では見かけない。
まず知っていただきたいことは、科学は別に万能でも何でもないということだ。自然現象を取り扱う方法としては、科学的方法と同様に、例えば宗教的方法だって有りうるのだ。科学的方法の場合は、実験で、測定量の間の関係性を調べていくというやり方をとる。従って、まずは科学的に説明できることと、説明できないことの2つがあることになる。説明できないことの中には、時間が経てば科学というやり方で説明できるであろうことと、本来科学という枠組みには入らないことの2種類があるが、この境界は必ずしも厳密なものではない。ともかく、科学というのは、適用範囲を限れば、自然を理解するための非常に強力なツールである。
測定量の間の関係性(法則あるいはモデルと読み替えても良い)の決め方には、恣意性が残る。これをデタラメに決めたのでは、多岐にわたる前提条件ごとに法則が乱立することになる。これを防ぐため、我々は、より予測精度が高く、成立する範囲が広くなるように関係性を決めるということをしている。この意味で、科学の法則はすべて近似である。だから、予測の精度が悪かったり成立する範囲が狭かったりする法則は、研究が進むと、より一般的な法則に置き換えられていく。
「科学的に間違いである」ということの意味は、観測事実に基づいて主張されている内容が、明らかに他の実験などで導かれたものと矛盾したり、その観測事実について既にわかっている別のより妥当な説明が適用可能であったりするということである。また、観測事実と主張される内容が食い違っていたり、主張内容に比べて観測事実が足りない場合も間違いとされる。なお、観測事実そのものがこれまでのモデルと矛盾する場合は、その新しい事実も含めて説明できるようなモデルが作られることになる。ただし、今あるモデルや法則は、すべてそれなりの実験事実に裏打ちされているから、改訂あるいは覆すモデルを立てるべきだという提案をするには、誰もが認める決定的証拠が必要なのだ。そういう実験事実が示されない限り、新しいモデルは受け入れられることはないか、単なる作業仮説として扱われるだけである。
従って、水に関する変な説明を指摘するのに、宇宙の法則全部を知る必要は全くない。観測事実と主張される内容の食い違いや、実験の不足、主張される内容がこれまでの成果と矛盾していることを示すだけで十分である。
万一、遠い将来に宇宙の全法則がわかって自然現象が何もかも説明できました、ということになったら、科学者だって人間だから、それはトップシークレットとして封印されるかもしれない。普段我々は、「これこれのことがまだわかりません」と言って予算をもらって研究をしている。全部説明できてしまったらお払い箱になってしまう。
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あなたは博士号を持っているがどういう研究をしているのか?
1つ目の学位の仕事は、蛋白質水溶液のマイクロ波領域での測定である。蛋白質の結合水を水溶液中の自由水に関する測定を行った。
2つ目の学位の仕事は、光散乱(ラマン散乱)を用いて、ちょうど遠赤外線領域に相当するところでスペクトルを測定し、液体の分子間の運動について議論するということを行った。
今やっている仕事は、THz電磁波(=遠赤外線)の発生・検出を用いて、水を始めとする液体の遠赤外線領域での光学定数を求めることである。
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学問的には正しくても、それで営業が妨害されているのは困る。あなたの周りではそれでいいかもしれないが、世の中はそういうものではない。
「世の中」とは、常務の周りの世間であって、一般化できるようなものではないと思う。かつては、常務の言う「世の中」の方が多数派だったこともあるかもしれない。多分、いわゆる日本的な社会というのが当てはまるのかもしれない。しかし、それは変わりつつあると私は認識している。
誰かの利益に差し障っても本当のことを主張する「世の中」は、大学もそうだがインターネットがまさにそういう世界だ。電話では、誰かの利益に差し障る主張は正しくてもするべきではないというのが世間一般だというニュアンスを感じた。確かにそういう世間が存在することは認める。もし、そういう世間のルールの中だけで過ごしたいというのであれば、インターネットを使って情報発信などするべきじゃないと思う。インターネットで情報発信するということは、自らオープンな場所に出ていったことを意味するので、公開した内容が公然と批判される覚悟をしてから行うのが当たり前である。一方的に、「我々の言うことに異論を挟まずありがたがっていろ」というのは、インターネットの世界では通用しない。
ネット上の情報発信を規制する場合は、名誉毀損・信用毀損・プライバシーの侵害といった、そもそも公開を欲しない情報を一方的に不当に公開された場合である。その場合であってさえも、公益性との利益衡量で公開を認めるかどうかが判断される。既に公開されている情報に対する批判や議論は、誰でもどこでも自由にやっていいはずである。批判の根拠が、すでに公開されている内容(つまり水の場合は論文や専門書などの内容)であるならなおさらかまわないはずだ。書籍を出版しておいて、酷評する書評は公開するなという主張が通らないのと同じことだと思う。
世の中の認識についてもう少し。薬害エイズや狂牛病やクロイツフェルト・ヤコブ病の問題を見ればわかるように、知識や情報を知りうる立場にいたにも関わらず、それを利用しないことで特定企業・団体に利し一般人に損害を与えた場合は、その当時知識や情報を持っていた側の不作為責任が問われるようになってきている。また、大学に対しては社会貢献しろという圧力があらゆる形でかかってきている。要するに、貢献しないと研究費は出さないしそのうち消滅させるぞということなのだ。社会貢献のやり方はいろいろあって、企業と組んで新製品を開発したり、大学発ベンチャーという形での貢献もあるが、正しい知識・情報を広く一般に知らせるというのも重要な貢献であると考えている。特に、液体の研究のように、特許などの利潤に直ちに結びつかない研究分野は、一般の人にわかる形・一般の人が利用できる形で知識を公開するということをしておかないと、世の中から不要とみなされるおそれがある。大学は社会貢献しろと要求したり、特定企業・団体の不利益になっても知識を正しく使えという作為を要求したりしているのは、大学外の世の中の方ではないのか。
企業の宣伝は書籍ではないという反論があるかもしれない。確かに、宣伝の多くはビジュアルな要素をふんだんに使い、イメージを作りつつ行われている。製品の細かな部分についてまではそもそも伝えることができないから、その代わりにわかりやすいイメージで消費者の印象に残るような宣伝がなされる。TVコマーシャルやチラシなどについては、既に見る側もイメージ的な部分を割り引いて見ることに慣れているから、よほど誇大広告をしない限り問題は生じない。ところが、ウェブというメディアを使うと、違う効果が生じる可能性がある。
これまでの宣伝では、消費者はほとんど何もせずに一方的に企業の宣伝を受け取るだけだった。テレビをつけていれば勝手にコマーシャルが入るし、新聞をとっていればチラシが入ってくる。しかし、インターネットでは、消費者は自ら接続料を使って自分にとって必要な情報を探している。完全に受け身で宣伝を見ているわけではない。このような場合、読む側は情報の中身を吟味するようになるのではないか。そうすると、これまで通りのイメージ先行型の宣伝をウェブで行った場合、それが科学っぽいというイメージ作りを狙ったものであったとしても、読む側はそれをイメージとして割り引いて読まずに、まともに考えることになるのではないか。
こうなったときの企業の宣伝が持つ効力について、正しく認識してほしい。宣伝の中で間違った科学理論が繰り返し使われると、その知識が正しいものとして一般に浸透し、定着してしまう。とくに、多数の企業が同じ過ちを掲載すると、より信憑性がある説として受け止められてしまう。科学的な正しさはウェブコンテンツの多数決では決まらないが、それがわかるのはある程度以上の知識がある場合で、そうでなければ「みんながどう言っているのか」ということが判断基準になりうるのだ。これは非常に困る。製品の利点は、それがウソでなければいくら宣伝してもらってもいいが、科学的知識のところでわざわざ曖昧で誤解を招くような内容を出すのはやめてほしい。非専門家の人が、水とはそういうものだと思ってしまうからだ。ともかく、ウェブ上での宣伝は、会社が意図しなかった、科学知識に関する情報公開と啓蒙という側面を持ってしまうことがあるという点に気付いてほしい。宣伝の方便だから大目にみてくれという訳にはいかないのだ。実際に、私のところには、企業の宣伝を読んだ人から「書かれている内容は科学的に真実か?」という問い合わせがときどき来ている。
今、研究費は重点配分される傾向にあるが、官僚によって、大きなテーマがあらかじめ指定されていたり、研究費を出すかどうかの意志決定がなされたりすることがある。研究費をどうするかという決定について、官僚の力が強くなってきている。こういう状態で、変な水の理論が広まってしまうと、例えば「水クラスターによる水評価の標準化の研究」というそもそも原理的に無理なテーマが設定されかねない。また、もう水については十分情報が出尽くしているからこれ以上研究費を出さなくて良い、という決定をされることもありうる。うがった見方をすれば、一般企業が広めまくっている水の変な話は、我々の研究に対する妨害として働くかもしれない。もし、今まともな知識を広める努力をしなかったなら、将来こういうことが起きても、我々は誰にも文句を言えないだろう。
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こちらが直した宣伝にまでコメントを書かれると商売にならない。なぜ、批判を公開するのか?なぜ、直接会社に知らせないのか?喧嘩を売っているのか?
喧嘩を売るつもりは全くない。公開している理由は、直接批判内容を会社に知らせてもほとんどメリットがないからだ。私の目的は、企業が使っている宣伝の中の水及び水に関連した科学的説明について、それがもしヘンな説明であれば、液体の物性研究という立場から本当はどうなのかを述べて、その知識を広く知らせることである。つまり、私はたまたま水について一般の人より科学的に正確な情報を知りうる立場におり、私がそういう立場にいるのは社会が支えてくれている(国立大学の設備を使って研究し、国立大学の設備で情報発信しているので、間接的に皆様の税金でまかなわれている)のだから、知識を世の中に還元するという役割があると考えている。
もし、現状の科学をふまえて何が正しいかを解説した文書を、1企業に郵送で送った場合、その知識を利用できるのはその企業のみに限られてしまう。ところが、ネットで検索してもらえればわかるように、多くの企業が似たり寄ったりの誤りを宣伝で使っているのが現状である。私が解説に使える時間と労力には限りがあり、全ての企業に対してそのような指摘をする余裕はない。だから、典型的な宣伝をいくつか取り上げて、それに対するコメントを公開するのが、知識を広める上で効果的であると考えている。実在する企業を取り上げている理由は、私のコメントを読んだ読者が「その宣伝文句は私のツクリじゃないか」と思わないようにするためである。企業の取り上げ方は、たまたまサーチエンジンで上位に出たもの、これまで取り上げたのとは違う宣伝内容のもの、読者から情報提供があったものなどを適宜選んで、重複を避けるように心がけている。
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クレームをつけていることも、明らかにしたくない。もめてるということになったら商売に差し障る。(メールでクレームをつけてくれ、私が言ったことに対して)
インターネットを使って商売をするのなら、この考えではうまくいかないのではないか。基本的にインターネットでの行動は、衆人監視のもとにおかれている。ネットで情報発信して信頼を得る企業とは、クレーム処理については透明性があって、自社に都合の悪い情報でも積極的に公開し、かつちゃんと対応したことについても公開する企業だと思う。もちろん、不当なバッシングにはちゃんと反論する必要がある。つまり、企業自身の行動の仕方がガラス張りの状態で一般人に評価されることになる。単にもめてるから商売に差し障るというわけではない。一般のギャラリーを意識し、その共感を得られるような論争に持っていけば、むしろ会社に対する好感度を上げる効果があるはずだ。これに成功すれば、ネットを通じて「あそこはしっかりした対応をする会社」というイメージが拡がるから、売り上げ増加につながるのではないだろうか。ネットを使うのであれば、こういうやり方もあることを考えに入れてほしいと思う。
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当社の製品はちゃんと錆をとる効果もあるし、顧客も満足している。コメントを書かれると、これまで満足していた顧客が「良くない製品を買わされた」と思う。
効果があることについては御社の主張を最初から認めている。錆がとれたという効果を通常の水質検査手順で確立し、それを元に販売活動をすればいいのではないか。
既に活水器を利用している人が、私のコメントを読んで連絡をしてくれることもあった。私は、製品をけなしたり使わないことを勧めたりはしなかった。具体的宣伝内容について知らされた場合は、それが科学的におかしければその都度正しい話をして、磁気活水器の原理が実は未解明だから水質検査結果を確認して納得して使えばそれでいいと答えている。特定の病気に効果があるとか、味が良くなるといった話については、臨床試験や官能試験に関する簡単な話をして、科学の立場としては試験が済むまでは判断を保留するしかないが、体験談を信じるのは自由だと伝えている。
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弁護士に相談している。大学(阪大、お茶大両方)と冨永教授に(クレームを?)送るぞ。
クレームをつけていることそのものを明らかにしたくないんじゃなかったっけ?大学に送ったりしたら、目いっぱい明らかになると思うが・・・・・。
それはともかく、大学にクレームを送ってくれることは歓迎する。ウェブページを充実させて情報公開しろという話は全学的にあったが、情報公開についてクレームがあった場合にどう処理するかという基準については、ほとんど何も決まっていないのが現状である。全学のページはさすがにどの大学も充実してきたが、研究室単位の情報公開については、かなり差があり、全研究室の公開を実現するのもやっとだという状態で、クレーム処理の細かい部分について規則を整備するまでに至っていない。せいぜい、著作権法違反と公序良俗違反(わいせつ物陳列、誹謗、中傷、プライバシー侵害など)の場合に関する対処があるかどうか、という程度である。
クレームが大学に送られた場合、大学は真面目に、どういう基準で情報公開をするかということを考え始めるはずだ。これはかなり大事なことだと私は考える。
前述したように、大学は社会貢献や情報公開を世の中から強く要求されている。情報公開については、公開することが、長い目で見て社会全体に役立つが、短期的には特定の企業や団体の不利益になるケースというのが、当然ありうる。このときにどうするのかということをふまえて、クレームについてどのように対応するかという規則をこれから作っていくことになる。
いずれにしても、具体的問題が発生するまでなかなか対処法を用意しないというのは、どこの組織にも共通の性質のようだ。対処法を作るためのトリガーが必要なので、クレームを送ってくれることはむしろありがたい。
作った規則を恣意的に適用することはできない。もし、表現を規制して特定企業や団体の不利益になる情報は一切出さないという決定あるいは前例を作るなら、大学が自縄自縛に陥るだろう。役立たなければならないときに役割を果たせない状態を、将来にわたって自ら作り出してしまうことになるからだ。また、大学が事前に内容を検閲することにしたら、膨大なチェック作業が発生し、大学の事務処理能力を超えるだろう。そう無茶な規則になるとは思えない。
私が公開した内容については、この作業のたたき台にでもしてもらえればよいと思っている。公益性を考えたとき、セーフ寄りのグレーゾーンにある適法行為だと認識しているので、規則制定にあたっていい例にならないかと期待している。既に阪大とお茶大の両方でいろんな先生方に読まれて存在が広まっているページなので、クレームがついたときも話が早いんじゃないかと思う。
何らかの規制がかかった場合は、適法行為を規制する根拠について、情報公開法に基づく開示請求が可能だと思うので、規制そのものに関する情報が得られるだろう。いずれにしても、情報公開のハウツーという点で一歩前進する。
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